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テレビマン

「うーん。どれもありきたりよねー。なんかこう、シナジーがおこらなそう。ローンチに発展させようって気概が感じられないわ。みんなこの会議のアジェンダは理解してるのかしら? コミットをはたしてくれないと、アサインは無理よ。もっとナレッジを積んでちょうだい。コンセンサスな、フィックスが得られなかったからリスケ。バッファがいつまでもあると思わないで。次こそはエビデンスのあるプランを聞かせてちょうだいね」


 かちゃり(ドア閉じ)、からの~、はぁぁぁ(大ため息)


 しょうじき、なにいっているんだか、はんぶんもりかいできない、かいぎ(くそ上司)おわ(出てい)った。

 いそがしい、ぎょうむのあいまにくろうしてつくったきかくしょは、どこがどう、という、してきもなく、きゃっかされた。


 つまりは、やりなおし、である。


「と、とりあえず、いっぽん、いっときましょう」

「そ、そうだな」

 ほうほうのていで、かいぎしつからはいだした、ジブンたちは、このかいしゃ、ゆいつの、オアシスへとむかった。


「ふぉぉぉぉぉ! 生き返るぅぅぅ!」

 押し合いへし合いするように大きなガラスのはまった扉を開き、胸ポケットのソフトケースから取り出しくわえた一本の先っちょで、ジッジッと百円ライターに灯った火を胸いっぱいに吸い込んで、ぶはぁ! と分煙テーブルの許容量を超える煙を吐き出す。


 かしゅっ!


 ブラック、微糖、ミルク入り有糖、ミルクのみ、とやたらとコーヒーだけは種類がある自販機が吐き出したのは、燻製───タバコの煙でいぶ───され、表面がやや茶色いロング缶。甘すぎて、飲めば飲むほど逆に喉が乾くと言われる代物だが、疲れすぎて変換キーの場所さえわからなくなった脳内の(かす)みを払うにはちょうどいい。


「あー。効きますね、これれれれれれれ」

 ・・・タバコをやらないAD=アシスタントディレクターのアダッチーくんには刺激が強すぎたようだ。焦点の合わなくなった視線で口の端からよだれを一筋足らし、語尾を再現なくのばしている様は、まるで薬物○毒患者のようだが。


 安心してください。


 脳内麻薬です。


 ○≡


「はー。お花畑が見えましたよ。天然の青い薔薇の咲いた」

・・・(セツコ) ・・・(それ) ・・・(この世や) ・・・(ない)

 セツコって誰だ? 

 どうやら自分も相当やられているようだ。

 目の前のADはアダッチー、自分、自分は・・・、村藤(むらふじ) (つかさ)だ。・・・自分の名前を思い出すのに時間を有するあたり、大丈夫そうではないが、普段ディレクター、またはDとしか呼ばれないから仕方ない、としておこう。

 

「いやー、しっかし。プロデューサーの言ってる事わかりました? オレ、さっぱりでしたよ」

 テレビ関係者はよくわかんない事を言ってると思われることも多い。古くは銀座をザギン、寿司をシースー、六本木をギロッポン、綺麗所のお姉さんをチャンネーと呼び、「ザギンでシースー食ってからチャンネーのいるギロッポンで飲もうや」なんてのはもうアダッチーには通じないだろう。

 ・・・それ以前に手取りが減った上、コンプライアンスが厳しくなって経費で落ちなくなった今ではもう、寿司どころか飲み会に誘うのも難しい。


「ようは、だ」

「はい」

「チョーリツ、視聴率のとれる企画を持ってこいってこった」

「え!? んなコトいってました?」

 しきりに首をひねるAD。

 正直自分も、半分も理解できない横文字のオンパレードだったが。


 上役の言うことなんざ、自分が入社してからこのかた、変わったことがないのだ。


 ○≡


 会議室が会議室なら、喫煙室は第二の会議室だ。

 前者が禁煙、飲食不可であるのに対し、後者が喫煙可、コーヒー飲み放題(有料)、軽食可、さらに───これがもっとも重要だが───最近健康に目覚めたらしい上司が寄りつかないとなれば、どちらが優れているかは論を待たないだろう。


「いいとおもったんですけどねー。『オカルトをマジで調べてみた(仮)』。ありきたりって言われちゃいましたね」

 タバコをやらないアダッチーが自販機から取り出した菓子パンをパクつきながら、資料をペラペラとめくる。

 パワポ大好きなくせに資料は紙一択の上司だと印刷、コピーも手間だが、パソコンがなくても参照できる利点はある。


「なぁ」

 とかく、上の人はオリジナリティ、フレッシュネス、ディファレンシエーションと言うが。

 ラジヲ放送が開始されて百年。テレビですら七十年の歴史を重ねた今、独自性があって新鮮で斬新で、他と差別化できるようなアイデアがあるだろうか?

 人間の、しかも凡人の思い付くものなど似たり寄ったりだ。

 しかも今の世にはチューバーなる個人配信者が存在している。会議も経ず即断即決できる彼らにアイデア競争を挑んでも勝てるはずもなく。


 それで────。


「オカルト現象をその道の権威が分析! 九九パーセントの、の。・・・これなんて読むんですか?」

(ふるい)

「ふるいを突破する、真の神秘は現れるのか! いいと思うんですけどね?」

「なぁ」

 チューバーに足りないもの、こちらが勝負して確実に勝てるのは社会的信用だろう。

 まあ、そんなにされているわけでもないが、さすがに個人事業主よりかは、株式会社、しかも有名会社の方がアポを取るのも、面会するのも容易い、と信じたい。


「そんで。ケッキョク、再提出なんですよね?」

「まぁな」

 もしかしたら、もしかするかも。

 ・・・今まで没った企画を持っていったら通るやも・・・、いやいやそこまでバカじゃ、いやワンチャン・・・。


「いっそ、頼んじゃいますか?」

「そういう訳にもいかんだろう」

 アダッチーの手にはスマホ。画面には特徴的な再生マーク。パクり、ダメ、絶対。

 ならどうすればいいかというと、彼が言ったように頼む=「使わせて下さい」と許可を取ればいいのだが。


「ですよねー。無駄にプライド高い人多いですもんね」

「そう言うな。彼らにとっては飯のタネなんだから」

 すんなり許可をもらえるなんてのは滅多にない。あたりまえである。彼らはそれで再生数をかせぎ、人によっては収益化しているのだ。

 

「アレ、いっちゃいます?」

「アレかー。・・・最終手段だな。まずはもう一度考えてみようや」

 アレ=著作権フリー、ではないが似たようなモノ、だ。唯一オリジナルなんてのは真似すればすぐばれるが、コピーにコピーを重ね、いわゆる誰もがやってるネタ、なんてのは元がどこだかわからなくなってしまっており、誰からも文句がこない。その分、初見の衝撃は薄いが、それだけ真似されたという実績が、面白さの裏付けはある。


「もういっそ、あの会議そのまま流しちゃうのはどうですかね?」

「かえっておもしろいかもな」

 ニコチンもカフェインも糖分も、消費されれば無くなる。

 元々夕方の会議後に始まった打ち合わせは。

 深夜のテンションに移行していった。


 ○≡


「あんた達、ホントにダメねぇ」

「ワータクシがイグザンプルを示してあげるっ、わ!」

「最近、チュー、いや、とある界隈のホッットピックを」

「その業界のオーソリティーにアナライズしてもらう」

「題して、『超常現象をシリアスリィでインヴェスティゲーション、っよ!』」


「い、いんヴぇ?」

「インヴェスティゲーション、んっよ!」

 無駄によい発音がかえって癇にさわる、プロデューサーの提示してきた案は。


「「おもいっきり、パクリじゃねーか!」!!」


 と。


 心で思って口に出さないのが。


 この業界でうまくやる(コツ)である。

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