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52 ゴリラがウホッ!

 白い毛で目の赤いゴリラ。

 凶暴そうに牙を剥き出し、問答無用で襲いかかってくる。


 野生の軍隊か。びっくりするほど数が多い。

 頭が火山のように尖っていて中央が空いている。そこから煙を出し続けている。

 怒った時に頭から煙を出す表現をしているようだ。シュールだが、そういう種類の生き物なのだろう。


 数も相まって、周辺はすぐに視界が悪くなる。


 俺はすぐに『身体起動』で宙に浮いたから直接の戦闘はせずに済んだ。


 他のメンバーはバラバラに移動しながら、戦っている。


 1匹1匹が強い上に、数が多い。これは逃げるが吉だ。

 もしかしたら、縄張りに侵入されて怒ってるだけかもだしね。


 下の方でジャンプして俺に手を伸ばす個体が数体いるのを眺めながら、移動を開始する。肩車でもして手を伸ばしてくるかもしれない。急ごう。


 ぷかぷか浮きながらとりあえず、煙のなさそうなところまで退避する。


 

 少し先まで飛んでいったところで、木の高いところに着地し、魔法を解除する。


 さーて、どうしたもんかね。


 参加者はみんなそれなりに魔法戦闘が得意な人たちが集まってるわけだから心配ないとは思うけど、一応怪我人とかいないか見て回った方がいいかな?



感覚(センス)』→《五感強化》→「視覚」



 魔法で望遠鏡のように、視覚を伸ばして辺りを見回す。

 

 ゴリラたちのいた方は、煙でよく見えない。


 どこかに誰かいないかな……。


 数人参加者を見つけ、大丈夫そうなのを確認する。


 それから、俺は見慣れた姿を見つけた。


 俺はその方角へ『身体起動』を使って飛んでいった。


「エビィー! イェーモ! 合流できてよかった!」


 オーマンさんが今朝言っていたように、俺たちは力を合わせて進むべきなのだ。

 今回は個人でどうにかしなくてはいけないという決まりもないようだし、このまま一緒に行けばいい。


「おうww。無傷みたいだなwww。お前、飛べるんだもんなwww。そりゃ逃げやすいわwww」


 さすがと言ったところか。二人もハプニングに動じている様子もない。


「さっきのゴリラ……参加者たちが襲われて怪我してたら可哀想だし、見回って助けてあげた方がいいかな?」


 相談を持ちかける。

 派閥は別で、試験ではライバルかもしれない。


 けど、試験に無関係な事故のようなことで困っていたら助けてあげるべきなのかも。


「その必要はねぇだろwww」


 イェーモが補足する。


「多分だけど、これも試験の一環だよ。突然周囲に【フンゴリサン】、白いゴリラが現れたよね。その直前に人工的な光が見えたのを覚えてる? 多分、『召喚魔法』……つまり『転移魔法』で獣をわざと呼んだんだと思う」


 それは思いつかなかった!


 俺は感心してしまった。


「とにかく、俺らはさっき説明されたようにこの《メオト ノ シシン》を使って、本拠地を目指すべきだなw」



 いや〜。それにしてもなんだか懐かしいなぁ。

 3人で歩きながら、俺はちょっと楽しくなっていた。


 エビィーとイェーモと山の中を歩くのは、これが初めてじゃない。俺がこの世界に転生したときのことを思い出す。あの時は何もわからなかったけど、二人に町まで連れてってもらったっけ……。


 自然に詳しいこの二人は、サバイバルをするなら一番に連れて行きたい仲間だ。

 一家に一台! エビィー&イェーモ!


 特にイェーモは生物博士だ。

 道中色々と聞けそうだ。


 道すがら、俺はさっきのゴリラについてイェーモに聞いてみる。


「あの白いゴリラって、なんの生き物なの? フンゴ……なんたらって」

「あぁ……。【フンゴリサン】ね。色は違ったけど、頭から煙を出してたし多分そうだと思う。山に集団で生息する凶暴な獣だよ。本来はもっと茶色っぽい地味な色をしているんだ。瞳も赤くないしね」


 白い体毛に赤色の目。

 俺の頭に一つの単語が浮かぶ。


「アルビノかな? 色素が生まれつきないっていう」


「そうだろうなww。けど、あれだけの数いて、全部アルビノってのは不自然すぎるよなww」


 アルビノ。突然変異や遺伝の関係で色素が作られずに、真っ白になる生物のことだ。有名なのは白ウサギやヘビ、それから実験用のマウスなんかがある。


 マウスのアルビノは人工的にわざと作っていると聞いたことがある。

 ざっくりというと、アルビノの個体だけを使うことで遺伝的なばらつきを減らして、個体差によるブレで実験結果の誤差を少なくするようにしているとかなんとか。


「さっきの【フンゴリサン】たちは、誰かが用意したって考えるのが妥当だろうね」


 それはなるほどですね。



 しばらく歩いてから、イェーモが尋ねた。


「ずっと聴いてみたかったんだけど、君がシェリアンヌ様のところにいる理由は何?」


 突然よくわからない質問だ。

 何を今更だろう……?


「そんなの、シェリアンヌちゃんやオーマンさんの力になりたいからに決まってるよ。二人だってそうでしょ? それにイェーモたちが俺を誘ったんだったよね? それがどうしたの?」


「……そ、そうだったね。うん、そうボクらが誘った。ボクたちも二人の力になりたいって思ってる。それは本当」


 エビィーが小さな低い声で、イェーモの名前を呼ぶ。

 これからの発言を止めようとするかのように。


 けれど、イェーモは会話をやめようとしない。


「オーマン様も……多分、あんまり深く考えてないんじゃないかな。シェリアンヌ派として選抜で爪痕を残したら立場が少し良くなるってなんとなく考えてるだけなんだよ……。でも、ボク思うんだ。ペトリカーナ様が党首になったら、そんなの意味ないって……。きっと、オーマンさんたちのことを全力で排除するって」


 俺も深く考えてなかった。というか考える担当じゃないし。

 だから、この選抜でシェリアンヌ派として活躍すれば、なんか良くなるんだろうくらいの気持ちでいた。


「言われてみればそうなのかもだね。とすると、立場をいい感じにするならシェリアンヌちゃんが党首になるしかないってことだよね?」


 少しの沈黙の後、イェーモは途切れ途切れに言葉を口にする。


「無理だよ……。本当にあの幼い女の子にいますぐ党首を継がせるなんて現実的だと思う? いや……今すぐ継承するのか、だいぶ先の話なのか……分かってはいないんだけど……でも、多分だけど、ジニアオルガ様がこの時期に突然党首継承権を決めるのは、じきに誰かに継がせるつもりだからだと思うから……」


 ゴニョゴニョと歯切れが悪い。


 けれど、その次に言った言葉は、明確な意思を持って発された。


「とにかく、力のあるクロード様のところに行って、クロード様たちに庇護してもらうのが一番だと思う。

 だから、ルナット、「 二人を守るため、クロード派に乗り換えない 」?」


 思いもかけない誘い。

 でも、イェーモは彼女なりに二人のためになる最善を選ぼうとしているのだ……。


「クロード派についてるガウスマン様は、頭のいいお人だよ。権力もある。今は変な噂のせいでしばらくオーマン様たちを助けたりはできないけど、本来は二人に同情的なんだよ。あの人を味方につけるのが一番……


 だから俺も、ちゃんと答えなくちゃいけない。



「エビィーもイェーモもクロード派に行って、二人を守ろうって思ってるんだ。それもいいと思う。でも、俺は残るよ」


 作戦があるわけでもない。理由だってはっきりしない。

 けど、ガウスマンおじさんは、いざって時、二人を助けてくれないだろうから。


 俺は、もっといい未来を探したい。

 きっと大きな派閥に入ったら、がんじがらめになって動けなくなりそうだから。



「そっか……そうだよね」


 イェーモは寂しげな笑顔をした。その本当の理由は俺にはよくわからない。



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