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7 さらば友よ……また会う日までw


「よーし、ここからとりあえず下に降りられそうだなww」



 ドラゴンをやり過ごしたら、今度は崖が俺たち3人の前に立ちはだかる。いや、立ちはだかってはいない。崖の上に俺たちがいるのだから。そして、エビィーたちには、こんな崖はどうということはないらしい。


 エビィーは10m以上ある岸壁を見下ろしながら息巻いてる。日が暮れる前に下山できそうなのはよかった。これで毛虫を食べる必要はなくなりそうだ。


 大胆に先陣を切って飛び降りるエビィー。イェーモに抱えられ、俺も後に続くこととなるのだ。強化魔法を使える彼らにとってこの程度の崖から飛び降りることはどうってことないようだ。


 おそらく自分より年下であろう、小柄で可憐な少女にお姫様抱っこされてるのはなんともこそばゆい。お姫様抱っこだよ! お姫様抱っこ! 俺がお姫様て!


 でも、イェーモが俺を抱えたまま崖を飛び降りた瞬間、そんなことは頭から吹き飛んだ。


「ヒョオオオオオオ!!」


 俺はまた意味もなく叫んだ。両手を挙げ、ジェットコースターに乗っているノリで。崖から飛び降りるのコエー!!!!


 エビィーとイェーモの魔法はどちらも身体強化の魔法だが、少し性質が違っている。


 エビィーの魔法はおそらく単純明快。徹底的な強度やスピード、威力の強化。一度強化魔法を肉体にかけると、崖下に無造作に落下したが、地面に叩きつけられても一切の外傷がない。落下地点にはヒビが入っていた。


 一方、イェーモの魔法はよくわからない。時々彼の周りに現れる魔法陣に影響を受けて、体が加速したり減速したり方向転換する。落下中、崖に現れた魔法陣に触れることで勢いを殺している。着地のタイミングでも地面に魔法陣が現れ、見えないクッションに受け止められたようにフワリと着地した。


 とりあえず、エビィーに抱えられて降りていたら死んでたな、と思った。身体強化のゴリ押しで、本人は落下してもダメージなしなんだろうけど、抱えられたほうはたまったもんじゃない。


「すげー。こんな高いところから飛び降りられる魔法、俺も使えるようになりたいよ」

「『鑑定魔法』使いが何言ってんだよwww」

「うん。ボクらからしたら、君の力の方がよっぽどレアですごいんだよね」




 下山したあと少し歩くと、すぐに街が見えてきた。いつの間にか、日は暮れかけていた。


 俺たちの別れの時もいよいよ近づいていた。


 「ここから、真っ直ぐ道沿いに行けば街に着くから」とイェーモが指差した先には立派な外壁に囲まれた街があった。


 俺は少し不安だったが、街に行ってみることにした。まあ、人がいるならなんとかなるでしょう。


 ずっとエビィーたちについていくわけにもいかないし。


「エビィーたちはどうすんの?」

「次の目的地に向けてもう少し進んで、夜になったら野宿だなww。夕飯一緒に食ってくか?」


 顎をくいっとやって、肩に担いだ赤色の巨大な物体、カプワームの方を指し示す。


「いや、それはいいや」

「そうかw?」



「念を押しとくけど、今日、ボクたちのと山であったこととは話さないでもらえる?」


 心配そうなイェーモ。

 どんな事情があるのか知らないけど、山で出会って仲良くなった、異世界初めての友達が困るようなことはしないさ。


 俺が承諾すると、彼らは満足そうに頷いた。


「ほらよww。これ、少ないけど持ってけってwww。じゃな、達者でwww」


 エビィーはいつの間にか袋に詰めていたリンゴスボリスの実を渡してくれた。



 愉快ないい奴らだったなー。


 彼らは彼らの目的地へ、そして俺は新たなる街を目指し、それぞれの道を進むのだった。



◆◆◆




 言われた通り、まっすぐ進むと街の景色が見え始めた。街には普通に入れるのかと思いきや、関所のようなところに警備の人が立っていた。もしかして俺、呼び止められて事情聴取とかされちゃうかな。


 と言っても身分証明書も持ってないし、こっちの世界で住む家があるのかもわかんないし、弱ったなぁ。

 さて、ここからどうしよう。


 街を歩いてたら運よく俺のことを知っている人と会うかも……なんて甘く考えていた時代が俺にもありました。


 山奥から人のいる街まで来ることはできたが、記憶は戻る気配がないし、この街に知り合いがいる保証もない。山から降りて「絶体絶命ピンチマン」から、「絶体絶命ピンチマンJr」くらいにはなったかもしれないが、だからどうしたという感じだ。


 いや、一つあるじゃないか。『鑑定魔法』!

 

 なんせ、あの部族少年たちを震撼させた特別な魔法だ。家までの帰り道くらいちょちょっと教えてくれるっしょう!


 対象は自分にして……項目は、「固有」かな…………発動!!

 

 ……と、いくはずだった。

 この世界のことも、魔法のことも何も知らない俺にとって、ありえないことなんてないはずだった。

 だというのに、予想外の出来事。

 






  「  本当に自分に対して魔法を使用しますか?  」






 な……なんだこれ?

 赤色の表記。半透明な文字で浮かび上がった確認の注意書き。

 たったこの一行の文章が、妙に不気味に感じられた。


 どうするんだこれ? 何かヤバい事実が分かったりするのだろうか?

 知らなければよかったような何か、特別なことが……。


 けど、他にどうしようもないんだ。俺は今、自分のことが何もわからない。

 知りたい。例えどんなことだったとしても……。


 俺は「はい」を選択した。

 





『ルナット・バルニコル。性別男。年齢15歳。』


 …………。




 ご大層な注意書きまで使用しておいて、これだけかい!!

 ってか、なんで自分のことなのに、こんなに何も載ってないんじゃい!!!

 知ってるからわざわざ教えなくてもいいでしょってこと? ええ、そうですか。自分のことなのに何も知らないんですよ、ワタクシ。記憶なくなっちゃったのでね。


 あーーーー緊張して損した。

 性別「女」とか表示されたらびっくりもしましたけどね! 新しい情報、年齢15歳ってことだけだし!

 割と、今その情報どうでもいいし!


 と関所の近くでうだうだやっていたところで、声をかけられた。


「おい、ルナット。そんなとこで何やってんだ」


 警備のおじさんは、なんと俺のことを知っているようだった!

 おじさんは記憶がなくなる前の俺だと思って、話しかける。


「またバルザックさんの仕事だろ? あんま外うろついてるとまずいだろ……。さっさと入れ」

「え? ……いや、そうなんですよ! ブルドッグさんの仕事で、外うろついてたらまずいんですよ!」

「は……?」

「とりあえず、お勤めご苦労様です!」


 俺は気分が良くなって軽快に受け答えした。

 関所は問題なく通れる上に、俺はこの街の人間だったようだ。だったら、家や家族もいるのだろう!


 おじさんの言ってる中身はよくわからなかったけど、そんなことは些細な問題でしかない。


 そうだ!

 俺のことを知ってるなら、ついでに聞いておくことがあるじゃないか。


「あ、すいません。俺の家ってどこか知ってたりします?」

「知ってるわけないだろ……。さっきから何言ってんだ……?」


 流石にそこまでは都合よくことは運ばなかった。

 でもこれは前進だ!


 俺はルンルンと門を通り過ぎていった。


 


 夜もだいぶ耽ってきた。


 日本とはだいぶ違うヨーロッパ風の街並は新鮮だが、山の時ほどの感動はなかった。自然のあるところの方が感動が大きかったのは、俺が自然科学好きの理系男子だからだろう。


 家という家の表札に「バルニコル」の文字がないか、俺のことを知ってる人間は通らないか、ウロウロキョロキョロしながら歩いていた。


 しばらくそうしたら、なんと、俺に話しかけてくる人が現れた。


「……何かお困りで…………?」


 なんだか浮浪者のような怪しい見た目のおじさんだった。フードを深く被り、小汚い格好で、髭はサンタクロースのように長くてふさふさ。こんな知り合いがいるとも思えないけど。いや、人を見た目で判断するのはよくないね。


 俺はダメもとで事情を話した。


「道に迷って、家がわかんないんですよね」


 おじさんは興味深そうに「ほほう……」と言って、髭をかいた。


「記憶喪失みたいなやつだと思うんだけど……。おじさん、俺の家知らないですよね?」


 すると、彼はこう言った。


「知ってますぜ……へへ。けど、この貸しは高くつきやすぜ……」


 本当に知ってるのだろうか?

 もしかして、いや、おそらくたかりか何かじゃないだろうか?


 まあ、ものは試しだ。


「お金は持ってないよ。これならあるけど、どう?」


 エビィーにもらったリンゴスボリスを渡そうとした。エビィーには悪いけど、仕方ないよね。


「いえいえ、今日のところは気にしなくて大丈夫ですわ。道はあの先を突き当たりに____



 おじさんは、細かく家までの道のりを教えてくれた。

 一体彼は俺とどういった知り合いだったのだろう。


 結果的におかげで俺は家にたどり着くことができたのだった。




◆◆◆




「って、感じで家に着いたってわけなんだよ」


 大まかにだけど、俺が体験したことを全部伝え終わったくらいに、夕飯もだいたい食べ終わっていた。

 一息ついたころ、父が口を開く。


「ルナット。とにかく、お前は明日は学校を休んで教会に行きなさい。ああ、道がわからないんだった。母さん、頼めるか?」

「ええ……それがいいわね」


 学校!?

 異世界といえば魔法学校! 俺はその単語に心が躍った。


「学校! 俺行くよ! 絶対行く!」

「い、いやしかし……」

「行きたい! 行きたい! 絶対いきたい! 教会いかないで学校いく! というか、なんで教会なの? 病院じゃなくて?」

「ビョウイン……?」


 3人ともピンとこない顔をしている。


「ほら病気とか怪我とかしたときに直してくれるとこ」

「だから教会でしょ。何言ってんのよ?」


 妹が俺の発言に不審そうな目でこっちを見る。

 いや、不審そうな目は、最初からだった。


 どうも、この世界は病院がないみたいだ。


  病気とかになったら教会に行って神だのみをするのだろうか? 宗教をバカにするわけじゃないけど、なんだか科学的に解決できることを祈ってるだけってのもなぁ。

 理系男子としては、宗教とかそういうのはちょっと相容れないのだ。


 そして、異世界の魔法学校に行きたいのだ!


 断っておくと、俺は勉強が好きなわけでも、学校自体が好きなわけでもない。でも、異世界の学校って……なんだかワクワクするよね?


 きっと帽子が喋ったり、空飛ぶ玉を追いかけてホウキにのったり、呪文の発音を隣の意識高い系女子生徒に注意されたりするのだ。

 最後のはどうでもいいか。


 母はすごく心配しているようで、

「でも学校のこと、覚えてないんでしょ?」

「それに一日中山歩きで疲れたでしょうし……」

と、色々言ってきた。


「いけるよ! この体、結構体力あるみたいで、少し疲れてはいるけど、まだ大丈夫! 記憶だって普段見慣れたところにいた方が戻りやすいだろうし!」


 それっぽいことを言って反論してみる。


 父は深刻そうな顔で黙っていたが、おもむろに口を開く。



「学校は……お前が思っているような楽しい場所じゃないかもしれないぞ……」

「かもしれないけどさ、きっと友達もできると思うんだ! 魔法の授業もどんなか見てみたいし!」


 父はやれやれと首を横に振った。


「本当はな、こんなことは言いたくはなかったんだが……お前は、学校で上手くやれていないんだ。それで不良とつるんで……」

「え!? ヤンキーなの!?」

「ヤン…………なんだって?」


 これはなんと計算外だった。

 俺はこの世界ではヤンキーらしい。


 俺の中の常識では、ヤンキーといえばリーゼントだ。本物は見たことないが、漫画のヤンキーは大抵そうだ。

 しかし、なんということでしょう……。俺の頭はリーゼントなどではない!!


「とにかく……お前は明日は休んだほうが……」

「確かに、髪型はどうしようかね……」

 

 何か言いたそうな父を差し置いて、思考を巡らす。リーゼントは髪が結構長くないと作ることができない。今の俺では、到底そこに辿り着くことができない長さなのだ……。

 悶々と考えていたが、ふと俺のもとに天啓が降りてきたのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] さすが!理系作家!話がだんだん難しくなってきた・・。苦笑 それにしてもルナットが元不良少年だったのは意外だった。勝手にオタク系の男子だとイメージしていました。
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