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5 リンゴスボリス


 ______リーン__



 綺麗な鈴の音がして、先頭を歩くイェーモが両腕でバツ印を作る。ここから先は行けないようだ。


 よくわからないけど、彼女が持ってる鈴は魔法のアイテムのようで、道案内に役立っているみたいだった。


 さすがは魔法の世界。

 GPSはないけど、魔法でルートがわかっちゃうんだ。


 だいぶ打ち解けてきたところで、ふと思い出したようにイェーモは俺に言った。


「山を降りた後、ボクらがこの山にいたことは絶対に誰かに言わないでほしいんだ。ボクたちもルナットとここで出会ったことは誰にも話さないから」


 俺は別に言われてもいいけどなあ。

 不思議な言い方に好奇心が反応する。


「それはいいけど、どうして? 何かまずいことがあるの?」


 エビィーは大笑いした。


「そりゃまずいことしかねぇよwwwこの山にいたってバレたらwwww」


 詳しく事情を聞こうとしたが、すぐに新たな来訪者が来て、話は打ち止めとなった。


 現れたのは、大型犬ほどの大きさもある尖った毛のようなものを身体中から生やしている赤色の物体だった。

 それがありえないくらい大きな毛虫であることに気がつくのに、10秒はかかった。


「カプワームじゃねえかwwwひゃっほうwww!」


 人によっては卒倒するであろうグロテスクな外見の「毛の生えたチョココロネ」を見て、エビィーはなぜだか大はしゃぎし出した。そして、当たり前のようにその芋虫を近くにあった長い木の枝で刺して殺してしまった……。


 それから、今度は丁寧に一本一本毛抜きを始めた。


「えー……。なにしてんの?」

「夕食確保してんだよww。毒があるのは毛の先だけで、身は甘くてうめぇんだわwwww」

「カプワームはリンゴスボリスしか食べない偏食の虫だから、身が甘いんだよね」


 さっき「ウヒ」を殺さなかったのも、本当に美味しくないからという理由だったみたいだ。

 昆虫食はいけても、流石にこのサイズの毛虫はちょっと食べられないな……。


 毛抜きが完了し、棒に串刺しになった「赤いチョココロネ」は今もエビィーの肩に担がれている。

 「チョココロネ」ということに俺の中ではしておこう……。


 ずっしり重そうだが、エビィーはものともしていない。魔法の影響か、それとも単にマッチョなだけなのか。


 このまま野営とかになったら、あれとかを食べることになるのだろうか……?


「さっき言ってた "リンなんたら" ってのは?」

「リンゴスボリス。とっても美味しい果物をつける木だよ。カプワームを見つけたから、近くに生えているはず」

「リンゴスの実は甘くてうめぇんだわwwww」


 エビィーはリンゴスボリスを略してリンゴスと言っているんだ。確かに名前、長いよね。


「リンゴスボリスは生息地が限られる珍しい果樹なんだ。人工栽培もボクの知っている限りできてない」

「なんでそんなに難しいの。気候? それとも土地の成分が原因?」

「このあたりの気候はごく普通だよ。土がいいんだ」


 ふーん。

 俺は土を触ってみた。


 たいして湿っているわけでも、乾いているわけでもなく、よく分からない。いい土って、具体的にどういい土だろう?


「大地にマナが多く含まれているんだ」

「マナ?」

「それも忘れたんかよwww。魔法使う時のエネルギーみたいなやつだってwww」


 なるほど。ようは地中の肥料が豊富なのね。

 そりゃ触っても分からないわけだ。


「ほら、見つかった」


 イェーモの目線の先には、一風変わった木が群生していた。




 一番に目を引いたのは眼前の高さ3mほどの木からぶら下がる黄色い果実。そして地面から飛び出ている部分が多い根もまた変わっている。

 触ってみると木肌は凹凸なくツルツルとしている。

 葉もまたツルツルとしていて分厚い。枚数は少ないが、一枚一枚が大きい。


「木とか触ってねぇでリンゴスの実、くってみろってwww」


 名前の通り、リンゴみたいな実だ。皮が黄色いけど。

 俺は、手を伸ばして届く高さについている黄色い実を取り、かじりついた。


 ゴムのような感触が口に当たった。「えいや!」歯を食い込ませると、中からみずみずしい果汁が広がる。


 うん! 確かに甘くてうめぇ!


 そんなこんなで、リンゴスボリスの果実に舌鼓を打って探していると、エビィーが何かに気が付いたようだった。


「お、ラッキーww。これはおもれぇもんが見られるぞww」


 エビィーはヘラヘラと俺の肩に手を乗せる。


 おもれぇもん?

 そう思っていると信じられないことが起こった。



ドドドドド……



 群生していたリンゴスボリスの木がいっせいに動き出した。地面から根が持ち上がり、まるでそれを足のように使い、歩いていくように大移動を開始した。


 これは確かにお見事だ!



 いつものようにイェーモが説明をしてくれる。


「リンゴスボリスはマナの多い土地でしか生きられない。しばらくしてマナを土から吸い上げると、マナの多い別の場所を目指して集団で移動をする性質があるんだ」


 ほとんどのリンゴスボリスの木が大移動していくなかで、明らかに枯れてしまってその場に止まっている枯れ木がある。


 俺はそれを見ながら……何の前触れもなく言い出した。


「リンゴスボリスの葉は大きくて枚数の少ない。木肌、葉、果物すべてツルツルとした触り心地をしている。これらは水を体から蒸発させないようにするためのからだのつくりである。乾燥した土地や気候に住むわけではないこれらの植物種がこうした構造を持っているのは根を足みたいに使って移動するリンゴスボリスの特殊性に起因している」


 急に何事だと、2人はこっちを黙って見ている。

 なおも俺は続ける。


「植物にしては珍しい「移動」という手段を取る性質上、根を土に深くさすことができない。根を深く張らないリンゴスボリスは、水を取り入れられる量が少ない代わりに出ていく量を節約する必要があるのである」


 2人は呆気に取られて口を開けている。


 そうだろう。そうだろうさ。

 2人が驚くのも無理はない。


 何せ、記憶喪失だと思っていた人間が、いきなりリンゴスボリスの詳細な情報を語り始めたのだから。しかも口調まで知的になっているときた。


 まるで、そう。まるでウィキに載っている情報を読み上げたかのような説明口調。


 これには彼らもたまげたことだろう。


 しかし、そんな彼らに対して、俺は一言。


「……って魔法で《鑑定》したら出てきたよ」


 実を言うとリンゴスボリスについて内容を読み上げていただけなのだ。


 はい、ドッキリでしたー。

 なんちゃって〜〜。



「鑑定……魔法…………?」



 2人はさらに目を見開いて俺のことを見る。


 あれれ……なんか、思ってた反応と違うなぁ。


 俺はてっきり「なーんだ〜まったくも〜ビックリしたよ〜」みたいなノリを期待してたのに……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公のことを勝手に大学生くらいの成人だと思い込んでいた。15歳だったのには、びっくり!
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