第27話 魔力ゼロからの挑戦!
タイムリミットまで、あと136日――。
アルカナ魔法学校での生活が始まって、もう1ヶ月が経った。
最初は寮の生活や授業についていくのに必死だったけど、最近ようやく慣れてきた……とはいえ、魔法の授業は鬼門だ。
「魔力の流れを意識してるつもりなんだけど……」
僕は目の前の小さな火の玉を見つめながら、必死で手を動かした。
炎を操る基本魔法――初心者向けの魔法らしいが、僕にとっては最難関だ。
周りの学生たちは、スムーズに小さな炎を生み出し、それを自在に操っている。
中には炎を動物の形にしているような学生までいる。僕とはレベルの差が桁違いだ。
「ふぅ……」
僕は額の汗を拭った。
僕だけ、うまく炎を安定させられない。
というか、そもそも魔法が発動しない。
――けれど、魔力は少しずつ感じられるようになってきた。
僕には生まれつき魔力がない。
だけど、今はソルヴィールのネックレスを身につけている。
ネックレスの力を借りれば、少しずつ魔力を溜めて、鍛えることができる。
この1ヶ月で僕の魔力量も増えてきているはずだ。
「ケン、お前、力みすぎなんじゃねぇか?」
隣で笑いながら声をかけてきたのはエドガー。
短髪の爽やか系男子のクラスメイトだ。
「いや、力抜いたら余計に魔力が流れない気がするんだけど……」
「違う違う、力を入れるんじゃなくて、流れを意識するんだよ。剣でも力任せに振るだけじゃダメだろ?」
「……言われてみれば」
確かに、剣術の授業で無駄な力を入れすぎると、動きが鈍くなることを学んだ。
「ケンくん、頑張ってるわね!」
背後から、元気な声が響いた。
「お、アリス?」
振り向くと、そこにはクラスメイトのアリスが立っていた。
金髪のツインテールに、キラキラした瞳が特徴の女の子だ。
魔法の才能が高くて、授業でも常に上位にいるらしい。
「うまくいかないなら、魔力をもうちょっと優しく流してみるといいわよ!」
「優しく……?」
「そう! 魔力は感情と結びついてるの。緊張しすぎると、上手く流れないのよ!」
「なるほど……」
僕は深呼吸し、もう一度魔力を込めてみる。
ゴォッ――!
……が、勢いよく魔力が爆発して、目の前が一瞬真っ白になった。
「ぎゃああああ!」
「ちょっと!? 急に出しすぎよ!」
「そんなこと言われても……!」
周囲の学生が苦笑しながら僕を見ていた。
「ま、まぁ、ちょっとずつ慣れていこうぜ」
エドガーが肩をすくめる。
「お前、運動神経は良いんだし、戦闘訓練の授業では活躍できるんじゃね?」
「いや、それがさ……」
僕は苦笑した。
確かに戦闘訓練の授業では、多少の身体能力でカバーできるけど、魔法なしでは限界がある。
それに――
「……お前、やっぱり邪悪なオーラ出てんな」
エドガーが僕をじっと見つめる。
「やっぱり?」
僕の体からは薄っすらと黒いモヤのようなものが漂っている。
これは呪いの影響らしい。
でも、アルカナ魔法学校の学生たちは、みんなこれを「呪いだ」と認識できるので、特に変な誤解はされない。
「まぁ、呪いがあるせいで、妙に貫禄あるけどな」
「そんな貫禄いらないんだけど」
「まぁまぁ、とにかく、焦らず頑張れよ」
エドガーが僕の肩を軽く叩いた。
「そうよ、私たちがいるんだから、いつでも相談してね!」
アリスもニコッと笑う。
「……ありがとう」
気づけば、僕はここで新しい友人を作っていた。
魔法は使えなくても、僕は僕なりにやれることをやる。
まずは魔力を鍛えることからだ。
「よし……もう一回、挑戦だ!」
僕は気合を入れ直し、再び魔力の練習を始めた――。




