51 三次試験開始!!!!!!!!!!!!!
【 選抜 第3日目 開始 】
ついに3日目だ。シェリアンヌ派の塔の中で、朝食を取れるスペースがあるが、そこに集まる仲間もだいぶ少なくなったのを、なんというかしみじみと見ていた。
俺、メイさん、オーマンさん、シェリアンヌちゃん、エビィー、イェーモ、それから新しく仲間になったブーデン。昨日まではこの倍はいたと思うんだけど。
俺は悲しくも残念でもなかった。
だって、人数が減った分、本当に信用できる仲間が揃ったって感じがしたからね。
一番に席について、人がやってくるたびに朝の挨拶をしていった。
「おはようメイさん! いい朝だね!」
「おはようございます。今日は一番乗りですね」
爽やかな気分だ。
「おはようブーデン! おはようオーマンさんとシェリアンヌちゃん!」
「う」
「おはよう……朝から元気いっぱいね」
オーマンさんは眠そうに目を擦っていた。
少し遅れて兄妹もやってくる。
「おはようイェーモ! あ、おはようエビィー! 相変わらずヘラヘラした顔だね!」
二人は俺を見て一瞬固まる。
しかし、それからいつもの調子でエビィー。
「お前は相変わらずのアホヅラだなwwww」
それから、ブーデンの方を見てもう一度固まる。
「…………誰?」
エビィーたちは昨日帰ってきたのが遅かったから、ブーデンの紹介をできなかったのだ。
「彼はブーデン! 新しく俺たちの仲間になったんだ!」
物珍しそうにしているイェーモ。ヘラヘラとしているエビィー。
ところが俺の紹介が気に入らなかったみたいでブーデンは訂正を始める。
「オデは確かにブーデンっていうだ。けど、オメーらの仲間になったんじゃねぇ。オデは、ここにいるメイさんの親衛隊になったんだ」
えへんと腰に手を当て、ドヤ顔である。
「なんだ。シェリアンヌ派じゃねーのかww」
「シェリアンヌ派? 違う。オデはメイさん派だ」
「マジかwwwww」
愉快そうに笑うエビィー。「そっかww! んじゃ、とりあえず部外者ってことだなwwww」と言って、ブーデンを片手で担ぎ上げ、外に出そうとし始める。そこそこ重そうなのに、相変わらずの力持ちだ。俺が感心している横で抵抗を試みるブーデン。
「ちょ、ちょっと離すだ!」
エビィーの肩の上でジタバタもがくも脱出ならず。
見かねたオーマンさんが助け舟を出す。
「ま、まぁ、とりあえず、私たちに協力してくれるのよね?」
ところが、どっこい。
ブーデンときたら。
「いや、オデは正直者だから言っておくけど、メイさん以外のために動くつもりは………………離せ! 再び担ぎ上げようとするな! この「筋肉ダルマ」め!」
ブーデンはとにかく否定から入るタイプのようで、空気を読まない男のようだ。
どうでもいいけど、俺は思い付いたことを隣のメイさんに話さずにはいられなかった。
「ねぇ、エビィーを「筋肉ダルマ」というんだったら、ブーデンは「しぼ……
「しーっ。ダメですよ、ルナット様」
騒がしい朝だった。
シェリアンヌちゃんは、気にする様子もなく一人で朝食をとっていた。
ご飯を終えると、三次試験のための簡単なミーティングを行なった。
オーマンさんが話し始める。
「今日はテオファルドの案ね。テーマは[臨機応変さ]ね。その場の判断力とかを問われるような試験のはずだわ。……彼はいつも何をし出すか、予想がつかないわ。今回の試験、何かとんでもないことになるかもしれない……」
テオファルドかぁ……。昨日の食事会も二番煎じ感凄かったしなぁ……。
それでも食事会の体を成していたのは、ギルファスの使用人たちの奮闘のおかげだろう。
きっと、彼は「いざ尋常に食事会を開く! ものどもやれぇー!」とか命令しただけに違いない。
この数日で確実に分かったことがある。そう、彼はなんというか、とても残念な人だ。
そこで俺は、おそらくこの場にいる誰もか思っているであろうことを口にした。
「あいつに、試験の運営とかってできるの? 」
テオファルドの試験だなんて、どんなかしれたものじゃない。
いきなりアミダクジで決めるとか言い出すかもしれない。なんなら一発ギャグをして、面白かったら合格とかもあるかもしれない。
[臨機応変さ]だもんなぁ……十分ありえる。
俺はミーティングが終わったら密かに、一発ギャグを考えておくことにした。
「どうも、彼はあの人に……党首ジニアオルガさんに頼ったみたいよ。スタッフの手配や、仕掛けは全てあの人がやってあげたみたい。ただ、口出しはしていたみたいだから、おかしなことになりかねないのよ」
イェーモがここにきて初めて口を開いた。
「でもさ。それって、テオファルドにとって党首継承にはすごくマイナスだよね……。自分で試験を作る実力がないっていうようなものだし。党首様はどう思ってるんだろう……」
「どーせテオファルドが当選することはねーって思ってんだろwww。試験がまともに行われない方がヤバからなwww」
そうだ……。
それも不思議な話だ。
だって、そもそもテオファルドにも、それからシェリアンヌちゃんにも継がせる気がないなら、クロードとペトリカーナの一騎打ちにでも決めてしまえばよかったのに……。
あんなバカな次男でも、党首にとっては可愛いのかもしれない。初めから権利を剥奪するのではなく、公平に競わせてダメなら納得もしやすいだろうし。
バカな子ほど可愛いとかいうもんね。
ブーデンが口を開く。
「そういえば、さっき外歩いてた時、他の参加者が話してんの聞いたんだけどな……。なんかな、テオファルド様、今日いないみたいなんだ」
「いない?」
別にお飾りのテオファルドがいなくても問題なさそうだけど、この選抜の期間にいなくなるとはどうしたんだろう。
「なんかな、昨日夜、執事の人に酷いことをしたっていうんで、クロード様に殴られて、わざわざ夜中に実家まで謝りに行ったらしい。多額の慰謝料を払うとかなんとか」
執事の人というのは間違いなくセルドリッツェさんのことだろう。
クロード……直接話したことはないけど、ギルファス家の割に性格がまともな長男だったよね。メイさんの事前の入れ知恵のおかげで覚えていた。
確か赤髪で、炎の剣振り回してた人だ。
セルドリッツェさん、振り回されて可哀想だったもんなー。テオファルドはいい気味だ。
クロードよ、よくやったぞ。
エビィーは「やっぱあいつダメだわwwwwwwww」と、ヘラヘラと笑っている。
彼はいつでもヘラヘラ笑っている。
一方、オーマンさんは驚いている。
「夜中に……。クロードは選抜で昼間も大変だったのに……。あの子達大丈夫かしら……」
すっかり忘れていたけど、オーマンさんはクロードやテオファルド、それからあのペトリカーナのお母さんでもあるんだった。
オーマンさんがシェリアンヌちゃん以外の子供たちのことも心配しているのを見て、ちょっとほっこりした。
イェーモはもっと現実的なことを考えている。
「セルドリッツェさんの実家……ニース家本家は確かに比較的ここから近いけど……それでも片道数時間かかるから……。もしかしてクロード様は試験を辞退するつもりなのかな」
というか俺はギルファス家側のクロードがそもそも選抜試験を受けるのがよくわからなかった。必要ないんじゃないのかな? 腕試し?
結論、テオファルドがどこまでもバカ野郎この野郎なことが十分すぎるくらいよく分かった。
オーマンさんが脱線した話を手を叩いて戻す。
「とにかく。私から伝えたいのは、ルナット君、エビィー君、イェーモさん、あなたたちはできるだけ力を合わせて欲しいということよ。恥ずかしいし情けないけど、私には力がない。力がないばっかりに、ペトリカーナに印象操作でいいようにされて、シェリアンヌの人たちが離れていってしまった。シェリアンヌ派は悪目立ちしてしまってる。だから、他のところから……特にペトリカーナ派から狙われると思う。けど、たった3人だけど、あなたたちはとっても頼もしい。だから、きっと3人で協力すれば突破できるわ! そして、お願い……無事に戻ってきて」
やっぱり、さっき思った通り、このチームで良かったと感じた。
苦労人のオーマンさんを安心させてあげたい。か弱いシェリアンヌちゃんが伸び伸びできるようにしてあげたい。
それこそ、俺にできることが何かはよくわからないけど、とにかく試験くらい突破してやろうじゃないの!!
空気を読めない男、ブーデンが「協力って言っても試験内容は個人技かもしれま……」言いかけたところでメイさんがニコニコ顔でブーデンの口をふさいだ。
ブーデンは幸せそうな顔をしておりやがりました。許せん……。
◆◆◆
「行ってきます」を言って、試験を受ける俺たち3人は集合場所へ向かった。
ペトリカーナが俺だけでなくメイさんを狙ってると聞いて、心配だけど、ブーデンがメイさんを守ると言ってるので、まあ任せるしかないよね。正直かなり不安だけど……。
オーマンさんは心配していたが、昨日の二次試験の時や食事会の時ほど俺たちに向けられる奇異の視線は少なかった。あっちこっちでは色々と噂話が話されていた。
ブーデンが話していたように、テオファルドの噂が多かった。
ペトリカーナが食事会で生首を持って現れたなんて話もあった。同じくペトリカーナが仲間の一人を殺傷したとかも。
クロード派が結局安定、みたいな流れだ。
俺たちシェリアンヌちゃん派なんかは、あまり気にされていない。
なんかそれはそれで、悔しい。
集合場所でロズカと顔を合わせた。
昨日ドーマから、ざっくりと事情を聞いているので、ロズカはロズカで頑張ってるんだと知ってる。
ロズカなら信用できるから、本当だったらシェリアンヌちゃん派の仲間になって欲しいけど、ロズカの目的のためにいたくもないペトリカーナの元にいるのを邪魔しちゃいけない。
一言、「お互い頑張ろうね!」と手を振っといた。
集合時間になって、係の人が会場を「移動する」と言い出した。
流石に参加者も減って、わかりやすく少なくなった。
俺は、道中試験で突然振られるかもしれない一発ギャグのネタを考えていた。
布団が……ふとん……太もも……太ももが……フット揉んだ!
……いやだめだ。こんなんじゃあ、足りない……!
よく見ると、クロードも参加者の中に姿があった。夜中にわざわざ遠出したらしいのに、徹夜で戻ってきたのかな……?
お疲れ様ですな。目の下にはクマがあった。
少し移動した先で地面に魔法陣が描かれているところについた。
魔法陣に数人ずつ入ってはスタッフの先導者の人が起動して参加者を転移させていった。
転移されていくとき、顔がこわばってたりソワソワしている参加者もいた。
なるほど、魔法陣を使って転移するのは初めての人には少し怖いかもしれない。
けど、俺は余裕だった。自分でも転移したことがあるし、1ヶ月くらい過ごしたメイさんの家、つまりアウスサーダ家の屋敷では転移魔法陣で広い屋敷を移動する仕組みがあったからね。
どこまで飛ばされたのかわからないけど、森の中だった。
周りには針葉樹が生えている。気温もさっきより急に低くなった。標高が高いのかもしれない。
目的地点に辿り着くと、スタッフが説明を開始した。
「19人全員集まりましたね。これから三次試験を開始していきます」
イェーモが疑問を口にする。
「あれ……?参加者はきっかり20人になるようにするって、昨日二次試験で言ってなかったっけ……?」
「そういえば言ってたような」
親切にも、スタッフの人が補足をしてくれる。
「参加者のお一方は、昨日テオファルド様に暴行を加え、失格になりました。いくらテオファルド様から絡んだからといって、手を挙げたのは愚かなことです」
スタッフの説明者は淡々と説明する。
テオファルドのフォローしているつもりなのかもしれないけど、それってテオファルドが先に原因作ったってことだよね……。
ひたすらに恥を上塗りし続けるバカ次男。
「説明を続けます。まず二次試験同様、皆様の位置や会話、視覚情報をこちらで把握するため耳に同じ【魔法器具】をつけてもらいます。昨日同様これらを体から2メートル以上離したら不合格となります」
スタッフは耳につける【魔法器具】と、それから何かしら入っている袋を参加者に配る。
袋の中を覗いてみると、食料と水の入った容器……それから、これは方位磁針?
「そして、二つ目のルールは屋敷のある場所まで辿り着くことです。皆様に配った袋の中には《メオト ノ シシン》という方位磁針のような装置が入っております。こちらは常に屋敷のある方向を示すようになっています。それを用いて移動してください」
サバイバルってわけだ。なんだかワクワクしてきた。
「ルールに関しては以上です」
昨日よりルールが断然わかりやすくて、俺は安心した。
これなら質問をたくさんしなくてすみそうだ。
テオファルドの試験だからと身構えていたけど、なんだ普通じゃん。
落とし穴くらいはあるのかもしれないけど、楽勝楽勝。
「それでは、今から試験を開始____
言い終わる前に、周囲で眩い光が発生する。
獣の雄叫び。
鳥の鳴き声……。
張り詰めた空気が、明らかにただ事ならない事態が到来したことを知らせていた。
茂みの方だ……!
獣の声。攻撃的で、周りを取り囲むような。
木々の間から現れたのは周囲から白い毛をした、瞳の真っ赤なゴリラの集団だった。こちらに敵意を持って牙を剥いて駆け寄ってくる。
「「 散らばってください! 」
さっきまでの冷静な語り口をしていたとは思えない、スタッフの緊迫した声で、緊急事態だということがわかった。




