浮遊する両腕と自慢の黒髪
「おねえちゃん、まって!」
私の最愛の妹、佳奈子。
小さな体を懸命に使って、私に合わせて歩こうとするその姿は、可愛らしく、愛おしかった。
「どんくせぇな、佳奈子!」
俊助はいつも佳奈子を苛める。
俊助はきっと、私が困る顔を見たいだけなんだわ。
それを、そんなのを佳奈子にぶつけるのは、正直許せないけど、子供だからと自分を自制していた。
佳奈子が中学生に上がった。
私の中で、佳奈子は未だに覚束ない足取りで歩いている。
「お姉ちゃん、制服、似合うかな…?」
うん、佳奈子は何着ても似合うわ。
でも、言わず出たのは。
「ええ、小学生には見えないわ」
佳奈子のぶすっとした顔がまた可愛らしくて。
姉として、同性として、最愛の妹に対して持ってはいけない感情が、そこにはあった。
佳奈子が中学生に上がって、どうやらストーカーが現れたようだ。
愛しの佳奈子、可愛い佳奈子、汚い奴には触れさせない。
例えそれが、佳奈子に向けられた愛であろうと、狂気であろうと。
…あれ?ここ、道路の上?
待って、思い出せ。
私は、佳奈子のストーカーが、自転車で家の周りを彷徨いているのを見つけて、
流石にムカついた私が声をかけたら逃げ出して、
もっとムカついたので自転車の後ろの荷物置きのところを掴んだら加速しやがって、
トラックが来て、
ブレーキ音が盛大に響いて、
あれ、何コレ血?
自転車野郎、いや女郎が一目散に走り抜けていって、
何かこう、意識はあるけど体が動かないみたいな、
家が近いからかな、お母さんと、俊助の家のおばさんが走ってきて、
何か、言ってて、
最後は、母さん、
あなたじゃなくて、かなこのかおが、みた、かった、な、
この世に天国は無いらしい。
死んで、最期なことがようやく分かった。
夏の暑い日でした。