日本いんちき昔話 桃太郎(仮)
この桃太郎は、色々と桃太郎として間違っています。
おはなしの各所も、昔話としておかしいです。
完全に遊んで書いています。
そんなおはなしでも笑って読んで下さる方、大・歓・迎!です。
日本いんちき昔話 桃太郎(仮)
昔々ある所に、おじいさんとおばあさん(B)がおりました。
二人は大変仲睦まじく、楽しく暮らしています。
ある日のこと、いつものようにおばあさん(B)は山へ芝刈りに、おじいさんは川へ洗濯
に向かいました。
この家は、おばあさん(B)が働いておじいさんが家事をするかかぁ天下だったのです。
おじいさんが川で洗濯機を動かしていると、すぐ側で激流を大きな桃が物凄く速く下っ
ていきました。
そしてイカダに乗って激流下りする狸も現れました。
狸は盛んに「俺はやるぜ 俺はやるぜ!」と叫んでいます。
そして自分のすぐ目の前を下っていく桃に目を光らせました。
彼は、例えそれが桃であろうと、自分の前を走っていく者は何人たりとも許せなかったの
です。狸は桃と激流下りレースをしようとしました。
そんな狸の暑苦しい姿を大変見苦しく思ったおじいさんは、洗濯中の自分のパンツを狸に
投げつけました。
すぱんっ
たいへん良い音がしました。
顔面に洗剤まみれで、しかも濡れているパンツをくらった狸は激流に投げ出されました。
何とか一命を取り留めましたが、イカダに這い上がれなければ死んでいるところです。
狸はパンツを投げつけたおじいさんへ対しての敗北したと思いました。
そして流れていく桃を掴むと、敗北の証としておじいさんに献上したのです。
成り行きで桃をもらってしまったおじいさんは、桃を持って家に帰りました。
そしておばあさん(B)の帰りを待ちます。
もしもおばあさん(B)の帰りを待たずに桃を食べてしまえば、おばあさん(B)にどのよ
うな目に遭わされるかわかりません。
そして二人で桃を食べるため、おじいさんは包丁を握りました。
おばあさん(B)の前で、包丁を構えて桃を一刀両断真っ二つに!
~桃太郎・完~
…ここで、本当ならば桃は綺麗な断面で二つに割れるはずでした。
しかし何かに引っかかったのか包丁が桃の中程で止まっています。
おじいさんはいぶかしみました。
こんな桃、主夫歴94年のおじいさんの手にかかれば豆腐も同じはずだからです。
そして桃の果肉を取り除いてみると…
なんと、玉のような男の赤子が、おじいさんの包丁を真剣白刃取りで止めているではあり
ませんか! おじいさんとおばあさん(B)は、心臓が止まりそうなほど驚きました。
その後、子供のいなかったおじいさんとおばあさん(B)は、この子供を自分たちの子供と
して育てることにしました。
安直ですが、名前は桃から生まれたので桃太郎です。
こうしておじいさんの家は、三人家族になったのでした。
桃太郎はすくすくと、大きく強く元気に育っていきます。
ご飯を一回食べればその分だけ、二回食べればその倍も、大きく強く元気に育ちます。
そして桃太郎は、非常識なほどに強く元気に育ったのでした。
流石に桃の子、人間じゃない。
その頃鬼ヶ島では、オニとオニとカニが暴れ回っておりました。
桃太郎が十二歳になった頃です。
鬼ヶ島で暴れ回る鬼と、鬼と、蟹の噂は遠く都まで響き、桃太郎の村までも届きました。
困った皆が、さもこれ見よがしに桃太郎の前で囁きあいます。
「こまったなぁ」
「誰か退治してくれないかなぁ」
「誰か行ってくれれば良いのになぁ~」
暗に桃太郎に行けと言っています。
桃太郎は元々よそ者ですから、村の皆にしてみればいてもいなくても別に構わない、都合
の良い存在だったのです。
桃太郎は暫くずっと村人の呟きを放置していましたが。段々面倒になってきました。
そう、桃太郎は分かっていたのです。
ここで行かなくても、この後ずっと、自分がこれ見よがしに村人に懇願され続けることを。
別に放置を続けても良いとは思いました。
ですが、なんとなく想像しただけでうんざりしたので、桃太郎は結局旅立つことにしまし
た。彼は湿っぽいのも、鬱陶しいのも台所に出没する害虫並みに嫌いだったのです。
面倒で行きたくないのが本音でしたが、桃太郎は仕方なしに言います。
「おじいさん、おばあさん(C)、僕は鬼ヶ島へ行くよ!」
「そんな、桃太郎!」
「お止しよ、死んでしまうよ!」
おじいさんとおばあさん(C)は息子を止めようと、考えを変えるように何度も言いました。
しかし桃太郎の決意は固く、二人は止められませんでした。
桃太郎は今ここで止めても、村人達が暗に行けとしつこく言うことが解っていたのです。
おじいさんとおばあさん(C)は、可愛い我が子のためにせめてもの贈り物を用意しました。
おじいさんは重い鎧甲一式と、抜いた途端に人が斬りたくて堪らなくなるという妖刀を贈
りました。おじいさんには、刀を見る目がなかったのです。
おばあさん(C)は邪魔なほど大量の吉備団子を作りました。
おばあさん(C)が作れる食べ物は、吉備団子だけだったのです。
桃太郎は鎧甲を着込み、腰には妖刀、背中には大量の吉備団子という姿で旅立ちました。
どう見ても、不審人物でした。
暫く行くと、桃太郎は道端で犬に出会いました。
酒瓶を抱えた姿で、すっかり泥酔しています。
ここのところ連日続く犬たちの宴会で、この犬は隠し芸の人体切断マジックを披露した帰
りでした。すっかり酔っぱらい、頭痛を患っています。
犬は通りすがりの桃太郎に懇願しました。
「どうぞ御願いです・・・どうか、水を一杯・・・」
桃太郎は、バケツ一杯の水を犬にぶっかけました。
すっかり酔いの覚めた犬は、空腹を憶えて桃太郎に言いました。
「何か食べ物を恵んでください」
桃太郎は丁度邪魔に思っていた背中の吉備団子を、残らず全て犬の口の中に無理矢理詰め
込みました。犬は窒息寸前。詰め込まれた団子に、口を閉じることすらできません。
そして、桃太郎が言います。
「水と食べ物を恵んでくれて、有難うございます桃太郎様と言ってごらん」
何とか団子を飲み下し、満腹になった犬は、たちまちそれまでの態度を翻して言います。
「けっ 誰が言うかよ、ばーか ばーか!」
欲求を満たした途端に偉そうな犬を、桃太郎は蹴り転がしました。
「キャウンッ」
桃太郎の密かな威力を秘めた蹴りをくらい、犬は腹を桃太郎に見せて服従の合図をします。
その姿がたいへん見苦しかったので、桃太郎は妖刀を抜きました。
そして犬に突きつけます。
「今ここで三枚に下ろされるのと、僕の下僕になって鬼退治に行くのと、どちらが良い?」
「是非鬼ヶ島までお供させて頂きます。犬とお呼びください」
犬はすかさず土下座して、プライドも何も捨て去りました。
こうして、犬が仲間になったのです。
桃太郎と犬が少し歩いていくと、今度は猿に会いました。
何故か縄でぐるぐる巻きに縛られ、木から逆さに吊されています。
猿は近隣の村でさんざん悪事(詐欺とか、強盗とか)を働いたために懲らしめられ、反省を
促すために逆さ吊りにされていたのです。
桃太郎の姿を見た猿は、同情を誘う声で頼みます。
「ああっ 御願いです通りすがりの御方! どうかわたくしめをこの忌まわしい拘束から解き
放ち、自由をお与え下さい!」
桃太郎は非常食として猿を連れて行くことにしました。
鬼ヶ島を目指して歩む桃太郎が、最後に出会ったのは雉でした。
自分のことを鳶だと信じる、哀れな雉でした。
彼は雛の頃から鳶に育てられ、自分のことを鳶だと信じ込んでしまったのです。
そして勇ましく育った雉は現在、巣を飛び出して武者修行の真っ最中でした。
桃太郎は雉に言います。
「お前、キジじゃん」
「違うっ 俺は鳶だ! トンビなんだぁぁぁ!!!」
雉も本当は、心の奥底で自分が雉であることを知っているのです。
しかしそのことを認めたくないと、信じたくないとの思いから尚一層、頑ななまでに自分
のことを鳶だと言い張ってしまうのです。
もしも自分が雉なのだと認めてしまえば、彼は再起不能に陥るでしょう。全てにおいて自
信というものを失ってしまうでしょう。雉は危ういバランスの上で保たれている自分の心を、
その脆い精神を守るために、神経質に自分を鳶だと言い張るのです。
可哀想な雉は、桃太郎が鬼退治に行くことを知ると進んでついて行くことを志願しました。
武者修行が目的の雉には、鬼退治はとても魅力的だったのです。
桃太郎はこの勇ましくも可哀想な雉を仲間にすることにしました。
一行が進むと、やがて海に出ました。
鬼ヶ島が島である限り、それは当然のことです。
海岸には、泥船が一隻あるだけでした。
大雑把で考えなしとしか思えませんが、一行はその泥船に乗り込んで海に乗り出します。
自殺行為です。
案の定泥船は、ある程度行くと浸水してきました。
完全に沈むのも時間の問題です。
桃太郎は言いました。
「おい、キジ!」
「トンビだっ!」
「じゃあトンビ、お前、僕たちを乗せて鬼ヶ島まで飛べ! 行け、根性見せてやれ。今こそト
ンビの実力を知らしめる時だ!」
桃太郎に上手い具合に乗せられて、雉は大空へ羽ばたきました。
背中に鎧武者の桃太郎、足には臆病者の犬、口には卑怯者の猿をくわえ、根性で飛びます。
明らかに重量オーバーでした。
これこそまさに、自殺行為です。
行き当たりばったりにも程があります。
誰もが予想したとおり、雉は途中で墜落しかけました。
しかし海面が近づくと、桃太郎は妖刀を雉の首に突きつけて、ボソッと低い声で囁きます。
「海に落ちる前に今ここで首を飛ばされるか、それとも自分で空を跳び続けるか…
どちらでも、好きな方を選べ。選択次第では、僕が苦痛にまみれる終わりを与えてやろう」
選択の余地はありませんでした。
桃太郎は介錯したくてたまらないと言わんばかりに、妖しく笑います。
雉は飛びました。飛んで、飛んで、跳び続けました。
そして海に墜落しかける度に、桃太郎に脅されました。
こうして地獄一歩手前の空中散歩は何とか続き…
奇跡としか思えませんが、一行は何とか鬼ヶ島に辿り着いたのです。
鬼ヶ島では青鬼と赤鬼と一匹だけ黒鬼と、そして蟹が暴れておりました。
蟹は全長三㍍もあるスベスベマンジュウガニ。どう考えても突然変異の化け物です。
その凄まじい姿を見て、桃太郎達はひっそりと隠れながら会議を開きます。
議題は、「いかにして鬼を退治するか」という、今更過ぎるものです。
「へっへっへ・・・夜討ちにしちまおうぜ、旦那ぁ・・・」
卑怯者の猿が言います。
猿も、桃太郎に食われないために役立とうと必死です。
猿の意見に、臆病者の犬も賛成しました。
「奇襲にしましょう、桃太郎様。夜陰にまぎれて寝込みを襲えば、鬼だってイチコロですよ!」
猿が食われたら、次は犬の番だと皆が悟っていました。
その前に、役立たずは殺されてしまいそうです。
ただ一人勇敢で、卑劣な手を嫌う雉のみが言いました。
「そんな奇襲だなんて卑怯な! 正面から正々堂々と行こう! 俺があいつらの目玉をえぐり
出してやる! 見事、この鬼ヶ島を鬼の血で染めてみせましょう」
これで自分のことを鳶だと思いこんでさえいなければ、立派です。
そんな獣たちの意見の最後に、桃太郎は言いました。
「それよりも、あそこにある井戸へこの毒を・・・」
桃太郎の手には、どこからともなく取りだしたあからさまに怪しい薬瓶が乗っていました。
☠マークが付いているところがまた、あからさますぎます。
彼は一体、どこでこんな物を手に入れたのでしょう。
誰もそんな恐ろしすぎることを追求しませんでした。
そして民主主義にのっとり、今後の方針が決まったのです。
その夜、井戸に毒が垂らされました。
井戸に混入された毒のため、鬼達は次第に弱っていきました。
スベスベマンジュウガニだけは、井戸を使わないので平気でした。
桃太郎達は鬼ヶ島に潜み、鬼達が弱り切ったところで、一人ずつ容赦なく討ち果たしました。
こうして桃太郎達は、鬼ヶ島を占領したのです。
しかし、鬼の首領だけは今鬼ヶ島にいませんでした。
首領は、世界全国津々浦々温泉巡りの旅に出て留守だったのです。
桃太郎達は、鬼の首領が帰ってくるのを待つことにしました。
蟹という敵もいたのですが、桃太郎達はあえて見えないふりをしました。
あまりに巨大な敵であったために、後回しにしたのです。
鬼の首領が帰ってきたのは、結局三ヶ月後でした。
桃太郎達は、精一杯の笑顔と歓迎の用意を持って出迎えました。
「お帰りなさい!」
無理もないことですが、鬼の首領は混乱しました。
手下である鬼達は一人たりとも見あたらず、見も知らぬガキと犬・猿・雉が笑顔で出迎え
てきたのですから。
でもそれは、首領を油断(?)させる桃太郎達の作戦でした。
「そりゃぁぁぁ! 今だ、みんな殺っちまえ!」
困惑している首領に対し、猿が叫んで飛びかかりました。
犬と雉も、遅れずに飛びかかります。
犬と猿と雉とはいえ、一度に三匹の獣が飛びかかってきたのです。
今ここでしくじれば、桃太郎の折檻が待っています。
場合によっては、桃太郎の手によって血祭りが開催されるでしょう。
それを十分理解しているので、三匹は死に物狂いで鬼に襲いかかります。
野生の力はとうに失われていたのでしょうが、彼等も必死でした。
鬼の首領は強かった。
油断して、困惑して、思い切り隙があったのにもかかわらず、首領は負けなかった。
次第に押されていく、犬・猿・雉。
そんな鬼の首領の背後に、ひっそりと忍び寄る影が。
桃太郎です。
桃太郎は、己の下僕達に首領が気をとられているうちに背後へ忍び寄り…
そして妖刀で一刀のもと、ばっさりと真っ二つに鬼の首領を切り捨ててしまったのです。
あまりにもあんまりな、正義の味方とはとても言えない勝利でした。
しかし何にせよ、こうして鬼は滅びました。全滅しました。桃太郎達の勝利です。
犬や猿は鬼の首領を見て、明日は我が身と思いもしましたが、今は勝利に酔いしれます。
でも桃太郎達の仕事が、終わったわけではありませんでした。
鬼よりも手強そうな敵…全長三㍍の団体様、スベスベマンジュウガニ達が残っています。
桃太郎達は、蟹が横にしか進めない特性を利用して正面から攻撃することにしました。
万が一にも自分達に危険のないよう、離れた所から。
用意されたのは、五つの大砲。
少し離れた所から、桃太郎達はそれで蟹たちを狙った。
情けの欠片さえもなく、発射された弾は蟹を貫通しました。
貫通した玉は一匹目の背後にいた二匹目の腹に当たりました。
二匹目は衝撃で、三匹目にぶつかりました。
四匹目までは、攻撃も届きませんでした。
そして三匹とも、死にませんでした。
スベスベマンジュウガニは意外に強敵です。手強すぎました。
もはや蟹じゃありません。化け物です。
そこで桃太郎達は戦略的に一時撤退し、再度計画を練るのです。
用意された物は、穴。
全長一八メートルの大きい落とし穴を、犬と猿が掘りました。
桃太郎と雉は、材料を集めに行きました。
そして蟹に対して再挑戦です。
桃太郎達は大砲で、蟹を追い立てました。
死なないとはいえ、やはり痛いものは痛いらしくて、蟹は逃げていきます。
逃げなかったら話が進みません。
そして犬と猿の努力の結晶、落とし穴へ追い立てられた蟹たちは真っ逆さま。
思わず大量と言いたくなるくらいに落ちていきます。
そこへすかさず、桃太郎と雉が集めてきた土砂とコンクリートとコールタールを流し込み
ます。生き埋めです。
これには蟹達も堪りません。生きていようがありません。
こんな正義の味方、堪ったものではありません。
というか、正義じゃありません。もはや悪です。極悪です。
とりあえず勝利をとても卑怯な手で掴み取り、桃太郎は完全に鬼ヶ島を占領しました。
端から見たら強盗以外の何者でもありません。
今まで強奪された金銀財宝の全てを、桃太郎達は持ち帰ります。
鬼ヶ島には何故か宝船が有り、それに乗って帰るのです。
乾物と化した七福神らしきものが転がっていた様な気もいたしますが…
桃太郎達は、謎の乾物を桃太郎達は見なかったことにしました。
こうして、桃太郎一行は人々の英雄となったのです。
真実を知らないことは恐ろしい…。
桃太郎達がどうやって鬼退治を成したのか、誰一人として知りもしませんでした…。
そのほうが幸せです。たぶん。
その後
桃太郎は持ち帰った財宝で大金持ちになりました。
見事鬼を退治した桃太郎を、おじいさんやおばあさん(E)も褒め称えます。
誇りに思って涙ぐみます。
「ようやった、ようやった。流石桃太郎、真に日本一の息子じゃ!」
「本当にねぇ、おじいさん! 私たちも苦労して桃太郎を育てたかいがありましたよ!
本当に桃太郎は何て素晴らしいのかしら!」
何かがおかしい気もしましたが感動の場面に誰も口を挟みません。
桃太郎も久しぶりに会う親に対して子供らしいところを見せます。
「おじいさん、僕、晩御飯は松阪牛のステーキがいいな」
「わかった。桃太郎が鬼を退治して帰ったんじゃ、今夜は御馳走にしよう!
…だから、鯛の尾頭付きで我慢してくれんか…?」
「やだね。僕は一歩も引かないよ…」
「ははは…っ 桃太郎は強気じゃなぁ。専業主夫の苦しみも、少しは理解してくれんかのう…」
「本当に僕の帰還を目出度いと思うなら、牛にしようよ。育ち盛りなんだよ、僕。
それに鯛って言ってもどうせ、安物なんだろう…?」
「桃太郎も成長したものじゃなぁ…騙されてくれんか?」
「子供の健やかな成長を願うなら、牛が栄養満点だと思うよ?」
ありそうでなさそうな親子の会話です。
久しぶりに会う親子の会話がこれで、良いのでしょうか。
家に帰った時、仏壇に自分の遺影が飾られていたことを、桃太郎は根に持っていました。
その後、彼の財産(鬼ヶ島からの略奪品)と英雄の栄誉に目をつけた城主が、桃太郎を自分
の娘婿に迎えます。
富と名声と権力を手に入れた桃太郎。無敵です。向かうところ敵無しです。
質が悪すぎるとしか言い様がありませんが、彼に逆らえる者は完全にいなくなりました。
彼は城を継いだ後、激しく税金の取り立てを行いました。
搾り取れるだけ絞り尽くしました。
生かさず殺さず領地を上手く治め、結果的に誰もが驚くほどに発展させます。
税金の取り立ては激しかったものの、人々の生活は潤いました。
人々は桃太郎のことをこう言いました。
良いのか悪いのか、全くよく解らない人だ…! と。
きっと悪気はないけど、悪意はある類の悪い人だと思われます。
さて、三匹のお供のうち犬は、なかなか美犬の嫁さんをもらいました。
ちなみに血統書付きのお嬢様です。
しかし生まれてくる子供は所詮雑種。
いくら嫁さんが素敵でも、夫の方は元野良犬です。
犬は終生桃太郎の下僕として仕え、その子供達も桃太郎の配下として暗躍したそうです。
猿は鬼ヶ島から奪い取ってきた財宝の分け前が結構な金額だったのを良いことに、博打に
走りました。賭けて賭けて、賭けまくりました。
そしてあっという間にスッカラカンの一文無し。
彼は超一流のギャンブラーになると大言壮語し、修行の旅に山奥へと消えました。
それ以来、彼の姿を見た者は一人もいません。
さてさて、自分を鳶だと思いこんでいる可哀想な雉ですが、彼は鳶の嫁さんを貰いました。
そして何の奇跡か子供が生まれました。
鳶と雉の混血児の誕生です。
子供は成長すると、悩みに悩みました。
自分は一体、鳶なのか雉なのかと…。
自分という存在を見失い、思い悩む彼は父に言いました。
「お父さん、雉じゃないか…!」
そして父に殴られました。
「何、馬鹿なことを言うんだ…!? 父さんはどこからどう見ても、立派な鳶じゃないか。
見ろ、この鮮やかな色彩を! 目に素晴らしい翼の色合いを…!」
雉です。
どこからどう見ても、雉です。
成長した息子は結局、鳶の嫁さんと雉の嫁さんと両方もらいました。
そしてその子供達は、更に思い悩むことになるのです。
自分たちが雉なのか、鳶なのかと…。
元凶は、一羽の雉だ。
さてさて、このように非道な桃太郎一行。
しかし彼らの真実は誰も知らない。
どのようにして鬼を退治したのか、どのように蟹を退治したのか。
それは桃太郎達にしか、鬼ヶ島のその場にいた者にしか解らないのです。
桃太郎と犬、猿、雉の一行は、終生英雄として褒め称えられ、人々の尊敬を集めました。
そして真実を知らない者達によって美化され、伝説となった彼らは…その死後も数多くの
人々に英雄と讃えられ続けたのです。
おしまい。
笑って許して下さい。