第16話 ついに留学試験、本番!
タイムリミットまで、あと261日――。
ついに、この日がやってきた。
留学試験本番。
ここ数週間、リアム、アレックス、ジャック、マシュー、そしてジェシカに毎日勉強を教えてもらい、なんとか試験対策を続けてきた。
リアムとアレックスとは魔法具の訓練も繰り返し、僕でも扱えそうなものを何とか数種類だけ見つけることができた。
一次試験は筆記、二次試験は対人戦。三次試験の内容は未発表。
けれど、とにかく二次試験までは突破しなければならない。
皆の期待に応えるためにも、僕は絶対に合格して、アルカナ魔法学校へ行き、呪いを解く手段を見つける。
教室に入ると、すでに多くの受験者たちが席についていた。
留学生枠はたった二名。
受験者数はざっと30名ほど。リアムが言っていた通り、そこまで多くはない。
……でも、全員が実力者に見えるのは気のせいじゃないよね?
僕は無意識にゴクリと喉を鳴らした。
「ふぅ……やるしかないか」
深呼吸をして、僕は試験開始の合図を待った――。
「これから90分間の筆記試験を行う。試験中の会話、カンニング、魔法の使用は禁止。違反者は即失格とする」
試験官が前に立ち、淡々と説明を始めた。
魔法の使用は禁止……当たり前だけど、魔法学校の試験なのに「魔法禁止」ってなんか不思議だ。
「では、始め!」
カチッ。
試験開始の合図とともに、机の上にある試験用紙に問題が現れた。
そこに書かれていたのは――
筆記試験問題①:魔法数学
問1. 「A地点からB地点まで魔法飛行で移動する際、飛行速度vが毎秒15%増加すると仮定する。このとき、B地点に到達するまでの移動時間を求めよ」
……。
…………。
「えっ、物理の問題……!?」
思わず声が出そうになるのを必死にこらえた。
「魔法の試験なのに、いきなり等加速度運動の計算をさせるの!?」
隣の受験生はスラスラとペンを走らせている。リアムなんて涼しい顔で解いている。
いや、ちょっと待って! 魔法飛行に数学を持ち込むのアリなの!?
冷や汗を拭いながら、僕は必死に計算を始めた。
筆記試験問題②:魔法言語学
問2. 「次の呪文の構造を解析し、適切な文法に書き直せ」
原文:エクス・フレア・トランシトゥス・アド・ルーメン!
……何語!?
いや、魔法語だよね!?
でも、なんかラテン語っぽいし、動詞の活用とかあるのか……?
魔法の勉強をしながら、ちゃんと文法とか考えたことなかった!
「適切な文法に書き直せ」とか言われても、これが間違ってるのかどうかも分からない……!
ヤバい。
頭がパンクしそうだ。
筆記試験問題③:実践応用
問3. 「次の状況で最適な魔法を選び、その理由を述べよ」
状況:あなたは闇の魔法使いに追われている。体力が限界で、攻撃魔法も防御魔法も残り少ない。このとき、最も有効な手段を述べよ。
……これ、選択問題じゃなくて自由記述!?
えっと、逃げるか戦うか……?
僕は、じっと試験問題を見つめた。
この問題、よく考えたら、今の僕とめちゃくちゃ状況が似てない?
(呪いを解く方法を探すために必死になって試験を受けてる僕と、闇の魔法使いに追われる状況って、実質同じじゃないか……?)
僕は考えた。
そして、ペンを走らせる。
「僕なら――」
試験終了
カチッ。
「そこまで!」
試験官の声が響き、試験用紙を回収する音が教室内に広がる。
……終わった。
終わったけど……めちゃくちゃ難しかった。
僕はぐったりと机に突っ伏した。
「どうだった?」
リアムが隣で淡々と聞いてくる。
「もうダメかもしれない……」
「魔法は学問でもある。 実戦だけが魔法のすべてじゃない」
「理不尽だ……」
僕は机に突っ伏したまま、絶望に沈んだ。
……合格すれば、次は二次試験の対人戦。
「もう筆記だけで十分すぎるくらい頭を使ったのに……」
僕の苦悩は、まだ終わらない。




