医療従事者 無職 (2)
どぅん、どぅん、どぅん、どぅん。
病院で働く白衣の人間が、全て医者だと思われているように一括りにされがちな不良も、本人側、つまり、おれからしてみれば違うと言わせてもらいたい。
何が言いたいかつーと、細かい盗みを働くじゃなかった、無断で借用を繰り返すおれらと、爆音を響かせてバイクを転がしたり、ウーハー? ウーファー? だかをでかい音で鳴らしながら、いま横を走り抜けてったのは、革ジャン着てっても別の種類だから「ヘイ! タクシー !!」なんて手を上げても止まらねーどころか、「なんだコイツ? 絞めっか?」ばりにやぶ蛇になりそーってこった。
まあ、その前に「珍走団と一緒にすんな!」とか、どなられそーだし、そもそも定員オーバーで箱乗りまでしてる車のどこに乗るんだ? ってー話だ。
いや、まあ。
ぢつはいい奴らで、「足ねーのか? 乗ってくか?」とか言われても、通りすぎただけで濃厚なアルコール臭が漂ってくるくるまに乗る勇気はないけどな。
・・・事故るだろ、あれ、絶対。
○≡
そんな予想はしっかりと当たり、前方一つ目の信号から、どがっしゃーん! と轟音が聞こえてきた。
ばっ! と。なんか落ちてねーかなと地面に向けてた顔を上げて見た信号の色はレッド。
つまりはやつらの信号無視、いや、しっかり見た上で止まんなかったのかもだが、結果は一緒だ。
「あーあーあーあー」
パトカーの物真似にはフイルムがいる。タバコのケースについてるような、薄手の。
とりあえずなにするわけでもねーが、一応駆け寄る。
・・・突っ込まれた方に。
突っ込んだ方? 知らねーよ。おれもそうだが、普段「関係ねーだろ、ばーか!」とか注意してきた人に言っている連中だろうが。
いざ、自分が困ったら助けを求める、ってのは虫が良すぎる。まあ、おれもそうするんだろうけどな、そうなったらなったで。
ピクリとも動かねーのも居っけど、何人かごそごそしてっから、スマホぐらい使えるだろう。
・・・これで、最新スマホの衝撃検知で自動通報とかされてたら笑える。
「うっわ! こっちもかよ・・・」
なんか金目の、いや、食いもンでもないか?と、開けたドア、横転して逆さになった車のヤツを開けたおれは、強烈なアルコールの刺激で鼻にシワを寄せた。
○≡
な、何が?
あ、青信号になったから、く、車を発進させたら、天地が入れ替わったんだぜ・・・頭がどうにかなりそうなぐらい痛い、超スピードって、ああっ!
思わず漫画のネタをこすっていたら、原因がわかった。
・・・事故ったのか。
ブレーキ音も、クラクションも聞こえなかったから気づくのに遅れたが、横っ腹に突っ込まれたのだろう。
「青信号になっても、左右は必ず確認しなさい」とは、良く安全講習で教わることで。だいたい習慣で行動するし、しなくとも、ほとんどの場合、問題はない。
「よりによってかよ・・・」
そう。ほとんどの場合は。
事故、とは。そんな隙間、ほんの少しの油断に狙いすましたように寄ってくるものである。
気が、気が遠くなる。
まずい、このままでは・・・。
○≡
「ん? 酒じゃあ、ねーのか」
なんか茶色いビンが割れていて、アルコール臭はそこからしている。
ラベルには消毒用エタ何とかとか書いってあっから、飲酒運転ではなかったらしい。
「ごめんね、ごめんねー」
運転手の濡れ衣を脱がし、いや、これは例えで、男の服を脱がせる趣味はねーし、がっちりシートベルトがロックされてて、いかにも面倒そうだ。そんな真面目そうな運転手がダメージをうけたのは後部座席にあった落とし穴が原因だったようだ。・・・これも例えな。
「そうだよな。ギム化されたもんな・・・」
チャイルドシートで何キロかの幼児を押さえんなら、荷物は? って話だった。
特に固定もせず乗せられていた品物が、なにをどうしたのか運転手の頭に当たったのだろう。正面から。
「デコか。出血もひでーけど、医者じゃねーから、って、うおおおっ??!!!」
○≡
真っ赤に染まって何も見えない。体の感覚もないのは一過性のショックなのか、・・・首がいったのか。
それでも、最後の最後まで働くという耳は聞こえ、気配をさとった。
腕が動いた気がする。
口は開いたか?
どうしても───。
○≡
完全に気を失ってる、もしかしたら○でるとまで思ってた相手が動くなんざ心臓に悪い、ましてやガシッ! と腕を掴まれた日にゅあ。
「すいません、すんません! いや、ホントに !! すぐ!」
でていきます! と続けようとしたところでおれは気づいた。相手が口を動かしていることに。
「白いカバン、を。この先、まっすぐ先の病院へ」
「ほん、とうに急ぎなのは・・・」
「おれい、と言ってはなんだけど、弁当は上げよう」
「ボクはどうでも・・・」
「ああ、でも・・・」
「腎臓が、無事なら ・・・ちゃん、と」
「・・・くん、に。心臓は・・・さんに」
「血液も、もったいないなぁ、ボク一人分、全部で何人かの・・・」
い・か・れ・て・や・が・る。
人間の本性は、今際の際にでるらしい。知らんけど。もとより聖者のような人間だったのかも知れないが、これはないだろう。
掴んでいた手から力が抜けると同時に、おれはずらかることにした。
通報、つーか務め先の病院へは連絡してやる。
それで十分・・・。
○≡
・・・じゃなかった。
電話は繋がンなかった。
信じられるか? 百十九番もだぜ ?!
人がいねーのにもほどがある。いや、マヂ、ホントに。
「だあああああっ」
名前は忘れたが、ほらあれだ。消防士が人を担ぐ時にやるヤツだ。相手の体をこっちの首に回して、肩にのせる。
「重えっ!」
言っても軽くなるわけじゃあねーが、言っても重くなるわけでもねー。
さらに右手にたぶんこれだろうと白いカバンを掴み。
左手に・・・。
正直に言おう。
コンビニの弁当だったら食って逃げてた。
だってよ。
包みが。
アンパン○ン、なんだぜ? 背景がピンクの。
反則だろ、そんなの。
「愛と勇気だけが、ってな!」
病院は遠かった。
騙された、と思ったが、『まっすぐ』としか言われてなかった。
ヤツは自分の血液を輸血、どころかこっちの血を持ってきやがった。弁当分の栄養入りの。
おれは無職じゃあなくなった。
余裕だぜ? 配達なんざ。
なんてったって経験者だからな!
・・・あんま、経験ねーけどな。




