第30話 僕も魔法が使える……かも!?
魔法生物の飼育施設に入ると、そこには見たこともない生物たちが数多く管理されていた。
巨大なクリスタルのような甲羅を持つカメ、宙に浮かぶクラゲのような生物、そして金属の羽を持つ鳥……。
魔法生物の飼育施設というだけあって、どれも人間界では絶対にお目にかかれないような生き物ばかりだった。
(すごい……)
僕は思わず周囲を見渡した。
しかし――
「……で、掃除って何をすればいいんだ?」
僕は現実に引き戻された。
(そもそも、掃除道具はどこにあるんだ?)
あたりを見回すが、掃除用具らしきものは見当たらない。
(まさか、魔法で掃除しないといけない……?)
嫌な予感を抱きながら、施設の奥へと進んでいくと、そこには 飼育員らしき年老いた男性が立っていた。
「おや? 君――」
おじいさんが僕に話しかけようとした、その瞬間――
バサァッ!
突如、炎に包まれた鳥のような生物が、おじいさんの帽子に飛び乗った。
ボッ!
帽子が勢いよく燃え始める。
「も、燃えてる!」
僕は慌てて叫んだ。
「ホッホッホッ。大丈夫じゃよ」
おじいさんは落ち着いた様子で杖を取り出し、帽子に向けた。
すると――
シュゥゥ……
炎は瞬く間に消え、帽子は元通りになった。
鳥は喜んだように ピィィィ! と鳴きながら、おじいさんの頭の上をくるくると飛び回った。
「す、すごい……」
「この子はワシのペットじゃ。可愛いじゃろ?」
「か、可愛い……のか?」
「ホッホッホッ」
おじいさんは楽しそうに笑った。
「それで、君、どうして魔力を抑えておるんじゃ?」
「え?」
おじいさんの言葉に、僕は思わず固まった。
「いえ、あの、僕は魔力が無いだけで……」
「魔力が? 無い?」
「はい、僕は人間なので……」
「はて?」
「はて?」
二人で顔を見合わせる。
何か話が噛み合ってない気がする。
おじいさんは、僕の足元に視線を向けた。
「君の足首についている紐があるじゃろう?」
「あ、これですか? これは母にもらったミサンガです。自然に切れたら願いが叶うって言われて、ずっとつけっぱなしで……」
「自然に? それは無理じゃ」
「え?」
おじいさんは意味深な笑みを浮かべる。
「それは魔力を抑えるための魔法具じゃよ」
「……は?」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
「魔力を抑える……? 魔法具……?」
「そうじゃ。人間界におった頃からそれをつけておったのか?」
「はい。小さい頃から」
「ほぉ……」
おじいさんは僕のミサンガをじっと見つめた。
「じゃあ、外してみなさい」
「えっ、でも……」
「ふむ、そうじゃな。魔力が無いままで外すのは難しいかもしれんのぉ」
おじいさんはニヤリと笑った。
僕はゴクリと喉を鳴らす。
(まさか……僕にも、本当は魔力があった……?)
信じられない気持ちと、期待が入り混じる中――
「まぁ、その前に掃除じゃな」
おじいさんはニッコリと笑った。
「ええええええええ!? そっち!?」
僕の声が、魔法生物の飼育施設に響き渡った。




