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月刊 妙 編集者、占い師

「おーい、誰か手すきなやついないかー?」

 編集部の奥、 “長” の座るデスクからそう大きな声が発せられた瞬間、ざわっ、と。編集部はやにわに騒がしくなった。

 かちゃかちゃかちゃと、リズムよく音をたて始めるキーボード、数秒前とは輝度が明らかに変わったモニター。パラパラパラ、とめくられる手帳、固定、スマホを問わずそれなりに大きな声で話始めた数人の内、本当に人間と話しているのは何人いるのだろうか?


 ・・・いや、“妙” という名前どうり、UFO(未確認飛行物体)、UMA(未確認生物)、ESP(超能力)、古代文明、スピリチュアル、魔術、都市伝説など、オカルトを扱う雑誌なのだから、通話相手が幽霊、人工知能、宇宙人でも別にかまわない、どころか、逆にふさわしいとさえ言えるだろう。


 ただし、“無人” だけはいただけない。

 それだと不思議───ちゃん───なのはこちら側になってしまう。


「あっ。なにするんですか!」

 例にもれず、スチャリと耳に当てた受話器をいきなり取り上げられた、私こと占辺(うらべ)季子(きこ)は、すかさず抗議の声をあげた。人は誰しも戦わなければならない時がある。

 ・・・たとえ負けが決まっていたとしても。



「くっそう。177にすべきだったか・・・、いまだにどっちがどっちか迷うんだよね」

 そのすえにかけた117は時報を知らせる番号で。自動音声の後に流れるぴっぴっぴっぽーんが受話器からもれ出ていたのが今回の敗因であった。

 まあ、そうでなくとも編集部一番の新人である私に仕事が回ってくる可能性は高かったが。そして、117の天気予報が終了していたのを私が知るのは、結構先の話であった。



 編集長からの指示は、連絡のとれない占い師の先生の様子を見てこい、だった。

 扱っている記事の内容が内容のため、取材途中───なんとなく、知らせてきた存在が嘘っぽくなったタイミング───で、投稿者と連絡がつかなくなるのは、ままあるケースではあるが、当たり外れはともかく毎号紙面を割いている先生ともなれば様子見ぐらいはしなければ、いけないらしい。


 まあ、行かされる身としても、占い師の先生のところなら、まだ。

 ・・・世の中にはそこそこ狭くない家一杯に呪物をコレクションしたり、数は少なくとも “本物” を持ってたりする人がいたりするのだ。


「ええと? こっちかな?」

 閑静な住宅街、というヤツだろうか?

 人通りは少なく、すれ違ったとしても、なんかこう、いかにも血統書つきでございますという小型犬ずれ。

 時折横を通りすぎるのは、ほぼ高級車というなんか気疲れする道をスマホを片手にてくてく歩き。

 実用性があるんだか無いんだか、いやあったら怖い門扉の上に尖った槍っぽい装飾のある門を開け。

 それなりに続く庭木が両端に植えられたくねった道の先の。


「実物、初めて見た・・・」

 ドアノッカー、だったっけ?

 ブロンズ製らしき青緑っぽい獅子のくわえた輪っかの先で厚みのある木材を叩けば。


 ぎぎぃっ!


 鍵のかかってなかった扉は開いて。


 少し薄暗い中へと誘うのだった。


「太木先生、いらっしゃいますかー?」

 ・・・返答無し。

「ひっ!」

 バタン! と。そういう装置がついているのか、設計時点で考えられているのか、後ろで扉が自動的に閉まり。

 ウィーン、がしゃん!

 こちらは、分かりやすく機械的にオートロックがかかった。


「閉じ込められた ?!」

 がしゃん。


「わけでもないのか・・・」

 外側からでは鍵の必要な扉も、内側からならつまみをまわすだけであく。

 ひょいっと顔を出して外を確認して閉めれば、再び扉はオートロックによって施錠された。


「入りますよー」

 相手が男性ならためらうが、太木先生は同性だ。前に一度だけ編集部でお見かけし、外観がちょっと太った普通のおばさまぽかったこともあり、私は返事のない邸内へと足を踏み入れた。


「しかしまぁ、でかい家だな」

 占い師って儲かるのかなー。

 ・・・たぶん一介の編集記者では買えない家を拝見していく。


「ん?」

 玄関を上がってすぐ、応接室のテーブルの上に『1』と書いた紙がある。

 まあ、占い師の先生だって数字ぐらい書くだろう。

 私はお土産(経費限界、税込三千二百八十円)の菓子折りをそこに残し、奥の扉からさらに進んだ。


「・・・」

『2』が貼ってあったのはトイレの扉だ。

 しゃがんだり、立ったりするトイレは意外と体調不良のきっかけとなる場合が多い。

 ノック&確認、無人である。


 「すいませーん、誰かいませんかー」

 こっからはプライベートスペース。

 気は引けるが、言われてきた以上、もうやけだ。中途半端にお土産とメモだけ残して帰って、実は、自室や寝室で・・・なんて後味が悪すぎる。

 ここは結果、怒られても確認することに。


『3』

 とはいえ、いきなり風呂場はどうだろう?

 命の危機的には一番可能性の高いところだが、なんかこう。そしてやっぱり数字の書かれた紙がある。


『4』

 リビング。テレビに数字。

 それにしても片付いているお家である。

 さっきの脱衣場にも洗濯物はなかったし、ここもいわゆる “ぱなし” がない。生活感が無いのではなく、なんかこう。掃除した直後のような───。

 ちなみに私の部屋がこうだったのは、はるか昔のことである。


『5』

 寝室。ベッドメイク済。影に倒れてないか確認。


『6』

 二階にもユニットバス、だと?

 ・・・お金はあるところにはあるもんだ。


『7』『8』『9』

 さらにさらに。

 建てておいて使ってない部屋、何てのがあっていいのだろうか?

 カーテンあり、敷物あり、家具、生活感無し。

 ・・・これが贅沢?


『10』

 一階に戻りキッチンへ。

 カウンター型の調理スペースに数字の書かれた紙があるのにはもう驚かない。


 が、しかし。


『お疲れ様。ここが最後よね? 冷蔵庫から好きな飲み物を持って応接室へ。お茶にしましょう』

 などと追伸されれば驚くというものだろう。

 

 つまり()は、(とけた)


 占いなのかメンタリズムなのか知らないが、私の行動は読まれていたということだ。


 ならばきっと、私の選ぶ飲み物も──。


 冷蔵庫には、レモングラスティ、ルイボスティー、烏龍茶、緑茶。

 お茶というからには棚の紅茶に、コーヒーメーカーをつかっても文句は言われ無いだろう。

 アイスティー、アイスコーヒーもありなら冷凍庫の物を使っても───。


 果たして。


「はい、スプーン」

「あ、すいません」

 私が応接室に持って行ったのはメロンフロートだった。

 意識高い系にありがちな炭酸水に夏の忘れ物のかきごうりシロップに冷凍庫の高級アイスクリームを浮かべて。

 そこまでしても読まれていたのは、太木先生の用意していたスプーンが、細身の長い、明らかにパフェ用の物であったことから明白である。

 ・・・ストローまではつけたんだけどなー。


「ごめんなさいね。確認に付き合わせちゃって」

「はあ、確認ですか・・・なんのですか?」


「これなんだけど」

「五月分ですか? どれどれって、え?」

 広い邸内をさ迷った体に甘いものが染み渡る。

 受け取った原稿は。


 すっぱりと下半分が白紙だった。


「これ・・・」

「そうなの。そこから先がさっぱりなの。今日を占った限り、別に調子が悪いわけでもないようだし。何人かお友達にも聞いたんだけど、やっぱり見えないって・・・」

「こっ、これ! 預からせてもらっていいですか ?!」

「ええ。そこまででいいなら・・・」


 ごくり。


 喉がなる。


 いや、メロンソーダを飲んだからではなく。


 特ダネ。そんな言葉が月刊妙、新人編集者の脳裏を駆け抜けて行った。






 

 

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