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8 邪悪な女

 魔が巣食う巣窟。

 大いなる権力(ちから)を巡り、騙し合い、奪い合うのは、血縁の者ども。



 この世で最も美しい毒蛾は、炎の明るさに惹かれて身を焦がし続け、


 何者にも負けないほどに鋭い爪を持った猛禽は、その爪が体に食い込んでいることを自覚していてもなお羽ばたき続け、


 半身をもがれた狐は、それでも観衆の前で狂ったように踊り続け、


 死を呼び寄せ、周りに振り撒く黄金色の曼珠沙華は、いっせいに開花の時を待っている。



 かつて王族と呼ばれた、その血筋を受け継ぐ兄弟たちが、


 心中、何を思い、

 何を成すのか。


 父から与えられた冷酷な課題は、

「 人ならざる彼らの欲望(まもの)を喰い合わせる 」

ことだ。




◆◆◆




「ふわ〜〜ぁ。眠い。ほんっと退屈」


 ペトリカーナは大きく伸びをしてあくびをした。艶のある漆黒の長髪は風に揺れ、長いまつ毛の挑発的な釣り目には涙が滲む。その姿は男女隔たりなく魅了するほどに美しく、また愛らしく、たった今の一瞬であったとしても彼女を知らない人間がその場にいたらペトリカーナという女性に大きく好感を持つことになったことだろう。


 木々の生えた丘の上、微風に撫でられながら景色を眺める美女。ただ一点を除いては、見た者をこの光景をスケッチしたいという衝動に駆らせるような実に綺麗な光景だ。


 ペトリカーナのベンチのようにして腰掛けているのが、筋肉質の大男の背中だという一点を除いては。


「もう帰りませんか? わざわざこんなところでペトリカーナ様が貴重な時間をさいて待ってなくても……」


 四つん這いの状態で上に腰掛けられている大男は、当たり前のように上に乗っている美女に進言した。


「ラルゴ、アンタは本当にダメね。脳が筋肉でできているからしょうがないのかしら」


 ペトリカーナはラルゴと呼ばれる大男の太ももをヒールで蹴飛ばした。


「使えそうな手駒は、選抜が始まる前に唾をつけておくの」

「ははは、そんな必要あるんですか? 私たち親衛隊もおりますし、ヘルメッセンも一応いるではないですか! ヘルメッセンは正直私は嫌いですがね。気味が悪いやつです。しかし、あいつが有能なのは確かです。何はともあれ、ペトリカーナ様の事前準備は完璧ですとも! 今更他の輩に頼らずとも……うっ」


 歌でも歌い出しそうな抑揚で気持ち良さそうに語るラルゴに再び蹴りが入る。


「もういいから黙ってなさい」


 ペトリカーナは、ギルファスの主催する【魔戦競技(マジナピック)】選手選抜会場に向かう挑戦者たちの姿を遠くから見て、値踏みしていた。


 使えそうな手駒は増やしておく。やれることは全てやる。

 ペトリカーナはこの選抜が勝負所だということを自覚していた。

 我儘で高慢であっても、彼女は怠惰ではなかった。


 選定の基準はペトリカーナの直感、ただそれだけだった。しかし、それが侮ることができない、彼女の武器の一つであったのだ。


「ああ、またハズレ。ロクなやつ来ないじゃない。どうなってんのよ」

「こんな遠くから、見えるんですか?」

「当たり前でしょ。アンタたちがなんで『遠視魔法』使えないのか理解できないわ。というか、アタシさっき黙ってなさいって言ったわよね? 何? 逆らう気?」


 理不尽な物言い。しかし、ラルゴにとって最愛の主人からぶつけられる感情のこもった言葉は、ご褒美でしかなかった。それがどんな感情であっても。


 ペトリカーナは五感を強化する『感覚魔法』を三つ扱うことができた。「視覚」「触覚」「聴覚」の三つである。魔法は一般的には使い方を教える存在がいて、大なり小なり才能に左右される部分もありつつも、基本的には正しく努力した者が使えるようになるものだ。しかし、この『感覚魔法』について、彼女は誰から教わることもなく、だからと言って独学で勉強したというわけでもなく、センスで覚えていた。類い稀なる感受性の鋭さによって成すことができたのである。


「退屈で死にそうだし、ラルゴの頭も悪い、ラルゴの顔もブサイク、おまけにラルゴの椅子としての座り心地も最悪。はあ。せめてアタシを退屈させないような面白い話でもなさい」


 これだけ言われても、ラルゴは気分を害するどころかむしろ上機嫌になっていた。


「それでは、私の特技の歌を披露しましょうか! ええ、それがいいですね! それでは歌います。ペトリカーナ様賛美歌 第三楽章「美しき女神」

ラ〜ラ〜ラ〜素晴らしき〜世界の〜〜き〜せ〜き〜〜

「ああもううるっさい! やっぱり黙ってなさい! 一生!!」


 そう発言した直後だった。

 

 刹那の沈黙の時間のあと、

 美女の口元が裂けそうなほど吊り上がる。


 獰猛な獣の光を目に宿して。

 


「………………いいの見つけた」




◆◆◆




 草木の少ない剥き出しの大地。舗装されていない道は想像以上に歩くのに不便で、1ヶ月間体を鍛えている俺はともかく、普段おとなしくしているメイさんにとってはかなりシンドイ道のりだ。


 途中休憩を挟みながらも、進んでいくものの、寂れた荒野の景色に嫌気が刺してくる。おまけに人を全く見かけない。本当にこの道であっているのかという気すらしてしまう。会場に向かう人間が他にもいてもよさそうなもんじゃない? もちろんメイさんのことを疑うわけじゃないけど……。


 それにしても、こんな大変な道のりではメイさんが参ってしまわないか心配だ。本人は「大丈夫です」と言っているが、明らかに疲れているように見える。


 馬車で来る方がいいのではとも思って言ってみたことがあるが、平凡な家の出の俺がメイドを連れているだけでも少し怪しいのに、馬車まで乗っていたら変に目をつけられてしまうようだ。


 平民が馬車に乗って登場とは、何か裏があるのでは、と。



 とにかく、俺はメイさんの体調が気が気でなかった。できることなら、背負ってあげたいくらいだ。

 せめて、何か、面白い景色でもあれば気も紛れるのに……。


 そう思っていたところだったが、状況はすぐに変化した。


 人数は2人。前方から歩いてくる。女と大男。真っ直ぐとこちらへ向かって。


 お互いに歩く向きが逆方向なので、すぐに距離は縮まっていく。


 そして、女は立ち止まった。



「ねぇ、アナタ。アタシのコレクションに加えてあげるわ」


 真っ黒な長い髪。赤色の瞳。明らかにいいところの生まれだと分かる身なり。

 自信に満ち溢れた表情で、不敵に笑う。

 

 は? 何を言ってるんだ?


 この女が何を言っているのか理解できなかったのは、俺がアホだからだろうか?


 しかし、隣のメイさんに緊張が走ったのを感じ取って、改めて女の顔を見る。


「アンタたちは誰ですか?」


 問いかけつつも、検討は何となくついてきていた。


「ははっ。この小僧、立場を理解してないようですよ? やっちゃいますか〜〜?」


 隣のゴリラのように体の大きい筋肉マッチョの男が劇団の人の喋りのように、歌うような特殊な抑揚でしゃべる。


 そして胸板を膨らませてこちらを威嚇する。

 そのままドラミングでもし始める勢いだ。ゴリラはウホウホと言いながら、胸を叩くドラミングをすることで、威嚇をするものだ。


「ラルゴ。アタシが、今、このボウヤと、話しているの。それを遮るってことは、つまり死にたいの?」


 決してドスをきせているわけではない。淡々とした喋り口。それなのに、女の言葉には妙な迫力がある。

 ラルゴと呼ばれた大男は、萎縮してその大きな体を萎ませた。

 どうやら、この女がボスのようだ。


「レディーに名前を聞くときは、先に名乗るものでしょう? 聞いてあげるから名乗りなさい」

「……ルナット。ギルファス家の【魔戦競技(マジナピック)】推薦選手になりにきた」


 そういうや否や、女は高らかに笑い出した。

 何がおかしいのか。


 タイノンさんの大笑いとは、明らかに違う。こちらを見下したような嫌な笑いだ。


「選抜を受けにきたのね。知ってる? 推薦選手になるのって結構倍率高いのよ? 戦闘の実力だけでもダメだし……色々と複雑なの。ボウヤには難しい話かもだけど」

 

 この、不愉快な感じの女は……。

 出発前、俺はメイさんに説明されたことを思い出していた。



______________

________



「ルナット様。いいですか、これからギルファスの領地に、選抜候補生として参加するのです。簡単にでいいので、ギルファス家のことを知っておいて下さい」


 ん? 何の話をしようとしているんだろう、メイさんは?

 いきなり混乱しそうなので、出鼻をくじくみたいで申し訳なかったが、俺は質問をした。


「ちょっと待って。俺って、ただ選抜とかいうので勝っていくことだけ考えていけばいいんじゃなかったの? メイさんがサポートしてくれるから、その辺はいっかって思っちゃってた」

「それほど多くのことを知っておく必要はありませんが、ギルファス家の子供たちのことは知っておいて下さい。でないと、かなり面倒なことに巻き込まれる可能性がありますので……」


 よく状況は読み込めないものの、メイさんが必要というならそうなのだろう。

 知り合いですらない相手のことを頭に入れるのは、とても面倒くさそうだな、と思ったが、黙ってうなづいておいた。



「今回の【魔戦競技(マジナピック)】の選抜戦の形式は、伝統と血筋を重んじるギルファスからしたら、異例の形式です。身辺調査はしっかりと行うでしょうが、実力で人を選ぶこの選抜戦はギルファス側に何か大きな動きがあった証拠です」


「ええっと……。そんで、俺たちがその調査をするために、スパイとして潜り込むってことだもんね」


「その通りです。そして、その動きというのは、アウスサーダ家の独自の調査によると、「次期当主の決定」に大きな関係があると見られています。

その候補がギルファス家の今の当主であるジニアオルガ・リ・ギルファスの、4人の子供です」


 子供が4人いたら、普通に行けば長男が跡を継ぐかと思うのだが、そうではないらしい。


 メイさんが説明するには、現当主は4人の子供を争わせて最も能力が高いものに跡を継がせようとしているのではないか、とのこと。


 今回の選抜線は、その跡目争いに関係していて、4人の子供が介入してくることが予想されるようだ。


 はぁ〜〜、そういうドロドロしたのには巻き込まれたくないよぉ……。

 嘘とかついてもすぐバレちゃうし、俺には無理だ。


「中でも最も危険なのが、美しい外見と才能で周りを魅了する強欲な悪女、4兄弟のなかで最年長の長女

______________

________



「アタシはペトリカーナ・リ・ギルファス。今からアナタの飼い主の名前よ。覚えておきなさい」



 言っていることは馬鹿げている。だというのに、女の口調は冗談でもハッタリでもないようであった。


 メイさんの言っていた通りだ。なんてオカシな女なんだ。金持ちで甘やかされて、なんでも自分の思い通りになってきた人間というのは、こんなになってしまうのか。


 水を与えすぎた植物は根腐れをおこす。環境の作り出したモンスターだ。


「お断りだよ」


「あら、どうして? これからギルファス家を相続して、この大陸のトップに立つアタシに仕えることは、とても光栄なことなのよ」


 こんなワガママなのだから、断ればすぐにでも癇癪を起こしてヒステリーを起こすことも覚悟していたが、意外にも少しのブレもなく話を続ける。


 少々不気味だ。


「ギルファス家の跡取りはまだ決まってないはずだって聞いたけど」


「決まったも同然よ。アタシと他の兄弟たちとでは、格が違うもの」


 なんて、自信満々なんでしょう。


 こんな威張った女が跡を継いだら大変なことになる。是非とも他の候補者には頑張ってもらわなくては。


「とにかく、他を当たってよ。俺には興味がない」


 メイさんがこちらに視線をよこしているのを感じて、彼女が俺に伝えたいことを理解した。


 うん。ちゃんと分かってる。


 とにかく、揉め事を起こすな、ことを荒らげるな、ということでしょ?


 とにかくその場を立ち去ろうとしたそのとき……



「その小汚いメイドがいいの?」


 邪悪な嘲りの響きを持つ問いかけ。


「アタシ、勘がいいのよ。よく分からないね、ルナットは世界一美しいこのアタシより、そのメイドを選ぶんだ。ねぇ、その顔に巻いてある包帯、何? 醜い素顔を一部隠してるってわけ?」


 お前なんかよりメイさんの方が、何倍も美しいわ!


 と喉元まででかかったが、我慢した。


 俺は激情系ではない。

 しかし、こんなやつににこやかに返答できるほど人間できてもいない。フリーズしている俺に代わってメイさんが口を開く。


「お初にお目にかかります、ペトリカーナ様。(ワタクシ)はメイドのメイと申します。この包帯に関しては__

「でしゃばって、口出してんじゃないわよ、下賎なメイド風情が。誰が口を開く許可をしてやった? 今、アタシが話す許可を出しているのは、ルナットだけ」


 こいつ、嫌いすぎる。メイさんになんて酷い物言いだ。

 しかし、我慢だ。


 事前にメイさんが話をしてくれたのはこういうことだったんだ。何も知らなければ、頭のオカシな不審者に絡まれたと、状況を正確に判断できなかったかもしれない。


 メイさんから聞いていたことを反芻する。


 こいつは頭のネジが外れているかもしれない。しかし、バカではない。それどころか、かなりキレる。


 現に、俺とメイさんが一切会話していないのにもかかわらず、俺がメイさんに好意的なのをいとも簡単に当てたじゃないか。


 俺は小さく息を整える。


「この包帯は火傷の痕だよ。この子が小さいころ、火事に巻き込まれた際に火傷をおって、貧乏だったから教会で『回復魔法』を受けられなかったんだ」


 これは出発前にメイさんと口裏を合わせて準備しておいた作り話だ。火傷や傷などは長い時間の自然治癒によって皮膚が癒着すると、後から『回復魔法』をかけても元の見かけに戻すことはできない。


 包帯の下にあるイバラのアザを見られることは、アウスサーダ家の一人娘メイレーン・ディア・アウスサーダの身元を非常にバレやすくしてしまう。


 だから、火傷の痕という作り話で隠し通そうということだ。


「火傷の痕? やっぱり醜いんじゃない」


 我慢も限界だが、なんとか耐えろ、俺。


 そのまま、興味を失ってくれればどんなに良かっただろう。


「それじゃあ包帯を取って見せてみなさいよ。見せ物としてくらいの価値は示しなさい」

「み、見せるようなものじゃ……」

「どうかしら? アタシはなんだかとても良いものが見られそうな気がするわ」


 なんて鋭く、憎たらしいのでしょう。確実にこちらの弱点だと分かっていてついてくる女。


 メイさんの顔に手を伸ばすペトリカーナ。


 とうとう俺は我慢できなくなって、この底意地の悪い女の伸ばした腕を掴んだ。


「困っちゃうな。女性の顔を笑い物にしようなんて趣味が悪いと思うけど」


 瞬間、大男の手がこちらに伸びてくる。

 キシムと散々訓練は積んでるんだ。すぐにそれを払い除けた。


 続いて、男は巨体の前面に背負っていた縦長の鏡のようなものを突き出して、こちらにタックルをしてくる。


 ……しまった、咄嗟に避けたことで、メイさんと分断されてしまった。


「ペトリカーナ様の腕を掴むな〜ペトリカーナ様親衛隊隊長様のラルゴ様が見過ごせないぞ〜〜」


 男は随分好戦的だが、歌うような口調のせいで緊張感に欠ける。

 ていうか様様、様様うるさいな……。


 ペトリカーナは気にかけることもなく、思い立ったように、言い出した。


「そうね。楽しみは最後にしましょう。メイド。まずはお前がこの地に足を踏み入れるにふさわしいか試験してあげるわ。動くんじゃないわよ。動いたら、アタシの権力でボウヤは選抜を受けられないようにしてあげるから」


 そういうと、高慢な女は手をかざしてメイさんの足もとに魔法陣が広がる。

 明らかに危険な、害意のある魔法陣。俺は咄嗟に叫ぶ。


「メイさん! 逃げて!!」


 しかし、メイさんは動こうとしない。


 ペトリカーナの発動の合図と共に、魔法が発動して、効果が現れた。


「精神を蝕み、心を殺せ『ナイトメア』」


 メイさんの表情から正気がなくなる。瞼が閉じかけ、口から言語ではなく音が漏れ始める。


 意識が術に囚われていく。


「メイさん! しっかりして! メイさん!!」


 メイさんのところに駆け寄ろうとするものの、このゴリマッチョの大男が邪魔をする。


「行かせないさ! 私は親衛隊長〜〜! 守るのが得意、得意、得意〜〜! ラララ〜〜〜」


 鬱陶しい歌と共に、鏡の盾で行く手を阻み続けられる。


「あ……あああ………かっ……はっ……」


 メイさんは薄く開いた瞼からは白目のみが見え、呼吸を整えられずにいる。過呼吸を起こしているのだ。


 口元から雫がたれ、顔の血管に血が集まって顔が赤くなる。足が痙攣を始め、その場にへたり込む。


 必死に駆け寄ろうとするが、大男ラルゴが邪魔をする。


「何してるんだよ! 邪魔だよ! この変態筋肉!!」


 早く! 早くメイさんを助けないと……!


「さーて、何分耐えられるか見てみましょうか。ラルゴ、死んでも彼を近づかないようにしなさい。結果的にアンタが死んでも構わないわ」


「ええ! 喜んで〜〜!! ペトリカーナ様のご命令は絶対ぃ〜〜!」


 大きな体躯、振り回す長い盾。メイさんのプレゼントしてくれた大切な(ステッキ)を駆使して攻撃をしようとしても、上手く塞がれてしまう。

 近寄れない……!


 残酷な女の命令に従い、愉悦にひたる大男。


 加虐の悦びを浮かべる女。


 何が試験だ! こんなのメイさんを虐めて楽しんでるだけじゃないか!!


 くそう! なんでこんなに理不尽な目に合わなくてはいけないんだよ……。

 俺たちは、まだ何も…………



 そして____

 女は顔を歪めて首を斜めに捻ってこちらを見下ろす。



「ねぇ、ルナット。もしかしてアタシのコレクションになりたくなってきたかしら?」


 どこまでも悪趣味だ。

 こちらが快諾しないと分かったら、メイさんを痛ぶって無理やり頷かせるつもりだ。


「ふふふっ、首輪でもつけて飼ってあげようかしらね。お手とお座りも練習させなくちゃ」


 こんなやつの下につくなんて、絶対に嫌だ。


 けれども俺は、どうしようもなく、ただただメイさんを助けたくて……


 キシムに、エリキに約束したのに……メイさんを何があっても守るって……。




 そして、事態は急変した。



 ものすごい速度の物体が目の前に現れ、二つの塊はそれぞれ俺とメイさんの体を捕んで、その場を離脱した。


 抱き抱えられながら、俺はその物体の__

いや、その二人の正体を確認することができた。


 俺とメイさんを抱えて、あの悪女の魔の手から救ってくれたのは、見覚えのある懐かしくすらある、その姿に、俺は思わず大声で叫んでしまった。



「エビィー!! イェーモ!!」




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