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チューバー、やってみた

「では、今日はこの辺で」

 笑顔? で、両手を振ってスマホのカメラをオフにする。

 そして貯めに貯めた息を吐き出す。


「あ~~~、もう! あぁぁぁぁっ!」

 頭を抱えながら。


 ○≡


「ぐぅ」、とは。

「ぎゃふん!」よりかは使われる言葉だろう。

「ぎゃふん!」が言わせてやるのに対して、「ぐぅ」は出ないことを期待されるが。


「同時接続()、高評価()、低評価()、再生数(10)・・・」

 自分で確認した分は再生数に含まれないらしい。

 つまりは十人(二桁人)は見てくれたわけである。

 ・・・ある。


「そりゃあさー! ガンガン数字がとれるとは思って無かったよ! 顔ばれ怖いからサングラスとマスクだしさー! そんなアラサーの、お兄、この際認めるけど、おっさんが二番煎じのネタを真似したら低評価ぐらいはつくと思うでしょ? 現実はこうだよー!」

 ごろごろと部屋中を回転したいが、以下略。

 パタリ! と。うつぶせでも、かろうじて持ち上げていられた膝から下が床へと落ちた。


「時代はもうー(トンガリ)なんだよなぁぁぁぁぁ! (マル)じゃなくてぇぇぇぇぇ!」

 復活した膝から下がパタパタパタッと床を叩く。

 集合住宅住まいとしては、壁ドン! ならぬ天井ドン! されないか心配にならなければいけないが、無用である。

 なぜなら、独身者向けのワンルームマンションの住人は、平日は会社や学校に通っていて無人なので。


「さすがにスマホ、しかも型落ちじゃバーチャルは無理だろうし、初期投資もばかにならんのよなぁぁぁぁ!」

 集合住宅住まいとしては、以下略。

 近所迷惑この上ないが、叫ぶのも無理はない。何しろバーチャルチューバーになるには、ピンキリとはいえ零から二百万以上の初期費用がかかる。

 ピン=零なのは手持ちのスマホが高スペックでかつ無料のツールを使い、自分でモデル=アバターが作れる場合であり、そのあとにパソコン、高性能パソコン、アバター外注、USBマイク、コンデンサマイク、専用ソフトとキリを目指せばそれこそきりがない。


「収益化を目指すんなら三十から七十万必要って・・・」

 検索していたスマホからガックシと顔ごと目をそらす。

 収益は欲しいが、金は使いたくない。

 なぜなら、かけたところで確実に儲かる保証なんてないから。

 サングラスとマスクのおっさんが、バーチャルな美青年になったところで、配信内容が代わり映えしなければ、有象無象に埋もれるのは目に見えている。


「バズるノウハウもないし、せめてアバターごと機材がどっかに落ちてないかなーって ?!」

 一旦、目をつむってリセット。

 再度確認し、目には良くないが、ごしごしと(こす)ってみる。もちろんまぶたの上から。

 再度、いや再再度確認。


「なん、だと・・・」

 モパン族のキノコのようにネットでいくら調べても、もう一種類が出てこないモノもある。今回のように『バーチャル』『アバター』『機材』『無料』『あげます』などと検索欄に入力したとて、結果はAIがしゃしゃり出てきて、なんかそれらしい文をでっち上げるだけだろう。


 ・・・よっぽど運が良く? なければ。


 ○≡


「はぁい、はい・・・。ぜんぶ無料です・・・ふひっ。・・・もう使わないんで」

 不要品掲載サイト、連絡先メールアドレス、を経て。

 詐欺か、・・・やっぱりサギ(思い付かないが他の)かと思いつつも、無料の二文字に引かれて───それでもせめてもと非通知でかけた───電話先の人物は、犯罪とは無縁の人物だった。

 なんか、こう。なんと表現すればいいのか。

 二言目、三言交わしただけで相手が善人か悪人かわかるはずはないのだが、大丈夫そうな。

「・・・」

「あの・・・」

「は、はいっ?!」

 ・・・犯罪者に必要なモノ、例えるなら人を騙そうとする熱量がない。


「アバターを機器ごと譲っていただけると聞いた、いや、サイトで見たんですが・・・」

「・・・はい。お・・・」

「お?」

「送ってもいいですけどできれば取りに来てほしいっていうか、ホントは部屋にいれたくないんですけど配線がはずせないですし切っちゃダメらしいんですよねこれ? こ、梱包? もよくわかりませんしもう勝手に持っていってほしいんですです!」

 ポツリポツリから一転、立て板に水、どころかもう板が関係ないぐらい垂直落下の滝のようなトーク。

 しゃべるのに慣れていないのは、ぜーぜーぜーと息を切らせているのがスマホから聞こえることからもわかる。


「そうですか。とはいえ、取りにいくとなると」

「そうですよね、ご迷惑ですよね・・・」

「いえっ! ほら住所によるというか」

 そのままフェードアウト(通話終了を押)しそうな通話をかろうじてつなぎとめる。


「ああ。じゃあ住所を順番に言いますね・・・モームリって思ったらストップって言って下さい」

「はい」

 欲しい。ほぼ詐欺じゃないと判明した今、のどから手が出るほど欲しい。

 とはいえ、自家用車も持ってないこちらの運搬手段は最大、自転車の荷台である。

 どうやら手渡し希望の理由はコンピューター音痴のようで、最悪、自分が行って梱包すればいけそうではあるが、それも近県であればこそだ。

 地の果て、とまでは言わないまでも、送料に特別料金がかかるぐらい遠くなら、泣く泣く諦めないといけないだろう。


「で、ではいきますよ・・・ふひっ」

 アバターを譲るぐらいだ。元Vチューバーの可能性は十分にある。

「まずは・・・○○県」

 配信すれば盛り上がるかもなー、と思える雰囲気で告げられ始めた住所は。


 最後まで途切れることはなかった。


 ○≡


 ドアを開ける。

 鍵を閉める。

 横移動する。

 チャイムを鳴らす。


「はーい。あれ?」

 モニター付きのインターフォンに画像が映るのは、カメラのある場所、この建物の場合はエントランスから部屋番号を打ち込んだ時だけだ。


「こ、故障・・・?」

 オートロックを何らかの手段で突破し、直接ドア横のチャイムを鳴らしたなら音だけなり、マイクが起動するが、当然、それは故障ではない。


「故障じゃないですよー」

「と、盗聴ぅ?!」

 もちろん、盗聴でもない。


 お隣だったとは・・・。


 住所確認後、訪問時間を「いつでもいいです」と言った出品者も、まさか通話終了後すぐにピンポンがなるとは思ってもみなかっただろう。


「み、ミツリンは頼んでないし、う、うーヴぁ? いや、あれは怖いし、ほか? ほか何があったっけ?」

「パソコンですよー。受け取りにきました」

「ひぅっ?!・・・え、エスパーぁ?」

 ・・・心が読めるわけでもない。

 ただマイクが拾った独り言? が駄々もれなだけだ。


 絶対、配信の切り忘れとかやってそう。

 ・・・それも、大して盛り上がらないたぐいの。


「とりあえず、開けてもらえませんか?」

「は、はいぃぃぃぃっ?!」


 いや、そんなに驚くところだろうか?

「いつでもいいです」と言ったのは、あっち

なのに。


「ち、ちょっと、いや、けっこう待って、待って下さいぃぃぃ!」

 ドタバタ、まではいい。

 それにズダン! が加わると、とたんに心配になる。


「・・・五分後、また来ますね」

「ごっ? じゅ、十分、いや、十五、いやいや、二十分下さいぃぃぃ!」

「わかりました」

 ・・・その時はエントランスから鳴らそう。

 部屋に戻った彼は。


 心にそう誓った。

 

 



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