表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/44

ステルスマーケター(3)

 いくつかのスレッドを選び、レスを追っていく。『1ゲト』が何行か並んでから、『見たか?』であの(・・)番組についての話と確認する。


『隕石がぶつかるって、ほんとかな?』

『どうだかな? ホワイトボードの式は正しいらしいが』


 どのスレッドでも始まる、真偽の確認のところで当たり障りのないコメントを書き込み、デフォルトのハンドルネームを確認する。アルファベットと数字がランダムに選ばれる仕組みは、ほとんどの場合、意味をなさない文字の羅列になるが、たまにローマ字読みできる、できてしまう名前や印象的な組み合わせになってしまう。“uso” “m9” とか。

 そういう名前は仕事の都合上、よろしくないので一旦リセットし、変更しなくてはいけないが、今回は大丈夫のようだ。


『結局、なんで騒いでいたの?』

『あの式、片方が地球なんや。そんでもう片方が隕石なんやけど、その最初の位置とされる数値どおりの場所に星が映ったからや』

『でも、それだとその後の動きかたによらない?』

『そうだな』

『ホワイトボードの式があってたって、そのとおりに動くとは限らないんじゃ?』

『なんだ、結局ガセかよ』

『はい。解散』

 着火がうまくいっても、薪のくべかたによっては燃え上がらないで消えてしまう。


『それがな、そうでもないらしい。これを見てくれ』

 そう書き込まれて、貼り付けられたのは、他のスレッドの書き込みを切り取ったものだった。

 天文台職員だと語るところから始まり、天体の移動経路の観測方法の説明、そして、くだんの星の予想進路。とりわけ説得力があったのは、過去のデータがホワイトボードの計算式を逆算した時と一致している部分だ。


『ま?』

『え?』

『やばいじゃん!』

 消えたと思った火も、ふーっと息を吹きかければ再び、ぽっ! と灯ることがある。


『さらにヤバいのがこれだ!』

 追加の貼り付けは画像データ。

 もはや見慣れた感のあるホワイトボードの計算式が映っている場面の静止画だが、二ヶ所赤い楕円で囲む加工されている。


『12756と870? それがどうした?』

『片方が地球の直径。それと同じ部分に当てはめるもう片方の数値。ここまでいえば、わかるな?』

『うっそだろ! はっぴゃく、いや約900メートルって! ロシアに落ちたの何メートルだったっけ?』

『あれは最大20メートルや。そして残念なお知らせやが、単位が違う。この場合、キロメートルや』

『は?』

『キロメートルって』

『ど、どうなるんだ?』


『っ隕石衝突シュミレーター』

 そう書き込まれて貼られたアドレスの先は、様々な設定の隕石が地球にぶつかった時を再現するページだった。


『なにをどうやっても地球が壊滅するんですががが』

『隕石がでかすぎて笑う』

『大きすぎてちょっとやそっとの誤差が帳消しになる』

『かすっただけでも、その部分を持ってくとか』

『これ無理ゲーじゃね? ほんでいつぶつかるの?』

『五月半ば。ゴールデンウィークのあと』

『マジかよ』

『話がでかすぎてわけわかめ』

『わかめも残りませんわ、蒸発して』

 燃料を加えれば燃え上がる炎も。

 多すぎれば・・・消える。


 ○≡


『これが本当なら、ゴールデンウィークとか言ってられね?』

『そうだな。明日っから毎日が日曜日だ』


 おっと、これはまずい流れか?

 いつもはハッキリとしていた指示が今回ばかりは曖昧なので、やりずらい。


「いや、いきなり休むのは、いや無断欠勤はヤバいだろ。有給はないの?」っと。


『そうだな』

『そういえばあったな。そういう制度も』

『使わないから忘れていたぜ』

 軌道修正成功。・・・隕石? 天体もこれぐらい易々と曲げれればいいのに。


『いや、そんなことより、備えなきゃじゃね?』

 新規参加者なのか、今までなかったHMが書き込んできた。


『備えるってなにに?』

『文明が滅びるんだぜ?』

『バカかぽまえら。あと二ヶ月ぐらいあるんだぞ? その間、なに食うんだ? ほら急げよ! 食料品を買い占めろ!』


 あ、これだ。

 長年の経験、がなくともわかる。

 依頼主が対処して欲しいのがこういうことだと。


「買い占めはまずいだろ。二ヶ月分で十分じゃん」

 依頼時、言ってたのはこういう事か。ようやく腑に落ちた俺は、勢い良くキーボードを叩いた。


『ばっかだなぁ。こういうのは多ければ多いほどいいんだよ! ほら物々交換交換にも使えるし』

 書き方がいちいち癇に触る。こういう(ヤカラ)は忠告めいた意見を書くが心配からではない。頭のいい自分に酔って、相手が思い通りに、それもできるだけバカっぽく動くのが楽しいだけだ。


「そういう自分はどうなんだ? いかなくていいのか?」

 レスバ=レスバトルは普段あまりやらない。勝手も負けても目立つからだ。今回も相手の矛盾をつくやり方で終幕をはかる、が。


『オレはいいんだよ。つねに備えてるから! 水もらーめんも一年分はあるぜ!』

「はい、うそおつ。カップ麺も袋麺もそんなに賞味期限ありませーん」

 予想通りのレスに、こちらも想定内の答えを書き込む。まあ、カップ麺も袋麺も賞味期限が切れても食えるのだが。


『缶詰もパック飯もあるからいいんだよ! そんなことよりお前らはどうなんだよ! 食うもんあるのか?』

『そう言われると』

『なんもねーわ』


『だろう? ならいそがなきゃな。ネットで頼んだとしても、届くかわからないぞ』


 愉快犯的書き込みでも、時折本質をつくから困る。


「いや、いきなり物流は止まらんだろ」これは・・・弱いか。


『エビデンスを出してくださーい。ちなみにオレのエビデンスはこれ!』

 うっわ出たよ。ムカつくカタカナ言葉が。


 そして貼られた画像は個人が撮った写真の、たぶん無断使用だ。


 二十四時間営業のスーパーの入り口にいる人、ヒト、ひと。


『うわっ』

『やばくね?』

『マジかよ』


『そうだろ? そうだろ? おまえらもいそがないとなー』

 表示されるフォントに変更はないのにちらつく相手の勝ち誇った顔。

 だがしかし、お前はおかしている。決定的な失敗を。


「これ、いまさら行って何か買えるか?」


『そうだな』

『ああ、辛いラーメンしか残ってないかもな』

『あれなんで残るんだろな?』

『いや、辛いからだろ・・・』

『食うのに水いるからな』

『そもそも住んでるとこ田舎で店あいてなかったわ』

『たぶん、コンビニも全滅だろうな』

『入荷しても、個数制限されるだろ。これじゃ』


 買った、いや、勝った。

 その後、むこうがレスを書き込むことはなかった。


 しかしこれは最初の勝利にすぎない。


 再びスレッドを検索し、燃え上がりそうなところに水を浴びせ消す、とまではいかずとも火を小さくしていく。


「一件十万の仕事だからなー」

 自分で言っていてむなしくなる。


 さっきの相手はかろうじて気づかなかったようだが。


 お金がいつまで(決して消えない)使えるかはわからない(消せない炎もあるのだ)


 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ