第5話 僕の物語は終了だ!
そもそもこの世界はどこに存在するのだろうか?
僕の大好きなスティーブン・ホーキング博士。彼の宇宙論の中でマルチバース理論では、僕たちの宇宙だけでなく、異なる法則や条件を持つ多数の宇宙が存在する可能性を示唆している……
僕は別の宇宙に来てしまったのだろうか?
「ねえ、聞いてる? もうすぐ実技試験が始まるよ! ちゃんと試験官の話聞いてた?」
今僕の隣に立っているちょっと頼りなさそうな彼。彼の名はアレックス。
実技試験は、四人一組のグループで行うらしく、僕は彼と同じグループになった。ジェシカも同じチームで、もう一人はマシューという暑苦しい感じの男の子だ。
「ごめん。考え事してて、試験官の説明聞いてなかったや」
「もう、ダメじゃないか! 実技試験はチーム戦! 各チームに配られた風船を守ること、逆に他のチームの風船は割らないといけないからね!」
「この赤色の四つの風船が、僕達が守る風船?」
「そうだよ! ジェシカちゃんとマシューくんが攻撃、ケンくんと僕が守備ね!」
「なるほど。ちなみにこの風船、持ったまま走って逃げるとかでもいいの?」
「いいんじゃないかな?」
風船は紐に繋がっているわけでもないのに、僕とアレックスの横で静止して宙に浮いている。
いざとなったら、風船を持ったまま猛ダッシュで逃げよう。うん、僕は陸上部。足は速い。
「あ、そうだ――」
「では、実技試験、開始!」
ああ。アレックスに聞きたいことがあったのに、試験が始まってしまった。
パンッ!
「ケンくん、何やってんの!? ちゃんと防御魔法使ってよ! 既に風船一つ割れちゃったじゃないか!」
「あ、うん。その前に――」
パンッ!
「ケン! お前やる気あんのかあああああ!」
遠くから、マシューもこちらを睨みつけながら叫んでいる。開始3秒で風船が二つ割れてしまった。
アレックスは一人で残りの風船二つを必死に守っている。
「あのさ、アレックスくん」
「何!? 今すごく忙しいんだけど!」
「何でもいいから呪文おしえてくれないかな?」
「どういうこと!?」
「いや、なんでもいいからさ。基礎的なやつでいいよ」
「基礎的な呪文……!?」
「うん。先週知らないお姉さんに買ってもらった初心者用の杖なら持ってるから、呪文おしえて」
「ちょっとまって! 初心者って……! 魔法使ったこと無いとかじゃないよね!?」
「へ? 使ったこと無いよ」
「そんなんで編入試験なんか受けるなああああ!」
ちょっと頼りなさそうで、気の弱そうなアレックスが怒ってる。けれど、僕には試験対策の時間が一週間しかなかったし、「魔法力」を理解するのに必死だったのだから仕方がない。
「じゃあ、光の防御魔法とか、基礎的なやつだと『ルミナ・スクートゥム』だよ! 誰にでも使える簡単な魔法!」
「わかった。ありがとう」
よしっ
これで多少は防御ができる。早速唱えてみよう!
「ルミナ・スクートゥム!」
杖を構え、僕が呪文を唱えると……
あれ?
何も起こらないぞ?
あれ?
ルミナって多分「光」って意味だよね?
スクートゥムは、おそらく盾って意味……
え?
光の盾……もう一度唱えてみよう!
「ルミナ・スクートゥム!」
シーン……
「ケンくん、全然魔力無いじゃん! どうなってんの!? ソルヴィールを身に着けてて魔力が無いってどうして!?」
「魔力が……無い……? つまり……?」
「魔法が使えないってことだよ! 病気なの!? 何で魔法学校なんか受験してるの!?」
「えっ……」
始まったばかりの僕の物語――ジ・エンド。