表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/83

信永編第5話〜御堂涼子〜

「いやぁ〜今から楽しみだよ」

「俺も楽しみです」



ここは涼子の家の剣道場。剣道着に着替えている俺と秀秋さん、そして床に座っている春香さんがそこにいた。



「ところで慶二君」

「はい?」

「涼子はどこだい?」

「え、涼子は…」



見ていなかったのかな?



「涼子は…。自分の部屋かなんかにいると思います」

「そうか」



俺はあの後涼子が何処に行ったのかわからない。それにわかった所で、泣いた原因が分からない俺にはどうすることもできないだろう。



「まあそれは後だ。とりあえず秀秋さんに勝たないとな…」



俺は着替え終わって溜め息をついた。



「さて、久しぶりにいくか…」



慶二はそう言うと目つきが変わった。




「あ、そうそう慶二君。防具はどうする…?」

「必要ないな。あるだけ邪魔だ」

「そう…か」



「口調が変わった…? まるで別人だな…」



と、そこで秀秋はあることに気付いた。



「あっ、そうそう慶二君」

「何だ?」

「能力は無しだ。道場が壊れてしまうからね」

「わかった…」



そして春香が審判の位置に立つ。



「それじゃあ、どっちかが倒れるか降参をするまでの勝負よ」

「わかったよ」

「わかった」



二人は向かい合った。



「はじめ!」



試合開始の瞬間、慶二が秀秋の懐に下から入る。

そして懐に入ったと同時に木刀を振り上げた。


「速いっ…!」



バチーン



しかし秀秋は慶二の木刀を受け流しつつ後ろに下がる。



「速いね…。危なかったよ」

「ん? 今のはそんなに速かったか?」

「アハハ…」



秀秋は引き攣った笑いを浮かべた。



「さて、どうするかな…。慶二君にスピードでは勝てそうもない、か」



「ならタイムだ!」


「はい、秀秋さんのタイムを認めます♪」




秀秋はそう言うと、多少短い木刀を2本持ってきた



「御堂流は二刀流なのか?」

「いや、一刀流も二刀流もだ」

「すごいな…」

「ハハハ。まだ実力も分からないのに凄いも何もないさ」

「そうだな…」



「さあ、タイムはここまでだ。始めようか」

「ああ」



そうして二人はまた向かい合った。



「二人の距離は五メートルくらい…。それだけ間合いが広いってことかしら」



「いくぞっ!」

「来い! 前田慶二!」




……




「私はいったいどうしたんだ…」



ここは涼子の部屋。

涼子は電気も点けずにベットの上で体育座りをしている。




「あの時前田が、慶二が…。私を最高の女性と…」



「それなのに私は…。取り乱して…」



「そんな私に慶二は…」



そして涼子の膝に涙が落ちた。




「好きだ。大好きだ…。慶二!」




「私は…。雪江さんに勝ちたい!明日香に…! 澪も! 七美も…」




「そして…。里美にも…!」




涼子は泣くのをやめて、ベットから降りた。



「ならば…こんな所でうじうじしていても仕方がない。今日は慶二が家に来ているんだ」



そうして涼子は道場へと向かっていった。





……



「あら、涼子じゃないの」

「あ、お母さん」

「見てご覧なさい。凄いのよ〜あの二人」

「凄い?」



涼子は二人のいる方を見た。



「あれが慶二か…? まるで別人だぞ…」



「ふぅ…。さすがに簡単にはいかねぇか」

「まあ仮にも僕は師範だからね。それでも互角だけど…」



「お父さんと互角!?」

「そうよ。秀秋さんも久しぶりに本気みたい」

「まさか…? あいつは地区三回戦なのに…」

「あぁ、そのことだったら秀秋さんに聞いたわよ」

「…?」

「なんでも三回戦の日は、前田さんのおじいさんが作った借金を返済する為にバイトをしてたとか」

「そうだったのか…」

「ええ。それで二回戦の相手は全国二連覇のシード選手だったとか」

「全国二連覇!?」

「ええ、剣道雑誌にも載ってたじゃないの。全国二連覇の選手を一瞬で倒した人って」

「雑誌に…?」



そして涼子の頭上に光る電球が現れた。



「思い出した…!」

「思い出したというより、涼子。あなた忘れていたの?」

「う、うん…」



「そうか…。慶二には何か引っ掛かると思っていたんだ。これだったか」

「あら、少しは気付いていたみたいね」



「イター!!!」



二人が話している時、秀秋の声が聞こえてきた



「俺の勝ちかな秀秋さん?」



そしてそこには座っている秀秋と、木刀で肩を叩きながら立っている慶二がいた。



「いや…」

「いや…。何だよ?」




「どうやら眠くなってきたみたいだ」



全員でコケた。



「眠くなってきただ!? 何言ってやがる」



「はいっ! じゃあそこまでね。この勝負、引き分けにするわ」



審判の春香がそう告げた。



「ったく仕方ねぇ…」



俺は一言そう言って帰ってくる。

ただいまみんな!



「でもまた…。どうして秀秋さんは?」

「あら、戻ってきたのね前田さん!」

「え、えぇ試合は終わりましたしね。それより…」

「秀秋さんね、実はもう寝る時間なのよ」

「寝る時間!?」



時計を見ると十一時。



「まぁ、このくらいの時間に寝る人はよくいるし…」



たしかに微妙な時間だったので、何とも言えなかった。



「本当は十時半に寝るんですけど、前田さんと試合をしていたから。秀秋さんはその時間に気付かなかったみたいですよ」



開始が十時近くだったのに問題があったな…。



「またいつでも試合できるしな」



そう会話している間に俺は着替え終わった。



「さてと。それじゃあ俺は帰ります! 遅くまでお邪魔しました」

「いえいえ、またいらして下さいね」

「はい。それでは…。涼子もまた明日な」

「…」



そうして俺が道場を出ようとした瞬間



「慶二!!!」



へ? 慶二?



「…どうした涼子」

「家まで送って…」

「へ?」


「お前の家まで一緒に行きたい」

「ん…どうして? 俺なら一人で痴漢だって撃退できるし」



そんな人はいないだろうけどね。



「そんなのはどうでもいい。とにかく一緒に行こう」

「わかった」

「本当か!? それじゃあ行こう!」



涼子が俺の手を引っ張る。



「あ、どうもお邪魔しました!」

「またいらして下さいね〜」



そうして俺達二人は道場を後にした。



「フフッ♪ 前田さんっていい人ね、涼子♪」





……




「慶二…。先程はすまなかった…」

「何のことだ?」



さて、俺達二人は里美の家に向かっている。

…のだが、涼子が一向に手を離してくれない。まあ嬉しいからいいけど



「泣いて抱き着いたりして…」

「あぁ、そのことか」


「そのうえ意味不明なことを口走ったりして…。すまなかった」

「いや、べつにそんな謝ることじゃないしなぁ…」

「とにかくすまなかった!」

「いいよいいよ、気にしてないし。それに涼子に抱き着かれて嬉しかっ…」



まただぜこの口は…。この口のせいで、今までどれだけ里美の技を喰らってきたことか…。



「本当に!?」



ああ、もうダメだ…。正直に言うしかない…。



「うん。とっても」



もうどうにでもなれ!



「…」



あれ? どうしたんだ?



「…涼子?」



俺は涼子の方を見た。

涼子は何故か泣いていた。とにかく、自分が悪いと思ったから俺は謝った。



「違う…!」

「…?」



「嫌だったから泣いたんじゃない…!」

「え、ならどうして…」



「私は…。慶二に嫌われたのかと思ってた…」

「はあ…。何だよそんなことか。そんなわけないだろ」

「…本当に?」

「嫌う理由がないだろうが」



そうして涼子は泣き止んで…。



「…慶二は」

「…何だ?」



「…慶二は、私のことをどう思う…?」



「え?」

「真面目に答えてくれ!」

「そりゃあ…。料理は美味しいし、剣道強いし美人だし。かなりモテるんじゃないかななって…」

「違う…!」

「違うって何が…」

「客観的に見た私はどうでもいいんだ…」



「慶二自身が私をどう思っているか…。それが知りたい…」



俺がどう思っているか、ねえ…。




「いつ俺が惚れてもおかしくない女性だと思っている」



「…!」

「まぁいつ惚れるかはまだわからな…」



ドンッ!!!



「涼子…?」



涼子がまた抱き着いてきた。髪から香るシャンプーの匂いが心地いい。




「私には兄がいたんだ…」

「兄が…?」

「ああ。六つ上でな…。優しいし、剣道は強いし、カッコイイし。本当に自慢の兄だった…」



「兄がいて、父がいて、母がいる。私はそんな家が大好きだったんだ」

「だった? それって…」

「…私が小学三年生の夏頃…。兄と二人で買い物に行ったんだ」

「夏…?」

「買い物が終わった夜。家に帰る途中に…。人の怒鳴り声が聞こえて何かが光ったんだ…」

「怒鳴り声…。光った…」

「兄は私を家に置いてから…。その様子を見に行って…」

「…」



「それっきり兄は…」

「…それはいつだった?」

「八月三日…」



八月三日!?

そうか! 島津だ!


「警察に捜索願を出したが…。未だに見つかっていない…」

「そうか…」

「慶二は…。そんな兄に雰囲気が似ている」


「そうか…だろうな…」


「今…。何て言ったんだ…?」

「いや! 何も言ってない!」



俺は馬鹿だった。どうして忘れていたんだろう…。



「で、どうしていきなり俺にそんな話を…?」

「わからない…」

「わからない…?」

「ああ、わからない。けど…」



けど…?



「けれど…。慶二には私の全てを知ってほしい…。そう思ったから…」



そうして涼子は俺から離れていった…。



「あっそうだ慶二。成り行きで慶二と呼んでしまっているが…」

「ああ、それなら構わないぞ」

「フフッ…そう言うと思った…」

「凄いな涼子は」

「何を言っている。そんなのは誰でもわかるぞ」

「そうかな?」

「アハハハ♪」

「ハハハ」



最初に涼子と会った時は、こんな風に涼子と笑い話ができるとは思わなかったな…



「それにしても慶二。あんなに強いのに、どうして誰にも言わないんだ?俺は全国二連覇を倒したんだぞって…」

「何で涼子が知ってるんだ?」

「お母さんに聞いた。慶二のおじいさんのせいで三回戦を棄権したことも…」

「そうか…」

「それで、どうして…?」

「いや、まぁ…。弱いと思われてもべつに構わないしな」

「じゃあ秘密ってことか?」

「いや、秘密ってわけでもないが…。言ってない以上はやっぱり秘密なのかなぁ…」

「他にそのことを知ってる人は?」

「秀秋さんと…。兼次だけだ」

「本当か!?」


「ああ。兼次は二連覇を倒したことは知らないにしても、どうせあの試合で分かったと思うし…」

「そんなことはどうでもいい! 里美も雪江さんも七美も明日香も澪も、そのことは知らないんだな?」

「言ったことは無いはずだ」

「フフッ♪」

「もしかして皆に言うつもりか?」

「誰がそんな勿体ないことをするもんか!」

「勿体ないこと?」



そして涼子は手を離した。



「それじゃあな慶二!」

「あ、あぁ…。じゃあな!」



涼子は走って行ってしまった。



「笑ったり泣いたり大変なやつだったな…」



そして俺は月を見上げて思った。



「笑った涼子をカメラに撮っときたかったなぁ〜」




……



そうして俺は里美の家に着いたのだが…。



「遅い!!!!」

「ごめんなさいすいません私が悪かったです申し訳ございませんアイムソーリー!!!!」



扉の前には戦の鬼が立っていた



「ったく、明日は涼子に謝っとかなきゃいけないわね」

「…すまん」

「本当よ! あんたはどれだけ涼子に…」

「え?」



頭を上げて里美の方を見ると里美が下を向いていた。



「ねぇ…。慶二…」

「なんだ里美…?」



「あなた…。涼子とは…」



「え…?」

「ううん、何でもないわ。とにかく家に入ってきなさいよ…」

「へ?」

「聞こえなかったの? 早く家に入りなさいって言ったの!!!」

「はい! わかりました」



鬼に言われて俺は家に入っていった。






「涼子が慶二に抱き着いてた…」




「手も繋いで、あの涼子が…。慶二と笑って…」




「どうして…」





里美はその場に座り込む。

その里美の目には涙が浮かんでいた…。

コメディーじゃない…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ