第12話「選択肢」
噂が立っておるのじゃ。じゃが、ワシは選べんのじゃ。
ワシはジーザスと別れ体育館へと向かったのじゃ。そこには元気よくコートを駆けるグーシャの姿があったのじゃった。
ワシが見とれておると、グーシャがこちらに気づいて手を振るのじゃ。
ワシも手を振り返すと、グーシャが他の人に挨拶して抜けてくるのじゃ。
「コン君早起きだねぇ」
ニヤリとしながら言うのじゃ。
「他の者とは上手くやっとるのかのう?」
ワシは応えずに、質問するのじゃ。それには頬を掻きながら苦笑いするグーシャじゃ。
「何とかなってるんだけどね。ある噂が立っちゃって……」
嫌な予感がするのじゃ。
「あたしとコン君が恋人だから手を出すなって……」
またそれかのう?
「ワシ……選べんのじゃ」
「え?」
だってのう! 皆可愛い子ばかりじゃ! ルナは清楚じゃし、ジーナは優しく守ってやりたいし、グーシャは引っ張っていってあげたいし、テンカはその胸に飛び込みたいし、アカミには胃袋掴まれとるしのう。ジーザスは……いやこれ以上は言うまい。
するとグーシャがふふふと笑って言ったのじゃ。
「じゃあ選ばれるように頑張るね」
頬にチュッとキスをするグーシャじゃ。ワシはきっと顔が赤くなっとったわい。
「コン君、あたしちょっとでもリードできたかな?」
やられたわい。ドキドキして止まらんのじゃ。
「じゃ、じゃあ行くね。なんかあたしもドキドキが止まらなくなっちゃった」
コートに走って戻っていくグーシャじゃった。ワシも校舎へと向かうのじゃ。
教室に向かうとルナがドアの前に立っとったのじゃ。
そしてワシの顔を見てハッとしたのじゃった。
「キスマークなんて頬につけて何をしてるんですか、コン君」
洗い落とすのを忘れておったのじゃ。
「もう! 不純異性交遊です! 洗い落として来てください!」
ワシは慌てて洗い場に向かうのじゃ。そこにはテンカが顔を洗っておったのじゃ。汗をかいておる姿は色っぽかったのじゃ。
「お、コン君か」
ワシは慌てて頬を隠したのじゃ。
「何だい何だい? キスマークくらいで照れるなんてウブだねぇ」
「違うのじゃ。ワシお主には誤解して欲しくないのじゃ」
「え? それってどういう……」
「正確にはお主らには、じゃ。まだ誰かを選べんのじゃ」
「そういうことね、なら簡単よ」
何じゃと? 簡単なことがあるのかのう?
「誰も選ばなければいい」
ワシはガクりとしたのじゃ。
「もしくは全員を選べばいい」
ワシは膝をついて崩れ落ちたのじゃ。
「それが許される、それがこの世界だよ」
それでいいのかのう?
「地球校がどんな価値観か知らないけどね? それをここに持ち込むのはナンセンスだよ」
でもワシは……一人を選びたいのじゃ。
「ふふふ、困ってるね。最終手段として持っておいてよ。おいで」
ふわりと手を引かれテンカの胸に飛び込むワシじゃ。
「あたしもこれでも感謝してるんだからね。コン君の恋人って噂が出たおかげで嫌がらせを受けなくなったんだから」
またそれかのう? それにしてもテンカの胸は柔らかかったのじゃ。顔が埋まるのじゃ。
「あたしの前ではいっぱい甘えな。それがあたしにできる恩返しさ」
ワシはその言葉に甘え、テンカの背中に手を回し、グリグリと頭を胸に押し付けるのじゃ。
「やれやれ甘えん坊さんだね」
「甘えろと言うたのはお主じゃろ」
「ふふふ、そうだけどさ?」
ワシは離れて、頬のキスマークを落とすのじゃ。
「じゃあ、あたしは着替えてくるから、また食堂でね」
ワシとテンカは別れて、ワシは再び教室に向かうのじゃ。ルナはドアの前でずっと待っとったようじゃ。
「落としてきたようですね。それにしても遅かったですね?」
苦笑するワシじゃ。まさか見られとらんよのう?
と、ここでちょっとトイレに行きたくなったのじゃ。ワシはルナに中に入っておるように言ってトイレに走るのじゃ。
スッキリして教室に戻ろうとすると一人の神が立っとるのじゃ。
狐の女神じゃった。髪は前髪を斜めに左目を隠した形じゃ。それは髪色は違えどジーナの物と同じ髪型じゃった。
「よかった。間に合った」
明らかに慌ててるようには見えんのじゃが、何かに間に合ったのかのう?
「コン先輩、あなたが選ぶのは私だよ」
「……お主は誰じゃ?」
「狐依ジーナ。未来の私」
「何じゃと?」
狐依ジーナはワシの手を彼女の胸に当ててこう言ったのじゃ。
「絶対私を選んでね!」
そして手を離し教室に入っていったのじゃった。何だったんじゃ一体?
未来って、SFかのう? ここは異世界のはずじゃが、SFの世界に紛れ込んでしまったのかのう?
わけが分からぬまま、教室に戻ったワシは授業にも身が入らんと上の空で先生の講義を聞いとったのじゃった。
昼、食堂で話そうか迷ってやめたのじゃ。不安を煽るような事を言ってはいかんと思ったのじゃ。
ジーナには未来のジーナ、狐依ジーナがおるのじゃ。幻かもしれんと思ったのじゃが、あの胸の感触は本物じゃ。何故かは知らんが、ワシと同じ狐の神になるようじゃ。
この秘密はどこまで維持できるかわからんのじゃが、ワシはわかっておったのじゃ。
きっとまた会うじゃろうことをのう。
未来のジーナ、狐依ジーナじゃ。また会うじゃろうのう。