チューバー、未満
無職になって初めてわかる、給料日のありがたさ。今になれば、貯金額、もしくは総資産はRPGでいうところのHPだと思う。それも結構ダメージがインフレしたゲームの。
一月に一回。
かけられていた回復魔法、しかもたぶん上位のそれがなくなると、どうなるか?
こうなるのである。
「ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤいバ!」
一日、もしくは一週間に一回、貯金通帳、ならぬスマホの銀行の画面を見て独り言をさけぶようになるのだ。(個人差はあります)
「ヤバヤバヤババババァ! ・・・なんでこうなった?」
会社都合による退職だったので、一週間後からもらえた失業手当は完全に罠だった。
働かずとももらえるお金が、どれ程簡単に人を堕落させるかは、体験した人間にしかわからないだろう。
当初、百円を使うのさえためらった金銭感覚は、時が経つにつれ働いていた頃に戻り、明日書こう、明後日書こうと買った履歴書は包装のビニールのうっすらとホコリが積もり、定年退職ではなかったとはいえ、それなりの額が振り込まれ、まだ大丈夫と自分に言い聞かせていた貯金額は十ン万単位で毎月ダメージを受け続けている。
・・・RPGではよっぽどインフレしたゲームじゃないと見ない桁数で。
「って、現実逃避している場合じゃないんだよなぁぁぁぁ!」
部屋中をごろごろと回転したいところだが、時間ができたら片付けようと考えていた室内は、なぜか元のまま。
そう。原因は時間のなさではなかった。
ならなにか? と問われれば “やる気” と答えるしかないだろう。
どんなに忙しくとも、掃除が行き届いた部屋に住んでいる人もいるのだから。
「ひー、ふー、みー、よー・・・」
何度数えても、割り算の結果は変わらない。
総資産を家賃、固定費、食費、雑費の合計で割ったのが生存可能ヵ月だ。
節約してもたいして伸びないのに、贅沢したとたんに短くなる日数は、歩いただけでHPの減る毒の沼地のようだ。
「働きたくないでゴザル! もういやでござそうろう!」
運、会社ガチャの引きも悪かったのだろう。卒業して一社目では、そこがホワイトかブラックか判断もつかない。
「パワハラ野郎の部下になんて戻りたくない! 休日に呼び出されるなんていやだ! 何で夜中にケータイがなるんだよ! そもそも就業時間が終わったらケータイは会社に置いてくもんだろ、支給品なんだから! 残業代払えばいくらでも働かせられるわけじゃないんだよ! 資格が必要なのに勉強は家でしてね、ってなんだよ! 社内資格だから再就職には使えないし! 朝一って就業開始時間から営業いれんなよ! 移動時間は残業無しって只働きじゃないか! 昼休みは昼休みで予定いれやがって! 相手が昼しか応対してくれないのはわかるし向こうの休みがつぶれるのもわかるけど、何で「遅くなりましたが、一緒にどうですか」ってお誘いを「午後の予定ありますんで」って断らなきゃならないんだよ! そのままさらっと予定組んでるんだよー!」
パタパタパタと布団を叩いていた両足が、パタン! と止まった。
「また、おんなじなのかな・・・」
目を、自分でも濁ったと感じる目を閉じれば、いくらでも寝れる。
起きてもすることは、しなくてはいけないことはない。
寝てる時だけが幸せだった。
・・・幻のケータイのバイブ音で毎回飛び起きるけれども。
○≡
「そうだ、なんとかチューバーになろう」
そう考えた自分の頭はもうまともではなかったのだろう。
なんとかチューバーになろうとする人がまともじゃないと主張したいわけじゃあない。
白い犬の尾が白いのは当たり前だけれど、尾が白い犬がぜんぶ白いとは限らないのと同じことだ。
「とにかくもう。人付き合いはいやだ」
なんなら、人=リスナーと付き合わないとやっていけない仕事である。
「四六時中、仕事ばっかり考えるのはいやだ、いやなんだ」
なんなら、いつもアイデアを考えなきゃいけない仕事である。
「残業はいやでゴザル」
なんなら、一番裏の作業が多い仕事かもしれない。今見ている映像だって、膨大な編集時間の賜物である。
「いまさら、もう。履歴書なんか書きたくない」
これは正解。事務所に応募するならともかく、個人で始めるなら履歴書、ジョブカード、スキルシートはいらない。
「えーと、UとVがあるのか。違いはなんだ?」
そこからである。
ある意味結果は見えていた。




