第3話「遅刻遅刻〜」
遅刻遅刻〜じゃ!
ワシは起き上がって制服に着替えたのじゃ。制服はどの学部でも同じなので、見分けはつかんかもじゃが、リボンの色で学部が違うのじゃ。
小等部は黄色、中等部は緑、高等部は青、大学部は黒、大学院部は赤じゃ。
ワシは大慌てで寮の廊下を走るのじゃ。走ってはいかんのじゃが、この際そんな事を言っておる場合ではないのじゃ!
寮から出て学園へと向かい、すぐさま四階へと登っていくのじゃ。階段を曲がり、少し息を整えとった時じゃった。
「遅刻遅刻〜!」
女の子の声が聞こえたのじゃ。口にパンを咥えたその子はワシにぶつかると転ぶのじゃ。
「ふぉめんなふぁい」
とりあえずパンを口から離せよのう。ぺこりとお辞儀をして去っていく緑色の髪の彼女を見ながら、ワシも遅刻する事を思い出したのじゃ!
なんとか間に合ったのじゃが、朝ごはんを食べてなかったのでお腹が空くのじゃ。
すると休み時間に、ルナがお弁当を開けて少し食べさせてくれたのじゃった。
「少しだけですよ、私のお昼なので」
そういえば、朝寝過ごしたせいで寮の食堂に行けなかったのじゃ。ジーナは大丈夫じゃろうかのう?
それをルナに聞くと、朝、食堂で厨房を借りて弁当を作る時にジーナと会って話をしてくれた事を言ってくれたのじゃ。
それを聞いて安心したワシじゃったが、ワシ弁当作ってないので、どうすればよいのか聞くのじゃ。
「基本的に食堂では料理を作って貰えますよ。ただ安く済ませたい人が朝早くにお弁当を作らせてもらうんです」
なるほどのう。ワシは少しだけ空腹感が和らぎ、次の授業にもついていけたのじゃった。
昼休みになり寮の食堂に移ったワシらはジーナの姿を探すのじゃ。
「コン先輩!」
ジーナがとてとてと歩いてくるのじゃ。
三人でどこかに腰掛けようかと思っておった時じゃった。隅の方で何か揉めておるのじゃ。
「さっさと金を返してよ。あなたこの前も延滞したでしょ」
「バイト代が入ったら返すから!」
どうやら今朝の女の子が困っておるようじゃ。
「あんたさぁ、自分が魔王だって自覚あるの? 踏み倒す気じゃないでしょうね?」
「そんな……ちゃんと返します!」
ワシは助け舟を出すのじゃ。
「その子が借りた金はいくらじゃ?」
「な、何よ、あなた」
「いいから教えておくれ」
聞いた金額はワシでも払えそうだったので、立て替えてあげるのじゃ。
女子生徒たちは去っていき、女の子は礼を言ってくるのじゃ。
「ありがとうございます! この恩は返しますので!」
「構わん構わん。困っておるのじゃな? ワシでよければ話を聞くぞい。ワシは狐依コンじゃ。お主、名前は?」
「グーシャって言います。お父さんとお母さんが怪我で働けなくて、今メイドカフェでバイトしてるんですが、なかなか足りなくて……」
彼女の後ろに一匹のゴブリンがついてきとるのじゃ。なるほどのう。
「話はわかったのじゃ。ある程度ならワシが金を貸すわい。ずっとは無理じゃし高額な金額は無理じゃが、返せる時に返したらよいのでのう」
「ほ、本当ですか? ありがとう、コン君!」
青いリボンじゃから高等部じゃが、別クラスなのでいつもは助けられないのじゃ。緑色の瞳の彼女を助けられる時に助けたいと思ったワシじゃった。
四人でテーブルに着くのじゃ。ワシはカレーうどんを頼んで啜るのじゃ。ルナ、ジーナ、グーシャはお弁当じゃった。
「ジーナちゃんよ、イジメはなくなったかのう?」
ワシはジーナに尋ねるのじゃ。
「イジメはなくなったけどある噂が……」
噂じゃと? 根も葉もない噂など気にしても仕方のない事じゃがのう。
「コン先輩の恋人だって噂が」
ワシはカレーうどんを吹き出して咳き込んだのじゃ。
「そんな噂聞きませんけど?」
ルナが尋ねるのじゃが、ジーナは首を横に振り言うのじゃ。
「ルナ先輩は高等部ですから。中等部で噂になってるんです」
それを聞いて難しい顔をしたルナじゃが、グーシャが聞くのじゃ。
「それでジーナちゃんはどう思ってるのかな? コン君の事」
「……と、友達です!」
今は未だ、という言葉をこっそり言ったのを聞かなかった事にして、話を進めるのじゃ。
「では否定しつつイジメをなくさねばならんのう!」
ワシらは早めにご飯を食べて三階の中等部に向かうのじゃ。そしてワシは神の声を使って中等部に響かせるのじゃ。
「よく聞け中等部の皆よ、ワシとジーナちゃんは友達じゃ! その友情からワシはこの子を守るのじゃ! この子に文句のある者は直接ワシの所へ来いよのう!」
ワシはこれだけ言うてから、ジーナに話したのじゃ。
「何かあったら何でもワシらに言うておくれよのう!」
「ありがとうございます、コン先輩」
ワシらはジーナと別れ高等部の階に上がったのじゃ。
「コン君は優しいな」
不意にグーシャが言ってくるのじゃ。
「また食堂で!」
グーシャが手を振り別れるのじゃ。ルナは黙っておったのじゃ。
「次は地理、歴史の授業じゃな」
「はい……」
何やら考え事をしておるようじゃ。
ワシは席に着き、教科書を探すのじゃ。あれ? ないのじゃ……忘れたかのう?
「ポッポー先生、ワシ教科書忘れたようじゃ」
歴史の鳥依ポッポー先生に正直に話すのじゃ。
「では隣の人に見せてもらってください」
ワシは転校生なので、一番後ろの席じゃ。隣にはルナがおるのじゃ。
「しょうがないですね」
「申し訳ないのじゃ」
ワシはルナに机をくっつけて教科書を見せてもらうのじゃ。
「ここはこうですよ」
ワシのノートを覗き見て指摘してくれるのは有難いのじゃが、近い近い近いのじゃ!
「ル、ルナよ? 胸が……」
「当ててるんですよ」
これはどういう事じゃ? 脈アリという事でいいのかのう?
ワシは終始ドキドキしながら授業を受けたのじゃった。
ドキドキするのじゃ!