消えぬ黒髪と与えた愛
俺には、好きな人が居る。
幼なじみの、2つ上の姉。
幼なじみと瓜二つだが、どちらかというと幼なじみはかわいい系で、その姉、由莉子は、美しい感じの人だった。
俺はよく、幼なじみを泣かせていて。
その度に由莉姉から怒られていた。
怒っていると言っても怒鳴るようなことは無く、むしろ悲しくなっているような目で見た由莉姉。
その顔が見たくて、俺は何度もあいつを泣かせた。
俺とあいつが中学生になって、半年が過ぎた頃。
由莉姉が死んだ。
交通事故だった。
犯人は3年経った今でも捕まっていない。
俺は、人生の淵に立たされたような気になって、一週間部屋に閉じこもった。
毎日、誰かかれかが鍵のかかった扉の前に来た。
家族の他に、友達、その頃無駄に付き合っていた彼女、担任も来た。
来て、早く来いだの顔見せろだの言った。嫌だったので、扉は開けなかった。
あいつも来た。
でも、いつも無言で扉の前に立っているのが手に取るように分かった。
あいつの癖、不安な時にする、間隔の短い呼吸。
一週間続けて来たので、嫌になって、つい、「入れよ」と言ってしまった。
あいつが入ってきた。
泣いてた。
泣き顔が、あの怒る時の由莉姉そっくりで、美しくて、気がついたら、あいつを襲っていた。
柔らかい肌。
甘いにおい。
こぼれる吐息。
理性なんか簡単に吹っ飛んだ。
俺が果てた時、ようやく我に返って、自分のしたことを後悔した。
佳奈子を由莉姉と思って襲ったこと、佳奈子が処女だったこと、佳奈子がさっきより大きな涙を流していたこと。
何も言えない俺にあいつは、涙声で呟いた。
「俊助…」
「呼ぶな」
謝るより先に出てしまったのは、由莉姉と違う声で話す似た顔のあいつへの苛立ち。
今思えば、由莉姉が俺を呼ぶ時と同じように呼んでくれたって分かるのに、この時は、そんな気も遣えなくて。
「ごめんなさ…っ」
「謝るくらいなら、また俺に使われれよ」
う、う、と、何度かしゃくりあげて、佳奈子は帰った。
由莉姉の居ない、でも変わらない日常の、始まりだった。