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6 危険な存在

「つまり『鑑定魔法』は無生物のみが対象ってことでいいんだよね……?」

「そうだよー」


 エビィー、イェーモは俺に『鑑定魔法』についてあれこれと質問してきた。こんなに2人が『鑑定魔法』について興味があるとは思わなかった。


「『鑑定魔法』ってそんなに珍しいの?」

「そりゃ、そうだよ!! ボクたちも、聞いたことはあるけど、見るのは初めてだよ……」


 ほほー。

 これはいわゆる異世界転生特典「なんかすごいスキルもらっちゃってました!」ってやつじゃあないかい?


 けど、生物には使えないし、これだけだとスマホの検索機能以下な気が……。いや、褒められてるしとりあえず喜んでおくか!


「生き物であるリンゴスボリスのことについては、さっきどうやって調べたんだw?」

「直接は無理だから、リンゴスボリスの枯れ木に対して魔法を使ったんだよ。「物体」「固有」「文化」「生態」の4つの分岐のうちの、「生態」で調べたことを読み上げたの」


 命を失った枯れ木は、生きているものの判定にならないようだった。


「……あ! だから、イェーモに教えてもらった生き物の話とかは《鑑定》じゃあ調べられないんだよね!」


 俺は慌てて付け足した。せっかく語ってくれたのに「実は調べれば分かったんです」ってことになったら、ガッカリ感があるもんね。


「それはいいんだけど……」

「マジで『鑑定魔法』使いがなんでこんなとこふらふら歩いてんだよww」


 想像以上に驚いた2人の反応に段々気分が盛り上がってきて、色々とご披露することにした。


「《鑑定》はさっき言ったとおり、4つに別れてるんだよねー。「物体」は名前が調べられて、「文化」は人との関わり方、「固有」はそのものの経験したこと、「生態」は何食べるかとか天敵とか、という感じの別れ方です」


 ちょっと演技がかったような喋りかたで俺の素晴らしいスキルを解説しはじめた。


 今度は剥がれ落ちた木の皮を拾って《鑑定》!

 そして、今回は「固有」を選択!


「どれどれ〜?

 コッシーの木の皮として生成される

 シャクドウシカのツノとぎで木から剥がれ落ちる

 ルナット・バルニコルに拾われる

 ルナット・バルニコルに《鑑定》される

だってー! なるほど、シカ(?)のツノとぎで木が剥がれたんだね〜」


 ツマミを強くすると、雨に打たれたとか風で揺れたとかそういう細かい情報が表示されていく。


 2人はなんかコソコソ話し合ってるけど、俺は構わずどんどん《鑑定》しちゃう。


 次は、そこらへんの水たまりにカーソルを刺して……《鑑定》!


 あれ?

 

 水にはカーソルがうまく刺さらない。多分柔らかすぎるのだ。考えてみたら空気にも刺さっていないから、きっとある程度硬度のある固体にしか刺さらないのだろう。他に鑑定する方法があるのかな?


 いや〜、まだまだ調べることがたくさんですなぁ〜。


 気を取り直して、なんか落ちてるでっかくて茶色い物体に《鑑定》!


「な、なんとなんとこちらの塊……「物体」で確認してみると……シルクモザンリュウの糞でしたぁ! えー、これは生き物のウ⚪︎チということですね。

 それじゃあ「生態」で調べてみると……あっと、ウ⚪︎チは生き物じゃないから調べられませんでしたぁー! 

 って、ん? どうしたの?」


 2人は一切にこっちを振り向き、すごい勢いでこっちに向かってくる。


 エビィーは信じられないことに、俺が糞と《鑑定》した物体に躊躇なく自分の指を突き刺す。しかも真剣な表情で!!


 なんだなんだ!?


 エビィーが合図をイェーモに送る。


 突然イェーモは俺の手を引いて草むらに飛び込んだ。

 ただ事ではないのだけは確かだ。



「ど、どうしたの……?」

「シッ! 静かに!」



 草むらで頭を低くして何分くらいたっただろうか。


 イェーモどころかエビィーすら、一言も喋らなかった。


 どう言う状況なのか、とても気になったが彼らの焦りっぷりを見ていると、今は聞いてはいけないんだなと、俺でも察しがつく。


 暇だったので、『感覚(センス)』の中にある《鑑定》と《五感》のうち、今度は《五感》の方を試してみる。


 魔法は使ってもバレないし、使っても問題ないでしょう。


 名前の通り、「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」に別れているようで、機能の想像がつきやすい「視覚」を選択してみる。


 おー。


 カーソルで合わせている部分にフォーカスして、拡大されて見える。望遠鏡のような感じだ。


 例の如く右側にツマミが表示される。ツマミを上げるとさらに拡大される。


 ……ん?


 逆にツマミを下げていくとどうなるんだろ?


 下げていくと、面白いことに視野が広がって、自分の周囲を俯瞰してみることができていた。


 本当にゲームをしてるみたいだ。


 ツマミを上げると、1箇所を細かく見られるが、視野は狭くなる。


 ツマミを下げると、細かい部分は分からないが、全体を見渡すことができる。


 日本地図と世界地図、どっちも利点があるように、この機能も用途によって使い分けたら便利そう!



 見える範囲を広げていくと、空の方までよく見渡せる。



 そのまま見ていると………


 なんだあれ……?


 距離感が分からないけど…………なんかデカいものが飛んでる。


 ツルツルとした鱗で覆われている雪のように白い肌。巨大を浮かせる大きな翼。太くて長い尾。

 

 あれは、ドラゴン……?




◆◆◆




「結局、なんだったの?」


 エビィーとイェーモがようやくOKを出して、立ち上がったのはさらに数十分してからだった。


「本当、お前の『鑑定魔法』ってスゲーなw。命拾いしたぜ……w」


 エビィーが言うと、ジョークに聞こえるが、多分本心からそう思っているようだ。


「シルクモザンリュウは、ドラゴンの一種だよ。ドラゴンは人を食べるんだ」

「糞があったかかったから、まだ近くにいたんだろうなww。見つかったら俺ら食われてたぜwwww」


 あー、それで糞に指を突っ込んでたんだ。

 

 実際、ドラゴンは近くにいた。俺は魔法でドラゴンらしきものが上空を飛んでいるのを見ているのだから。



「エビィーやイェーモでも、ドラゴンには勝てないの?」

「ドラゴンに勝てる人間なんていないんじゃないかな。そもそもまともな人は戦おうとしないよ」

「それなww」


 そう相槌を打った後、エビィーはさっき糞に突っ込んだ指を嗅いでみる。


「んはwww。くせぇwwwww。お前も嗅いでみろよwww」


 あろうことか俺にドラゴンのウ⚪︎コのついた指を向けてくるエビィー。


「せっかくだけど、全身全霊で遠慮します! その権利はイェーモに譲っておくよ! 生き物好きには興味のあることでしょうし!」


 おっと。

 俺としたことが、元日本人として譲り合いのスピリットが出てしまったみたいだった。


「えぇえ!? ボクもいいよ! というか誰も嗅ぎたくないから!」


 そんなこんなで、緊張感のある空気は、いつの間にか跡形もなく消え去っていた。



◆◆◆



 リンゴスボリスを見せた途端、父も母も妹も顔色真っ青になった。どうしたんだろう?


 この大袈裟な反応は、単なる食べ物の好き嫌いというわけではなさそうだ。


 家族達が慌てている中、俺だけ事情もわからず置いてきぼりになっていた。


 リンゴスボリスを見て何をそんなに頭を抱えることがあるのだろう?


 俺が疑問を感じていると、未だ頭を抱えている父は説明を始めた。


「……いいか、ルナット。落ち着いて聞くんだ。このリンゴスボリスの実は、ドンソン財団の管理する土地にあったもので、これを勝手に取ってきたことがバレると、かなり重たい罪に問われることになるんだ」



 ドンソン財団は大陸一の商業団体で、俺たちが住んでいるこのコール街に大きな影響力を持ち、この土地の領主のような役割を持っているのだそうだ。


 リンゴスボリスはとても珍しい果実で、また、味の良さから高額で取引される特産物なのだという。リンゴスボリスは自分で移動して地中の養分(マナ)を吸い上げるという生態の特殊性から周りに柵を作っておくことができない。そこで、ドンソン財団はリンゴスボリスの生息する西側の山を買い、リンゴスボリスの所有権を主張した。


 リンゴスボリスは珍しいので、北側の山には存在せず、ドンソン財団が保有している西側の山にしか生えていないのだそうだ。つまり、俺がいたのは西側の山ということだ。


 そして、ドンソン財団は西側の山を立ち入りを禁止した。しかし、いくら禁止したところで山の周りを全て監視することはできない。監視の目を盗み、山へ侵入し、リンゴスボリスの実を取ること自体はそこまで難しいことではない。


 なので、ドンソンがとった手は、監視を強めることではなく、山への侵入やリンゴスボリスの盗難が発覚したときの罪を重くすることである。本人だけでなく家族の長期間投獄、多額の賠償金……

 あな、おそろしや。


 __というか、エビィーとイェーモ、あいつらいい顔で去っていったけど、密猟者だったんじゃねーか! そりゃ山にいたこともバレたくないわけだ。


 俺が心の中でツッコミをしていると、母が狼狽えながら言った。


「こ、これどうしましょう……? 事情を正直に話して……」


 父が遮る。父も狼狽している。


「い、いや、連中はそんなこと、聞き入れてはくれないだろう……。ここまでバレていないのだから、とにかく証拠を隠滅するしかない……」


 妹も狼狽えている。


「じゃ、じゃあどうすんのよ!?」


 父は決心したように言った。


「食べるしか、ない……」


 俺たちはこの何とも言えない、罪深い味の果実を食べ始めた。家族四人がシリアスな緊迫感の中、えもいえぬ美食を黙々と頬張る姿はなんともシュールであった。


 うん。やっぱりリンゴスボリスは美味しいね!




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[良い点] ドンソン財団はヤクザ者?笑
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