29 シェリアンヌちゃんのピクニック!
[シェリアンヌ視点]
少女は駆け出した。
人工の明かりのあるパーティ会場から、真っ暗な森へ。
大丈夫。ランタンは持ってる。
暗闇は怖くない。人間の方がよっぽど怖い。
大人たちはみんな、パーティに夢中。
だからお母様も、オーマンも気が付かなかった。自分の幼い娘、シェリアンヌが会を抜け出して外に遊びに出てしまったことを。
シェリアンヌは人が多いところが嫌いだった。同じ空間に、あの意地悪な姉、ペトリカーナがいるとなればなおさらだ。
人は嫌い。ペトリカーナお姉様は大嫌い。魔法でいつも怖い夢を見せてくるから。ひどいことをたくさん言うから。
けど、お母様は優しいから好き。
使用人の人たちもなんだか怖いからあんまし好きじゃない。けど、セルドリッツェおじいさんは別。時々お菓子をくれるし、お母様の味方をしてくれる。
ガウスマン叔父様もお母様の味方をしてくれるけど……なんだか難しいことを言ってばかりいるから、あんまり好きになれない。
" はばつ " とか " せんばつ " とかいうのが始まってから、住む場所が変わって、周りにも人がたくさんになった。お母様がとっても真剣なので、とても大事なことなのは分かるけど、シェリアンヌにはよく分からない。
変わった格好の二人組がやってきて、お母様と話すことが多くなった。二人組は兄妹なのに、仲良しなのがとても不思議に思えた。二人はシェリアンヌの " はばつ " に入ったらしい。
それから新しく来たルナットという人も " はばつ " に入ったみたい。この人とエビィーって人はシェリアンヌの周りで踊るから、イヤだ。
だけど、ルナットお兄ちゃんがくれたクラッカーのお菓子は美味しかった。
少女は人形が好きだった。人形はシェリアンヌといつだって仲良しだった。おとなしくて、柔らかくて、暖かくて。それから、人間以外の動物も好きだった。イェーモが安全な動物といって連れてきた、マルミミウサギを触らせてくれた時があった。耳が輪のように繋がっている愛くるしい目をした可愛らしい生き物だった。その時シェリアンヌはずっと一緒に暮らしたいと思った。もちろん叶わなかったのだが。大人は森の中は魔物という魔法を使う動物などがいて危険だからと近づかせてくれないが、シェリアンヌはずっと興味があった。
さっきまで雨が降っていたので、辺りは湿っていた。暗く足元もおぼつかない中、シェリアンヌは確かな足取りで進んでいった。
ガサガサ ガサゴソ……
木の葉が擦れる音。大きな何か物が木の葉の上をうごめく音。
音を立てていた正体は、腕のような足のような物が7本、8本生えている木肌の色をした大きな熊ほどの化け物。
顔だと思われる場所には、宝石が代わりにはめこまれている。
その化け物に、シェリアンヌは食事会の会場からこっそり取ってきて、もこもこのドレスの中に隠していたパンやら果物やらを地面に置いてあげる。
「ご飯だよ、食べられる?」
化け物は力の弱い動きで反応する。シェリアンヌは化け物を恐れてはいなかった。それどころか、見るからに弱っていたこの生き物を、助けてあげたいと思っていた。
シェリアンヌが化け物と会うのはこれが初めてじゃない。ときどき、人目を盗んでは抜け出して、森へ来ていた。シェリアンヌは不思議なこの生き物に強い興味を持っていた。
化け物は、しかし、シェリアンヌのあげた食べ物を食べようとはしなかった。
「これじゃあ食べられないんだね」
前にイェーモが言っていた。マルミミウサギはお菓子を食べない。肉も魚も食べられない。野菜を、植物が好きなのだと。
この化け物も、食べられるものと、食べられないものがあるのだろう。
シェリアンヌの声に呼応するように空気が震え始める。
風が木々を通り抜け、ヒューと音を鳴らす。
「 ア リ ガ ト ウ 」
どこからともなく声がした。声は化け物の体からしていなかったが、間違いなく化け物が言ったのだと思った。
「あなた、しゃべれるんだ」
なので、シェリアンヌは尋ねてみることにした。
「何なら食べられるの?」
再び空気が震えだす。
化け物は弱々しくも体を持ち上げてこう言った。
「 マ ナ 」
この時のシェリアンヌには、少女と化け物の出会いが、後々悲劇を引き起こすなどとは、思い描くことなどできるはずもなかった。
血と憎悪に彩られた、厄災のような出来事を…………。
◆◆◆
食事パーリィでは、美味しいご飯をタダで食べられたのはラッキーだったけど、まさか演劇デビューするはめになるとは思いもしなかった。
本当はガウスマンが呼んでいた劇団員が劇をやるはずだったのだが、とある不幸なハプニング(悪漢と間違えて俺たちが退治してしまった)によって、役者が足りなくなってしまった。
役者たちはガウスマンのことが恐ろしいらしく、俺たちに怒るよりも、劇ができなくなってしまったことを恐れて今のうちに逃げ出すことにしだしたのだった。
いやぁ、そこまでせんでも……。
きっとガウスマンのタイプからして、長時間ネチネチと責め続けるタイプの説教をするのだろう。
残されは俺たちは、このままでは演劇が行われないとのことになって、急遽代わりに演じることにしたのだ。
なんとか無事劇も終わって。これで、一安心。劇団の人たちもガウスマンからネチネチ言われなくて済むだろう。
……と、人ごとのように考えていたのだけど、帰り際に俺とエビィーとイェーモはガウスマンに呼び止められてしまった。
「ルナット・バルニコル、それからエビィーとイェーモ。よくもまあ、私の食事会で愉快な劇を演じてくれた」
こわばった表情をしているものだから、何を言い出すかと思えば。
なんだ! 俺たちの演劇を褒めにきたのか。
おじさん、いいとこあるじゃん!
演劇の出来は、途中からシナリオ無視でやりたい放題してたけど、結果的には我ながらいい出来栄えだった。まあ、後で思い出してみると、ところどころ「こうした方がさらに良かったな」って部分はあったけど、及第点は越えた感触はあった。
しかし、ここで「いや〜〜ま、さすがは俺っすね!」と、威張ってしまう俺ではない。
俺は、澄まし顔を作り息を吐いた。
「いえ、まだまだですよ……。自分、精進の身なんで……」
「……皮肉だ」
ん?
微妙な空気が流れる。
皮肉?
褒めてんじゃなかったの?
俺はなんだか恥ずかしい気持ちになった。
両の手で顔を覆っていると、イェーモとエビィーが頭を下げた。
「申し訳ございません」
真面目なイェーモは分かるが、エビィーまで殊勝な態度だったのはビックリだ。
偉い人らしいからなぁ。たしか財務大臣だっけ?
イェーモがどうして俺たちが劇をやるに至ったかを話した。
「経緯は理解した。それで? 私が計画してきた会を台無しにしてくれた君たちには、それ相応の対価を支払う義務があると思うのだが」
信じられないことを言う男だ。俺は抗議した。
「いやいやいや、あんな素晴らしい演劇をしたのに、その上お金を払えってことですかぁ!?」
イェーモに、「ちょっ黙って!」と口を塞がれた。
「何をお望みでしょう?」
そう言ったのは信じられないことにエビィーだった。
エビィーが「w」をつけずに、しゃべれたなんて!!
驚きを隠せないでいる俺をよそに、話が進んでいく。
「そうだな……「ルナット・バルニコルの進路」というのはどうだろう」
全くもっておかしな話だが、ガウスマンの主張はこうだ。
俺たちが本来やる演劇を無しにして、代わりに演劇をしたことは悪いことだから、慰謝料を払えと。そして慰謝料というのはお金じゃなく、俺の「進路?」を払えということだろう。
「進路」ってなんだよ。
「イレギュラー。君は予測のつかない不確定要素だ。魔力測定であり得ない数値を叩き出し、一次審査では見たことのない戦術を披露した。そして、ペトリカーナ嬢は君にご執心ときた。だが、全てを念入りに計画して実行する性分の私にとって、君というイレギュラーは邪魔でしかない。順当に進めば、私が、クロード派が勝つのは決まったことなのだから。よって、君をコントロール下におくか、排除するか、それが私の取るべき二択だったのだが……」
一呼吸おいて、ギルファスの権力者ガウスマンがこう言った。
「代わりに選ぶがいい、ルナット・バルニコル。私の元に来るか、選抜を辞退するか。どちらでも構わない。ただし、断るなら、君を潰すために行動する。それはシェリアンヌ派を潰すことともイコールである」
……。
エビィーとイェーモなら流石に止めると思った。しかし、彼らはおかしなことを言う。
「言う通りにした方がいい」「ガウスマン様に逆らうと後が怖い」
なんなんだろう。いつだって、そんなこと気にする俺たちじゃないじゃないか。
冷静に考えると、俺の一番の目的はメイさんとの約束を果たすこと。それはスパイとしてなるべく長く選抜を受け続け、ギルファス家の近くにい続けること。それを考えたら、派閥はクロード派になることは何も悪いことではない。
……俺は…………。
「どっちもできないよ。俺は選抜を辞めないし、シェリアンヌちゃんの党でいる」
悪いことじゃない……。けど、今はそれ以外にも思ってることがある。
シェリアンヌちゃんと、オーマンさんは味方が少ない。たった1日だけど、一緒にいてそれは感じられた。食事会でどれほどの勢力の差があるのかは感じ取れた。彼女たちにはたくさん仲間のいる他の力のある派閥と違って、俺たちしかいないんだ。
だから、俺が抜けるという選択肢はない。助けてあげたいと思ったから。
「エビィー、イェーモ! 何を弱気になってるんだよ! 俺たちしかシェリアンヌちゃんたちを守れるのはいないんだぞ! ガウスマンおじさんが財務大臣だか、すごい人だか知らないけど、らしくない! ゼンッゼンらしくない!!」
「いや俺たちは……」「ルナット……」
二人は驚いた顔をしていた。
一人冷静なのはガウスマン。
「だとしたら、この落とし前どうつけるつもりだ」
落とし前も何も知るもんかと言って跳ね除けてしまうこともできる。馬鹿正直に相手の言い分に付き合うことはない。
けど……。できることなら今後のシェリアンヌ派の立場も考えると、穏便にことを済ませたい。
ん、待てよ……?
そこで俺はとんでもなくwinwinな方法を思いついてしまった。
「じゃあさ、シェリアンヌ派とクロード派で同盟を組もう。クロード派にはなれないけど、同盟関係としてなら協力してあげる」
オーマンさんとイェーモが夕方どうにかしてクロード派と組みたいと言っていた。これはチャンスじゃないか?
ところがガウスマンは鼻で笑った。
「話にすらならない。同盟を組む? 恩恵が大きいのはそちらの派閥だろう? こちらにとって、弱小な派閥と手を組むことに何のメリットがあると言うのか」
メリット、メリット……。
俺は、口をついて出てきそうな言葉を一度飲み込んで、別のことを言おうとした。
もしかしたら、言ってしまうとガウスマンを余計に怒らせることになるかもと思ったからだ。
……しかし他にいい提案が思いつかなかったので………………俺は開き直ってこう言った。
「俺が【魔戦競技】で優勝したら、同盟組んでるおじさんにとっても得なんじゃない?」
財務大臣は、初めて感情らしい感情を顔に映し出した。目を見開き、俺だけを見据えている。
「君は頭が悪いのか……。これだけ強者が揃っているなかで、選抜に選ばれることすらごく僅かな可能性。それが【魔戦競技】で優勝したら、だと? 何を根拠にして__
なら、見せる方が早い。
手を人のいない方へとかざす。
『書庫』→《魔法の読み込み》→「フレイムショット」
コマンドを入れると、空気中の酸素が魔素と結びついて勢いよく燃え始める。用意してある魔素の量は十分だ。燃料が多ければ多いほど、炎の大きさは大きくなる。炎の塊は直径3mくらいに膨らみ、温度が高すぎて周囲に上昇気流が発生し始める。
「フレイムショット」は今日の一次試験でガウスマンが連発していた魔法だ。よく聞く名前なので、最も一般的な『炎魔法』なのだろう。ただ、それらの本来の大きさはリンゴくらいの大きさの炎の塊を飛ばすというものだが……。
「フ、フレイムショット……こ、こんなものが……」
夜の暗さを消しとばすほどの大きな炎の塊は、俺の手の向いている方へと飛んでいく。岸壁にぶつかり、岩肌を派手に溶かした。
この場にいる皆が言葉を失っていた。
「優勝する根拠ってほどじゃないけど、 多分俺が一番強いから 」
今度はガウスマンは鼻で笑わなかった。
「は、ははは……。色々と想定外だ……。なるほど、魔力測定値7069とはこういうことなのか」
エビィーとイェーモも唖然とした様子だったが、ガウスマンに向き直り、再び頭を下げた。
「お願いします。同盟の提案、考えてみていただけませんか?」
ガウスマンの口が少しの間、何かを言おうと、しかし何を言えばいいのかわからず無音のまま形を変え続けた。やがて、言うべきことを見つけた口は、はっきりと返事をした。
「…………いいだろう……。君らの提案、少し持ち帰って検討してみるとしよう」
去っていくガウスマン。ふう……。なんとかハッタリが効いてよかった。
俺は安堵とともにため息をついた。
まさにガウスマンが言った通り、魔力測定値7069の時と同じことをしたのだ。あの時はメイさんに事前に【魔力結晶】の入った袋を渡してくれて、意図せずその結晶の持つ非常に濃い魔力を俺が利用する形で高い魔力出力が出せたのだ。メイさんはいくつか【魔力結晶】のストックを持っていて、俺はそれを一つずつもらって使うことができる。そして、「魔力を外部から取り込んで使うことができる」のが俺の特殊能力のようで、他の人には疑われることもないらしい。
とにかく、俺は今回、メイさんにもらった【魔力結晶】の力を借りてめちゃくちゃ強力な魔法を撃ったと言うわけだ。
ただし、この能力にはちょっとした不便さもある。
俺の身体の近くにある【魔力結晶】はこちらの意志に関わらず、全て魔法へと変換される、という点だ。
つまり、【魔力結晶】を持っている状態から、初めに使った魔法がとても強力になるが、一度で【魔力結晶】は全て消費されてなくなる。これは【魔力結晶】を何個持っていても同じだそうで、従ってメイさんから使ったら次のを渡してもらう、というようにするしかないのである。
もう一度やれと言われれば、今すぐにはできないということだ。
ありがとうメイさん。念の為に【魔力結晶】渡しておいてもらってよかったよ。
◆◆◆
[ガウスマン視点]
男は計画を練り直す必要があった。たった今、男は見せつけられた。不確定要素だと思っていたノイズが、何もかもを崩壊させかねないほどの影響力があるということを。小手先で言いくるめるなどしてどうにかなると甘く考えていた。あれは確実に、情報収集と仕込みを入念にし、対処をしなくてはならない。
「ルナット・バルニコル……。人の領域を超えた災害だったか……」
ガウスマンは頭をふる。
一次審査の時点で、ルナットは実力を出し切っているようには確かに思えなかった。しかし、まさかあれほどの高出力の魔法を隠していたとは思わなかった。ガウスマンは魔法戦でかつて【魔戦競技】という最高位の舞台で2位を取ったという自負があり、さまざまな魔法の使い手を見てきた。しかし、あそこまでの、純粋な出力だけで圧倒するほどの魔法は見たことがない。もし仮にあの威力の魔法を平気で連発するような使い手なのだとしたら、魔法戦で小細工など通用しない。
すぐに、ルナットについての情報が欲しい。
接していて分かったのは、人知を超えた力を持っていても、内面は考えの足りない子供だということ。
欲しがるもの、何を原動力に動いているのかが分かれば、利用しようもある。
天災と戦うことはできないが、知恵を持ってして天災をやり過ごすことはできる。
幸い、ルナット本人にはこちらに対してそれほど強い敵対心はないようだった。少なくともペトリカーナとは仲違いをしているそうだから、必然的にこちらと協力関係にはなりやすいはずだ。
「……同盟を組むのもありなのかもしれないか」
あまりの衝撃でそのことで頭がいっぱいになりそうになっていたところで、一度深呼吸をして息を整える。多忙なガウスマンには考えるべきことは他にもあるのだ。
選抜1日目にして、もう一つのイレギュラー。
それは右腕コリス・アルラの死。
コリスがどのようにして殺されたのか、それを確かめる必要がある。
この選抜で死者が出た場合、一度死体安置所に運ばれ、馬車に乗せられて家族の元へと送り届けられるようになっている。選抜の登録の際に参加者に提出させた書類がこの時に役にたつ。どこに住んでいたのかなどを記載する欄があるからだ。
ところが、ガウスマンは死体を一つ一つ確認していき、おかしなことに気づく。
” コリス・アルラの死体がない。 ”
本来、選抜内で死亡した場合、朝に馬車で送られることになっている。夜は移動が困難なので、朝に出発して日の出ているうちに多くの距離を移動できる方が良いからだ。コリスが死亡したのは今日の夕方ごろ。つまり、死体はここになければおかしい。
ガウスマンは、死亡者リストを確認する。死亡者リストはこの死体安置所に運ばれてきた死者を特定して名前を書き込んであるものである。ガウスマンにコリスの訃報を知らせてきた部下も、このリストにコリスの名前があることに気がつき、慌てて報告しにきたのだ。
確認してみると、そこにはコリスの欄にあってはならない「発送済み」の印がしてある。
「そこの君。コリス・アルラの遺体がすでに送られているのだが、どういうことだ」
係の人間に尋ねると、恐縮した様子で答えた。
「さ、さあ……。私はその方が死体として運び込まれるところすら確認していないもので……」
ミスや偶然でこの事態は起こり得ない。人為が介入している。
論理的思考を持つガウスマンは、すぐにコリスの死体がないことに誰かしらの作為が絡んでいることに気がついた。
まず誰が?
ギルファス家内で小細工ができる人間といえば派閥の人間だと考えるのが妥当だ。それどころか、ペトリカーナかその部下と考えるのがどう考えても自然だ。テオファルド派やシェリアンヌ派が何か企みをするとは考えにくいし、メリットもない。そもそもコリスにはペトリカーナ派の厄介そうなのの間引きを依頼していたのだ。その途中で殺されたはずだ。
次に、死体を隠した目的だ。
可能性1、実はコリスは生け取りにされており、効果的なタイミングで人質として使うつもりである。ガウスマンの性格を知っているペトリカーナがそんな愚かなことに労力を割くとは考えづらい。合理性を重視し、冷徹に目的を遂行する。彼に情を訴えかけるような作戦など意味をなさない。
可能性2、死体を見られて困ることがある。
これがおそらく正解だ。死体からはどのような魔法で殺したのかということがわかる。特殊な魔法や方法を使って殺害したのであれば、それを秘匿しようとするのはありえる話だ。
もっと細かく情報を吸い出す方法も存在する。『鑑定魔法』だ。
使用可能な人間はごく少数だが、物体から情報を吸い出すことができる特殊な魔法。国家騎士の特別な役職の人間は『鑑定魔法』を使うことができ、犯罪を捜査するのだとか。
……そうだ。部下からの情報では、ルナット・バルニコルは『鑑定魔法』も使えるのだという。
仮にペトリカーナ陣営が何らかしらの筋からルナットが『鑑定魔法』を使えることを知ったのなら、重要な情報を漏らさないよう、死体を隠すだろう。
いや。
それどころか、ルナットを利用すればコリスの死体から情報を引き出すこともできる。
悶々と思考するガウスマン。『鑑定魔法』自体が非常に希少なため、どのような魔法であるか、どこまでわかるのかは正確にはわからない。ただ、必死にコリスから知られる可能性のある情報を整理していく。
最悪のケースを想定しよう。コリスに『鑑定魔法』が使われ、『鑑定魔法』がコリスの脳内を覗けるほどのものだったとしよう。問題ない。最重要な内容は右腕のコリスにも伝えていない。ガウスマンは次の手を考え始めていた。
ところが、ガウスマンが繰り返していた思考の連鎖は、全くの見当違いな予測に過ぎなかったのだ。
だいぶ長くなりましたが、もうじき1日目が終了です。




