信永編第4話〜部室はどんな場所?〜
「ついに来たか…」
「ついに来たでござる…」
「ボク帰りたいよ…」
「前田さん…。この部屋怖いです…」
「安心しろ高政。俺がついているからな」
「はいっ!」
「それにしても、みんなして腹痛なんて凄い偶然だよ」
と、いうのもあの四人は俺達をこの部屋に案内した途端、急に腹痛を訴え保健室に行った。どう考えても仮病だが、俺達にはそれを証明する術が無かった…
「とにかく…。いくでござるよ」
そうして扉から少し離れ、俺達四人は丸くなり、話し合いを開始した。
ちなみにあの有次さんと直正さんの二人は、まだ寝ている。
「で、誰が最初に行くんだ? 四分蔵か?」
「こういうのはちゃんと話し合わなきゃだよ! ねっ四分蔵?」
「四分蔵…僕は恐いです…四分蔵…四分蔵」
「みんな話し合う気あんの!? 明らかに拙者が行く流れだよね!?」
「い、いや…。そんなことは…」
「ないだよ…」
「無いですよ…」
「それならいいでござるが。ではじゃんけんで決めるでござるか?」
じゃんけんを提案した四分蔵だった。がしかし、俺には最終手段があった…。
「ったく! ごちゃごちゃうるさい忍者だなー!じゃあ俺が行くよ!」
「えー! 慶二が行くならボクも行くよ!」
「前田さんが行くなら…。恐いですが、僕も行きます!」
「え、三人で行くでござるか?」
「「「うん」」」
「なら拙者も…」
「「「どうぞどうぞ!」」」
…
……
「ったく、なんで拙者が…。今に見てるでござるよ…」
かの有名なノリによって第一次例の部屋捜索隊隊長は四分蔵に決定した。
「見直したぞ四分蔵!」
「四分蔵もやる時はやる忍者だったんだ」
「四分蔵! 見直したよ」
「そうでござるか?エヘヘヘ♪」
そして三人に褒められ有頂天になった四分蔵は…。
。
「フフフ…拙者の忍術を発揮する時が来たでござるか」
たかだか部屋に入るだけなのに、このバカ忍者は忍術がどうこう言い出した。
「さて…。まず扉を開けなければいけないでござる…」
そうして四分蔵は扉の前に立ち、何かを考えだした。
「おい四分蔵! そんなの一気にガラッと開ければいいだろ!」
「それは甘いでござる慶二殿!」
た、たしかに…。あれだけ謎の多い部屋だ。開けた瞬間に罠が発動するかもしれないな。俺が軽率だった…。すまん四分蔵。
「この部屋が埃っぽかったらどうするでござるか! 拙者は鼻炎でござるぞ!」
そんなの知るかよクソ野郎!!!!
「だからこのマスクを装備するでござる」
言って四分蔵は懐からマスクを取り出した。
マジで使えない男だ。
「これで準備完了でござる!」
「…よ、よし行け! 四分蔵!」
「負けるな四分蔵ー!」
「頑張れ四分蔵!」
「拙者は隊長でござるぞ! それなのにその口の聞き方はどういうことでござるか!?」
「あ…あぁ、すまん…」
「ごめんだよ」
「すいません」
こいつマジうぜぇー!!!
「とにかく頑張って下さいよ隊長!」
「頑張って下さいだよ!」
「が、頑張って下さい!」
「うむ。拙者に任せたまえ」
(ガラガラ)
そうして四分蔵は扉を開けた。
まぁなんだかんだ言ってあの服部半蔵の子孫だからな。例え罠があったとしても引っ掛かることは…。
「グァー!!!」
ワーイ! 引っ掛かったー!
「慶二ー! 四分蔵が扉を開けた瞬間、何かが四分蔵の顔にに当たったよー!」
「前田さん、とりあえず見に行きましょう!」
「そ、そうだな…」
俺達三人は、倒れて気を失っている四分蔵に近付いて顔を覗いた。
「ねぇ慶二…」
「前田さん…。これは…」
「あぁ…」
「「「焼きビーフン…」」」
…
……
「さて、部室掃除が終わったわね♪」
あれから四人が戻ってきて、有次さん達二人も生死の間から舞い戻ってきた。二人が言うには、閻魔様はいい人だったらしい。
そして十人全員で部室掃除をし終えた。
「疲れた…。しっかし焼きビーフンばっかりだったな…」
何故かこの部屋たまっていたのは、埃ではなく焼きビーフンだった…。
「慶二くんも情けないよぉ〜」
「そうだよバカ慶二〜!」
「うるせぇ! お前ら!」
「きゃあ〜」
「バカ慶二が来たー」
まったく…。澪と忠海の相手は疲れる。
「そういえば先生、あれを決めなくちゃいけなかったんじゃないですか?」
「兼次さん、あれって何ですか?」
「高政くん、それは私から説明するわ」
そして先生は小さく咳をすると
「えーっと、顧問も人数も大丈夫だったらしいけど、部活の名前を決めなくちゃいけなかったの。先生もうっかりしてたわ」
「と、いうことは今から決めるんですか?」
「そうね」
部活の名前かー
部活の名前って一番重要だよな。バスケだったらバスケ部、サッカーだったらサッカー部。その部活の特徴が顕著に現れるのが部活名だからな。
「服部四分蔵部はどうで…」
「却下よ」
「わたしはキャンディーキャンディーキャンディーがいいな〜」
「ボクもー!」
部はどうした部は!!!
「ワシは韓国のり部がいいのう!」
「俺は白い恋人部」
直正さんも有次さんも好きな物を言ってるだけだし…。
「よろず部でいいんじゃない♪」
「俺も七美に賛成だな」
あんまり語呂がよくないが、まぁそれが一番いいだろう。
「俺もそれがいいわ。でも高政はいいのか?」
「はい、前田さんがいいと言った物なら何でも」
くぅー♪ 嬉しいこと言ってくれるじゃないの♪
「決定ね。部活名はよろず部、顧問は私、活動場所はこの部屋。今まで通り例の部屋と呼ぶことにしましょう」
「わかった」
「オッケー♪」
「は〜い」
「大丈夫だよ〜」
「この兼次様に任せろ」
「承知したでござる」
「ガッハッハ!楽しみじゃのう!」
「俺も楽しみだ」
「僕も楽しみです」
「皆さんお揃いでいましたわね」
「この部屋きれいになったわね」
「本当だな」
と、そこに風呂上がりの全国少女三人がやってきた。場所を知っている訳は、どうやら兼次達が保健室帰りに場所を教えていたらしいからだ
…
……
「そうそう、田舎の畑に米ができちゃってさ、畑にだぞ!? そりゃ…うん? そろそろ帰るか直正、忠海、高政?」
「おっとそうじゃのう! ついつい話し込んでしまったわ!」
「慶二は一緒に帰らないの?隣同士じゃん!」
「そうですよ前田さん! 一緒に帰りましょうよ」
「ああ、そうしよ…」
「前田はたしか今日、私の道場に来るとか言ってなかったか?」
へ? どうしたの涼子?
「あっ! いや、何でもないんだ…。気にしないでくれ」
気にするなと言われても…。
仕方ないか。
「あぁ〜そういえばそうだった! じゃあ行くか涼子!」
「えっ?」
そうして俺は涼子の手を引っ張って教室を抜け出した。
「じゃあみんなまたな!」
「ちょっと慶二! 夕飯は、って行っちゃったよ」
…
……
「前田すまない…。私が意味の分からないことを言ったばかりに…」
ここは学校の帰り道。太陽も地平線へと沈み、そこらじゅうで鳴いているコオロギの声が耳にキンキンしてくる。
そんな中俺は涼子と、涼子の家の向かって歩いている。
「ん、あぁ。いいんだよそんなこと。どうせ近々行こうと思ってたからさ」
「そうか。そう言ってもらえると助かる」
「お父さんは元気か?」
「ああ、前田と試合がしたいとか言っていたぞ」
「そうか」
「実際私も試合を見てみたいし、お前とも試合がしたい」
「そっか」
「ああ」
「でもまぁ今日はすぐに帰るよ」
「どうしてだ? 私の家に来ても構わないぞ」
「いや、さすがに夕飯をご馳走になるわけにはいかないし」
「…」
「つーことでこんな時間にお邪魔するわけにもいかないから帰…」
「私の!!!」
「るっ…」
「私の家で夕飯を食べればいい。いや、食べていってくれ」
「大丈夫なのか? それに第一、俺の分が…」
「無かったら私が作る! だから、な?」
「涼子が作る…?」
「ああ」
「でもお前、部活で疲れてんだろ? それなのに…」
「作ると言ったら作るんだ!!!」
「うわっ!」
「すまない…。大声を出したりして」
「ああ、べつに大丈夫だ」
「とにかくそういうことだから…。家に来てくれないか?」
「うーん…。わかった! 涼子の手料理も食べてみたいしな」
「えっ? 本当か!?」
「ああ、行くよ」
「いや、そっちじゃなくて…」
「あぁ手料理のことか?」
「…うん」
「そんなの食べてみたいに決まってんだろ〜。こんなかわいい人の手料理なんてそうそう食べれないからな」
「かわいい…」
「ん? どうした?」
「な、何でもない!」
「そう?」
「ところで前田は戟が本職と言っていたが…」
「ん、ああ。普段は剣の方が強いんだけどな。戟は…。ちょっとな…」
「ちょっと…。何だ?」
「戟の方が力が沸く感じなんだ…。まぁ気にするなって」
「そうか…」
「そうそう」
そうそう。
「着いたぞ」
「ん、これか〜」
着いたと言っても、見えるのは和風の門。門の横から続いている塀の上から大きい屋根…おそらく道場の屋根だろうか。それと、家の二階部分が見えるくらいだ。らんま1/2の家を想像していただくと分かりやすいかもしれない。
「それじゃあ付いてきてくれ」
「わかった」
そして俺達二人は門の中に入って行った。
…
……
「ただいま」
「お邪魔しま〜す」
「おかえり涼子、いらっしゃい慶二君」
「こんばんは秀秋さん」
浴衣姿の秀秋さんに迎えてもらった。
「こんばんは。さて困ったな…。僕たちはもう夕ご飯を食べてしまっていてね。おまけに二人の夕ご飯は用意できそうにないんだ。だから今から二人で外で何か食べて…」
「なら私が今から作る!」
秀秋さんの話を聞いた涼子は、言うと一目散に台所へと駆けていった。
そして俺は玄関で、秀秋さんと二人で向かい合う形となった。
「すいませんこんな時間にお邪魔したばっかりに…」
只今の時間は8時。本当に申し訳ない
「いやいやとんでもない。本当は今すぐに夕ご飯の用意してもよかったんだけどね」
「え? 用意できるんですか?」
「僕の奥さんが用意する夕ご飯なら、ね♪」
「は、はぁ…」
「それじゃあこっちだよ。ついてきて」
言って秀秋さんは行ってしまった。
しかし涼子のお母さんが用意してくれる料理以外、何を用意するってんだ?
それなのにわざわざ部活で疲れた涼子に夕ご飯を作らせたりして…。
「よくわからない人だなぁ…」
「おーい慶二くーん!」
「あ、はい! 今行きます!」
俺は秀秋さんに呼ばれたので、小走りで後を追って行った。
…
……
「はじめまして、前田慶二です」
「これはこれはご丁寧に。私、御堂春香と申します。宜しくお願い致します」
「いえいえこちらこそ!」
ここは広い和室。長いテーブルがあるので、どうやら御堂家はここで食事を摂っているらしい。俺はそこに座って、涼子の両親と向かい合っている。
「それで前田慶二さん…? 話は伺っています。秀秋さんが言っていた方ですね」
「うん、そうだよ」
「言っていたとは?」
「ずっと前から前田さんの事を聞かされていたんですよ。それでさっき、前田さんが来る少し前だったかしら。秀秋さんに、その前田さんが家に来ると聞いたんですよ」
「はぁ…」
そっか…。秀秋さんは常に涼子を見張っていたんだっけか。
「それで秀秋さんたら、前田さんに夕ご飯の支度はいらないよ。って」
「へ?」
ますます意味不明だ。
なんて思っていると、トットット。と廊下から足音が聞こえてくる。
「おっと、どうやら涼子が来たみたいだね」
「それでは私達は退散しましょう」
「そうしようか。それじゃあ慶二君、また後でね」
「はい、また」
そこにお盆に料理を乗せた涼子がやってきた。今は九時だから一時間か…。早い方なのか遅い方なのかわかんねーや。
「できたぞ。今回はサバの塩焼き、肉じゃが、ヒジキの煮付け、しじみの味噌汁だ」
そうして涼子は一品づつテーブルの上に乗せていく。
「こりゃあ美味しそうだな!」
「本当か?」
「ああ。冗談抜きだ」
「やった…♪」
実際これは本当に美味しそうだった。やっぱり和食はいいね〜
「それじゃあ食べようぜ!」
「そうだな、あっ! これを忘れてるぞ」
そう言って涼子は箸を取ってくれた。
「ありがとうな」
「い、いや…」
「よし! 食べようか!」
「ああ…」
「「いただきます」」
まず俺はしじみの味噌汁から飲んでみた。
「うっめぇ!」
「本当か!? じゃあこの肉じゃがは?」
「美味い!」
「本当!?」
「ああ。もちろんだ」
「じゃあこのヒジキの煮付けは? サバの塩焼きは?」
パクッパクッ
「これまた美味い!」
「本当に!? 本当に!?」
「ああ。いつお嫁に行っても大丈夫だぞこれは」
「お嫁っ!?」
「ああ、涼子はいいお嫁さんになるよ。気が利くし、料理は美味いし、美人だし」
「お嫁…♪」
いやぁ…実際これは本当に美味しいですよ。綾子さんに引けをとらない美味しさだな。
「いつか涼子の取り合い戦争とか勃発しそうだな」
「もしそうなったら…」
「ん?」
「もしそうなったら前田は参加してくれるか?」
へ?
「いやいや、俺なんかじゃその土俵に立つことすらできな…」
「そんなことはない!!!」
「うひゃあ!!」
「いきなり大声出したりして悪かった…」
「お、おう…」
「やっぱり前田は…。雪江さんのことが好きなのか?」
「いきなり何を言って…」
「前田は…!!!」
「…?」
「前田は…。こんな剣道ばっかりやってて…。手がゴツゴツしている女より、雪江さんみたいに綺麗な人の方が…」
「何言ってんだよ! むしろそういうスポーツとかやってる人は大好きだよ」
「え…!?」
「例え体に傷ができようとも好きなことに打ち込む女性は美しいと思う。もちろん涼子もだ」
「本当に…?」
「そんな嘘言うかって。誰が何と言おうと、涼子は最高の女性だ。俺が保障する」
「ありがとう…」
「ああ」
すると涼子がもじもじし出した。
「なぁ前田…。慶二…」
「ん? どうした」
「好きな人はいるのか…?」
「好きな人? いきなりどうしたんだ…?」
「いいから答えてくれ!」
「何でだ?」
「私がおまえを…すき…だから…」
「え? 今何て…。ちょっ涼子!?」
俺は涼子が何を言ったのか聞き取れず、もう一度言ってもらおうとしたのだが、その涼子がいきなり抱き着いてきた。
「なあ前田…。私みたいな愛想のない女は嫌いか?」
「涼子…?」
「前田が…。慶二がそう言うなら! 私は自分を捨てる!!!」
「もし慶二が私の料理を食べたいのなら、私はいつでも作る!」
「もし慶二が剣道をやめろと言うなら…。私は剣道をやめる…」
「涼子お前何を言って…!」
「慶二がしてほしいことなら私は何でもする!!! だからっ!!!」
「涼子…。お前…」
涼子は泣いていた…。
俺は涼子が何故泣いているのか、さっぱり分からない。
「おーい慶二くーん! 早く試合しちゃおうよ!」
「「…」」
涼子がすっと離れていった…。
「すいません秀秋さん! ちょっと待ってて下さい!」
「わかったよー!」
とりあえず秀秋さんに返事をして、そして俺の隣で俯き畳を見ている涼子の方を見た。
「涼子…?」
「…」
「涼子…。大丈夫か…?」
「…すまない」
「おい涼子!」
涼子は言うと、立ち上がってどこかへ行ってしまった…
「涼子、どうしたんだろう…」
あんな涼子は初めて見た。普段から感情を表に出さない涼子が泣いてた…。
ズズッ
「美味しい味噌汁…」
俺はしじみの味噌汁をすすった。