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ステルスマーケター(2)

 てんてんてんからりんのてんてんてん♪


 デフォルトのスマホの呼び出し音、よりかは、バイブレーションのモーターの振動が、俺の意識を一瞬で眠りの世界(向こう側)からこの世へと引き戻した。


 ばくばくばく。


 心臓が高鳴る、と言えば聞こえがいいが、ただのトラウマである。くっそ会社に勤めていた頃に負った心理的外傷? 内傷は、やめて時間が経った今も、ゴミ上司の「早く出れやコラ!」という怒声と共に、休日、帰宅後の時間外であるにも関わらず、理不尽に仕事、いやタダ働きをさせられた記憶の古傷を浮かび上がらせる。


「はい?」

 スマホの表示は非通知。ほぼ電話帳に登録している人としか通話しない俺にかけてくるとしたらクライアント。もしくは間違い電話だ。


「仕事を依頼したいのですが」

「はい」

 いつも通りの落ち着いた声に、いつの間にか心臓の動悸は収まっていた。


 ・・・この後、酷使されるのに備えるかのように。


 ○≡


「今日、~~チャンネルで七時から放送された番組はご覧になりましたか?」

 軽く世間話から、ではないだろう。


「あー。すいません。寝てました」

「そうですか」

 昔の会社なら「なにやってんだこのやろう!」とか怒鳴られていたところだ。

 ・・・退社後俺が何しようが勝手だったはずなにに。


「必要なところだけ動画を送ります」

「えっ?」

 電話さえ非通知でかけてくる相手が。前に依頼をメールにしてくれと頼んだ時には「痕跡が残るものでは遅れないのですよ」と頑なに拒み、サンプル商品をミツリンでこちらに送るさいも、どうやっているのか、送り主は製造元そのものか、応募していない懸賞の当選を装うほどの隠れっぷりの相手の珍しい発言に思わず声が出た。


 違和感(ガヤが)


 そういえば、今回の通話では普段は聞こえない環境音が聞こえる。

 スマホの着信音らしきメロディに、内容までは聞き取れない話し声。キーボードの打鍵音にマウスのクリック音。時折入る足音と合わせると、そこが想像以上に広く、想定以上に人がいそうだと思えた。


「届きましたか?」

「えっ、はい!」

 あわててパソコン(あいぼう)スリープから復旧させ((キーを)叩き起こし)一番新しいメールをチェックした。


「そのメールは三分後、自動で消去されます」

 そんなことできるんだ・・・。

 なるべくそっと押したキーで指示した、スクショ=スクリーンショット=画面そのまま画像に残す機能はやっぱり作動しなかった。


「動画ファイルだけ急いで保存して下さい」

「スレッドは『人類滅亡』『天体衝突』等々、動画をご覧になった後、関連していると判断されたものなら何でも構いません」

「事前に、今振り込んだ金額は二万円ですが、複数のスレッドに書き込めるのであればその分上乗せ致します」

「にっっ?!」

「はい」

 おお、寝ている間に何が? 何て言う疑問は相手の提示した報酬額で吹っ飛んだ。

 前金二万なら後払いは八万。

 しかも、複数スレッド分払う、となれば・・・。


「今回の依頼はニュアンスが難しいのですが」

「勢い、を。なるべく急な行動を起こさないよう方向付けて下さい」

「はあ」

 確かにこれまでにないあやふやな依頼だ。


「あと」

「はい」

「後日、か・な・ら・ず。確認致しますが、こちらには食料品を確保できるルートがあります」

「はい・・・?」

 なんでそんなに強調しているんだろう?


「約二ヶ月分、申し込みされれば七人分(・・・)まで、希望した場所にか・く・じ・つ、にお届けするのをお約束致します。では」


「・・・はい」

 俺が震えながらした返事は、通話終了後のスマホの画面に跳ね返され、向こうには届かなかっただろう。


 七人、というある意味中途半端な数は。


 母方、父方の祖母二人に両親、姉、妹、自分。

 二親等以内の家族の数と一致していた。


「・・・俺にお付き合いしているヒトがいない、つーか、恋人いない歴イコール年齢なんてのも把握されていたりして」


 思った以上に依頼主が巨大組織だった件。


 ま、まあ。真面目に仕事してればダイジョブだろう。


 ○≡


 通話終了後、確認した時計は十時ン分。もちろん夜の。時間に縛られ(目覚ましをかけ)ず、昼夜逆転してるとはいえ、寝すぎと言えば寝すぎな時間だ。

 トイレ、歯磨き、洗顔。

 朝? のルーティンはシャワーなのだけれど仕事が入っている。

 賞味期限をちょっと過ぎた菓子パンと、飲みかけのペットボトルのコーヒーを手にデスクトップに移動しておいた動画ファイルを開く。

 ・・・スクショ機能は使えるようになっていた。

 この動画・・・、見終わったら機器ごと爆発したりしないよな?


・・・

・・


 そんなことはなかったし、動画のファイルが消えたりもしなかったが、結果はそれ以上に酷かった。

 一口かじったパンと蓋を開けたボトルの中身がちっとも減らなかったぐらいに。


「おいおいちょっと待て! 待てよ・・・」

 それこそスクショをとって拡大。

 説明する博士の後ろにある、不自然に全体が映された、記号まみれのホワイトボードの数式は、簡単にするとAーB=0だった。答は彼我の距離を表す。

 記号に当てはめる数字もきちんとかかれており、片方は未知の数値で。

 もう片方には一万二千七百五十六(12756)や|十万七千等々、理科が得意たっだり、天文好きならお馴染みの数値が並んでいる。並んでしまっている。


 ばっくんばっくん、高鳴る心臓。


 手にとったペットボトルは、いつに間にか空だった。


「あー。きれいに見えますね!」

 能天気な、女子アナの声がヘッドフォンを通じて頭の真ん中で再生される。


 何度も、なんども、ナンドモ、nanndomo。


 立つ、座る。立つ。座る。


 食料品 は 確保 されている。


 なら やること は。


『天体衝突』『人類滅亡』


 入力された検索指定に、ずらずら、ずらり、っと。

 昨日までなら何年も前に立てられたであろう陰謀論や、オカルト板が画面の半分出れば上出来だったであろう結果が、今はスクロールしてもキリがないほど表示される。


「これは、・・・手遅れ」

「これも」

「・・・」


 もう結論(・・)してしまっているスレッドもあるが、いまなお書き込みが続いている板も新しく立てられる板もあった。


「さて。・・・書き入れ時だな」


 暗い部屋でモニターの四角い明るさが。


 瞳、両眼で反射しているのを感じる。

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