受け入れた愛と置き場の無い両腕
君と愛し合うようになって、一年が経った。
何度となく身体を重ね合わせたのに、キスをしたことは一度も無い。
この、静かな空間に響く2人の喘ぐ声が、何よりもこの関係の虚しさを表していると思う。
『今日も俺の家で』
すれ違い様に、紙を渡される。
内容なんて、読まなくても分かる。
そこにある感情は、呆れでも悲しみでもなく喜び。
----また、か
私は、この笑顔を隠すことは一生出来ないだろう。
「…っ口、開け」
言われるまま、君の欲望のまま、行為を続ける。
最初から、愛でられる愛なんて、期待していなかった。
私を選んでくれている。それだけで良かった。
滴る愛液。
荒い呼吸。
襲う脱力感。
彼の全部が今、私のものになった。
「はぁ?お前馬鹿だろww」
教室で君は、大勢の友達に囲まれて過ごす。
一人で読書の私とは正反対である。
「だから、あの時主人公がああ言ったのは…」
テレビの話で盛り上がっているようだ。
邪魔、かな?
席を立つ。
「あ、おい、佳奈子、コーラ買ってきて!」
「…3分待っててね。」
行こうとしていたトイレとは、逆の方向を向き、歩き出す。
この後教室で繰り出される話題はきっと、私の悪口になり、彼と私の゛幼なじみ゛という関係についてになり、先生の悪口へと変わっていくだろう。
人間の心理なんて、そんなものだ。特に、こういう時期の集団生活者なんて。
習慣のせいだろうか、気づくとコーラをなるべく振らずに持って教室の前に立った自分が居た。
扉を開ける。
降ってくる、黒板消し。
教室は笑いの渦の中心になり、私は表情を変えずに彼にコーラを渡す。
もちろん、コーラにチョークの粉は付いていない。
「…買ってきた。」
「…さんきゅ。」
残念そうにしても、私は泣かないよ。
黒板消しを拾い、戻した所でチャイムが鳴る。
まだ静まらない教室の中、私は次の授業の準備に取りかかった。
私は、彼の名前を呼んだのは、一度だけだった。
彼が私の処女を奪ったあの日。
今にも泣きそうな彼にかける言葉が無く、ぽつりと名前を呟いた。
責められて泣きそうな声で彼は、名前を呼ぶなと一言言った。
それが始まり。