46 そしてロズカは選抜へ
この国で最も政治的権力の強い家系、それがギルファス家。実質的な宰相の役割を担っている、元王族の家系。
四人兄弟の中でそのギルファス家の家督継承権を得る者を決めるための方法。現当主ジニアオルガが定めた、たった一つの課題とは、
【現当主を " 神 " に会わせること】。
" 神 " はこの世界に実在する。しかし、容易に謁見することはかなわない。
会うことができるのは、四年に一度開催される【魔戦競技】で優勝した選手、および、その同伴者二人のみ。
四人の兄弟は自分たちの騎士を選ぶために、合同の選抜試験を開催することにした。【魔戦競技】を優勝可能な優れた魔法の使い手を引き込むため。
しかしその裏では、互いを牽制し、蹴落とすための策略や根回しが行われていた。
長女ペトリカーナは頭脳と感覚、美貌、コネクションを持ち合わせた有力な継承候補であった。性格面に大きな難を抱えているものの、彼女の支持者は多い。
しかし、ペトリカーナは状況を楽観視していない。彼女と拮抗する勢力、長男クロードの派閥には、今のままでは勝てないと考えていた。
クロード自身は問題ではない。
その裏にいる、叔父のガウスマン。この男には、これから本格的に始まっていく『選抜戦』にて、最も重要となってくる " ある要素 " で決定的に負けていた。
…………だからそこ、彼女は自ら赴いて、ある人物に交渉を持ち掛けていた。
「会えて嬉しいわ。ドンソン財団渉外部部長ミンキー・ニース」
「これはね、ペトリカーナ嬢。わざわざね、こんな地にまでね、私なぞに会うためにおいでで? ご足労痛み入ります」
小走りをするがごとき早口で、言葉を射出するミンキー。頭こそ下げてはいるが、笑っていない目は唐突な来訪者を少しも歓迎していない。
「ええ。苦労したわ。だって、なかなかあなたにアポイントメントが取れないんだもの。押しかけるように来てしまったのだけど、迷惑だったかしら?」
少しも悪びれる様子もなく、それどころかミンキーが迷惑がっていることを楽しむような気配すらある。
「いいえ。それでね、どういったね、ご用件で」
「あなたにも検討はついているのでしょう?」
「私にはさっぱりで」
「あなたたちの力を借りたいの」
沈黙。
少しして、ミンキーは彼にしては重い口調で言葉を発した。
「このタイミングでドンソンがギルファス家に、力を貸すと」
近々行われる【魔戦競技】では、毎度のことながら御三家であるギルファス家、ドンソン家、アウスサーダ家から推薦選手が出場し、互いの家のプライドをかけて戦う。
そして【魔戦競技】前に他の家に助力を求める、というのはありえないことなのだ。
「あら。御三家の関係はあくまで【魔戦競技】についてのライバル関係で、本来は敵対しているわけではないと思っていたのだけど?」
決して御三家は憎み合っているのではない。ギルファスは政治、ドンソンは商業、アウスサーダは薬学医療。得意な分野も違っていて、平素であれば協力することだってままある。
しかし、ミンキーの態度には競技への対抗心以外の理由があった。
「その【魔戦競技】が問題だよね。今年はうちにとって大分苦しいことになっているのは知ってますね?」
【魔戦競技】での戦績は、御三家の人材力をそのまま表す。全国の人間が注目する一大イベントであるこの競技で、自分たちの推薦選手がどのような戦績を残すかは威信に関わる問題である。
……妨害などされれば、沽券に関わる問題である。
渉外部部長のミンキーは名前を列挙していく。
「コヴォーズ・テンニメス、ドレスゴー・マクマセル、ラブソ・リン・テケスタ……我がドンソン財団の【魔戦競技】に出場候補の主力たちが次々と不審死、失踪をしている」
じっと見据える。
目の前のギルファス家の長女を。
証拠はない。
だが、ギルファス家がドンソン家への妨害を企てたのは明らかである。
ペトリカーナは笑顔を崩さずに雑談でもするかの如く、いともあっさりと認める。
「ええ、ギルファス側の仕業でしょうね」
「あっさりと認めるのですね?」
「そりゃあそうよ。それであなたが、アタシを煙たがる「フリ」をしているのもよーく分かっているわ。
ねえ、ミンキー・ニース。ニース家の役割は、そして利益は、御三家の間の橋渡しをしてこそ達成されるのよ」
準御三家のなかでもニース家は最も権力欲が強い家柄だ。そのため、御三家にそれぞれ取り入って、パイプラインのような役割をになっている。
ペトリカーナの考えが全てにおいて間違っているとでも言わんばかりに、首を横に振る。
「お話になりませんね。勘違いされているようですがね、今の私はドンソン財団の交渉役。家の事情で動くようなことはできませんね。
それにね、ニース家も迷惑しているのですよ。新しく定められた【流魔鉱】取引にかかる高額の税金に関する法律で」
ニース家は魔力で動く【魔法器具】の製造を生業とした家系である。【魔法器具】を作る上で、魔力伝導率の高い【流魔鉱】は欠かせない、いわば生命線となる金属である。これに対して近年、取引が行われるたびに税金がかかるようにする法令が定められた。
【流魔鉱】を使わないで作る【魔法器具】の製造も研究されてきてはいるが、他の物質では機能が数段落ちてしまうのが現状だ。
そして、その法令を作ったのもまた、ギルファス家側の人間であった。
ゆえに、ミンキー・ニースがあらゆる立場においてペトリカーナの申し出を拒絶するのは至極当然のことであった。
ペトリカーナの従者であり、親衛隊隊長を自称するラルゴはそばで話を聞いていながら冷や汗をかいていた。
彼の美しい主人は言っていた。
ペトリカーナ陣営にとってこの党首争いにおいて『最大の武器』となるものを、ここで手にいれると。それがなければ自分たちの陣営の勝ちはないのだという。
しかし、ミンキーの態度は明らかに好転する気配もない。そして、彼女を拒絶する堂々たる理由が複数存在している。
確かにペトリカーナは聡明だ。彼女の成功を信じていないわけではない。それでもこうして交渉相手の取り付く島もないような態度を目前に、不安が過っていた。
ところが、ペトリカーナにその焦りはなかった。
「 だからこそ、あなたはアタシと手を結ぶしかない。でしょう? 」
「どういう意味ですかね?」
ペトリカーナは少し煩わしげに述べる。
「今あなたが挙げた理由が、そのままアタシに協力する理由だってこと。
茶番はやめましょう。ミンキー・ニース。とことん商売人ね。最終的にはアタシと手を組むことは決まっているのに、少しでもことを有利に運べないかと考えている」
ミンキーは黙っている。無視を決め込んでいるからではない。眼前の交渉相手が次に言うであろう内容に聞き耳を立てていたからだ。
「アタシの持つ、フカシ鉱山をそのままそちらに提供するわ。貴重な土地だから、こちらとしてはかなり痛手ではあるけれど」
ペトリカーナにとって、本人の申告通り鉱山を譲渡するのはかなりの損害に他ならなかった。フカシ鉱山はこの国で最も必要とされる金属、【流魔鉱】の採掘ができる鉱山である。そして、ペトリカーナにとっての一番の収入源でもあった。
商売人の目に光が走る。
「……【流魔鉱】の採掘鉱山をお譲りいただけると? なるほど、採掘したものをそのまま加工して販売するのであれば、【流魔鉱】を他から仕入れてくるよりもやり取りが少ないぶん、無駄に税金を取られることはないというわけですね」
「そして、アタシが " お財布 " である鉱山を手放せば、近いうちにこの「無駄で傍迷惑な税制」も葬られるでしょうし」
【流魔鉱】に高額の税が課されるように仕向けたのは、彼女の叔父であり、財務大臣のガウスマンであった。彼は、あろうことか、自分の支持するクロード派の最大の脅威であるペトリカーナ派への嫌がらせを目的として、法令を無理やり通したのだ。確かに彼の強引なやり方はペトリカーナの財源に損害を与えていた。
……しかし、同時にドンソンやニースに対する反感を買っていたことを、ペトリカーナは見逃さなかった。
「それから、今年の【魔戦競技】に向けて、ドンソン財団側の主力を暗殺しているのも、誰だかわかっているのでしょう? あなたたちの《耳》をもってすれば」
「……どうでしょうね」
「ああ、本当にハラワタが煮え繰り返るわ。あなたにじゃないわよ。あの男に。
ガウスマンのやつ、【魔戦競技】で自分が優勝できるように、あなたたちドンソンの手駒を減らしていってるのよ?」
「なぜ、ペトリカーナ嬢がお怒りになるので?」
「そんなの決まってるじゃない。愚かな質問をするのね、ミンキー・ニース。
だって、ギルファス家内の選抜はまだ始まってすらいないのに、目先のアタシの相手に集中せず、大会が始まった後のことを考えているということでしょう? 甘く見られたものじゃない」
そこまで聞いたミンキーは__
ニカっと歯並びのいい口を開いた。
「だから、ガウスマンにギルファス家の支配権を与えるわけにはいかない。その通りですね。
これまでのご無礼ご容赦ください。なにぶん商人なものでして、交渉ごとで初めから手の内を明かすと言うのはどうにもできない性分でして」
「許すわ。で、こちらの要求だけど__
ここまでの話をしてきていたミンキーにも、おおよその察しはついていた。
ただ、協力するにせよ、ない袖はふれぬと言うことを明示しておく必要がある。
「人手はね、お陰様で不足しておりましてね。選抜にね、参加するためのね、戦力をお貸しすることはできないのですよね」
「重々承知してるわ。表舞台に立たせるような人材は必要ないの。戦闘要員としては、一応こんなでもそれなりに期待できるの」
長女は後ろにいるラルゴに横目で視線を送る。
ラルゴはご主人様が自分に期待してくれている、と言う喜びに打ち震えていた。
同時に、以前ペトリカーナが言っていた、この跡目争いで最大の争点になってくる要素、それが『情報戦』であるということを思い出していた。
「でしたら、やはり……
「そう。あなたたちの最強の《耳》、それを貸してくれないかしら」
言い終わるや否や、扉が開く。
「……話はついた頃か」
部屋に唐突に入ってくる、青白い肌をした、手足の長い男。
目の下にはクマがあり、一切の情を持ち合わせていなさそうな冷徹な眼差しをしている。
ラルゴは、突然の来客に身構える。
体を主人と来訪者の間に立ちはだかるように挟み込み、攻撃体勢を取る。
「貴様。何者だ。このお方がどなたかご存知で__
「やめなさいラルゴ。目的の人物は彼よ」
あまりにも異様な風態の男が突然部屋に入ってきたというのに、ミンキーもペトリカーナもさして驚いた様子はなかった。ラルゴは自分だけが状況を読み込めていないことを察し、頭をかいた。
「ご察しの通り、ドンソン家ご自慢の《耳》、【悪魔】が首領ヘルメッセンです」
ミンキーの紹介に少しだけ不満げな顔をし周囲に聞き取れない程度の小声でペトリカーナは「元々アンタたちのではないでしょうが」と呟いたが、すぐにいつもの自信のある高慢な笑顔を浮かべる。
「こんにちはヘルメッセン。全て把握してるあなたには説明する必要もないわよね? 情報の悪魔、あなたにはしばらくアタシの所有物になってもらうわ」
男は何もかもを知っていた。ペトリカーナがここに尋ねてきた事実も、その理由も、そしてミンキーが交渉に応じることも。
「条件次第だ……」
ミンキーは、多少の申し訳なさを滲ませながら付け足す。
「彼らが我々に従ってくれているのは彼ら自身の意思によるところでね。残念ながら、ヘルメッセン君の意向をね、捻じ曲げることはね、できないんだよね」
ペトリカーナはこれといって気分を害した様子も見せずに条件を尋ねた。
「条件は三つ。
一つ、俺の提示した額を支払うこと。
二つ、俺のやり方に口出ししないこと」
「一つ目については構わないわ。二つ目は、どう言う意味かしら? あなたの《食事》の邪魔をしないということ?」
「……ギルファス家で行われる選抜戦。人死にが出ても自己責任とする誓約書を出す、という話だそうだな…………」
「ええ、耳が早いわね。そう、あなたにとって絶好の狩場になるわね」
【悪魔】は情報組織でありながら、人を殺すことを求める習性があるという。依頼されるわけでもなく、恨みなどの感情などでもなく。ただ、殺すことを純粋な目的として行なっているという。この話を聞いた時、その異常な猟奇性から、【悪魔】と呼ばれるようになったのかもしれないと、ラルゴは思った。
そして、法によって追求されることのない今回の選抜戦は、彼らにとって都合のいい環境である。
ラルゴは心拍が上がるのを感じていた。
(すごい、やはりこのペトリカーナ様は、どこまでも先を見据えている……。党首継承の条件を告げられた家族会議の席で、ガウスマンの暗殺癖を皮肉るように提案していた「選抜参加にあたっての生死を自己責任とする誓約書」の存在が、ここにきて交渉の後押しをしている……!)
「…………悪魔と契約するにしては安い条件ね。けれど、アタシにとって殺されるのが我慢ならない人間もいるの。
ねえ、無差別に喰い散らかして、うっかり「殺しちゃいけない人」を殺しちゃった時は……」
ペトリカーナは戦闘が得意ではない。彼女の持つ魔法は独自性が高く、優れた性能のものばかりだが、正面からの戦闘に役立つようなものは一つもない。
______けれど、ギルファスの長女、ペトリカーナがたった今、交渉相手に向けている瞳は刃物よりよく切れそうな殺傷力をもっていた。
「感情が不安定な女だな……。殺すべきでない人間を事前にリストとして渡しておけ……。それらは避けておく。こちらは誰でもいいのだからな……」
ヘルメッセンの言葉を聞いてペトリカーナは満遍の笑みを浮かべた。
「三つ目は?」
◆◆◆
ロズカはドーマに連れられて、治安の悪い北エリアを抜け、活気のある中央エリアまで移動した。
ちょうど、ドーマが言う彼の所属する情報組織【悪魔】を束ねる男がそこにいるとのことだった。
アジトにでも連れて行かれるのかと思ったのだが、連れてこられたのは小綺麗な建物のなかであった。
中にいたのは、4人の人物だった。スーツに身を包んだ短身の男、階級の高そうな女、鎧を纏った大男、この3人はドーマの所属する怪しい組織と関係あるイメージがまるで湧かない。ドーマの話によると、おばさん集団の中にも協力者がいるようだから、見た目通りとは限らないが……。
もう1人、明らかに生気のない顔、不健康そうな見た目、そして謎の威圧感。この男が【悪魔】のボスなのだろうとロズカは直感した。ドーマがわざわざ「あちらがボスのヘルメッセンでさぁ」と耳打ちしたが、やはり、と言うところだった。
男は爬虫類を思わせるような体温のない目でロズカに近づいて尋ねる。
「ロズカ・スピルツ。ローディー・スピルツの娘、ガキの癖に大した行動力だ」
見下ろされて背中に冷たいものが走る。
嫌な視線だ。
「俺から目を逸らさないとは胆力も上々」
「ホズについて、何か知ってるの……?」
「さあ。知らないな。だが……お前が知りたいことの多くを、俺は知っている」
これは、はったりではない。そうであっては困る。
この男は、今までにロズカが辿り着きたくても不可能だった、知識の領域に簡単に足を踏み込むことができる人間。
だが、一筋縄でロズカの利になるようなことをしてくれるようなお人好しなどでは断じてない。ドーマとは本質的に違っている……。
「何をすれば教えてくれる? お金なら……ある程度はなんとかする……」
「それは気にしなくて構わない。当てのない懐を頼りにするほど俺は馬鹿じゃない。それより『ブラックライン』の情報を教えるにふさわしいか見定めさせてもらう……」
驚いたことに、この男はお金について頓着を示さないようだった。
ドーマはお金にがめつかったが、この男はそれほどお金に執着がないのだろうか……?
いや、そんな甘い考えなはずがない。だが、理由はどうあれ、お金の問題は心配していたのでどうにかなりそうなのは幸いだと思った。
「具体的に何をすれば?」
「……ちょうどいい試験材料がある。今からギルファスの跡目争いで戦ってる、このペトリカーナという女の元で、選抜試験なるものに参加する。そこで力を見せてみせろ」
数歩後ろに立ってこちらを見ているいかにも金持ちそうな女をアゴで指す。
ギルファスといえば、この国随一の有力名家。その跡目争いということであれば、かなり身分の高い人物なのだろう。外見通りだ。
なぜ、そんな人間がこの場に居合わせているのか、とも思ったが、状況に適応することが最優先だと思考を切り替える。
「『ブラックライン』の情報は劇薬と同じ……取り扱い注意でな。非力な、あるいは低脳な存在に教えると、とても困ってしまう人間がいるんだ……。その人間というのは俺の大事な常連客の中にいてな。お前があまりにも無能で弱ければ、情報を欲しがる人間に捕まり拷問で聞き出される可能性がある」
淡々と抑揚なく告げる言葉は、一つ一つに殺伐とした響きを持ち合わせていた。
知らせるためにはロズカが教えるに足るほどの強さと賢さを持っている必要がある、と言うことだ。
「テストで合格点を出せばいいってこと? アタシ、テストは得意だけど」
去勢を張る。
あくまで学校のテストで高得点が取れていたからといって、未知の世界で役に立つ保証はどこにもない。
しかし、ここで引いては見限られる。
「…………なら、ついてこい優等生。すぐにここを立つ」
背後でギルファスの女、ペトリカーナが「三つ目の条件は、やっとすんだみたいね」とよくわからないことを言っていた。
突然の出発宣言。
荷物は最小限にしていて、全て持ち運んでいるので問題はない。
しかし、ロズカはいきなりこの街を離れるわけにはいかない理由があった。
「待って……。シルファに、一言、出発するって伝えなくちゃいけない……」
ここまで付き合ってくれたシルファ。
彼女はとてもありがたい協力者であり、ロズカにとっての良い友人であった。
シルファは、ロズカの宿泊していた宿に顔を出し、本人は遊びにきたと言いつつも、さりげなく心配してくれていた。
そんな彼女に何も告げず、去るということはあまりにも失礼だと感じた。
「その必要はない」
「行かせて。シルファには恩がある。この街を出るって伝えに行かないと。できるだけ時間は取らせない」
ドーマは「まずいっすよ姉さん」とゴニョゴニョ言いながら袖を引っ張っていた。
あろうことか青白い男は、ロズカのことを鼻で嘲笑った。
そして、________無機質なトーンで、残酷な真実を告げた。
「 「シルファ・ルネローは死んだ。」 ついさっき、な。
よってお前の行動は無駄になる」
嘘……。
信じられない言葉。
だが、ヘルメッセンの言葉には確かな重みがある。
「確かめに行くか? だが、そうなればお前も容疑者となり、騎士団どもによって数日単位で取り調べを受け、時間を食うだろう。俺も、後ろのお嬢様も気が短い。そんなに待てないんだよ」
情報をボスであるヘルメッセンが嘘をつくとは思わない。
だが、こんなに彼の情報受信は早いものなのだろうか?
目の前にいる男の、どこまでも冷たい目を見ていると、ロズカの頭に、悍ましい可能性が浮かぶ。
…………もしかして……ヘルメッセンが?
口には出さなかったが考えを読み取ったのか、なおも感情の読み取れない声色が告げる。
「何をどう思おうがお前の好きにするがいい。俺はどうだっていい。
それとも、俺についてくるのをやめることにしたか?」
ポケットから男は何かを取り出す。黄色い艶のある球状の果実、リンゴスボリスを、男は口に運び、齧る。
口の中に収まりきらなかった破片が落下して、地面に当たる。
「……いや、行く」
前に進むしかない。
そのためにここまで来たのだから。
友人のシルファの死の真相が、どうであったかを、ロズカは詳しく知ることは__ない。
それはロズカ自身にとって不幸ではなく、幸運なことであったのだが……。
ロズカの過去編終了です!
……思ったよりこっちも時間がかかってしまった……。
次回から現代に戻ります!




