夏の濡れ髪が好きだった
夜風が涼しい夏の夜。
風呂上がりの濡れ髪姿でベランダに出る。
胸元まで伸びた髪。
あの頃の私の髪は首元にあった。
左隣。
あなたが隣にいる夏の濡れ髪が好きだった。
手すりに寄りかかり目を瞑る。
遠くで聞こえる電車の音。
どこかで夏祭りでもあったのだろうか。
楽しげな笑い声と一緒に水風船をはじく音がする。
ああ、そうよ。
重たい髪の毛をあなたの指先がいじる。
その時間が好きだったのよ。
風が吹き、私の髪が少し乾く。
この心地よさをあなたと分かち合いたかった。
触れてくれる人がいないから自分で触れるのよ。
夏の濡れ髪。
夏の濡れ髪はここにあるのにあなたはいない。