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社名と業務内容があってない会社員

 三月前半のある日、呼び出されて行った大会議室には、まだなにも始まっていないのに、もうきな(・・)の臭いがただよっていた。


 きな=紙や布の焦げたような。


 一昔、いや。二つ三つ前の時代ならそう珍しくもなかっただろう。何しろどこにでも灰皿があった。大小関わらず紫煙が立ち込めた室内は、どこも、一見透明なガラスでさえ、水拭きした雑巾が茶色く汚れるほど独特の葉が焼けた臭いを染み付かせていた。


 とはいえ、今は令和の世、だ。


 平成の終わりごろからにわかに広がった健康志向は、喫煙者を会社スペースの隅に押しやり、肩身の狭さと、解放感をもたらした。


「お前はいったい一時間に何回席を立つんだ?」とお思いになった非喫煙者の数は枚挙に暇がないだろう。

 一箱二十本入り、その半分で十本×(かける)五分。八時間労働、であるかどうかはその会社の社風によるだろうが、約一時間休憩するならその分を補えと感じるのは、そうおかしな考えではないだろう。


 ・・・話がそれた。


 今感じているきな臭さ、は。実際には鼻で感じているものではなかった。

 集まっている面々を見ることで感じる、一種のヤバさだった。


 普段、ごく普通に生活している人はあまり考えたりはしないだろう。

 交番や基地(・・)が近所にあれば、そうでもないかもしれないが。


 警官の腰や入り口に立つ歩哨がかまえている銃や、装填されている弾はどこで作られているのだろうか、と?


 アメリカ製? 輸入品?


 確かに彼の国は銃社会とまで言われるほどそのイメージが強い国だ。人口より銃が多い国として真っ先に思う浮かぶのも、輸出量が多いのも確かではないが、この問いには不正解だ。


 答えはメイドインジャパン。

 そう、この国はちゃんと銃火器を自分で作っているのだ。

 もちろん、なんとか小銃製作所なんてそのものズバリの社名を掲げたりせず(・・)

 まあ、少しでも物を考える頭がついてれば、セキュリティの上でも、なんとかホイホイの上でも、そんな名前をつけはしないが、そうならないのには、別の理由もある。


 一企業の一部門という理由が。

 まさか空調機器の大手メーカーが、影で、───いや、逃げも隠れもせず───武器を製造してるとは、普通の人なら思いもしないだろう。・・・某、有名モビルスーツアニメで超大型兵器の入ったコンテナにマスコットキャラクターが出演していたとしても。


 そんな各企業の一部門(・・・・・・・)の人間が、呼び出されて一堂に介している。

 しかも、政府機関建物に、その住人からの呼び立てで。


 ・・・お分かりいただいただろうか?


 あまりきな臭さに涙目になる理由が。




「君達にはこれを製造していただきたい」

 短刀直輸入、いや、単刀直入。


 挨拶も、前置きも、説明もなく。

 無造作に、それていて衝撃を与えないように机の上に置かれたのは、五角形の頭にコードがついていて、片方がだんだんと細くなっている柱、五角柱だった。


 シーン。


 割れんばかりの怒号が満ち満ちるかと思われた室内が、水を打ったように静かなのは、全員あれが何か分かるからだろう。


「・・・先輩、先輩、あれ、なんすかね?」


 もとい、ほとんどの人は。


「原則はどうするんだ?」

 長いようでそれほどでもない沈黙は───ちょうど、先輩とやらが、分かってない後輩に説明する声が止んだあたりで───一本の上げられた手と共に破られた。


「中身の無いこれ(・・)は、それ(・・)では無い、と考えております」

「っ!」

意外なようでいて、誰もが想定できる範囲内の答えだ。実際、原則を変えずにあれ(・・)を作る、作らせるにはそう言うしかないだろう。


「・・・話にならねえ。俺らは帰らせてもらう」

「そうですね。あなたはそうお考えになると思っておりました。・・・遅くなりましたがもみじまんじゅう、ありがとうございましたと御社の担当者が申しておりました」

 深々と頭を下げる壇上の男性の言葉で、さもありなん、という空気か形成されていく。

 そして、断ってもいいのか、という雰囲気も。

 ・・・わずかばかり顔をひきつらせているのは、言葉の裏の奥まで読んでしまった者達だろう。


 そういえば、何人か。


 そう、何人かここに呼ばれていない人がいる。そういう人は皆、総じて口が軽いというか、特定の人物、職業にわざと軽くしている(・・・・・・・・・)ような・・・。


「でも、話は最後まで聞いていって下さい。たとえ立ったままでも」

「・・・きつくなっただけじゃねーか」

 今さら元の席に戻るのも気恥ずかしいのだろう。

 苦笑しつつ、出入口のある壁の前に立った数人も含めた全員に、防衛省の人間、と紹介されつつ、一度も今まで見かけたことの無い人物は説明を始めた。


「できるだけ、・・・分かりづらく話しますね」


 ずん、と。

 決して軽くなかった空気がさらに重くなった。


 それはそうだろう。


 たとえこの国では中身が入ら(完成しな)いといえども。


 製造するのはあれ(・・)である。


「まず、完成後の製品(・・)は人に向けては使われません」


 ・・・使用前提かよ !!


 ゾワッ!

 鳥肌を伴う起き上がった毛の先端が服と擦れ、いままでに感じたことの無い不快感をもたらした。


「また、使用するのは陸地でもなく、津波の心配もないと申し上げておきます」


 いかん、くらくらしてきた。


 川! 川なんだな! と、逃避してみたりする。


 もちろんそんなわけはないだろうが。


 陸でも、海でも無いとこをは、この地球上には無い。南極は大陸だし、北極は海の上だ。


 つまり、は。地球上以外で完成品(・・・)を使うような事態が迫っている。


「今までに発注している案件は爆薬の製造以外は保留して構いません。納期の締め切りは一月後。支払いは取っ払い。できたらできただけお支払いたします」


 ダン! ずるずるずると、後ろから音が聞こえた。


 ・・・まるで壁に背をつき、そのまま崩れ落ちたような。


 よく見るテレビ番組のMCが言うように。


 椅子は重要なアイテムである。

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