第12話〜明日香のお屋敷〜
「楽しみだなぁ」
「タダ飯タダ飯フヒヒヒヒ〜」
今日は水曜日。コオロギの泣き声が聞こえてくる満月の夜、そんな今、俺達八人は明日香のリムジンの中にいる。
というのも今日は、北条院家のディナーに招待されたのだ。それは何故かというと昼休みの時間に遡る。
〜昼休み〜
「なぁ、明日香は毎日家でどんなもん食ってんだ?」
俺はふと思ったことを聞いた。明日香はどんな物を食べているか、というより金持ちはどんな物を食べているか。
という質問だろう。
「あ〜それは私も気になる♪」
「きっととーっても大きいキャンディーを食べてるんだよ〜」
七美は俺のした質問に興味を抱いたが、澪は…。
「なぁ澪、キャンディーは好きか」
「うん、大好きだよ〜」
だからか…。
「さすがの俺にも、想像できない物を食べているんだろうな」
「あんたに想像できるわけないじゃない」
里美は、何を言ってるの。という表情をして、兼次に言った。
説明が遅れたが、この二人も一応幼馴染みなので仲がいい。
「それなら今晩、私の家で夕食を食べませんこと? もちろん雪江さんも」
「「「「行くー!」」」」
「いいのか明日香?」
「大丈夫なの?」
「迷惑ではないのでしょうか…」
澪、俺、七美に加えて、今回は珍しく兼次も一緒に、四人ではしゃいだ。
「大丈夫ですわよ。それに客観的にみても、金持ちだからそのくらい大丈夫だろ。って思いますもの」
「「「たしかに…」」」
遠慮しがちだった三人も、明日香の一声で納得した。
明日香は、なかなかわかってる金持ちさんだな。
「「「じゃあお言葉に甘えて…」」」
「決まりですわね。それじゃあ里美と涼子は部活が終わったら一度このクラスに集合。他の皆様もこのクラスにいてくださる? 車をお出ししますわ」
全員がそれに頷いた所で、その話は終わった。
車まで出してくれるのは凄いと思った。俺とは住む世界が違う、という事を思い知らされた、昼食時だった。
キーンコーン梶ー原
メッポホッポキッポキュッポー
「じゃあわたし達はここで待ってるね〜」
「オッケーよ」
「わかりましたわ」
「わかった」
そうして三人は部活に行った
「いやぁ〜楽しみだねぇ〜♪」
「そうだな。俺も楽しみだ」
「なんか申し訳ないですね…」
「気にしなくても大丈夫だよ雪りん〜」
「タダ飯タダ飯フヒヒヒヒ〜」
ん、どうしたのかな兼次は?
「問題は、金持ちはどんな物を食べているかだな…」
「伊勢エビとか?」
「伊勢エっブッー! アハハハハ〜」
俺の疑問に答えた七美の発言に、何故か澪が笑い出した。
「どうした澪?」
「だってだって〜。里美が伊勢エビを食べたりしたら、共食いになっちゃうじゃ〜ん。アハハハハハ」
「雪江さんはどう思います?」
「私ですか…?」
「はい。雪江さんなら的確な意見を言ってくれるかなと」
澪を無視し、雪江さんに尋ねる。
雪江さんは少し考えてから言った。
「他人…。でしょうか…」
…
「どうしてです…?」
「金持ちは他人の金を食べて、金持ちになるのです…」
はぁ…。上手いですね…。
「そういう慶二はどう思うの?」
七美は俺に聞いてきた。
うーん。金持ちはどんな物を食べているか…。
「やっぱり七美が言った通り、伊勢エビとかかなぁ…」
「伊勢エビだってぇ〜アハハハハ!」
「…ですから他人の資産が四散してしまって…フフッ♪ 資産が四散資産が四散…ウフフ♪」
「タダ飯タダ飯フヒヒヒヒ〜」
お前らはもうダメだ!付き合いきれん!
…
……
ってな感じだ。
しかしこのリムジンはとても広い。とても長い。とてもいい臭い。
「みなさん、着きましたわ」
「「「「レッツゴー!」」」」
もちろん俺、七美、澪、兼次だ。
そうして俺達はリムジンを降りたのだが、目の前にはシンデレラ城みたいな建物があった。
「うっわぁ〜」
「これは広いわね」
「すっごーい♪」
「ひゃあ〜」
「たしかにこれはすごいな」
「広すぎですね…」
「タダ飯タダ飯フヒヒヒヒ〜」
兼次は帰った方が…。
「明日香お嬢様、もう夕食の準備はできています」
「ご苦労様。セバスチャン」
「はい。それでは皆様方、こちらにいらしてください」
セバスチャンというありきたりな名前の執事に案内されて、俺達は食事が用意されている場所へと向かう。
「なあ明日香、あの壷はいくらだ?」
俺は廊下を歩いている途中、廊下の脇にある台。その上にあった、いかにも高級そうな壷を指差して、明日香に尋ねた。
「あれは19万8千円ですわ」
「ん、ああ…。そうなの…」
俺はてっきり、数億とかするもんだと。そう思っていたんだけど、結構リアルなのね…。
ちなみに値段から想像すると…。
「トーカ堂で買いましたのよ」
やっぱりな…。
「えー!? あの壷トーカ堂なの!?」
「どうした七美?」
七美はトーカ堂にかなり驚いていた。
「いや、何でもない…。社長じゃない人の真似をしただけ…」
社長じゃない方って、さくらか!?
「着きました」
「お疲れ様セバスチャン」
セバスチャンが案内した先には、高さ三メートルはあろう巨大扉があった。そしてセバスチャンが大きな扉を開くと−−。
−−食堂…?
「これって階段がない食堂そのまんまじゃないか」
「ええ、私達やメイドや執事、みんな一緒に食べる為ですわ。食堂はこの部屋をモデルにしましたの」
なるほど。俺は明日香のこと、金持ちだけどいい奴。って思ってたが、この様子だと明日香の両親も−−。
「みなさん我が家にようこそ!」
「明日香がいつもお世話になっております」
「あら、お父様にお母様ではないですの」
−−人当たりのよさそうな人達だった。
明日香の両親は俺達の後ろから登場してきた。金持ちらしさを感じない、いたって普通の身なりしている。
「とにかく皆さん、席について下さい」
「そうだそうだ! みんなして突っ立ったりして!」
やっぱり、とってもいい親だった。
俺の両親にも見習ってほしいよ。
「明日香、いい親だな」
「はい! もちろんですわ!」
「そっか」
明日香は満面の微笑みと共に、自信満々にそう言った。
「今日は明日香のお友達が来てくれています!」
「ワー!」
「イェー!」
「ウォー!」
「うるさいぞセバスチャン!」
俺達やお屋敷に勤めている人達が全員席についた所で、明日香の親父さんがマイクをとって話し始めた。
しかし本当に全員で食べるらしい。全員と言っても、数十人とかじゃない。二百人はゆうに越えている。
明日香いわく、お手伝いさんのほとんどは孤児らしい。その孤児達を雇い、住む場所も与えているらしい。
そして、北条院家は来る者は絶対に拒まなかった為、ここまでの人数になったという。
「そして今日のメニューは…。伊勢エビのエビフライ!」
「イェー!!!」
「デザートには特大キャンディー!」
「いぇ〜い」
澪はかなり嬉しそうだった。
「いただきます!」
「いただきまーす!」
二百以上の人数が巻き起こす、いただきますの大合唱だった。
「ふぅ…」
「お疲れ様。あなた」
いただきますの音頭取りの仕事を終え、席につく明日香の父親に、同じく母親が労いの言葉を送る。
「お疲れ様です」
俺の隣は明日香のお父さん、その奥にお母さんが座っている。俺の正面は明日香だ
「君が前田慶二君かな?」
「あっ、はい。前田慶二です。よろしくお願いします」
「よろしく」
「よろしくね〜」
本当に気さくな人だ。
「ところでどうして俺が前田慶二だと…?」
「いやね、明日香が君の事ばかり話すもんだからね」
「ちょっとお父様!」
「その話からすると、もしかしたら貴方が前田慶二さんかしら。と思ったんですよ」
「あぁ、そうなんですか…」
明日香が両親に俺の話をしていたとは意外だ。どうせ下品下品言っているんだろうけどな…。
「明日香ったら、前田さんのことを下品だ下品だ。ばっかりいっちゃって」
「…」
「ところが実際に見てみると、かなりのイケメンじゃないか。ってことだ」
「はぁ…。ありがとうございます」
やっぱり下品下品言っていたのか…。
でも親父さんに、イケメンと言われて、嬉しかったから許す。
「明日香もカッコイイ彼氏を見つけましたねぇ〜。フフフ」
「そうだな! ハッハッハ」
「ブー!」
明日香がスープを吹き出した。
「大丈夫かよ明日香?」
「大丈夫ですわ。それよりお父様お母様! 彼氏って何ですの! 私はべつに慶二さんの事なんか好きじゃありませんわ」
たしかに俺もそうなんだが…。でも、何かやり切れないって言うか…。このもやもやは…。
「あら。まだゲットしていなかったのね」
「そうかそうか。頑張れよ明日香」
「もういいですわ…!」
「ところで前田君、そのことで話があるのだが…」
「ちょっ! お父様!」
「ほらほら明日香、落ち着きなさい」
明日香のお母さんが明日香をなだめる。
「それで何ですか?」
「ちょっとこっちに来てくれるか」
「わかりました」
明日香を彼女にしてくれないか? とか言われても困るぞ。
明日香もおもいっきりこっちを睨んでくるし。
「それで話のことだが」
「何でしょうか?」
俺と親父さんは廊下に出た。今は食事中だから、他の人が来ることはなさそうだ。
「君は前田慶二の子孫だろう?」
「…へ?」
「いや、唐突にすまない。実は私と利勝じいさんは知り合いでね」
「そうなんですか!?」
「ああ、昔お世話になってね。それ以来の付き合いなんだ」
「そうだったんですか」
「それで、君がここに来た理由も聞いたよ」
「そうですか」
「まさかあいつらがこの町を狙ってくるなんてね…」
「はい…」
そこまで知っているのか…。
「それで本題だが」
「…はい」
「そいつらから明日香を守ってくれないか?」
「え?それは…。まさか…」
「そう。実は私達一族も武将の子孫なんだ」
うっそーん!!!
「私が守ってやりたいんだが、私はどうも戦闘が苦手でね…」
「なるほど。ちなみにどの武将の子孫なんですか?」
「ああ、言い忘れてたね。実は私達は今川義元の子孫なんだ」
今川義元の子孫か。
今川って言ったら桶狭間で織田信長に倒された大名だったな。
「それで明日香の本名は今川義美だ」
「ん、それで明日香はこのことを知っているんですか?」
「いや、知らない。だからもし、やつらが来たなら誰かが守ってやらなきゃいけない。私が守ってやりたいが、さっきもいった通り戦闘は苦手でね…」
「と、いいますと?」
「私が会得しているのは内政の能力だけでね。まあつまり、能力に目覚めていないんだ」
「なるほど…」
「大変かもしれないが頼まれてくれるか?」
「わかりました! 俺に任せて下さい!」
「そうか、ありがとう! それでは私の連絡先を教えておくから、何か協力してほしいことがあったらいつでも連絡してくれ」
「わかりました」
そして俺は、明日香のお父さんから名刺を受け取った。名前は北条院拓海だった。
それにしてもこんな身近に子孫がいるなんてな…。灯台下暗しってやつか。
「それじゃあ戻ろう」
「はい」
「いや〜。明日香も頼もしい彼氏を手に入れたな〜」
「アハハ…」
…
……
「お邪魔しました!」
「またいらしてくださいね〜」「じゃあまた、いつでも我が家に来てくれ!」
「みなさん、また明日学校で会いましょう」
ここはお屋敷の門の前。明日香達三人の後ろには、使用人が全員集まっている。一家総勢での見送りだ。
すると、拓海さんが俺に近付いてきた。
「じゃあいろいろと頼んだぞ」
「任せて下さい」
「ありがとう」
「ほら慶二早く行くわよ」
すでに車の中にいた里美に呼ばれたので、拓海さんは元の位置に戻った。
「それではまた」
「ああ、慶二君ならいつでも歓迎するからな! なんなら婿入り…」
「お父様!!!」
「ハハハ…。じゃあまた明日な明日香!」
「え、えぇ…。さようなら…」
「あら、明日香ったら照れちゃって」
「お母様!!!」
そうして俺は車に乗った。今回は澪、雪江さん涼子、里美、兼次と一緒だ。七美はいない。
「とってもおいしかったね〜」
「これがタダ飯の素晴らしさだな」
「お前は食事中も、タダ飯タダ飯フヒヒヒヒ〜。って言ってたな」
「おい兼次、本当かよ?」
「いや…そんなことは言っていない。おそらく涼子が適当なことを言ってるんだろう」
「お前はあんなに言っていたのに、覚えていないのか…?」
絶対御堂が正しい。これは間違いない。
「それにしてもいい所だったよ〜。キャンディーもあったし」
「ああ、キャンディーはどうでもいいが、最後は使用人全員が見送ってくれたしな」
「私も同じ使用人として学ばなければいけませんね…」
いや、雪江さんは今のままで充分じゃあ…
「おっと、わたし達はここだね〜」
「そうですね…」
澪と雪江さんの二人に、それぞれ個性のあるお別れの言葉を言った。
「それじゃあ私はここまでだ。また明日な」
上に同じく俺達三人が、じゃあね。と言った。
「ねえ慶二、明日香のお父さんと何を話したの?」
そして里美がいきなり聞いてきた。
しかし、子孫の事を里美に言う訳にはいかない。
「ん、ちょっとな…」
「なによそれ!?」
「俺にも言えることと言えないことがあるんだよ」
「そう…」
「ほら、着いたぞ! じゃあな兼次!」
「じゃあね兼次!」
「じゃあなお二人さん」
俺達は車を降りて家に入った。
「「ただいま〜」」
「お帰りなさ〜い」
毎度の事ながらこの声は本当に落ち着く。まさに天使の声だ。
「楽しかったかしら?」
「「そりゃあもちろん」」
「それはよかったわね〜。そうそう、お風呂沸いてますから入ったらどうかしら?」
「それじゃあ先に入ろっかな」
「甘い! 私が先よ!」
甘いのはそっちだ!
「喰らえ! どどん破!!!」
「甘いのはどっちかしらね!」
なんと里美は、俺が人差し指から背中に向けて放ったビームを、里美はバク宙で交わし、そして俺の頭に着地した。
「これで終わりよ! ルームランナーダッシュ!」
言うと里美は、俺の頭の上で走り出した。しかしまるでルームランナーのように、里美の体は前に進まない。
「ギャー! 髪の毛が抜けるー! すいませんごめんなさい申し訳ありません!!!」
「じゃあ先にお風呂入ってくるわね♪」
「いってらっしゃいさっちゃん♪」
「あ…。綾子さん…」
「あら、24時間テレビを見てた途中だったんだわ。さくら〜ふぶ〜きの〜♪」
ガクッ…
「おお慶二! 死んでしまうとは情けない!」
ヤブ医者は…。黙って…。ろ…。
そうして今日一日が終わった。
コメディーというかファンタジーっぽくなっていますが、今は気にしない方向で…