9 ヤンキー仲間と夜露死苦ぅ!
やはりといったところだ。
不良は注目を集めてしまうもののようだ。登校中、俺に向けられたのは半分が近寄りたくないという忌避の視線。そしてもう半分が、物珍しいものを見るような笑いである。…………笑い?
しかし、これだけ衆目を集めているにも関わらず、話しかけてくる人は誰もいなかった。これがヤンキーの宿命とでもいうのだろうか……。
試しに歩いている同じ制服を着ている学生に「よっ!」と話しかけてみたが、急足でそそくさと立ち去っいってしまった。
とりあえず、俺は自分の外見が不良として見られることに成功したのだと確信した。
制服は、ちゃんとボタンを止めない。ズボンはパンツが見えない程度に下げる。そして、決め手は髪型だ。不良といえばリーゼントだが、ルナットの髪はそうした奇抜なヘアスタイルをするには短すぎた。そこで俺は、工夫をした。なければ付け足せばいい。
"俺は今、フランスパンのようなパンを頭にのせ、布でくくりつけている。"
俺は長いパンによって、見事にリーゼントを再現していた。
授業中も当然外さない。先生が控えめに「ルナットくん、その頭の上のパンはどうしたのですか……?」と問うてきた。俺は「これが俺の生き様なんだぜぃ!」と堂々と突っぱねた。
先生も「そうですか……」とそれ以上は突っ込んでこなかった。先生に反抗なんてして、かなりヤンキーっぽかっただろうか?
かすかに周りからは押し殺したような笑いが聞こえた気がした。
授業が終わると、目つきの悪い男が2人ほどの連れと一緒に話しかけてきた。男は触ったら突き刺さりそうな前のめりのツンツンヘアで、気取ったように唇を突き出していた。その外見からは好戦的な性質だけでなく、ピアスとか付けて自己愛も強そうな印象を受けた。
つまり、ナルシストっぽいということだ。
確か先生にはグレイオスとか呼ばれていた。授業途中で大幅に遅刻してきて、横柄な態度で悪びれもせずに教室に入ってきていたので、こいつも不良だということは一目瞭然だ。
「おいおい、今日オメェどうしたんだよ?」
「どうって?」
「頭の上のそれだよ」
アゴをしゃくって俺の頭上のパンに視線を送る。
「これが俺の生き様なんだぜぃ!」
「お、おぅ……そうか……」
__なんだろう、グレイオスに対するこの気持ちは。俺は彼の雰囲気に対して、どこかいいしれぬ懐かしさを感じていた。
ルナットの仲の良い友人なのかもしれない。友人と思われる男は薄笑いを浮かべて尋ねた。
「例の麗しいご令嬢とはどうなったんだよ、え?」
うるわしのゴレイジョー? いきなり知らない話題きた。
返答を迷っていると、グレイオスの後ろに立っていた取り巻きの一人が「やっぱ、ルナットの嘘なんじゃねぇっすか?」と小馬鹿にした笑いを浮かべやがった。
「うそじゃねぇーし! ほんとだしっ!」
とりあえず、張り合ってみる。しまった、不良っぽいムーブメントを優先して、記憶喪失のことを説明する機会を逸してしまった……。実際、何に対して張り合ったのか、もちろん俺はよく分かっていない。
すると、グレイオスが俺の肩に気安く腕を置いた。
「まぁまぁ、信じてやろうぜ。なんせ、ご令嬢には今度会わせてくれるって話だしよ。なぁ、ルナット」
「あたぼうよ!」
「……ん? おぉ……」
俺が何か発言するたびに彼らは一々変な顔をする。どうやら、以前のルナットのことをよく知る彼らには、とても些細な違いから違和感を感じとられてしまっているようだ……。
話が進んでいくと、何となく話の全容が見えてきたのだが、どうやら以前の俺は彼らに対して「美しくてお金持ちのお嬢さんとお近づきになった」と自慢していたらしい。
本当にそのご令嬢がいるのか、それともルナット少年の見栄を張った嘘なのかは不明だ。
グレイオスたちに会わせるとか言っちゃったけど、大丈夫だったかな? まーでも、何とかなるっしょ!
「あ、そういえばよ。後でバルザックさんが俺らに来いっつってるから、ツラ貸せよな」
「おけい!」
「…………やっぱオマエ、今日変だよな」
「変じゃねぇんだぜぃ!」
違和感を持たれても、自信満々に堂々としていればいいのだ。俺がルナットなのは間違いないのだから!
「時間と場所はいつも通りのとこだ。分かってっと思うけど、遅れたら、ブッコロだかんな」
「分かってるぜ。遅れたらブロッコリーなんだな」
「……………………。
ってかさ。オマエ。いつまで一緒にくんの?」
「え? だって俺たち次の授業の教室向かうんでしょ?」
「いや、俺らは炎属性専攻。ルナット、オメェは土属性専攻だろ……。教室違うだろ……」
「そうだったぜぃ!」
よく知らないけど、とりあえず俺が向かうべき場所はこっちじゃないことがわかった。