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49 しつこい三銃士

 ドーマと別れ、俺たちの部屋のあるシェリアンヌ塔に戻ろうとした矢先だった。


 どこかからこちらを伺う気配がした。

 ちょうど、俺たちの帰りを待ち構えているみたいに。


 多分、あの辺の茂みに隠れてる。


 「出てきな! 隠れてるのは分かってるんだぜ?」とかって言って、格好つけてもいいんだけど、こういうときは先制攻撃したほうが手っ取り早い。


「おっとぉ! 手が滑ったぁ! 「形状その1(メン)」!!」


 俺のステッキの先端は茂みへと突き刺さる。



「うぎゃあ!! いきなりなにすんだい!」



 飛び出してきたのは、派手な身なりの見慣れた3人組。バビブベ三銃士のお三方だ。


 こりないねぇ。


「また勧誘? 何度来ても俺はペトリカーナの部下とか絶対ならないから! しつこいとモテないぞ!」


 奇襲が失敗してたじたじの3人。


「こ、こっちだってね、あとがないんだよ! ラルゴ様は何が何でもアンタを連れてこいって言うし、ペトリカーナ様は……おっかないし……」

「そうだそうだ! お子様が大人の苦労も知らないで、ちっとは遠慮しろってんだ!」


 厚化粧バーバラとモジャモジャ頭ビロンチョスが好き勝手に抗議する。


「いや、それルナットに言ってもしょうがないと思う……」


 太った小男ブーデンはなんともまともな意見だ。


「アンタはいつもハシゴを外すような事言って! しょうがない子だねぇ!」


 バーバラが理不尽に怒ってる。


 あいも変わらず、どこか間の抜けた3人組だ。この調子じゃ、最終日までしつこく現れてはあの手この手で勧誘してくるつもりだろう。


「けど、どうするんですかい? なにせ、後ろにいるあのメイド……呪いで触ろうとしたら吹き飛ばされるんだから……」

「それ、ラルゴ様に言って「バカモン! そんなわけあるか!」ってさっき怒られた……」

「けど、お前だっても見たろ!?」


 呪い……?

 なんの話だろう?


 メイさんはニコニコ微笑んでいるだけだ。


「無理でもなんでもやるしかないんだよ! 後でお仕置きされてもいいってのかい?」


 「そりゃごめんだ」とビロンチョスとブーデン。


 玉砕覚悟。ダメもとで突っ込んでくるようだ。


「そんなに嫌なんだったら、ペトリカーナの親衛隊なんか辞めちゃえば良いのに……。だいたいなんでペトリカーナなんかの親衛隊やってんの?」


 純粋な疑問だ。

 弱みを握られてるとか、家族を人質に取られてるとかでもなきゃ、あんなのの元にいようだなんて思う神経が分からない。


 バーバラは高らかに笑う。


「そんなのは、ペトリカーナ様が誰よりも美しく、素晴らしいお人だからに決まってるわ!!」



 ……はぁ…………。

 さっぱり分からん。


「ペトリカーナなんかより、こちらにいるメイさんの方がずっと美人で、その上何億倍も優しいんだぞ。どうせならメイさんの親衛隊でもやってた方が、ずっといいでしょ」


 当然のことを言ったつもりなのにバカにしてくるバーバラとビロンチョス。


「ははは! バカだね〜これだからお子様は。ペトリカーナ様は神様が作り出した最高傑作と言っても過言ではないわ。あんなに美しい人は他にいないのよ」

「そんな地味な格好のメイドがペトリカーナ様より美人なんて、アホだなぁ〜〜! ガキは高級料理よりB級グルメの方が美味しいと感じる生き物だからしょうがないか!」


 ギャハハと、厚化粧おばさんとアフロおじさんがむかつく顔で笑っているところで、ブーデンはボソッと呟いた。



「そんじゃ、オデ、ペトリカーナ親衛隊やめる」



「……えっ?」


「えっ?」


「えっ?」


 あまりのブーデンの発言に、敵味方関係なく、同じく固まってしまう。

 そして事態が本人以外に受け止めきれていないうちに、追加でこう言った。


「やめて、そこのメイさんの親衛隊になる」


 本気で勧誘したつもりはなかったのだが、まさか即断即決とは……。


「あ、あ、あんた! それ本気で……」

「ペトリカーナ様への忠誠は嘘だったのかよ!?」


 親衛隊の二人は余計に動揺している。

 そりゃあそうだろう。3人組、いきなり解散の危機だ。


「そもそもオデ、親衛隊に入ったのも二人が強引に誘ってきたからだし。それに絶世の美女のところで働けるっていうから入ったのに、だいたいはラルゴ隊長のムサい顔ばっかり見てるし」


 おっとぉ。

 これは思わぬ展開に。


「じょじょじょ冗談でしょ!? いっつもアンタはハシゴ外すようなこと言って……」

「確かに、今日のペトリカーナ様は大分おかしかったけど……新派の一人にカンザシをブスブス突き刺してたけど……だからって」


 いや、何それ。

 ヤバいやつじゃん。ペトリカーナ、やっぱりヤバい女じゃん。


「今までお世話になった。ペトリカーナ様にも、ラルゴ様にも、他の隊のみんなにも、ブーデンは新しい道へ旅立ちます」


 あら、本当に。


 他人事だと思って、生暖かく見守ってると、パニックになった二人は「お、覚えてろよぉ!」と二番煎じどころか100番煎じくらいの、出がらしな捨て台詞を吐いて、逃走していった。


 後に残ったブーデン。


「えっとぉ……じゃあ仲間になるってことでいいのかな?」


 とりあえず確認をとってみる。


 俺を無視してブーデンは、メイさんに興味深々で話しかける。


「オデ、今日からあなたの親衛隊になります。メイ様と呼ばせてくださいだ」


 そして、そこら辺に生えている雑草の花を摘み取って、ひざまづいてメイさんに渡す。


「どうもありがとうございます。(ワタクシ)、味方が少ない上に、周りから目をつけられてしまっているようなので、ブーデン様のお力添えは頼もしいです」


 にへぇ、と顔を歪ませて、目をハートにしているブーデン。


 え〜〜。頼もしいかな〜〜?

 自分で誘うようなこと言っておいてなんだけどさぁ。


 なんだか釈然としないが、仲間は多い方がいいのは確かだ。


「メイ様が危ない時は、オデが分厚い肉の壁として危険を跳ね返してみせますよ!」


 鼻息を荒く、自分の腹をたぷんたぷんと揺らすブーデン。


「まあ! どんな衝撃も受け止められそうなお腹ですね!」


 確かにクッション性が高そうだ。


 握手会でしつこいオタクを引き剥がす「剥がし」のように、ブーデンを引っ張って遠ざける。


「でも、ブーデンは確か選抜に残ってなかったよね? 3人とも二次試験の会場で見かけなかったし。親衛隊って言っても何をすんの?」


 ブーデンは誇り高く胸を張る。


「ペトリカーナ様たちはルナットを自分のものにするためにあらゆることをするつもりなんだ。だから、卑怯にも部下を使ってメイ様を人質に取るようなこともしようとしてる……。全く許し難いことだよ!!」


「え、それはまずいね! そっか……試験の最中じゃあ俺も助けることができないし、試験に参加しないでメイさんを守ってくれる人が必要なのか」


 ブーデンの説明に感心してしまった。


 ところが、


「二次試験の時は、ブーデン様が(ワタクシ)を攫おうとする側でしたけどね」


 と、初めて聞いたようなことがメイさんの口から飛び出す。


「いやぁ。その時のことは言いっこなしだ〜」


 照れているブーデン。

 おい。


 とにかく、ブーデンを仲間にするならシェリアンヌ塔に戻ってオーマンさんに事情を説明して、部屋を用意してもらおうということになった。


 部屋は悲しいかな、仲間が少ないのでたくさん余っている。問題ないだろう。


 戻る途中、たまたまセルドリッツェさんに会った。

 二次試験で負傷したのか、それともテオファルドのいびりのせいなのか分からないが、相変わらず歩くのが大変そうだった。

 

「食事会では大変でしたね。あのテオファルドのやつ、許し難いです」


 こんなに一生懸命尽くしてくれる老執事を足蹴にして、罵倒するなんて、とんでもないやつだよ全く。


「いえいえ。ルナット様こそ、わざわざ私のために反感を買うようなことをさせてしまい、申し訳ありません」


 なんというか、大人だなぁ。

 あのテオファルド(ガキンチョ)とは大違いだ。


「それにしてもそんな荷物を持って、一体どこへ行かれるのですか?」


「実は私、本日を持ってギルファス家をやめることになりましたので。今から実家の方へ戻る手筈となっております」


「いまからですか!?」


 夜も遅いというのに、ずいぶん急なことだ。

 良識人がこの地を去ってしまうのは寂しいことだが、テオファルドにあれだけのことをされて嫌気がさしたのかもしれない。穏やかなところで幸せに暮らしてほしいところだ。


「ルナット様は明日の三次試験も頑張ってくださいませ。一筋縄では行かない内容でしょうが……きっとあなた様なら、問題なく突破できるはずです。どうか正しい選択を」


 正しい選択?

 どういう意味だろう?


 セルドリッツェさんは、「最後に……」と言って付け加えた。


「テオファルド様は、味方がとても少ないです。もし、機会がありましたら、シェリアンヌ様にかけていただいているうちのほんのわずかばかしだけでも、テオファルド様にもお力をお貸しして差し上げてください」


 俺はなんて返事をしていいか答えに困った。


 なんであそこまでされても自分のことを思ってくれる人を大事にできなかったんだよ……。

 あいつは……。



 バカなやつ。




◆◆◆





 塔に戻ってオーマンさんを訪ねたが、まだ食事会から帰ってきていないのか留守だった。しばらくしてもう一度訪ねようとしたところでバッタリ鉢合わせる。


「あ、あなたたち……シェリアンヌを見なかった?」


 酷く焦っている様子。


「もしかして、迷子ですか?」


 よく見るとオーマンさん、あちこち汚れている。外を駆け回って探し回ったのだろう。


「そうみたいなの……。前もフラッといなくなった時があったんだけど、すぐ戻ってきたから気にしてなかったんだけど……」


 これは心配だ。


 派閥争いやらなんやらで悪意のある人間が周りにいる中で、一人になるのは危険だ。

 流石にあんな小さな子を傷つけようとする野蛮人は多くはいないだろうが……。


 俺たちは、手分けをして探し回ることにした。


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