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41 二番煎じな食事パーリィ

 テオファルド主催の食事会にはガウスマンたちクロード派は参加しているようだった。しかし、ペトリカーナ派はいなさそうだ。ロズカも見かけない。


 そのおかげか、オーマンさんたちは少しほっとしているようだった。


 トレーを持って列に並んだ。好きなバイキング料理を自分の皿に盛り付けていく。なんか揚げ物が多い。料理のラインアップがこってりしてて、胃もたれしそうだ。主催者の、テオファルド氏の好みだろうか?


 メイさんは野菜ばかりを自分の皿に取る。とは言っても、野菜も濃い色のソースやら揚げ物やらであまり健康的な感じでもない。どうせ不健康なら遠慮なく肉料理も食べたらいいのに。

 いや、単純にメイさんも胃もたれ気にしてるのかも。


 せっかくのバイキングなのだから、楽しく食事をしたいところなんだけど、野暮ったい人たちが多いみたいだ。


 周りの視線は相変わらず俺たちに集まってる。ペトリカーナの嫌がらせのおかげですっかり注目の的だ。おまけでセットになってくるのがコソコソ話。


「あら奥様聞きました? あのルナットとかいうやつ、相当なバカでいらっしゃるらしいわよ?」

「ええ、聞きましたわ。脳みその代わりにプリンが詰まっているって話よ」

「まあ!頭の中がプリンプリンだこと!」


 などという話をしていそうだ。

 知らんけど。


 『感覚(センス)』→《五感》→「聴覚」で盗み聞きもできるけど、わざわざ聞かなくてもろくでもないことを言っているのはわかる。


 俺は思い切り顔を歪ませて、睨みつけた。

 そうしたらイェーモに、


「ルナット。お願いだから、変顔をあちこちに披露するのはやめて」


 と言われてしまった。

 

 気にしてもしょうがないので、食事に専念することにしようとしたところで、大声がした。



「「 この役立たずが!! 」」



 突然怒鳴り声が聞こえた。


 今度はなんだ?

 まったく、全然ご飯が楽しめないじゃないか。


 声の方を振り向くと、例のバカな次男、テオファルド君が荒れていた。

 何を怒ってるんだろう。どうせまた、しょーもないことに違いない。


 わざわざ人を集めておきながら、自分の醜態を見せ物にするなんて、たいした余興だ。


 昨日のガウスマンの演目と比較して、ますますダメさ加減が目立ってしまう。


 特に昨日の桃太郎をオマージュした演劇はなかなかに出来がよく……


「グズ! カス! ヘボが! 二次試験で落ちやがって!!」


 皆、関わらないように遠巻きに視線を向けるだけだった。

 そりゃそうだ。俺だって、関わるつもりはなかった。


 ____怒鳴られ、足蹴にされているのが、セルドリッツェさんでなければ。


 あの人は一次試験を一緒に突破した仲間だ。話してみて、いい人だった。


 あの人が組んでくれたおかげで、一次試験に出られた。もしかしたら、執事さんがいなかったら、ペアが作れず、出場できなかったかも。


 テオファルドは体を金色をした工具のようなもので固めている。本人はオシャレのつもりだろうが、動きがおかげでぎこちない。



 ………だから、簡単に次の蹴りのために振り上げた足を引っ掛けてこかすことができた。ガシャーンと音を立てて、顔面から盛大にズッコケる。



 「いでっ! な、なな、な、なにすんだおまえぇ!!」


 こけたテオファルドが、驚いた顔で尻餅をついたまま俺に文句を言う。

 思ったより可愛い反応だった。


「まあ、まあ、脂っこい料理でも食べて落ち着きなって」


 自分の皿の上の料理をテオファルドの口に突っ込む。

 腹が膨れれば気も落ち着くというものだ。


「むっぐっ! っ……ぐっ……ゴクッ。うげぇ……脂っこい……じゃなくて、この僕が用意した料理に脂っこいとかケチをつけるなよ、こいつ!」

「でも、自分で脂っこいって言ってたじゃん」

「うる、うる、うるさい! 僕はいいんだ! こんなことして……


 騒然とする会場。


「あいつ……ギルファス家の人間にケンカ売ってるぞ……」「今朝、ペトリカーナ様にもケンカ売ってたみたいよ」「終わったな」


 野次馬たちの声が、さっきより聞き取れるくらいのヒソヒソ声であちこちから聞こえる。


 あー、やっちゃったかなぁ。

 後先考えずに割り込んじゃった。


 この坊ちゃんが父親の党首に「ルナットを選抜から追放しろ!」と言って、それが通ってしまえば俺はおしまいだ。


 でも、やっちゃったもんは仕方ない!


 とりあえず、床にうずくまってるセルドリッツェさんを助け起こす。


「大丈夫ですか? 立てます?」

「いえ、私のことはお構いなく」


 スーツにホコリはついていたが、パッと見たところ、アザなどはなさそうだった。動きを制限するギブスのような装飾のせいで、テオファルドのやつ、たいして強く蹴れなかったのかもしれない。


 それにしたって、ヒドイ。


 どういう事情かはよく知らないが、力の強いペトリカーナやクロードの側ではなく、自分の陣営で頑張ってくれた執事さんに対して、よくもまあ。


 二次試験で不合格だったのは今初めて聞いて、俺も少しショックだった。


 でも、それならここまで自分の陣営で頑張ってくれた執事さんに「お疲れ様」って労うのが当たり前だ。


「思い通り行かなかったからヒステリーを起こして、喚きまくるなんて、まるで赤ん坊じゃないか!」

「この、僕が、赤ん坊だと!? 取り消せ! 取り消せ!」


 さすがのボキャブラリー貧困である。


 ここまできたんだ。どうせなら言いたいことを言ってやろうと思った。


「その身体中の金ピカで無駄にデカいやつ、前から思ってたけどダサいよ! あ、そうだ! 赤ちゃんだから赤色にでもした方がマシなんじゃない!?」

「この野郎! 言わせておけば! お前のことは知ってんだぞ、ルナット・バルニコル! この、アホ! アホだ、お前は! 今朝もルール説明のとき、頭の悪い質問ばっかしやがって!」


 今朝のルール説明の話を知っていたとは意外だ。あそこには参加しないギルファス家の人たちはいなかった。


 しかし、今はそんなことどうでもいい。


「今、アホって言った!? ねぇ!? アホがアホって言った!?」

「誰がアホだ! このドアホ!」


 騒ぎを聞きつけて、テオファルドの取り巻きの参加選手たちがやってくる。手には皿と食事が乗ってる。どうやら、ご飯を取りに行っていたようだ。


 その一番前にいるのは、チンチクリンの子供…確か名前はマーボロン。二次試験で俺に集団で妨害をしてきて、追っ払ったやつだ。


「おまえ! テオファルド様になにをしてる!? この問題児め!」


 口では攻撃的なことを言っているが、俺から距離を取っている。ちゃんと警戒してるみたいだ。

 身を挺してテオファルドを守ろうという意志はないらしい。


 俺はため息をついた。


「こんな、口先だけのお仲間じゃなくて、セルドリッツェさんみたいな人を大事にしなよ」


 可哀想に。

 この青年は、本当に自分のことを大切にしてくれる人と、表面上だけのイエスマンの区別がつかないんだ。


 きっと、そういう環境で育ったからなんだろう。


「誰か! この問題児を摘み出せ!!」


 マーボロンが背後にいるお仲間に命令した。

 やっぱ、自分ではやらないんだなぁ。


 掛け声によって、なんか大柄の男が2人ほど現れて、俺をつまみ上げた。



 料理もそこそこ食べたし、まあいっか。別に抵抗もしなかったので、そのままされるがまま俺は男に方が上げられ、扉から外へと放り出される。


 一緒にメイさんが建物の外まで出てきた。


「ごめんね。まだ食べ足りなかった?」


 メイさんは俺を咎めるでもなく、いつものように微笑んだ。


「また、目立ってしまいましたね」

「自分、目立っちゃいました」


 あはは、と頭をかく。


「これで、選抜受けらんなくなっちゃうかもね。ごめん」


 アウスサーダ家の密命「ギルファス家の秘密調査」も打ち止めだ。


 そうだ。俺のせいで、オーマンさんたちを助けることもできなくなっちゃう。ちょっと後悔。


 でも、あの歪な光景に、俺は我慢できなくて。


 あー、子供じみたことをしたかぁ?

 あいつは赤ちゃんだけど。


「きっと大丈夫ですよ」


 いつもメイさんは不思議な余裕がある。メイさんがそういうなら、きっとそうなんだろう。


「いやはや、さすがでさぁ! ダンナはいつでもどこでも愉快ですねぇ!」

「そりゃあよかった! 人生愉快が一番さ! あはは……って、あれ?」



 当たり前のように返事をしちゃったけども。


 今、俺は誰と話してたんだ……?

 明らかにメイさんの声ではなかったが……。



「わぁ!! びっくりした!」


 いきなり目の前に人が現れた。

 いや、初めからそこに立っていたのだろう。しかし、気が付かなかったのだ。


 目の前にいた、小汚い浮浪者のような格好の小男に。見覚えのある、その姿に。


「どうも、お久しぶりです……ヒヒッ」

「ドーマじゃないか! 女装の!」

「ダンナぁ……そいつぁ、少し心外でっせ。なんせ女装はルナットのダンナの発案でしたでしょう? ヒヒッ」


 男の名前はドーマ。以前コール街でこの男のせいで面倒ごとに巻き込まされた。けど、まあ、助けた後で恩義は感じてくれてたみたいだし、悪いやつではない……と思う。


 ドーマはシノビダケというキノコの粉末を持っていて、気配を薄くすることができるのだった。


 そして、この男の正体は、謎の情報屋【悪魔(ゾーヤル)】のメンバーなのだという。


「お知り合いですか?」

「ああ、このおっちゃんは……」


 メイさんになんて説明しようか迷っていると、ドーマが自己紹介を引き取った。


「初めまして、お嬢様。アッシはちーと変わった、しがない情報屋のドーマといいやす。以降お見知り置きを」


 ……メイさんは一瞬目を細める。でもそれから、にこやかに挨拶を返した。


「ドーマはどうしてここにきたの?」

「そりゃあもちろん、バイキングを堪能しにでさぁ。しかし、あれですな。昨日の方がよっぽどいい料理でしたわ」

「ただで食べといてワガママ言うのもあれだけど……それはその通りだよー。昨日のが良かったから期待値が……ってそうじゃなくて、なんで選抜の会場に来るの?」


 まさかドーマが選抜に参加しているということはなかろう。参加者全員を覚えちゃいないけど。


「ロズカの(あね)さんについてきたんです」

「ロズカに?」


 そういえば、ロズカはどうして選抜に参加して、どうしてペトリカーナなんかのところにいるのか、まだ聞いてなかった。


「聞きたいですかい? ロズカの(あね)さんが何で選抜に参加してるのか」

「そりゃあ、聞きたいけど」


 情報屋の嗅覚は伊達じゃない。こっちの知りたいと思った匂いを嗅ぎ取って、情報をチラつかせる。


 勝手にロズカの個人情報を聞いちゃうのも良くないかな……と思うけど。気になり出すと、背中が痒くなってくるからしょうがない。


「本当はアッシたち情報屋としては、情報は高く売るもんなんすけどねぇ。ダンナにはコール街で助けていただいたんで」


 ドーマはヘヘッと鼻の下を人差し指で擦った。


「お安くしておきますよ、ヘヘッ」


 俺はとりあえず一言、言っておくことにした。



無料(ただ)じゃないんかーい」



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