俺が正義
俺の名前は、蓑部 泰蔵。
まあ、名前なんてどうでもいい。
君に聞きたい。
何をした?
浮気。
詐欺。
ひったくり。
強盗。
……いいね。
思わず、笑う。
その言葉には“重み”がある。
人を裏切った音。
人から奪った音。
ちゃんと、“悪いことをした音”がする。
分かりやすい。
だから好きだ。
安心しろ。
弱いやつは襲わない。
泣いてるやつからは盗らない。
趣味じゃない。
甘い蜜を吸ってきたやつ。
誰かの上で笑ってきたやつ。
そういうやつだけを——
「裁く」
……ああ、勘違いするなよ。
俺は泥棒だ。
ただの泥棒。
だけどな。
悪を裁くのは、悪じゃない。
悪の反対は正義だ。
だったら俺は——
「正しい側」だろ?
少し考えて、頷く。
うん。
間違ってない。
今までだってそうだった。
裁いたやつは皆、同じ顔をする。
最初は喚く。
命乞いもする。
でもな。
最後には、静かになる。
ああ、そういうことか。
そんな顔だ。
……今のお前みたいに。
いい目だ。
分かってきたな。
さて、と。
そろそろ行くか。
衛兵が来る。
面倒だ。
強いし、数もいる。
……いや、勝てないわけじゃない。
ただな。
「あいつらは正義だ」
だから殺さない。
正義を殺すのは、正しくない。
線引きってやつだ。
俺は、間違えない。
これまでも。
これからも。
大丈夫だ。
すぐ終わる。
「正しいこと」だからな。
――――――――――
その後、現場を見た者は口を揃えた。
ひどい、と。
ある者は吐き、
ある者は叫び、
ある者は目を逸らした。
そこにあったのは、死体だった。
だが、それは“人”とは呼べなかった。
歯は抜かれ、
髪は引き剥がされ、
肉は切り刻まれ、
どこにも“形”が残っていない。
まるで——
「罪を削ぎ落とした」かのように。
その夜。
蓑部 泰蔵は、いつも通り眠りについた。
「今日も、正しかった」
疑いもなく。
読んでいただきありがとうございます。
さて。
あなたは、どこまでが“悪”だと思いますか?




