第9話 きび団子を探すぞ!
この世界に来てから、いや、あの黒いローブの変態に呪いをかけられてから、色んな人に優しくされるようになった。
正直、女の人はまだ苦手だ。
言葉遣いの悪い人とか、ジェシカみたいに笑顔で恐ろしいことを言う人もいるけれど、皆なんだかんだ良い人達だ。
女の人への恐怖心を克服できれば、この世界でも上手くやっていけるのかもしれない。
うーん……
恐怖の脳科学的プロセスでは、まず目や耳などの感覚器官が危険な情報(僕の場合は女の人)を察知する。
そして、大脳皮質(論理的な判断をする部分)を経由せず、直接扁桃体に情報が届くため、瞬時に反応。つまり、「ヤバい!」と直感的に恐怖を感じる。
身体の防御反応として、自律神経系(交感神経)が活性化し、心拍数や血圧が上昇する。びっくりして心臓がバクバクするってやつだ。
恐怖を克服するには、大脳皮質を使うこと。つまり、「これは本当に危険か?」と論理的に考えると良い。
あるいは、慣れの効果だ。そう、ひたすら怖いことを繰り返し体験して慣れていくのだ。
大脳皮質を使いつつ、毎日女の人とお喋りすることを繰り返せば、僕もこの恐怖を克服できるのだろうか?
恐怖を克服して、少しずつ味方を増やして、いつかあの変態を見つけて、ヤッつけて……
ああ。そうか。僕は桃太郎になればいいんだ。
僕が魔法を使えなくても、きっと大丈夫。
うん。
魔法道具屋さんに行って探さないと。美味しいきび団子。
「おい、テメェ!」
え?
なんかすっごい怒ってる男の子に声をかけられた。
チャラい系男子だろうか。また僕の苦手なタイプだ。
「な、なんでしょうか?」
「テメェ、いったい何考えてんだ!?」
ハッ!
まさか魔法で僕の心を読んで……!?
僕の完璧な桃太郎作戦がバレてしまったのか……!?
始まったばかりの僕の物語第二章はこれまでなのか――!?
「き、き、きび団子は、あ、あき、諦めます……」
「はあ!? きび団子!? ふざけてんのか!?」
…………あれ?
……違った?
「色んな女の子に声かけられて、キャーキャー言われて、イケメン美男子でもないくせに何なんだお前!?」
……嫉妬ってやつか――!
「いや、それは、僕も悩んでます」
「はあ!? 悩んでる!? ふざけんなよ――!?」
「ケンくん、何してるの? 大丈夫?」
チャラ男がキレてたら、ジェシカがやってきた。
ナイスタイミングだ。
よしっ
こうなったら……
「ジェシカちゃん、大丈夫だよ。こちらの超絶イケメン紳士の男の子がジェシカちゃんと友達になりたいって」
「あら。はじめまして、私はジェシカです。あなたは?」
「えっ、えっと、あ、俺はジャック」
「ジャックくんですね! ケンくんが紳士っ呼ぶなんて、とってもお優しい方なんですね!」
「えっ、ええ、ああ、まあね! あはは!」
フフフッ。こんなに可愛い見た目の女の子に紳士なんて言われたら、落ち着くしかないだろう。単純なチャラ男め。
「あ、私はそろそろ行かなきゃ。またあとでね!」
そう言って、ジェシカは去っていき、またチャラ男のジャックと二人きりになってしまった。
「あの、実は、僕には呪いがかけられていて、あと一年も生きられないんです。その代わりになぜかモテるようになったみたいで……」
「はあ!? そんな呪いがあったら俺もかかりたいわ!」
ああ。また怒らせてしまった……
ハッ!
そうだ!
「ジャックくん、これをあげるから落ち着いて」
「これは?」
「僕が作った特製コーラだよ」
「コーラって何だ?」
「水と砂糖とレモン果汁とライム果汁とバニラエッセンスとシナモンとナツメグとコリアンダーシードとカルダモンとクローブとブラックペッパーと炭酸水を混ぜて作った飲み物だよ」
「何の魔法薬だ?」
「いや、僕の世界の飲み物だよ。美味しいから飲んでみて」
ジャックは恐る恐る僕の特製コーラを飲んでくれた。
「おお! すっげー! これめっちゃ美味いじゃん! こんな魔法薬始めて飲んだぜ!」
「いや、だから、魔法薬じゃなくて――」
「ありがとな! 今度お礼に飯でも奢るわ! じゃあ、またなー」
ジャックはそのままどこかへ行ってしまった。
けれど……
フフフッ
僕の特製コーラで仲間一人目のライオンをゲットだ!
他にもきび団子の役割を果たしそうなモノを探さねば!
僕の桃太郎作戦の……幕開けだ!