第二話 腐っても鯛、折れても番犬
日曜日。
久々に四人が揃ったのだから、何処かに出かけたいという響の提案を下に、僕達は第七地区の中心街へと繰り出した。
この際だから言っておくが、僕も響も三時間しか寝ていない。
睡眠時間は六時間以上取らないと人間が壊れてしまうらしいが、どうも響はその法則が当てはまらないようだ。
ものすごいハイテンションだったと追記しておこう。
閑話休題。
宮倉町を含め、夢宮家の支配が及ぶギリギリの領域を統括している街に入った感想は。
「へえ、大分整備されてきたな」
僕がそう漏らしたのはアスファルトの道路やセメントの壁が随所に敷かれていたからである。
「ここら辺の治安も大分良くなってきたから何より何より」
宮倉町も包括する関東第七地区は辺境ゆえに地区内に置いて最も整備が遅れていた。
直接関係がないとはいえ、第七地区が発展していくのを見ると嬉しくなるな。
「これが壊されないことを祈ろうか」
何せ魔法使いはその性質上好戦的な者が大多数ゆえに頻繁に戦うに加え、一戦一戦が周囲にシャレにならない被害を与える。
その際に鉄筋やコンクリート製の建物が壊されるとそれが原因で人が押し潰されて被害も大きくなるがゆえに、硬くて重い材質は治安が低い場所だと敬遠されていた。。
二次災害の拡大の危険性があるにも拘らずマンションなどが建設されている所を見ると、多くの魔法使いまたは力のある魔法使いが配置されたと推測する。
「久々にゲームでもやってみようかな」
ここはストリート街はゲーム機の種類も豊富。
三月娘達はウインドウショッピングを行うそうなので、その間僕はゲームセンターで思う存分ゲームでもしようかと考えていた。
「ハイスコアの記録を全て塗り替えようかなぁ?」
と、僕は鼻歌を歌いながらゲームセンターを探す。
この時の気分は間違いなく天国だった。
何故かって? それはもちろん。
「ちょっとあんた、どこに行くのよ? 荷物係が離れるとまずいでしょ?」
その後すぐに立華に肩を掴まれたからさ。
「一体僕って何なのだろうな?」
財布を仕舞いながら僕はそんなことを呟く。
「僕は荷物兼財布係じゃないのだけどな」
「康介君、何を言っているの?」
そんな僕に優奈がクレープを齧りながら諭してくる。
今、姿が見えない立華と響は四人分のアイスを買うためにとある有名店に並んでいた……もちろん僕のお金で。
ちなみになぜ優奈がアイスがあるにも拘らずクレープを食べているのかというと、待っている間は暇だかららしい。
「……自分の金で買えば良いのに」
地主の娘の優奈は小遣いも相当貰っているだろうが。
「残念、ケチなドブネズミは滅多なことでお金をくれません」
舌を出した優奈は続けて。
「それとも康介君は女性にお金を出させる気ですか?」
「悪いが僕は紳士でなくフェミニストなんだ。だから男性も女性も平等に扱うぞ」
と、僕は肩を竦めながらそう返したのだけど。
「良いじゃない、康介君は曲がりなりにも一年間夢宮学園に在籍していたんだし」
優奈は気易い口調で。
「未成年でも国家公務員として給料を貰えるんでしょ?」
「まあそうだな」
それは嘘でないので肯定すると。
「で、いくらぐらい貰ったの?」
優奈が意地悪そうな笑みを浮かべて聞いていたので、僕は財布を見せながら。
「通帳にはこれの十倍ぐらい入っている」
「……」
万札が十枚できかない数が入っているのを放心した様子で眺めていた優奈は。
「……康介君、村の皆のためにあの店のケーキを買い占めましょう」
「って、おい!」
とんでもないことを口にしたので僕は焦るが。
「ああ、そうね。ケーキよりも和菓子の方か好まれるからそっちにしましょう……もちろんお茶も買うわよ」
優奈は全く気にせずズンズンと歩いて行く。
「だから止めろ!」
優奈の肩を掴みながら目を剥いて訴える僕なのだけど、速度を落とす素振りすら見せてくれない。
「康介君にそんな大金なんて必要ありません。だからパーっと使い切っちゃいましょう」
……顔は微笑んでいるものの、目が全く笑っていない優奈に僕はどう制止をすれば良いのだろう。
全然妙案が浮かばない僕に諦めの感情が顔を上げかけた時。
「――あんた達がぶつかってきたんでしょ!!」
怯えの混じった金切り声が響き渡った。
「あら?」
「ん?」
その声に釣られて足を止める優奈と僕。
「今、何か聞こえなかった?」
優奈が首を傾げると同時に。
「もう良いです立華さん、悪いのは私ですから!」
切羽詰まった幼い口調が続く。
「どうやら響が何かの因縁を付けられたようだ」
大方アイスを誰かに付けてしまったのだろう。
「で、それに立華ちゃんが怒ったと」
「そういうことだな」
優奈の言葉に僕は首を振る。
「やれやれ、相変わらず響は忙しいな」
自らトラブルを起こすのに加えてトラブルを舞いこませる響に僕は苦笑した後。
「優奈、これ持ってて」
手に持ったコーラを優奈に渡す。
「私も行こうか?」
優奈がそう提案してきたので僕は顔をしかめながら断る。
「優奈が入るとややこしくなる」
何せ優奈は意図的に相手の神経を逆なで、場合によってはリアルファイトまで発展させてしまう。
戦わされる僕にとっては迷惑この上なかった。
「でも、立華ちゃんや響ちゃんを困らせた下衆には制裁が必要だとか思わない?」
「その気持ちは分かる」
響の不運は決して意図した結果でなく、悪気はないのだから相手は笑って許して欲しい。
「が、響が絡んでいる以上、常識的に考えてそれは難しい」
経験上、響は厄介かつ面倒な騒動ばかり拾ってきていた。
「あら? 魔法使いに常識という単語はあったの?」
「はいはい」
優奈のからかいに僕は気のないうろ返事を返すのだけど、優奈は微笑むだけで何も聞いてこない。
いや、一声だけ掛けたか。
「クレープを追加で食べて良いかしら?」
「好きにしろ」
優奈の催促に僕は手をヒラヒラと振って許可した。
「うわ……これは」
立華達の諍いは周りの注目を集めていたらしく、居場所がすぐに分かった。
まだ変な所に連れ去られていないことに安堵した僕だけど、立華達に因縁を付けてきた相手を見てうめき声を上げる。
立華と響に絡んでいるのは四人。
その四人のうち積極的に絡んでいるのは一人だけだったが、その一人の服装が問題だった。
「おいこら! どうすんねんこれは!」
金色の色のモヒカンに半袖の皮ジャン、果ては黒サングラスといったどこぞの世紀末覇者に登場する雑魚か? と突っ込みたくなるような様相だった。
他の三人は人相は悪いものの標準的な服装。
当然そいつ一人が周りから浮いている。
そして異物として認識されている奴だからこそ僕は警戒している。
「頼むから魔法使いであってくれるなよ」
周りと同調することを良しとしない彼等は魔法使いである可能性を十分に持っている。
そして奴に目を付けられると最悪死んでしまいかねないので、、野次馬達は仲裁に入ろうとせず遠巻きに眺めていた。
「だから響が後ろを向いていたのだから無理だって言っているでしょう!」
立華はクリームがべったりと付着したモヒカン男に対して毅然と言い放っている。
「ふざけんじゃねえ! それで済むと思ってんのか!?」
モヒカン男の恫喝に対し、立華はにらみ返しているものの打たれ弱い響はそうでないようだ。
「ううう……ごめんなさい」
頭を抱えて謝っている。
「これじゃあ拉致があかねえ……場所を変えるぞ」
「っ、何すんのよ!」
モヒカン男がそう呟いた後、立華の腕を掴む。
「決まってんじゃねえか! 話し合いだよ話し合い」
モヒカン男立華の抗議を受け流し、そのまま路地裏へと引きずり込もうとしていた。
「こら、お前もだよ」
三人の内一人が響も半ば強引に連れて行こうとする。
やれやれ……ここが限界か。
僕は一つため息を吐く。
これ以上の傍観は立華と響に深刻な障害が残る。
正直な話、モヒカン男が魔法使いの可能性があるので出来れば関わり合いたくないが、それ以上に二人に危害を及ぼされるわけにはいかなかった。
なので僕は。
「いでででででで!!」
「話は僕が聞こう」
立華を掴んでいるモヒカン男の腕を捻り上げた。
「康介さん!」
響が助かったとばかりに安堵の声を漏らして駆け寄ってくるが。
「それはまた今度でな」
僕はそんな響の頭を撫でて止めた。
「なんだてめえは! 名を名乗れ」
雑魚のそんな脅しに僕はそっけなく。
「名乗れる程大した奴じゃないさ」
そう答えておく。
「――っ」
突然乱入してきた僕に警戒しているせいか一歩引いて身構えるモヒカン男。
しかし、僕にとってはどうでも良かったので手早く事を済ませることにする。
「さて、このジャンバーが響が付けたアイスの後だな」
「あ!? おい!」
モヒカン男が呆気に取られるにも拘らず僕は問題の個所を撮み、そして念じた。
すると。
「さすがね、康介」
立華がそう漏らすほどアイスの染みは綺麗さっぱりと消えている。
「お前……魔法使いか?」
「さて、行こうか響、立華」
これ以上彼らに関わる必要はない。
だから用も済んだとばかりに僕は踵を返すが。
「待てって言ってんだよ!」
「何だ煩い」
肩を掴まれて強引に前を向かされた。
「僕はもう用がないのだけどな」
「お前はなくても俺があるんだよ! 俺の獲物を横取りしやがって!」
「何言ってんだあんた?」
一瞬言っている意味が分からず、首を傾げてしまう。
そんな僕に立華が口を寄せて。
「……あいつらは私達にちょっかいかけるのが目的だったの。そして、今のあんたを傍から見ればキザったらしい嫌な奴よ」
「『名乗れる程大した奴じゃないさ』一度で良いから言ってみたいセリフです」
「あらら……」
立華の呆れ声といつの間にか調子を取り戻した響の賞賛に僕はそんな間抜けな声を出してしまった。
「おい、てめえ! 俺が誰だか知ってんだろうな!」
モヒカン男が青筋を浮かび上がらせてそう叫んできたので僕は肩を竦めて。
「さあ? 興味無い」
嘘偽り無い感想を述べた。
「……康介、あんたって優奈並に敵を作るわね」
横で立華が顔面を抑えるのが確認できる。
失敬な。
僕は無意識に作り出しているんだ。
意図的な優奈と一緒にしないでほしい。
「ふざけんじゃねえぞこの野郎!」
僕の答えが気に入らなかったのか、モヒカン男は右手に持ったビー玉を投げ付けてきた。
「っ、あぶな」
モヒカン男の癇癪の様子から飛んでくる飛来物は限りなく危険な物体と判断する。
避けようかと一瞬考えたが僕のすぐ後ろに響がいることを思い出し、気合いを入れて受け止める。
ガンガンガンガン!
「ぐっ!」
ビー玉が僕の体に当たると同時に爆音が響く。
それはモヒカン男の魔力と僕の魔力が反発し合っているからであった。
モヒカン男が投げたビー玉の総数はおよそ八発。
そしてその内の一つは狙いが逸れて近くの壁に当たって。
「え?」
立華が魔を抜けた声を漏らしたのは、ビー玉の当たった場所に半径五メートルのクレーターが出来ていたからだった。
その際の破壊に衝撃音は出ていない。
無音のままサラサラと、まるで砂場で作った城の様に壁の一部分は細かい砂となった。
「うわわ……」
「大丈夫だ響、落ち着け」
その破壊力を目の当たりにした響が竦み上がったので僕は安心しろとばかりに響の頭を撫でる。
そして僕は厳しい視線をモヒカン男に向けた。
「お前……もし響や立華に当たればどうするつもりだったんだ?」
これだけの威力を誇る魔法だ。
掠るだけでも重大な後遺症を残すことは容易に想像できる。
僕は魔法使いのはしくれだった故に衣服の一部が砂になった程度で済んだが、もし響達なら腕の一本や二本は跡形もなくなっていただろう。
「なあに、そんときゃあそん時だ。実際に起こってから考えれば良い」
モヒカン男はこともなげにそう答えた。
「……お前は本当に魔法使いなんだな」
モヒカン男の回答に僕はサラに視線を鋭くさせる。
この後先考えず衝動的に行動する攻撃性。
現実乖離度がいくらなのか知らないが、高い値を示すことは確実であった。
「……」
まあ、そんな考察は横に置いておいて。
僕は粉砕されたコンクリートに手を突っ込み、その形状を砂から刀の形に変える。
これぐらいの事象改編なら僕にでも可能である。
「お? やるのか?」
「無事で済むと思っているのか?」
モヒカン男の挑発に対して僕は静かな声音で返す。
話し合いで解決する道もあった。
そして金銭を要求されようが応じる覚悟もあった。
しかし、だ。
二人に魔法を使った時点でその道は閉ざされた。
制裁は受けてもらう。
もちろん、二度と刃向かえないほど徹底的にな。
「「決闘だ」」
期せずして僕とモヒカン男は同じ言葉を発した。
今の日本――特に夢宮家が定めたルールの中にはユニークなものがある。
その内の一つが魔法使い同士の戦いである。
魔法使いが一般人に危害を加えると罰せられるが、同じ魔法使い同士なら闇討ちや一方的宣戦布告であろうと黙認される。
しかし、同じ魔法使いといえども彼らが戦い合えば周囲に甚大な被害を与えるのは確実。
よく一般人達はそのルールに異を唱えないなと疑問に思ったこともあるが、社会の常識を知るにつれて納得していった。
何故なら一般市民からすれば魔法使いなんてヤクザと同レベルという認識。
ゆえに忌み嫌う彼らが殺し合うのは問題なく、自分達に危害を加えないのであれば何をしても大抵許されていた。
「へへ、久しぶりだぜこの感触」
モヒカン男はニヤリと唇を捲れ上がらせる。
ストリート街の中央で相対した僕とモヒカン男を野次馬達が遠巻きに囲んでいる。
このレベルの街になると魔法使い同士の決闘などさほど珍しいことではないのだろう。
一般人達は特に騒ぎもせず円を作って場を形成した。
「この殺伐とした空気。夢宮学園を思い起こされるな」
「ああ、あの地獄か」
右手に先程生成した鉄の刀を持っている僕は片眉を上げる。
僕にとって夢宮学園は黒歴史そのもの。
関わり合うことはおろか、思い出したくもない。
「心というのは分からんものだぜ。以前はあれほど辞めたかったのに、いざ辞めると無性に恋しくなりやがった」
そんな僕の心境など知ってか知らずかモヒカン男は喜悦の笑みを浮かべる。
「その気持ちは理解できそうにない」
僕はあの地獄に戻りたくない。
あの学園に通っていたこと自体消し去りたい過去だ。
「カハハ、残念だ、ぜ!」
言葉を発すると同時にモヒカン男はビー玉を投げ付けてきた。
「食らうと思うのか?」
奴の魔法は威力こそ恐ろしいが、残念ながら距離が空いている。
剣道を通して動体視力が鍛えられていた僕は鼻歌を歌いながら交わすことが出来た。
が。
「なっ!」
避けたと思ったはずのビー玉はホーミングを描き、僕の体にヒットする。
先程より威力が高かったことに加え、意表を突かれる形になってしまったので僕の体は大砲の直撃を受けたかの様なダメージを受けてしまった。
「へえ、それを耐えるか」
まあ、確かに痛かったが致命傷というほどでもない。
喉からせり上がってきた血反吐を吐きだして気道を確保した。
「誘導効果に加えてこの威力……二年クラスか?」
「ああ、その通りだ」
僕の推測にモヒカン男は肯定を示す。
「三年前、俺は夢宮学園の三年進級試験に合格できず、学園を去った」
「なるほど……」
一年で魔法の基礎を学ぶのだとすれば二年は基礎を応用して実践を想定する魔法を学ぶ。
今の魔法も小隊程度の戦力であれば十分対応できるな。
「ん? ビビったのか?」
「まさか」
内心の気持ちを見透かしたのかモヒカン男はそう聞いてくる。
まあ、半分ほど当たっていたがわざわざ弱みを見せる必要などどこにもあるまい。
だから僕は唇の端を吊り上げる。
「ほう、その態度は気にいった……どんどん行くぜ!」
モヒカン男はニヤリと笑うとビー玉を構えて投げつける。
「っち!」
避けたい僕だが、投げられたビー玉の中に先程のホーミング弾の危険性がある以上、刀が破壊されないよう魔力を込めて打ち払うしかない。
刀に魔力を込めて振るう動作は普段より力を消費するため、一つ叩き落とすごとにどんどん流れが不味い方向に傾いていっているのが感じ取れた。
そしてモヒカン男は僕から一定の距離を取っている。
恐らく彼は僕が遠距離攻撃をしないと踏んでいるのだろう。
魔法の基礎しか学べなかった己の力の無さが恨めしい。
二年生レベルならカマイタチや地走りといった遠距離の魔法を使えるのに。
「おらおら! もう降参か!」
と、僕がそう己の不利を実感している間にもモヒカン男の攻撃は続く。
劣勢の僕だけど、劣勢なら劣勢なりの戦い方がある。
伊達に夢宮学園で群れずに一年間を過ごしてきたわけじゃないぞ。
なら、どうするか。
答えは簡単。
モヒカン男が攻撃モーションに入った瞬間を見極めて。
「っ、うおわ!?」
足に魔力を集中して爆発させ、一気に距離を詰めること。
魔法に興味の無かった僕だけど、生存本能は人一倍高かったらしい。
夢宮学園内で殺されそうになっても、何とかこの脚力で間一髪窮地を脱出していた。
「これぐらいの至近距離ならばビー玉を使えにくいな」
「ぬかせ! 俺の魔法は最強だ」
三歩ほどの距離にまで詰め寄った僕がそう語りかけると、モヒカン男は青筋を浮かべて否定する。
「ああ、そうですかい」
何とか距離を取ろうと重心を後ろに下げた瞬間を狙って僕は刀を振りまわす。
「最強なら他人に迷惑をかけるな」
クリーンヒットとばかりにモヒカン男の胴に入った。
もちろんモヒカン男は胴着なんて着けていない。
刀の感触からろっ骨を何本かいったな。
「さて、どうする?」
僕はあえて元の位置に戻ってモヒカン男に問う。
「続けられるのなら続けても良いけど……もう無理だろ?」
「げほ……がはっ!」
僕が続行不可能だと判断したのは、モヒカン男の口から尋常でない血が吹き出ていたこと。
おそらく折れた肋骨が肺に突き刺さったな。
このまま放置しておくと命が危ない。
「くそっ……俺は、俺は夢宮学園で二年間過ごしたんだ!」
モヒカン男が吠える」
「一年でドロップアウトした敗北者に負けるはずがねえんだ!」
敗北してしまったことは自身が最も熟知しているのだろう。
底知れぬ憎悪の視線を僕に向けてくる。
そんなモヒカン男に向かって僕は一言。
「お前が負けた理由はただ一つ。それは彼女達に手を出したことだ」
何度も言うが、もし立華と響に魔法を使わなければこんな結果にならなかった。
魔法使い同士の決闘――それも合意の上で行った戦闘においては負けた方が周囲に与えた被害を弁償する。
モヒカン男の魔法はずいぶんと派手に破壊したからな。
これらを修復するのにはさぞかし値段が高い高名な魔法使いが呼ばれるだろう。
加えて己の体の治癒。
魔法使いは保険がきかない以上、どう低く見積もっても百万以上はかかる。
しばらくは奴はその賠償金の支払いに追われそうだな。
「さて……三人の元に戻るか」
立華と響は優奈と合流したらしい。
野次馬の一角に三月娘らしい人影に向かって僕は歩を進めた。




