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37 シャボン玉の戦い

 ロズカ・スピルツは学校で優等生という評価だった。それは特別な魔法が使えたからということだけではない。座学も運動も必ず上位の成績を収めていた。しかし、自分が優等生というつもりではいなかった。


 成績は高い方がいい。順位が落ちれば気分も悪い。けれど、全てそれらは自己完結していて、他人からの評価を求めてのことではない。むしろ優等生などともてはやされてチヤホヤされると、ロズカは面倒臭いと思うタチだった。


 学校の授業は、時々面白い。知的好奇心は人一倍旺盛だった。

 だから、普通は炎、水、風、雷、土の5大魔法のうちの一つに専攻を絞るところを、風と土の二つの授業を受けるようにしていたことも苦痛ではなかった。最も、この二つをとっていたのは突然いなくなった魔法の師匠、ホズが以前取ることを勧めたことを覚えていたからだったが。


 学校で行われる本日の授業は、魔法の発動距離についてだった。


「魔法には、発動適正距離というものが存在します。体の中心線から大体腕2本分ほど離れた距離が最も効率よく魔法を発動できる距離で、そこから離れるにつれて指数関数的に魔法の効果は弱まっていきます」


 退屈そうにする生徒。試験を見据えて一生懸命に講義を書き留める生徒。

 その中で、ロズカは純粋な興味で教師の話に耳を傾けていた。


「距離が離れるほど魔法の効果、威力が弱体化するのは魔術式の影響力が伝わりにくいからです。ちょうど、近くにいる人と遠くにいる人では、近くにいる人の方が声が届きやすいのと同じです。魔法を構築する魔術式とは言語そのものなのです。文字や音程で構築することもできますが、少し脱線しますのでそれは置いておきましょう」


 魔法学の話をする教師が、生徒に向けて質問をした。


「それでは、なぜ、魔法は近すぎると上手く発動しないのでしょう?」


 誰一人、当てられたくないと気配を消す中、「自称」優等生の金髪メガネの少年が挙手をしていた。少年は、本来『雷魔法』専攻だが、意識は高いので色々な魔法の授業に積極的に参加していた。……毎回の試験の点数がロズカに及ばない結果となっていたことは、少年の悩みであったことをロズカは一切知らない。


「生物の体が発する生命エネルギーが、魔術式の構築を阻害するからです。基本的に生物に対して直接魔法を発動することができない理由もそこにあります」

「ムッソリーニ君。正解です」


 「自称」優等生の少年はメガネの中心を指でクイっとやって、席へと腰を下ろした。

 ロズカはそれを見て「メガネのサイズが合っていないのではないか」という感想を抱いた。





◆◆◆





 クロードは筋がいい剣士だとマグノリアは感じていた。怒りに囚われていても、体に染みついた戦闘技術が冷静で隙のない戦い方を無意識的に実行していた。あのガウスマンに鍛えられ、正しい努力をしたことが伺えた。しかし、積み重ねてきた年月が、培ってきた技術が、実戦経験が、両者の間には大きな開きを生んでいた。


「残念だが、俺にあなたの攻撃は届かないようだ。クロード殿、たとえあなたがギルファス家の未来の党首だとしても、戦場に出てきた以上、手心を加えることはない」

「はぁ……はぁ……。はなから、手加減なんか期待してねえよ!」


 マグノリアは本人の公言した通り、頭を使うことに長けた人間ではなかった。しかし、戦闘に関しての「目」は確かだった。一次審査でクロード、セルドリッツェ、ロズカの能力はそれぞれ把握していた。


 クロードは『炎の付与(フレアエンチャント)』で強化した剣を使い、剣で攻めるスタイル。師匠のガウスマンの戦闘を見るに炎を飛ばす、炎を伸ばす等はあるが、それほどの変わり種はないと推測できる。


 厄介そうなのはセルドリッツェ。ニース家伝統の土魔法、『カラクリ技巧』で大規模な仕掛けを作りだす。発動に時間がかかるが、放置すると何をされるかわからないので、クロードを狙うと見せかけて一番最初に排除したのは狙い通り。


 ロズカは守りに特化した『結界魔法』。マグノリアは『結界魔法』をあまり詳しく知らないが、以前の戦闘を見る限り攻め手にかける印象が強い。攻撃を通すのに時間がかかるし、最後にするのが良いと判断。


 この分析能力、判断能力は戦闘を生業にする人間にとって、自然と身についてきた強力な嗅覚。いわばプロの技術である。

 ところが、マグノリアは決定的に勘違いをしていた。


 ロズカが一次試験では縛りを受けていたこと。そしてその時と今とでは状況が違っていること。



 聞き慣れない、場違いなほど綺麗な音色がした。

 ロズカの持っていたフルートの形をした【魔法器具】から、《第六神奏器(フレマー)》から音は出ていた。


 視線をそちらに向けると、少女の周囲には人の頭ほどの大きさの、鮮やかな光を反射する透明の球体がいくつかまばらに浮かんでいた。大きなシャボンのようなそれは『結界魔法』によって作られたものだと推察することができた。


 ロズカは呪文を唱えた。

 『結界魔法』をよく知らないマグノリアは、球体に注意を払っていた。

 しかし、魔法は思わぬ方向から現れた。



「「結界魔法 第二の型(セカンドモルド)『蜘蛛の巣』」」

 


「…………!!」



 鮮やかな光の平面が突如としてマグノリアの体を斜めに横断するように現れる。室内であるという条件は、ロズカにとって、『結界魔法』使いにとって、非常に都合が良い条件なのである。第二の型(セカンドモルド)『蜘蛛の巣』は壁や天井などに巨大なガラスを嵌め込むように結界を張る魔法である。結界に挟まれた部分は固定され、動きが取れなくなる。たとえマグノリアといえど例外ではなかった。


 身動きが取れなくなったタイミングをクロードが見逃すはずがなかった。


 強烈な斬撃でマグノリアの胴体に切り込む。

 ところが、クロードが直前で殺すことまでは躊躇ったということを差し引いても、マグノリアの身体は致命傷にまでは至らない。そこそこの火傷と怪我で済んでしまったのには、彼の戦士としてのある秘密が隠されていた。


 ようやくのことで当たった攻撃が、思いの外くらっていないことにクロードが動揺している一瞬に、マグノリアは呪文を唱えた。


「大いなる大地よ、かのものを頑強なる一撃で殴りつけよ『ストーン・ブロー』」


 地面を変形し、変形した部分で殴打するという、初級の『土魔法』の一種であったが、マグノリアほどの熟練した使い手であれば、その威力は強力の一言である。狙いはマグノリアの体を固めている結界の平面。一箇所を貫通された結界は、針を刺された風船のように跡形もなく消え、マグノリアは拘束から逃れたのだった。



 たった数秒の間に、初めて見た『結界魔法』に対処し、拘束を逃れる天性の戦闘対応能力を見せつけたマグノリア。体を動かすことができずとも、魔法を発動し結界を破壊することで拘束から解放される。一瞬でそのことに思い至った男の戦闘センスは天才的である。それでもロズカに動揺はなかった。


「クロード。このデカ男、上級身体強化魔法『竜鱗(ドラゴンスケイル)』使ってる。皮膚に触れた魔法を軽減して、物理的なダメージも減らす魔法」



 大男の妙な打たれ強さに合点がいったクロード。魔法自体は初めて聞く名だが、状況は理解できる。

 マグノリアはというと、この時点で自分の判断ミスに気がつき始めていた。


「驚嘆だ。まさか『結界魔法』などという希少な魔法を使うだけでなく、この魔法の存在を知っていようとは」


 マグノリアはあの少女がこの中で一番隠し玉を持っている可能性が高いのではないかと読み取り、強引にでも『結界魔法』を破って無力化しておくべきと、思考を柔軟に切り替える。



 もう一度切り込もうとしたクロードに思い切り横払いをし、剣ごと後方に弾き飛ばす。クロードにほとんどダメージはないが、マグノリアにとって距離が取れれば十分だった。そのままロズカの方へと走り出し、巨大な斧《グランドラプチャー》をハンマーへと変形させながら振り下ろす。


「「結界魔法 第四の型(ファイナルモルド)『球』」」


 カプセルのような球体の結界がロズカの周囲を覆う。マグノリアの一撃は球体に弾かれる。


「俺の攻撃を正面から受けて、眉ひとつ動かさないか。随分と自分の『結界魔法』の強度に自信があるようだな」


 自信による油断をしていたのはマグノリアの方であった。

 ロズカの周囲を飛んでいる大きなシャボン玉のような球体の『結界魔法』が風に流されてマグノリアの肩に触れる。本来どのような効果の魔法かわからないのであれば警戒して然るべきところを、ある程度の威力以上でなければ傷ひとつ付けることができない身体強化魔法『竜鱗(ドラゴンスケイル)』の強度を過信し、避けることを怠った。


 シャボンは弾け、マグノリアの肩は無数の切り傷を生じ、血が飛ぶ。


「な……! この威力は!!」


 まるで一瞬で小刀で色々な方向から切りつけられたような、えぐるような斬撃。


 ロズカの魔法の正体は初級風魔法『ウインドカット』である。マグノリアがそのことまで理解できなかったのは、本来の『ウインドカット』は一つの方向に風の刃を飛ばすというもので、風の刃の持続時間も長く、方向も定まっていて、威力も低いはずだったからだ。


 《第六神奏器(フレマー)》の力は、シャボン状の『結界魔法』に魔法が発動する前の魔術式を音程として閉じ込めておくことができるというものだった。『結界魔法』の中に入っている魔術式は、結界が消えると同時に発動する。

 人が魔法を放つとき、その魔法が暴発せずに相手に向かっていくのは、術者が発動時に方向を絞っているからである。よって、今回のように『結界魔法』の中にあった魔術式が一人でに発動したとき、魔法は瞬間的に爆発するように全方向に広がっていく。つまり、意図的にその場に魔法の暴発を引き起こしているということである。


 怯んで後ろに飛び退くマグノリア。しかし、後方にはクロードが手ぐすねを引いて待っていた。

 炎を纏った斬撃は、ロズカのシャボン以上にくらうと痛手だ。全霊で体を捻って、武器を持ちかえて受け止める。


 いつの間にかシャボンが足元に飛んできていて、切りつけられるような痛みが太ももに走る。


 ロズカから離れても一切威力が軽減されていなかった。魔法は体から発動までの距離が離れるほど、また、発動してから着弾までの距離が離れるほど、威力は軽減していく。しかし、ロズカが魔術式を組んだのは、すなわち《第六神奏器(フレマー)》によってシャボンを作ったのは、ちょうど魔法が一番効果を高める腕2本分の距離。そして、魔法が発動したのはマグノリアのすぐ近くなのだ。魔術式が組まれてから、発動までに時間的にも空間的にも距離があるのにも関わらず、一切威力が減少しないのは《第六神奏器(フレマー)》がいかに優れた【魔法器具】であるかを証明している。


「「結界魔法 第二の型(セカンドモルド)『蜘蛛の巣』」」


 マグノリアが最も警戒していた魔法が再び放たれる。

 体を固定されるこの魔法は、魔法で結界ごと破壊すれば解除できるが、一瞬の行動不能時間が生まれてしまう。そして、その一瞬を待ってくれる相手ではないことは分かりきっていた。


 身を捩り、避ける。

 そして、平面状の結界を斧で砕く。


 背中にシャボンが触れ、『風魔法』の刃が服を一部分破き、無数の傷を作る。


(どうにか、あの少女を打ち倒さねば……)


 鉄壁の防御と、手数の多さ。シャボンは『風魔法』で移動させているが速度自体は大したことはない。しかし、クロードの剣と、第二の型(セカンドモルド)『蜘蛛の巣』を避けながらとなると、気が付かないうちに死角へと送り込まれて、喰らってしまう。


 あの鉄壁の『結界魔法』の異常な硬度には理由があることをマグノリアは勘づいていた。

 一次審査でガウスマンが『炎の付与(フレアエンチャント)』で炎を纏わせた剣で切りつけた時、ロズカの『結界魔法』はきしみ、何度か攻撃を受け止めた後に砕けた。マグノリアのハンマーでの一撃は、それ以上に威力があると自負していた。しかし、一度結界を殴っただけだが、一切壊れるような気配がなかった。これは『結界魔法』の耐性を偏らせているからに他ならない。


 ガウスマンの剣撃は結界を切りつける「斬撃」と焼き焦げさせる「変性」の二つの性質を持っていた。なので、結界はその両方の耐性を持たせる必要があった。しかし、今マグノリアの一撃を受け止めた結界は、おそらく「打撃」の耐性に特化したものなのだ。攻撃の種類が1種類のおかげで結界で受け止めやすくなっているということである。

 ……「打撃」に見せかけて、直前で「斬撃」に切り替えれば簡単に


 マグノリアは巨大な斧《グランドラプチャー》を一度ハンマーに変形し、自身めがけて飛んでくるシャボンを割っていった。シャボンの破裂による『風魔法』は範囲自体は狭く、体で触らなければダメージは受けない。近づいたところでロズカに向かってハンマーを振り上げる。案の定ロズカはハンマーを警戒し、周囲を囲う球形の結界「結界魔法 第四の型(ファイナルモルド)『球』」を発動する。そして振り下ろす直前に武器を変形させ、鎌の形状にした。斬撃に特化した形である。


(結界を破り、一気に勝負をつける!!)


 シャボンが刀身に触れるがむしろ好都合。このまま、一気に……!


 振り下ろした《グランドラプチャー》は……しかしながら、結界を切り裂くことはできなかった。


「な……なんだこれは!!」


 自分の持っている武器を視認してみて、おかしなことに気が付く。刃の部分はめちゃくちゃな方向に捻じ曲がり、とても刃物とは呼べるような形をしていなかったのである。


 彼の持つ武器の異様な変化のカラクリは、シャボン結界に込められていた魔法が『風魔法』でなく『土魔法』だったということが原因であった。


 『土魔法』は岩石や地面など、硬質なものの形状を魔法で変形することを土台とした魔法である。マグノリアの武器の形状変化もその原理を応用している。しかし、普通は他人の武器に対して魔法をかけて形を変えるようなことは不可能である。それは動いているものに狙いを定めて直接変形を行うことが現実的に難しいことと、魔法の発動距離が遠いことで効果が薄れることによる理由だった。


 それを、触れた瞬間にその場でメチャクチャな方向に魔法が暴発するというシャボンの性質により、シャボンを破壊した武器をおかしな方向に変形させることが可能となっていた。


 刃の鋭さをい失った鎌は、ただの金属の塊である。切れ味を失った武器は、打撃に特化した『結界魔法』をもってして、雄に受け止められてしまう。


 炎の一撃が再び巨大を切りつけた。

 反撃をしようと、痛みを無視してクロードに《グランドラプチャー》を振るも、正確に避けられる。



「ぐぅっ……! なぜだ……! なぜ、これほどまでに強い……。戦士でもない子供二人に、俺が、これほど押されているのはどうしてだ!?」



 戦士に初めの頃の余裕はなかった。

 自分が負けることなどないと思っていた。だが、この相手は侮ることはできない。そう確信した。


 ロズカへの攻撃をやめれば、彼女は隙を見て新たに魔法のシャボンを生成していく。


 クロードは体力がつきそうではあるが、ロズカのアシストで息を整えるタイミングがあるのか、なかなかにしぶとい。


 扉が開く音がする。ランプは緑色になり、部屋の行き来が可能になる。

 と同時に、マグノリアの意識に差し込む別の思考。


 ここで戦闘を長引かせ、闇雲に体力を削るのは得策ではないのではないか?


 無理に手強い彼らを相手にするより、もっと他の参加者を脱落させる方が効率がいいのでは?


 思ってしまってから、ハッとする。自分が逃げ腰になっていたことに。戦士としてのプライドがそんな形での勝利を拒絶した。


 ……やむを得ないか。

 マグノリアは、ここで負けることは許されない。


 できれば未来ある若者を殺める恐れがあるようなことはしたくなかった。できればルールに反するようなリスクは取りたくなかった。……しかし、なりふり構っていられるほど、甘い状況ではない。


 腹を括ることにした。



「これだけは使いたくなかった……。威力が高すぎて、二次審査の禁止事項「ダンジョンの破壊」に抵触するかもしれないと思ったからな。だが……どうやら本気を出さなければ、お前たちには勝てないようだな。死んでも恨むな」


 大地を震わせるような濃厚で洗練された「気」。

 

 持っていた刃の部分が赤色に光り始める。

 特別なオーラを放っているかのように見えるが、そうではない。


 熱気。


 相対するロズカとクロードは肌で熱気を感じ取っていた。比喩などではなく、本能が知らせる危険信号によって感じられる錯覚でもなく、間違いなく温度が上昇していた。


 マグノリアの持っていた武器《グランドラプチャー》は、刃の部分がさらに赤色に光り出し、ドロドロと溶けていく。溶岩の如く融解した金属は、マグノリアが柄の部分を振ると、巨大な旗のように流動的な動きでついてくる。


 ぬかるんだ周囲も、男の周囲からすごい勢いでジューと音を立てながら沸騰している。


 今までの比ではないほど、危険な力。

 強力ゆえに制御が難しい。


 マグノリアが最強の称号をもつに相応しい、完全なる奥の手。


 そして、次なる戦闘の火蓋が切って落とされようとした、まさにその時……

 


「そこまでと致しませんか」



 頭が熱くなってきていた三人を静止する冷静でよく通る声。

 先ほど戦闘不能となってしまったセルドリッツェであった。


「これ以上は双方にとって時間と体力の無駄でしょう」


 よろめきつつも、ふらつきつつも、倒れてはいけないという強い意志を感じた。

 クロードが執事のもとに駆けつける。心配そうな顔で老体を体を支える。


 マグノリアは反論した。


「そうかもしれぬ。だが、俺はこのまま負けそうになった状態で、戦闘をやめることなどできないのだ。戦士としての誇りがそれを受け入れない」


「ええ、そうかもしれませんね。ですので、マグノリア様にとって、最も都合の良い条件をお伝えしましょう。

クリア条件を私は知っております。これをあなた様にだけ明かします」


 セルドリッツェはクロードに大丈夫だと言って、彼のところから離れる。

 大男に近づき、執事セルドリッツェは何かを耳元で告げた。

 すると、放送が部屋中に響く。




「 セルドリッツェ・ニース脱落 」




 それを聞いたマグノリアは斧を背負い、戦いをやめることを承諾した。


「どうやら本当のようだな。「クリア条件の直接の伝達」、禁止事項に抵触して脱落となったというわけか」


 ちょうどよく空いている扉。

 次の目的地に向かうべく、大男の戦士は扉の向こうへと向かった。「謝って済むようなことでもなかろうが、強引なやり方をして済まなかった」と言葉だけ残して。




 男の姿が見えなくなり、安堵ととっくに限界を迎えた疲労でクロードはへたり込む。


「セルドリッツェ……すまない」


 クロードにはこの有能で心優しき執事が、自分のことを案じて身を挺して守ってくれたのだろうと考えていた。


「いえいえ、元から私はここまでの予定でしたので」


 そう言った執事の顔は晴れやかだった。


「そうか……」


 あまり感情を顔に出すタイプでないクロードが遠くを見るような表情をしていた。



 それからマグノリアの合格を告げる放送が入ったのはすぐであった。


 不完全燃焼な終わりを迎えたこの一件。

 ロズカにとっても、すっきりしない終わり方であった。しかし、その感情とは別に、セルドリッツェとマグノリアの内容こそわからないやりとりが、答えにつながる重大なヒントをロズカに与えたのであった。


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