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31 二次試験開始!!!!!!!!!!!!!


 【 選抜 第2日目 開始 】




「オイ! 起きろ、バカルナット! アホルナット! 朝だぞ、朝だぞ!」


 耳元でサイレンのように繰り返される甲高い声で、俺は目が覚めた。


「……おはようコロリーちゃん」


 声の主はメイさんの飼っている人面鳥のコロリーだ。メイさんは『転移魔法』を使ってこの鳥を召喚したり、消したりするのだが、俺はそれを見てさながらポケ⚪︎ンのようだと思った。


 といっても、ポケ⚪︎ンにしてはあまりにもビジュアルが……なんというか大人向けだ。普通の鳥のお腹のところに人面が浮かんでいる外見は、幼稚園児くらいなら、下手したら見ただけで泣き出すかもしれない。


 いや、案外キモカワとかいって、斜め上のデザインが人気になることもあるし、ありなのかしら?


「 " ちゃん " じゃなくて " さん " をつけろよ、このデコ助ヤロウ!! オレを " コロリーちゃん " と呼んでいいのは、メイレーン様をはじめとするアウスサーダ家の人々だけだぜ!」

「ちぃーす。コロリーさん」


 「デコ助ヤロウ」なんて単語、どこで覚えたんだか……。


 コロリーがいるということは、当然メイさんもその場にいるということだ。


「ふふ、おはようございます、ルナット様。よく眠れましたか」


 メイさんに朝から起こしてもらえるなんて(コロリーさんは意識の中から消去した)。今更ながら多幸感に、思わず気持ちの悪い笑いが漏れてしまう。


「デュフフ……デュフ、デュフ……」


 しまった! 引かれたかなと思い、メイさんの方を見てみるとキョトンとした顔でいた。


「どうされました? その……ユニークな笑い方をされて」

「ユニーク! そう、ユニークな笑いが漏れてしまったのだよ! メイさんもよければ一緒にどう? デュフ、デュフフ……」

(ワタクシ)もですか!? そうですね……こんな感じでしょうか……。デュフフフフ」


 キャワワ!!

 メイさん、ちょっと悪そうな顔して「ユニークな笑い方」を実践。やっぱメイさんは何やってもサイコーだなぁ……。


 と浸っているところに、コロリーさんの鋭い爪が頭に食い込む。

 

「バカアホルナット!! メイレーン様に何させとんじゃ!」

 

 怒られてしまった。


 気を取り直して、

 パチンパチン。

 自分で顔を叩いて意識を覚醒させる。


「うん! バッチリ!」


 よし、今日も選抜試験頑張ろう!


「それでは参りましょうか」

「二次試験の会場はどこだっけ。確か今日は山の方に行くんだっけね」

「ええ。ですが、その前にオーマン様が派閥の皆さんを集めて簡単に話をしようとおっしゃっているので、お部屋に寄りましょう」

「そうなんだ。朝のミーティングでもするのかな?」


 コロリー氏はメイさんの魔法陣の中に入って「その前にその噴水みたいな寝癖はどうにかしとくんだな!」と捨て台詞を吐いてどこかへと転移していった。



 集められたのは俺やエビィー、イェーモだけでなく、名前を覚えていない角刈りに丸メガネのお兄さんや手足の細長いモデル体型の女の人など、シェリアンヌ派に所属しているメンバーが勢揃いしていた。


 我らが大将のシェリアンヌちゃんのお母さん、オーマンさんが話し始める。


「みなさん。今日の集まってもらったのは__


 言いかけたところで、丸メガネ兄さんが口を挟む。


「試験のアドバイスですか? 今日の二次試験は確かシェリアンヌ様主催ということでしたよね。何か事前に我々に有利になるような情報が?」


 年端も行かないシェリアンヌちゃんが実際に主催するわけではないが、責任者はそれぞれ4人のギルファスの党首候補が順番に受け持つということで形式上そうなっている。シェリアンヌちゃんのブレインは母親のオーマンさんで、オーマンさんは元々 " ニース家 " というところの人だから、その家が色々と決めているという話を昨日聞いた。


「ごめんなさい……。そのことではないの。ただ、シェリアンヌ派として大きな動きがあったから報告しておきたくて」


 オーマンさんは申し訳なさそうに言った。ニース家が色々と実質的に仕切っていて、オーマンさんには詳しい試験内容は知らされていないのだから、伝えられることがないのだ。ただ、わかっていることは、今回試験は「頭を使うテスト」ということだった。


「大きな動きって?」


 しっかり者のイェーモがいち早く食いつく。


 オーマンさんはなぜだか、言うのをためらっているようにも見えた。

 しかし、意を決して俺たちにこう伝えた。


「昨日の夜、食事会のあった後でガウスマンさんに個別で会いました。そこでシェリアンヌ派とクロード派の協定を提案しました。いいえ、お願いしにいったの。知っての通り、私たちシェリアンヌ派は人数も少ないし後ろ盾もほとんどないわ。だからイェーモさんにアドバイスを受けて、ガウスマンさんにどうにか協定を結んでもらえるよう話に行ったの」


 モデル体型の、名の知らない女性が口を出す。


「あの……それってつまり、有力候補のクロード派に従属するということでしょうか?」

「そうね……。庇護を受ける代わりに、党首になることを諦めるということになってしまうわ……。けど、まだ幼いシェリアンヌに党首なんて土台無理なこと。もし、シェリアンヌが党首になると思ってついてきてくれていたのだとしたら、その人には申し訳ないのだけど……」


 別段落胆した者はいなさそうだった。初めから、期待していた者はいなかったのだろう。


 イェーモが付け足す。


「ボクの見立てでは、十中八九クロード派がこの党首争いで勝ち残る。だから、早いうちに手を組んでおくのはベストだと思うんだ。そして、手を組むなら早いほうがいい。いつペトリカーナ様からの攻撃があるか分からないからね」


 オーマンさんが不安そうに、「いまだに何も仕掛けてきてないのが不思議なくらい……」と言うと、イェーモは「現状、ペトリカーナ様はガウスマン様との睨み合いが忙しくてこっちに気を回す余裕がないのかもしれないですよ」と意見を述べた。なんだか普段のエビィーに振り回されっぱなしのイェーモとは別人のように、参謀みたいで頼もしい。


 シェリアンヌちゃんたちとペトリカーナとの因縁を知らない俺は、「あー、あいつ嫌なやつだし、そういうこともあるかー」くらいに思って聞いていた。そんなことより……


「それで、結果はどうだったの……? 協定は結ばれたの?」


 絵本の続きを気にする子供のように、はやる気持ちを抑えきれずつい聞いてしまう。


 「頼みに行った」ということは「協定を結んだ」とは限らない。



「……何とか結んでもらえることになったわ。まだその場で握手を交わしただけで具体的なことはそれほど決まってはいないのだけど」



 安堵の吐息がいくつか漏れる。

 昨日俺がガウスマンに言っておいたのが役に立ったのだったら嬉しいけどね。


 ともかくこれでシェリアンヌ派としては、最低限「安泰」ということになったわけだ。




◆◆◆




[オーマン視点]



 それは二次試験の会場に向かう道中で起こった。

 


 オーマンとシェリアンヌは観戦室へ、ルナットたち選手は会場へ行く道が途中まで同じだったので、共に目的地へと向かっていた。


 オーマンやメイレーンのように選手ではない人間は、観戦室という場所で選手たちの行っている試験を監視用の魔法器具によって映像としてリアルタイムに見ることができる。


 観戦室に到着しそうとなったところで、人がたくさん集まっているのが見えた。


 軽い騒ぎになっている。


 なんだろうと一人駆け足で近づくと、周囲の視線が一斉にこちらに向く。ギルファス家の中でオーマンは嫌悪と悪意に満ちたこの視線に敏感になっていた。


 嫌な視線に突き刺されながら、観戦室の扉へと近づく。



 この先にあるものは、不都合な、見たくないなにかがある。


 観戦室の入り口の手前までくる。中には巨大なスクリーン用の映像盤があるのをオーマンは知っている。


 本来であれば、二次審査が始まる前に映像が映し出されることはないのだが、そこに何かが映っているという予感があった。


 のぞいてみると……。


 映像はやはり映っていた。


 薄暗い廊下。重厚な茶色の壁。扉。


 見覚えがある。

 昨日見た景色だ。


 扉はガウスマンの部屋のものだと、オーマンはすぐに気がついた。


 話し声が聞こえる。


 部屋の主、ガウスマンの声……それからオーマンの声だった。部屋の外から盗聴している録画映像だった。



 なによ…………これ…………?



 話ている内容は確かに昨日オーマンがガウスマンとしていた物だった。しかし、その声は嫌らしく、扇情的で、熟れ過ぎた果実のように不愉快な甘ったるさを放つものだった。


 映像盤は扉を映し続けているだけだ。しかし、そこから受けるオーマンという女の印象は、ギルファス家党首の妻でありながら、自分の利益のために女を武器とする不貞な女であり、ガウスマンはそれにほだされる情けない男だった。


 ちがう! ちがう!

 何一つ嘘偽りのない映像なのに、これほど事実と異なった印象を与えるなんて……。


 オーマンはパニックになっていた。



「あらあらあら〜。ご本人登場かしら。ねぇ、()()()、これはどういうことか釈明してくださる?」


 普段では決して発せられることのない「お母様」などとのたまうその声を聞いて、オーマンは全てを察した。


 すべて目の前にいるペトリカーナの仕業だ。彼女は『感覚魔法』を実に巧妙に扱う。『感覚魔法』は自身の感覚を強化する魔法と、他者の感覚に訴えかける魔法のの2種類に大別できる。そして、この女はどちらも扱うことができる。


 そんなペトリカーナなら、この映像からオーマンのイメージを捻じ曲げる手段もあるのだろう。



「どうって……。何も私は悪いことをしてなんか……」


「開き直るの? アタシもショックだわ、血はつながらなくても、心は家族だと思っていたのに……。まさかこんな形で裏切られるなんてね!」


 口元は笑っている。しかし、周囲の誰もそのことを気にする者はいない。本当にこの悪女が、不埒な母親に裏切られた可哀想な娘だと思っているのだろうか?


 何か言わなくては……。何か!


 色々な言葉が頭によぎっては泡のように消える。意味がないのだ。ペトリカーナの魔法で印象操作されているこの場で、言葉などに力はない。


「そうよね。()()()は結局お家の都合でお父様と結婚しただけに過ぎないものね。愛のない結婚に嫌気がさして、魔が差してしまっても仕方がないわ」


 歌うようにさえずる長女。

 こんな見え透いた演技でも、同情の視線が彼女に集まる。


 後ろから着いてきたシェリアンヌが部屋に入ってきて、画面を覗き込む。


「見てはダメ!!」


 思ってもいないほど強い声が出た。


 自分にやましいことがあると認めるような行動だったと、あとから気がついた。


 とにかくこの場を離脱しなくては。シェリアンヌの手を強く引っ張りながら、ペトリカーナから逃げるようにして、衆目にさらされながら、観戦室を離れようとする。外の具合ですら澱んでいるようだ。


 胸元に小石が当たる。誰かがオーマンに石を投げたのだ。


「この恥知らず! それでも人の親か!」


 続いて、「そうだそうだ」と声があちこちから上がる。偉そうなことを言っておきながら、か弱いシェリアンヌにも小石が当たりそうなのを知りながら平気でまた小石を投げる。まるで、そうすることに正当な理由があるといったように。



 ……しかし、飛んできた石は金属の傘のような物で弾かれる。

 ルナットが当たりそうになった小石を防いでくれたのだ。


「え、なにこの状況。全員やっつけちゃっても今回は大丈夫な感じ?」


 いつの間にか傘状に変形した《(ステッキ)》を持ったルナットが、エビィーに確認する。


「わっかんねぇwww。けど、今回は演劇の練習とかじゃなさそうだよなww」


 誰一人味方がいないとさえ思ってしまったところに、彼らは大勢からオーマンとシェリアンヌを守ろうとしてくれているのだった。それだけで、オーマンは思わず涙してしまいそうになった。


 しかし、状況はどう考えても多勢に無勢。戦闘に詳しくないオーマンにはルナットたちの戦闘能力がいかほどなのかは分からなかったが、どう考えても周囲の人間全員との争いとなれば勝ち目がないように感じた。


 数少ない味方になってくれる彼らだからこそ、自分たちが原因で一緒に酷い目に会うのは耐え難かった。


 ルナットのところのメイドのメイが、しゃがみ込んで地面を触っている。


「ルナット様。この辺り一体に『精神操作魔法』の巨大な魔法陣が貼られているみたいです」

「魔法陣……。どうしたらいいの?」

「魔法を消す方法は簡単です」


 そう言うと、メイはルナットに何かを耳打ちした。


 そして、ルナットは手を地面に向け、「『仕事量(エネルギー)』→《魔力(マナ)》→「放出」」と聞いたことのない呪文を唱えると、魔力の波動で一気に今までしていた嫌な澱んだ空気が吹き飛んだ。


 コツ、コツ……。


 背後から足跡がする。

 観戦室の方だ……。


「会いたかったわ、アタシのルナット。そんな価値のない女のところでなく、アタシのところに早く来なさい」

 

 ペトリカーナが複数の配下を連れてニヤニヤとこちらを見ていた。


「出たな、性悪女め! お前のところになんか絶対いくわけないから!」

「ヒュ〜wwモテてんじゃんww」

「こんなのにモテても何もいいことないから!」


 ルナットの全く臆さない物言いに、オーマンは内心ヒヤヒヤとしていた。何しろ、彼女の背後に控えている配下たちが爆発寸前だったのだから。


「ペトリカーナ様。あのガキ、やってしまってもよろしいですか? ペトリカーナ様の慈悲のお声がけをあのように……。このラルゴ、怒り心頭危機一髪でございます!」


 しかし、信じられないことにあの気分屋で自己中心的なはずのペトリカーナは怒るどころか余裕のある笑みで少年を見ていた。


「優しいルナット。あまりにも非力で愚かで無力なそこの母と娘に対して憐れみを感じているのね」


 少年は恐れ知らずにも、さらに感情をぶつける。


「なんて言い方するんだよ! この人はキミにとってもお母さんじゃないの!?」


 そう。ルナットはオーマンがどれだけペトリカーナに嫌われているか知らない。


「ええ、ええ、そうよ。アタシにとって大事な母と妹。でも仕方がないわ。これは党首の座を巡った戦争なのだから」


 歯の浮くようなセリフが澱みなく出てくる。よくここまで本心からかけ離れた言葉をスラスラといえるものだと、感心すら覚える。


「やり方が卑怯だ! 印象操作の魔法でこっちを悪者にしようだなんて」


「そんなことした覚えはないわ。

けど……あなたがアタシのモノになれば、許してあげてもいいわよ」


「話にならないよ。そうしたら誰がこの人達の味方になるんだよ」


「必要ないんじゃない? 一番の外敵(アタシ)が手を出さないんだから。どうせ党首の座は狙っていないんでしょう? だったらルナット・バルニコルという牙を失った残りなんて放っておくだけ」


 それを聞いてオーマンは思わず抗議した。


「嘘よ! この子は……私たちをどこまでも追い詰めることが目的なんだわ……。とことんまで追い詰めて、ギルファスの家から追い出したいのよ!」


「被害妄想でお話にならないからアナタは引っ込んでいてくれます? お母様。

 けど、逆にルナットがこちらに来ないのなら、お望み通りいくらでも嫌がらせでもなんでもしてあげようかしらね。さ、これで心置きなくこっちに来れるでしょう?」


 手を差し伸べるペトリカーナ。


 ルナットは躊躇なくその手を振り払った。


「いいの? だって、アタシが本気になれば、アナタのことこの選抜から取り除くこともできるのよ」


 いくらギルファス家の党首候補といえど、ただ気に入らないからと言う理由で候補者を除外することなどできない。そんなことが罷り通るのであれば、派閥同士での政治など意味をなくす。


 彼女は、何か、ルナットにとって致命的な弱点を握っているような、そんな予感を彷彿とさせる言い方である。


「その後ろの方にいる奴らを全員俺が倒せば__

「力の問題じゃないのよ。

ねえ、ルナット。   " それより、アタシのこと「も」ペティって愛称で呼んでほしいわ "   」


 この娘は気分屋なのは間違いないが、それにしてもあまりに急な申し出。そこに含む別の意味があるということだろう。

 「アタシのこと「も」」? 引っかかる言い方をしていた。


 ルナットが他に一体誰のことを愛称で呼んでいるのだろうか?


 ペトリカーナの視線は、どうしてだかメイに向いていた。

 何かに気がついた様子で、メイが顔を伏せる。


 ルナットはというと、特に気にする様子もなく、言い返すのに夢中である。


「ペティは俺の中で「ボナペティ夫人」のことを指すんだよ。お前なんかペティじゃないやい!」



 一触即発な空気の中で、仲裁に現れたのは、実に意外な男だった。


「つまらない話はそれくらいで、選抜参加者は指定された場所へ、観戦者は大人しく観戦室で待機していたらどうだ」


 野太い声色、大柄な男。一目見れば誰しもが、彼を只者でないと理解する。


 マグノリア・ゴットフォース、この選抜試験にて、どこにも所属せず、そして最有力候補と噂される人物であった。


「外野が何か用かしら」


 男の迫力などおくびにも意に介することなく、ペトリカーナはつまらなそうに問うた。


「この場はこちらの少年側につかせてもらうとしようか」


 信じられないことに、男はオーマンたちを助けようとしてくれているようだった。


 ペトリカーナは少し考えて、遊ぶのに飽きた子供のように状況を放り出すのだった。

 なんというあっさりとした引き際だろうか。


「あそう。それじゃあね、ルナット。今度会う時はいい返事を期待するわ」


 なぜそこまでルナットにこだわるのか不明ではあったが、これだけ嫌悪を示されても、彼女はいまだに執着をやめそうもなかった。


 長女の取り巻きたちはやり場のない感情を溜め込んでいるようであったが、ご主人様には痛く従順なようで、結局最後まで暴走することはなかった。


 攻撃的な視線を向けてくる周囲の参加者たちも、試験に向けて集合場所へと移動していった。


 時間に遅れてせっかくの一次通過を棒に振っては元も子もない。


 ルナットたちにも急いで移動してもらうように言おうとしたが、彼らに、そしてマグノリアへお礼を言うべきだと思った。マグノリアに関しては、シェリアンヌ派の他数人のメンバーすら助けにきてはくれなかったというのに、なぜ肩を持つようなことをしてくれたのだろう?


「本当に心強かったわ……。ありがとうみんな。それから、マグノリアさん。話したこともなかったのに、助けていただいてありがとうございました。どうして、助けてくれたのですか」

「連中との会話、途中からしか聞いていなかったが、こんな小さな子供がいらぬ害意に晒されるのは感化できないからな」


 どうやら、シェリアンヌのことを気にしてくれたからのようだった。純粋な善意からなのだろう。打算と悪意の渦巻く跡目争いの中でも、そういったものがあることをオーマンは信じたかった。


 ルナットは親しみを持ったようで、


「おじさん、いい人だったんだ。俺、一次試験の時いきなり「帰れ」って言われたから、ちょっとクセの強いおじさんだって思っちゃったけど、ごめんね」

「ふっ。言った通りだ。子供が危険に会うのが我慢できない性分なだけだ。親にとって、子は大事なものなのだぞ」


 こういう時にちゃっかりとできるのでイェーモは頼りになる。


「マグノリアさん。これも何かの縁ですし、ボクたちの派閥に入りませんか?」


「あいにく派閥に入るかどうかという話は別問題でな」


 残念ながら、仲間になってくれるわけではないようだった。



「ところで、ご夫人。シェリアンヌ様は党首を辞退した方が、彼女のためになるのではないのか」


 大男は助言めいたことを口にした。


「できたらとっくにやっているわ……」


 聞こえるか聞こえないかくらいの声で、オーマンはつぶやいた。

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