38 強力な助っ人
困ったことになったな。
俺はすっかりお尋ね者になってしまったらしい。
妹を教会に置いてきたまま逃げてきてしまった。
まあ、妹は指名手配されてるわけじゃないから、神父やパニシエに任せておけば大丈夫だろうし、自力で家にも帰れるだろうけど。
俺のことを探しているのだとしたら家にも衛兵が訪ねてきてるに違いない。
両親には、特に母には心配されているだろう。
でもまずは、それよりも自分のことだ。
とりあえず情報収集だ。
隠れながら、衛兵の話を『感覚』→《五感》→「聴覚」で盗み聞きしてみる。
「……そっちは後回しでいい。ルナット・バルニコルを見つけることが優先だ。2人も殺しをしているらしいからな」
「この間の魔法戦闘でも強い相手を倒したって話ですよね……? しかもそいつ不良なんでしょう? 完全に力に酔って暴走してるやつですよ、俺関わりたくないですよ」
「バルザック支店長の直接の指令だぞ。死ぬ気で探せ」
何そのルナット、完全に漫画とかアニメとかに出てくる悪役の設定じゃん。
完全に俺は危険人物認定されてしまっているようだ。
聞いている感じ、バルザックが俺に罪をなすりつけて犯人に仕立て上げようとしているみたいだね。モンドー先生を殺しておいて、犯人を知っている俺を悪者にしてしまおうということか。やり方が悪どい。
しかし、俺には状況を打開するような知恵も権力もない。唯一の希望はロズカのお父さんになんとかしてもらえることを信じて待つのみだ。ロズカ、ちゃんと伝えてくれてるよね?
それまでは、とにかく捕まらないように逃げ切ることだけ考えよう。
捕まったら、無理やり強引な自白とかさせられるかもしれないしね。あの悪党め、絶対成敗してやるからな……ロズカのパパが!
逃げるのはそれなりに簡単だ。『身体機動』を発動すれいい。ただ気をつけなくてはならないのは、ドーマの一件で学んだこと、生きている対象に触れられている状態では『身体機動』を発動できないということだ。つまり、手を掴まれでもしたらかなりまずい。
まず最初にどこに向かうかは決まっていた。
俺の魔法は色々なことができるが、直接の力比べになったら分が悪い。欠点を補うためには道具を使う必要がある。俺はそれらの道具を既に用意している。もちろん今回のようなことを見越したわけじゃない。何せ、俺は用意周到さとは無縁の男なのだから。
道具は以前の模擬戦闘訓練のために用意したものだ。残念ながら、道具は禁止と言われてしまったためその時は出番がなかったが、何がどこで役に立つのかはわからないものだ。道具が入っているリュックは、学校に置きっぱなしにして忘れていた。
まずは学校に行って道具を手に入れよう。
向かっている途中、俺はグレイオスたち3人を見かけた。
俺は閃いた。そう、詳しい状況までは読み取れなかったが、グレイオスたちはバルザックの殺害現場で
「お、おまえが歴史学のモンドーをやったんだろ!?」
「いや、殺したのはバルザックのおじさん。グレイオスもその場にいたでしょ?」
俺の言葉を聞いてひどく動揺している。
なんだなんだ? グレイオスは何に怯えてるんだ? もしかして、本当に俺が殺人犯だと思ってるのかしら? 都合よくモンドー先生の死ぬ前後だけ記憶喪失になってるのか? そんなバカな。
「か、観念しろぃ!」「お前がやったんだ!」グレイオスの友達A、Bも一緒になって騒いでいる。
「だからさぁ、モンドー先生を殺したのはバルザック! 敵討ちのつもりなら、俺に協力して一緒にあいつをやっつけようよ」
「お前……やっぱり、どうしようもないアホだよ……。お前なんかが、いや、俺たちが力を貸したところで、バルザックさんに敵うはずないだろ……。あの人はこの街の一番の権力者なんだよぉ!」
グレイオスは初級の炎魔法『フレイムショット』を俺に向けて放つ。
自分を選択して、『移動』→《自由移動》で『身体機動』を発動し、攻撃を避ける。
そうか、グレイオスは完全に……不良的に言うと、ビビっちまってるってやつなんだ。
怖くてバルザックに逆らうことができない。
殺人という、いくら不良でも許容し難い悪事をしてるとしても、本物の悪を糾弾する勇気が持てないのだ。
ダメだ。真実を知る彼らなら助けになってくれると考えたのは甘かった。彼らに悪に立ち向かう力は……ない。
「 待ちな!! 」
大きく丸い体型。着古したエプロン姿。
そこに立っていたのは、まぎれもなくボナペティ夫人その人だった。
「あんだおばさん!?」「俺たちは取り込み中なんだ、すっこんでろ!」と興奮した子分たちが吠える。
「アンタたち、本当にルナットちゃんが殺しなんてしたと思ってんの?」
子分たちは口々に「なんだこのデブいおばはん」「ったく空気読めねえよな」と囃し立てる。
そして、勢いに乗った子分Aがボナペティ夫人を挑発する。
「関係ねえんだよ。こいつは、ルナットは、バルザックさんを怒らせちまった。だから、終わりなんだよ」
子分Bも続く。
「そうだよ。実際に殺しをしたかは関係ねえ! こいつがやったとバルザックさんが言ったらやったことになんだよ!」
ボナペティ夫人はしばらく不良3人を眺めていた。
「つまりあれかい? ルナットちゃんは悪いことしてないけど、アンタたちはそのバルなんたらってオッサンの言いなりになって、ルナットちゃんを捕まえようとしてるってことかい?」
ボナペティ夫人の一歩も引かない態度に、子分たちは押され気味だ。
いいぞ、ボナペティ夫人! 頼もしい!
そして、いつも一番最初に啖呵を切るグレイオスが夫人が現れてから一度もしゃべっていないことに、子分たちもようやく気がついた。グレイオスは、ただひたすらに下を向いて黙っていた。
「グレイオス君も何か言ってやってくれよ。あのおばさんなんか怖えよ」
情けない声で子分たちがリーダーにすがる。グレイオスは弱々しい声で言った。
「無理だ……絶対、勝てない」
まるで借りてきた子猫のようだった。
子分たちはどういうことかとグレイオスに説明を求めた。
グレイオスは重々しく述べた。
「あれ……俺のお母さん……」
え……嘘でしょ? マジか……マジなのか……。
まさかグレイオスとボナペティ夫人の二人が親子だったとは……。
衝撃の新事実と言ったところだ。
追い討ちをかけるようにボナペティ夫人は怒気を顕にして言った。
「グレイオス! アンタいつも言ってるでしょ!! ママとお呼びって!!」
え、そこなの?
グレイオスは絶望し切った顔をしていた。あのヤンチャなグレイオスが、自分の魔法に自信があって威張ってたグレイオスが、戦う前から白旗なんて。恐るべし、ボナペティ夫人!!
「ルナットちゃん。行くところがあるんでしょ? アタシはコイツらをたっぷり説教しておくから気にしないでお行き」
ボナペティ夫人は、ニィと笑った。
俺はお礼を言って先に行くことにした。
背後では「 メルヘンチック・オバサン・バーニング・ボンバー! 」という掛け声と共に、ものすごい爆発音、そして続いて不良たちの悲痛な叫び声が聞こえてきた。




