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チューバー、やめてみた

 何事も、無計画ではいけない。


 これは人生における一つの真理と言っていいだろう。人生設計という言葉が表しているとおり、人間、思いつきで行動してはいけない。さりとて、考え過ぎて “機” =何かをするのに最適なタイミングを逃してもいけない。

 つまりは、常日頃から計画し、想定し、機会がきたならば、速やかに実行するのが大事なのだが───


─── そんな事ができていれば、人生勝ち組であり、人は皆適当かつ勢いで生きている(個人的見解であり、諸説あります)。


「・・・すみません」

 土下座、しかもゴスロリ土下座である。

 深々と下げられた頭とは反対に、パニエに支えられた短めのスカートが高々と上がり、お尻方面から見たらとんでもないことになっていそうだが、幸いそちらには誰もいないし、・・・反射してしまうような鏡なんかもない。


「いえ」

 いきなり生配信されたのには驚いたが、どちらにしても、遅かれ早かれこうなっていただろう。


 ポチポチとスマホでふひ子で検索すると、まず検索に引っ掛かるのは藤原忯子(ふじわらのよしこ)だ。平安時代の貴族で、花山天皇が出家する原因になった女性だそうだが、なんでやねん ?! 「ふ」しか、あっとらんやないか! ・・・と、思わず関西風のツッコミを入れてしまうAIの回答後に表示されるのが変更前のアバターだった。


「壁越えの人だったんですね・・・」

「か、壁・・・?」

 土下座からひょこん! と復帰してお座り状態の首が、こてん! と倒れた。


 ・・・V、U。どちらのチューバーにも越えるべき壁がある。

 まずは、認知の壁。どんなに面白い? ことをしていても、見られれなければないのと同じ。キャッチーなサムネとかで見つけてもらうことが一枚目の壁だ。

 次に興味の壁。動画を開いて最後まで見てもらう。サムネと内容があっているか? 視聴者の嗜好に寄り添っているかなどが問われる。

 三枚目は信頼の壁。ファンの壁と呼んでも差し支えないだろう。チャンネル登録してもらえるかは、もう運だ。発見され、配信内容が好みなだけでもほぼ奇跡(個人的見解、諸説あり)な上で、さらに定期的に見たいと思ってもらえるとは。

 そしてチューバーに立ちはだかる最大、最強の壁が、推し化の壁。ドストレートに収益化の壁と言ってもいいだろう。登録者数一千(四桁)、十二ヶ月で視聴四千時間という分厚く、高く、見上げれば天まで続くこの───キン○ダムでいうところの国門、函谷関みたいに───もはや城とさえ表現できる壁を越えられえる人はほんの一握り、日本なら約八千万人いる投稿者全体の十パーセント、つまり八百万人しかいない(あれ? 

結構いるな?)。


「か、壁ってなんです? ふひっ」

 ・・・まあ、これこそ無計画で個人チューバーを始めた場合であって、事務所に所属していれば開始時点で登録者数が千越えしてる=壁を知らない、感じないってのは十分にあり得る。


「それで、これからどうします?」

 メイクのせいで年上か下かもわからないが、チューバーとしては先輩だし、なんなら収益化達成者(上位的存在)ですらある。

 自然と敬語になるのは致し方ない。


「わ、わたしに考えがあります!」

 ふんす! どうやら、フランソワ ヒンデンブルグ氏は、配信停止後も待っていたファンに力をもらったらしい。


「なら大丈夫ですね。少し残念ですが」

 ただでアバターが手に入(さえめんどくさい)らなくなったの(ことにこれ以上)は残念でしかないが(関わらなくていいし)


 ぐいっ。

 立ち上がった俺の足が重い。心理的に(気のせい)じゃなく、物理的に(掴まれて)


「なんですか、俺もう帰りますから、帰らせてぇ!」

「一人だけ逃げようって、そうはいきませんよ。ふひひひひっ!」

「考えがあるんでしょ ?! 放して下さいよ!」

「まあ、放してもいいですよ。二分の一の可能性デスしね!」

 あっ! こいつ左右となりに突撃するつもりだ。

 そう悟った俺は、逃走を諦め。

 紅蓮の炎に身をさらすことにした。


 ○≡


「こ、これはそこ。そ、それはその上・・・」

 今回の配信は壁紙を使わず、生壁でいくそう。

 モニターを見つつ指示するフランソワ、───いや、もうふひ子でいいや───に指示されつつ、俺が積んでいるのは食料品である。

 ・・・なんでこれが炎上対策になるかはわからないが、一応、ペットボトルの水も箱である。


「ごー、よん ・ ・ ・ ()

 なんかこう、こだわりなのだろう。

 昨日と同じ時刻に始まった生配信に映っているのは、ふひ子、旧バージョン(髪色パープルグラデのみ変更)である。


「み、皆さん、こ、こんばんは! ふひっ」


『はじまた』

『戻った』

『あれ、髪切った? じゃなくて髪染めた?』

 パタパタと手を振るアバターにコメントが寄せられる。


『ん? 背景が』

『変わってる』

『事故じゃないよね?』

 いきなり昨日の件を聞いてくる人はいないようだ。

 というか、元々質問等はマネージャーが間に挟まるワンクッション制=直だと精神的にきつすぎるだったそうで、事務所がなくなったいま、窓口から新設しないと、だそうだ。


『はい、心機一転配信を再開したわけですがここでお知らせです実は』

 緩・急と言えば聞こえはいいが、ぽつぽつしゃべるのと、句読点もはさます喋り倒すのの二種類しかないのはどうなのか? 特に今後の質問先などを説明するなら滝のようにではなく、まだぽつぽつの方が良いと思うんだが。


『相変わらずで草』

『動画再生回数が稼げるという』

『何回も聞き返すからね』


 うん。どうやら訓練されたリスナーのようだ。編集版には質問先の字幕をつけよう。

 

「はいそれでは今日の配信を始めますついに入手世界の終わりじょーほー!」


『は?』

『いきなりなにを?』

『昨日の事故どこいった?』


 これがふひ子の秘策、──普通に火消しに走っても消えないから、もう爆弾を投げ込んでみよう── である。


「ソースはとある筋。極秘にニュース、じゃなかった入手した入手、じゃなくてニュース」


『噛み噛みで草』

『わかりやすい動揺』

『爆弾消火なのにスケールがでかすぎる』


 うん。読まれてるけど。


「この資料、とある週刊誌の編集部のゴミ箱から・・・ふひっ」


『極秘とはなんだったのか』

『ああ、だから背景が食料』

『ひー、ふー、みー。量が世界崩壊にぴったりなの、芸が細かい』


 そうだったのか。


 どうなるか、と心配だった炎上も、新マネを雇った=俺の事と、爆弾発表、いや、発表したのは隕石? 小天体? にて今のところ下火のようだ。


 そう。新マネ。


 この際、スパットチューバー家業から足を洗った俺はマネージャーとして再出発することにした。

 チューバーに未練がないと言えば嘘になる、のが真っ赤な嘘だが、要はあれだ。履歴書うんぬんを書かなくて良いならどうでも良いのが本音だ。


「はあぃっ。この、ご、極秘資料の内容が本当なら、ご、五月の中旬に世界、ち、地球がなくなりますっ!」


『なんでちょっと嬉しそうなのかw』

『ゴールデンウィーク後ならよし』

『マジか。ちょっとコロッケ買ってくる』


 給料は歩合。


 って言うかぶっちゃけ低いらしいが。


 あと二ヶ月ほどで。


 世界が滅ぶなら十分だろう。

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