スーパー店員
普段、お使いのスーパーに裏の顔があるのは皆様も御存知だと思う。
今日はそんな普通目にしない部分を追っていきたい。
まずは出勤しタイムカードに打刻する。ブラックな職場だと、「制服に着替えてから押せ」なんて言われるらしいがここはセーフ。
それでもダラダラと着替えるわけにはいかないので、速やかに上着をはおったら事務室、ではなく、その前の廊下に集合。・・・机の並んだ室内に、全員並べるスペースなどないのだ。点呼はせずにチーフが軽くチェックし、全員そろっているか確認。
舌打ちしないところを見るに、今日は問題無いようだ。
九時オープンの七時閉店=一人が一日中働くいていた昔ならともかく、閉店時間がどんどん遅くなった今ではシフトは必至だ。
朝出、昼出、夕方出。
さらにパートに、繁忙時の人員増加などがあると自分が何時に出社すればいいか分からなくなるのにもうなずける。
・・・退勤時間は不思議と間違えないのだが。
髪色、ネイルのチェック。
品出しの時に邪魔になる、なんだったら商品に傷がついてしまうネイルはともかく、髪の色なんかは、髪型と違いどの色だってどうでもいいと思うのだが、やっぱり黒、または黒に近い茶までしかダメなのだという。
理由はクレームが入るから。
別に品出ししている人間の髪が、赤でも青でもレインボーでも売っている物に影響はないはずなのだが、世の中には、つまんないことに電話代と時間を費やすヒマ人が多いらしい。
「そろそろ、うちも導入しましょうよ、アレ」
「あれはあれで手間がかかるらしいぞ」
アレとはあれ、最近見かけるようになった液晶画面の値札である。その名もズバリ、電子棚札、略称ESLというらしい。
メリットはPOSシステムと連携した一括管理、つまり開店前にちまちまと特売、値上げ品の値札を張り替える、実際には透明なプラスチックの間にはさんである値札の上にかぶせる手間が省ける。
デメリットは───
「あれ一体いくらすると思ってるんだ」
───初期費用の高さか。
あったり前だが液晶=電子機器である。
「一枚千円以上するらしいぞ」
「そうなんですか」
ここみたいな中規模スーパーでも品数は一万を超えるだろう。単純計算で一千万以上だ。
「それに無線設備に、切り替えの時のバイト代、故障したら探して交換せにゃあならんし、何年かに一回は電池もかえなきゃあならん。停電したら使えないし」
「でも、変えましょう!」
ふんす! とばかりに鼻息荒く提案してみる。
「・・・お前が払うわけじゃあないもんな」
「そうです! あ、なにするですか!」
ガタッ!
落ちてきたチョップをかわした拍子に値札をはさんだ透明プラスチックの長い板が外れた。
ちなみにこれはそのものズバリ、プライスレールと言うそうだ。
本来なら固定されるらしいレールも、経年劣化でゆるゆるで、たまーに一列ずれてクレームの原因になったりもする。
「・・・まずはこっちからだろう」
「そですね」
値札が外れるぐらいならいいが、いや良くないが、商品ケースの温度管理ができないのが一番困る。
皆様も一度はご覧になったことがあるのではないだろうか?
『棚故障によりご迷惑をおかけし申し訳ありません』と髪が貼られた空っぽの棚やアイスクリームのケースを。
あの片付けに比べれば、開店前に値札を直すぐらいは、楽な仕事である。
「腰いたい。しゃがんだり立ったりがきつい」
「黙ってやれ!」
食品加工や、レジ打ちをのぞけば、スーパーの仕事は品出しに始まり、品出しに終わると言っていいだろう。
あとはお客様対応。
・・・正直、仕事のリズムがくるうのでほにゃららなんだが、応対しないわけにもいかない。しかもスマイルで。
「はい。どうされました?」
「これなんですけど」
お客様が差し出してきたのはパックご飯だ、三個パックの。
「箱だと何食入りになります?」
「確認してまいりますね」
八パック、二十四食入りか。
「じゃあ、八箱下さい」
「はちっ!? いえ、少々お待ち下さい」
特売、いやそんなセールはなかったはずだ。
「お車ですか。手伝いますね」
お客様と一緒に四往復、三点六キロと言えども四往復はそこそこキッツい。
「これなんですけど」
お客様が差し出してきたのは袋ラーメン五食いりだ。
「箱だと何食入りになります?」
「確認してまいりますね」
なんだ、今日は。六袋だから・・・。
「三十食ですね」
「六箱下さい」
「ろくっ?! いえ、少々お待ち下さい」
特売、いやそんなセールはなかったはずだ。
「ちなみにお名前が小池だったり・・・」
「はい?」
「いえ何でもないです」
味噌、塩、醤油、二箱ずつ。
入り口まででいいと言われたが、商品置きっぱなしだと無用のトラブルが生じる危険があるので見張る。
「これなんですけど」
四食、一パック、ちょっといいカレー。
「箱だと何食かですね? 確認してまいります!」とは口が裂けても言わない。
お客様の機嫌を損ねていいことなど何もないのだ。
「十食入りですね」
「なら、四、いや、五箱下さい」
「かしこまりました」
もう、驚かない、例えカレーを二百食爆買いされても。
「あ、パックご飯」
そうですね。カレーにはご飯が入りますよね。
「一箱に三パック入りが八つ。二十四食入りとなります」
「なら、八箱で」
「・・・足りませんよ?」
「そこは、ほら、バラで。パスタにかけてもいいし」
バラ! ・・・箱買いが続いてすっぽりと抜け落ちていた。
パスタかー、今度やってみよう。
三・六キロ×十三箱。
「お運びしますね」
「お願いします」
こ、腰が。
「なあにへばってるんだ?」
「かくかくしかじか」
退勤時間が過ぎても休憩室でへばっている私に声をかけてきた、バイト仲間に今日起こったことを伝えると、コトリと目の前に缶が置かれた。
「いくら・・・」
「そこまでがめつくねーよ。飲んどけ」
カシュッ! とプルタブを起こし、グッと缶を傾ける。
ドロッとしたのど越しのこれは・・・。
「売れ残りの塩汁粉! 本来ならホットなのになぜかつめたーいのヤツ!」
「ああ。好きなんだ」
なん、だと?
冬でさえたぶん売れないであろう代物を、あえて塩分補給と銘打って夏に販売し、ある意味記録的な売り上げを叩きへこましたこれを好むヤツがいるだと?
「しっかし、箱買いかー。二ヶ月ぐらいなのはなんか意味あんのかな?」
三パックのご飯×八つ入り×八箱=百九十二食。
五食一袋のラーメン×六つ入り×六箱=百八十食。
4パックのカレー×十個入り×五箱=二百食。
一日三食───いや、そればっかり食べたりしないだろうが───そう考えればだいたいどれも二ヶ月でなくなる計算が成り立つ。
「あと二ヶ月で世界が滅びたりして」
「そりゃあ、大変だ買い占めときゃな」
・・・世界が終わるまで毎日塩しるこを飲む男爆誕。
「でもまあ、大丈夫だろ?」
「その根拠は? ああ」
彼の視線の先には。
オイルがショックならと買い占められ。
新型のウイルスがパンデミックならと買い占められた。
白いロール状の・・・。




