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ステルスマーケター

「おちつけ、もち・・・は、さすがに古すぎるか・・・オチつけれ、っと」

 遮光カーテンを閉めきって一日中暗い室内に唯一そこだけ明るいパソコンのモニター。


 床には山とつまれたファストフードというか、それに限らず調理済みの弁当や食品が入っていた容器。山の(ふもと)に乱立しているのは、ハーフリットルから点五サイズのペットボトル、中身入り、中身なし。


 ・・・再利用(・・・)はしていない。


 なぜなら独り暮らしであるからして、日中トイレに行っても、ばったり誰かと鉢合わせする可能性はないから。


 そこだけは片付けている玄関から部屋に続く廊下には、畳まれたミツリンの箱、ハコ、はこ。

 差出人は様々(・・)で、中身は売ってしまったり、ありがたく使わせてもらったり。


 一日中スエットでも、外出するときにはシャワーを浴び、髭をそり、きちんと着替える。

 とっくの昔に昼夜逆転した生活では、太陽を見たのもン年前だけれど、そこそこ栄えた都市部なら、コンビニも、二十四時間営業のスーパーもあるのでなんとか生活はできている。

 ・・・朝九時から昼一時のタイムセールはチラシで見るだけだけれど。


 仕事? も順調である。


 アレ(・・)を仕事と読んでいいなら。


 ○≡


 ぴりりりり、ぴりりりり、ぴりりりり♪

 デフォルト設定のままのスマホ、いやあの頃はまだケータイが鳴ったのは、普通の仕事についている人間なら遠慮してかけてはこない時間帯だった。


「~~さんの携帯ですか?」

 非通知の相手の第一声は、こちらの確認だった。

「そうですけど・・・」

 ~~さん。その呼び方で俺は、自分のやらかしに思い当たった。


 ブログだ。

 今も時折更新しているブログの連絡先は、初めて立ち上げたこともあって、メールアドレスの下に電話番号を書いてしまっていた。


 消そう消そう、とはおもっていたんだけどなぁ。


 『HTMLで作るなんとやら』とかいう本を見ながらポチポチとキーボードを打って作ったブログは、立ち上げから時間か経つにつれ一定の操作でしか使わなくなり、最初期にはわかっていたはずの情報の直し方は、調べないとできなくなってしまっていた。


 その結果が、この怪しい電話、というわけだ。


「なんの御用ですか?」

 自慢じゃないが俺のブログの訪問者カウンターは回っていない。作った時に張り切って桁を増やしたのが恥ずかしくなるぐらいに。

 目的であった自作小説の連載をやめてからは、ぽつりぽつりと自バレしないように近況を報告しているだけなので当たり前だが。


「お仕事をお願いしたいのです」

「えっ?!」

「あー。違います、違います。そっちじゃないです」

 五十音の四番目一文字に思わず込めてしまった期待───ついに才能が認められ物書きで食っていける?!───を敏感に感じとり、すぐさま訂正する相手。


「・・・そうなんですか」

「はい。申し訳ありませんね」

「それで、仕事の内容なんですが」

 心底、心の底からすまなそうな雰囲気を言葉に込めつつも話を進める相手はやはりプロなのだろう。


 告げられた仕事? の内容は・・・


 ○≡


「こちらの指定するスレッドに参加し、特定の立場に立った意見を書き込んで下さい」

「はい。結果としてその意見が主流にならずとも構いません」

「最初に~~円を。スレッドが一段落した後にハンドルネームをお伝え頂き、こちらで確認した後問題なければ最高四倍お支払致します」

「四倍っ?!」

「はい。前払いで二割、後払い八割です。審査は緩いと思っていただいて結構。さすがに一行二行では困りますが、その場合でも後払いゼロ円はありません」

「な、なんで?」

 そんなに? は声がかすれて言葉にならなかった。

 最低でも、と。提示された金額は二千円。掲示板に行ってちょちょっと書き込むだけで一万円もらえるとなると、嬉しさよりも怖さが込み上げてくる。


「・・・テレビCMと番組制作費に国内最大の自動車会社がいくら使っているか御存知ですか?」

 たっぷり間をとった後にゆっくりと聞かれた質問は、俺を落ち着かせるのと同時にもう半分納得させていた。


「約四千億円。日本全体では実に一年で八兆円が広告費として使われているのです」

 俺の答えは桁すら合っていなかったが。


「そのほんの一部分があなたの懐に」

「フトコロに」

「約束はひとつだけ。依頼されていることは誰にもバレてはいけません。話すのも、見せるのもダメです。まあ、依頼さえ秘密にしてもらえれば、書き込んでいるところは怪しくもなんともありませんがね」

「はい」

「では、最初はこのスレッドに。この商品は御存知ですか?」

「はい」

「良かった。どうしても知らない商品についてだと的外れが生じますからね。ああ、その場合は断っていただいて構いません。その場合でも前金はお支払致します」

 ひゅっ!

 あまりの好条件に喉が鳴った。


「今回は肯定的な意見を書き込んで下さい。不自然にならない程度に」

「わかりました」


 次の日。


 俺の伝えた、使っていなかった銀行口座はきっちり五桁残高を増やしていた。




 半年後、俺はそれまで勤めていた会社をやめた。灰色ではあるもののほとんど(ブラック)なくそみたいな会社だった。


 パソコンは新しくなったし、ケータイはスマホになった。

 更新の止まったブログはサーバーの管理会社の解散と共に消えた。


 非通知の電話は。


 まだ、かかってくる。


 そして。


 あの案件がきた。

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