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内閣総理大臣

 その存在を初めて知ったのは、青いネコ型ロボットのよこにいる、黄色いシャツの男の子がシークレットアイテムでなった時だっただろうか?

 それから数十年、紆余曲折あり、意識もしていなかったガラスの天井とやらを破り、女性初の総理大臣になってみると色々とわかることもある。


 あれほど、絶対的な権力は持ち得ないこと。


 あれほど、迅速に世の中は変わらないこと。


 あれほど、なって楽しいものでも無いもの。


 いや、楽しいどころか。


 元々高かった静音性をさらに高めたモーター音と共にゆっくりと動き出す車体。


「それで、結果は?」

 開きたくない、聞きたくないけれどもそうもいかない。

 まったくもってそんの多い立場だ。

 ・・・不意に睡眠時間が削られるのも含めて。

 日本初の女性総理、そしてこのままではもう一つの称号も得てしまいそうな彼女は重い口を開いた。



「それで、結果は?」

 一国の首領ともなると、スケジュールは分刻みだ。総裁選などでは総理の椅子と表現され、そう聞いた誰しも一度は高級木材に刺繍された布の張られたものを想像するかもしれないが、実際に一番多く座れるのは専用車の後部座席であり、今回の報告もそこですることになった。


「はい、正しいようです」

 沈黙、車窓の外を流れる景色。


「・・・そう。よう、というのは?」

 端的に短くけれども、性格に。

 情報源が情報源だ。ほぼ間違いない情報であったが、少しだけ含まれた曖昧さに希望を見いだす気持ちはわかる。

 自分ももっといい加減で適当に答えたいが、口から出たのは文字通りの内容だった。




「はい、この場合の曖昧さは、対象に関する観測不足によるものとお考えください。時間経過により細部が明らかにはなりますが、結果そのものは変わりません」

 

「・・・そう」

 座っていてよかった、と思う。

 徒歩で移動中に報告を受ける状況もあるが、そうではなかった事に感謝だ。

 記者に取り囲まれての移動中、いきなり総理大臣が膝から崩れ落ちたらどれ程の衝撃が発生するだろう。実際に床につくのは華奢な女の両膝だとしても、だ。


 不意に同盟国の大統領から告げられた世界の終わり。この到底すぐに信じられない、それでいて急を要する、・・・もしくは放置していてもそう結果が変わらない事態は、百聞一見、一旦、各国で確認後に対策を話し合う事になった。


「今後のスケジュールを全部キャンセルしたくなるわね・・・」

「総理・・・」

 秘書官がかけたメガネを直す。

 確かに今の発言はギリギリだった。

 固有名詞を極力省いた会話であったが、その内容を推察できるような発言は避けるべきだろう。


「確認は複数の施設に限定的に行いましたが、個別に調査を始めたものがいるようです。どうなされますか?」

「話を」

「行使は?」

「不要よ」

 情報を早く掴む事によって利益が得られることもある。さらにそれが政府筋からもたらされたとなると、期待する人間が出てしまうのも仕方ないだろう。

 しかし、今回の件だけはどう利用しても利益を得ることはできないだろう。

 ほんの少しだけ他の人より気のきいた資産の使い方はできるかも知れないが、知った事実は日常から色を抜くに違いない。


 今の自分、自分たちのように。

 

「次のご報告ですが」

「・・・ラジオをつけてください」

「は? はいぃ?! ラジオでございますか?」

 アメリカの大統領専用車と違い、日本の総理大臣専用車には、前後を仕切る防弾ガラスはない。

 ゆえに前席には直接指示が可能なのだが、非常事態の情報収集目的以外でラジオをつけろと言われるのはSPの彼にとっても青天の霹靂だったろう。


「希望の局はございますか」

「いいえ。でも明るいパーソナリティーの局か、リスナーからの要望を聞くような番組、もしくは歌がかかるのがいいわ」

「はい」


 秘書はなにも言わない。

 彼もそんな気分なのだろう。

 ・・・例え、後に回した仕事に追まわされるのがわかりきっていようとも。


 情報収集なら国営放送一択。第一から───たぶんこの車で初めて───始まったザッピングは、ピッ、ピッという電子音で切り替わり、やがて歌番組で止まった。


「ボリュームはどうされますか?」

 もしや、自分たち前席組には聞かせられない内容の極秘情報か? と考えを巡らせたSPだったが、それは「ん? そのままでいいわよ」と、あっさりと否定された。


 なら・・・。


「番組の途中ですが・・・」か?

 余人には知り得ない情報をつかんでいるかも知れない。

 そんな彼の期待は。

 目的地に到着し、車が車庫に入るまで続いた。

 

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