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大統領、主席補佐官

 “大統領補佐官” を検索すると、AIがこう答えてくれる。米国大統領直属の側近スタッフとして、政策立案、省庁間の調整、スケジュール管理、そしてホワイトハウスの運営を主導する要職、と。


 まあ、実際には政策立案も、省庁間の調整も、スケジュール管理も、ホワイトハウスの運営も自分よりも得意な人間がやっている。

 何しろ補佐官に人数制限はないのだ。

 一人よ二人、二人より三人。

 東洋には「三人寄れば文殊の知恵」なることわざがあるらしいが、自分もそう思う。

 モンジュが何かは知らないが。

 ・・・たぶんチャイナのどこかの時代の誰かだろう。かの国では姓名を漢字二文字で表記するらしいし。


 話がそれた。ほとんどの業務を他の人がやっているなら、お前は何をしているんだ? と 疑問に思う方もいるだろう。


 もっともな質問だと思う。

 ホワイトハウスのナンバーツーとまで言われる存在、その実、虎の威を借る狐。名前にもフォックスが入っている。


 そんな私の存在意義は───


「大統領、ホットラインがなっております」


───他の誰かなら怒られる状況、例えばようやく空が(しら)み始めた時刻に彼をたたき起こしても、お前ならしようがないな、で許してもらえる。


 これにつきるだろう。


「どこからだ。ロシア? チャイナ? イスラエル?」

 半分寝ているのかもしれない。・・・まださきっちょにボンボンがついたナイトキャップをかぶったままだし。

 普段の彼ならこちらの言葉を待つだろう。

 問いかけるだけ時間の無駄であり、大統領のスケジュールは分、場合によっては秒刻みなのだ。


「こちらを」

 私が差し出した物を見て彼の顔色が、さっ、と変わる。

 見た目はよくあるジュラルミンケースだ。

 いや、そんなに見る機会はないか。映画やらドラマではよく目にするが、実際に見ているのは限られた職業についた人、銀行マンとか、・・・ギャングぐらいだろう。

 もちろん今回、彼が膝にのせたケースの中身はドル紙幣がぎっちりなんてことは無い。

 入っているのは、値段こそ百ドル札の一束にすら及ばないが、考えようによってはもっと価値のあるものだ。




 アラームがなる前に、ゆさゆさと揺り起こされフォックスの顔をみた瞬間、良くないことが起こっているのはわかった。

 それは彼が自分に差し出した物により、もっと魂に強く訴えかけた。


 ジュラルミンケース。

 中身はバッテリーと、通信回路と、ケースの幅に合わせた平べったい本体。

 これによりいつでも、どこでも、相手と話すことが可能になる。


 まあ、つまりは、携帯型の電話機だ。


 今のスマホから見れば馬鹿げた代物だが、かってこれが合衆国大統領にふさわしい最先端の通信機器だったというのだから恐れ入る。・・・これを現役で運用しているスタッフにも、だ。


 とはいえ、自分のアイホンにロシアやチャイナの大統領や国家主席の連絡先が登録されてても困るのだが。万が一間違え電話なんかした日には、かけた方もかけられた方も、相当気まずくなるのは想像に難くない。


 さて、逃避はここまでとしよう。


 現実に向き合う時間だ。


 ケースを開ける。

 受話器が外れているのはフォックスが取り次いだ為だろう。

 さて、太陽が昇る前に起こされたのに釣り合う内容ならいいのだが。




「世界が滅ぶそうだ」

 受話器を静かにおろし、ケースの蓋を閉めベッド脇に置いた彼はそのまま立ち上がってそう言った。

 なんかこう、慎重に釣り合いをとっていた天秤の片方が重すぎて、何もかも台無しになったような表情で。


「はぁ。・・・今日ですか?」

 私の言葉に、彼の方眉が上がる。


「そこは、ほら、あれだろう。HAHAHA! タイガー、エイプリルフールにはまだ早いぜ! だろ」

「でも、本当なのでしょう?」

 ホットラインの連絡先は基本、一ヶ所のみだ。

 このケースの先は宇宙局。その存在を知るものは常にこう願ってきた。「間違っても鳴りませんように」と。


「ああ、残念ながらな。グッドニュースとの選択もないバッドなニュースオンリーだったよ」

「隕石ですか? 宇宙人ですか?」

「おお、ユーモアが出てきたじゃないか。・・・惑星、自由惑星、らしい。発見したてで詳細はまだわからないそうだが・・・」

「そうだが?」

「直径の単位はン千キロ(・・)単位だそうだ」

「キロ」

「サウザンド キロ メートル」

 あまり天文学? 運動力学的? に詳しくない私でもわかる。

 数メートルより、数十メートルより、数百メートルより、数キロメートルより・・・大きければ大きいほど対処は難しく被害が大きいのは。


「直撃すれば、・・・今のところその予定らしいが、どちらも砕けるそうだ」

「はぁ」

 彼しては珍しくはっきりと対象をいわなかったが、片方は間違いなく地球だろう。

 たぶんはっきり言われてもピンとこなかっただろうが。私が想像できるのは恐竜絶滅の引き金となったと仮説されているチクシュルーブ隕石がせいぜいだ。


 地球が砕けるほどの衝突とは・・・。


「薄かったりしませんかね?」

「うす・・・」

「ほら、オウムアムア。一時話題になった、恒星間天体。あれ円盤状だったって説があありましたよね」


「ぷっ」

 何日もかけ、空一面に広がる飛来物。もはやこれまでかと、覚悟を決めた瞬間、大気圏により砕け燃えるさまが想像できたのだろう。

 今日、初めて彼の顔に笑みが浮かんだ。


「君を補佐官にしてよかったよフォックス。宇宙局に人を送れ。それと核保有国とロケット技術を持つ国にアポイントを。できれば全ての国と同時に会議できればいいが、この際個別でもかまわない。ああ、もちろん、今日の予定はすべてキャンセルだ。私はシャワーを浴びてくるよ」

 

「待て」

 さらっと、面倒事から逃げようとする彼の肩をつかみ、私は顔に笑みを貼り付けた。


「なに、勝手に予定をキャンセルしてるんだ、ダメに決まってるだろう?」

「は? 地球が滅亡するんだぞ? 仕事なんかしてられるか!」

「やっぱり! それが本音か! キャンセルさせられるこっちの身にもなれ、なんて説明させる気だ?」

「そりゃあ、もちろん。地球が、って、ダメか?」

「ダメに決まっているだろう! さっき自分で宇宙局の職員に口止めしてたよな!」

「仮病・・・」

「大・統・領・が! 面会もできないほどの大病?! 大騒ぎだぞ!」

「なら・・・」


 主席大統領補佐官。それは大統領と親しい友人であることが多く。


 当然だが激務、である。

 

 

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