27 魔法学園ものでははずせない「戦闘訓練」3
いや、ないわ。
俺もさ、これでも色々考えてきたんだよ?
出力の低さを補うためには何をしたらいいのか、どうやったら攻撃魔法の代わりになるのかって。
そんで、あれこれ工夫して、お父さんにも相談とかしたりして、試行錯誤を繰り返した結果、道具を持ってきたわけじゃん。
それなのに、道具使用禁止とか……。
しかも、楽しみにしておいた3時のオヤツまで………………3時のオヤツまで!!
落ち込んでいる俺にはお構いなしに、グレイオスは呪文の詠唱を開始していた。
「くらいやがれ……フレイムショット!!」
人の頭ほどの炎の円盤が勢いを持って3つこちらに飛んでくる。
間一髪のところで避けたが、当たった地面は赤黒く溶けていた。
グレイオスの炎魔法に歓声が「わー!!」と上がる。フレイムショットは初級の炎魔法で、多くの学生が使っていたが、グレイオスのものはそれらと比べて威力が一段階上のようだった。
「けっ! 運良く避けやがったか。けど、これくらいでくたばっちまったらやりがいがねぇからよぉ」
なんとまあ、自信満々のグレイオス。合図もなくいきなり攻撃してくるなんてせっかちなことだ。こっちも反撃といかせてもらいましょうか。
落ちている小石をカーソルで選択。『移動』→《ターゲット指定》で自分。自分に向かって飛んでくる小石をキャッチ。
次に『移動』→《ターゲット指定》で今度はターゲットをグレイオスに指定。思いっきり振りかぶって投げる!
投げる力が加わる分スピードがある。しかし……
「フレイムショット」
グレイオスが放った炎の円盤と、投げた小石がぶつかる。
小石はドロドロに溶けて、地面に散る。
すぐにそれが魔法の威力の差だと気づく。
魔法戦で、魔法と魔法をぶつけた際、威力の弱い魔法は打ち消される。学校の授業で言われていたことだった。
「だから言っただろぉ? そんなザコ魔法はきかねぇって。他にねぇのか? そんなもんか? あん!?」
ふーむ。石投げ戦法は効かない。
また、どのみちグレイオスに小石がぶつかっていても勝負を決めるほどの大きなダメージになるわけではない。
さて、どうしたものか。
「まっ、所詮お前はそんなもんだろうなぁ、ルナットォ。じゃあ、冥土の土産に見せてやるよ。この、俺様の編み出した風魔法の技術を取り込んだ、新たな炎魔法を」
"メイドの土産" と来ましたか。それはさぞかし「燃え燃え」しそうだ。
グレイオスの手に炎の渦がまとわりつく。
「灼熱の炎と荒れ狂う風よ、我が導きに応じて螺旋のくらいやがれ……インフェルノ・プロミネンス!!!」
すごい威力の魔法が来そうだ。
俺は自分にカーソルを合わせた。
『移動』→《自由移動》
そして、再度現れる物騒な雰囲気の警告。
「 本当に自分に対して魔法を使用しますか? 」
俺は「はい」を選択した。
凄まじい威力の炎の渦が螺旋状に回転しながら蛇のようにこちらに向かってくる。俺は真横に飛び退く。
「クソが! よけんじゃねぇ! インフェルノ・プロミネンス」
再び放たれる "メイドの土産" 、もとい炎魔法。
しかし、俺の体はワイヤーで引きよせたかのように横にスライドしていき、易々と火炎をかわす。
自分を対象として、『移動』を使用すれば、通常より素早く動くことができるのだ。速度は自転車で普通にこいでいるときくらいの速度。しかも、この魔法を使用しているとき、対象物にかかる重力は魔法が打ち消してくれる。宙に浮くような浮遊感。
「な、なんだあの素早い動きは『身体強化』か!?」
「いやいや、風系統の『身体機動』じゃないか!?」
「ウソだろ! そんな高度な魔法、なんであいつが使えるんだよ!」
どうやらこれも他の人にとって新鮮だったみたいで、観客達は大騒ぎだった。
右に左に、なんなら上にも飛び上がって、そのまま飛び回ったりもできる。
「と、飛んだ!!!」
「実はあのルナットって人、とんでもないエリート!?」
「ただの不良って話じゃないのかよ……」
「変人だと思ってたら、天才だったのか……!?」
「こりゃ、もしかしてグレイオスが負けるかもな……」
空飛ぶの楽しいーー。
浮遊感に酔いしれていると、頭に血の上ったグレイオスの魔法にぶつかりそうになる。
「おっと危ない」
機動力を重視するなら、地面を蹴って速度を上げたり、向きを変えたりできる地面付近がいい。
空中散歩をやめて、すぐに地上に降りる。
「くそが! フレイムショット! フレイムショット! ファイアボール! インフェルノ・プロミネンス!!」
惜しみなく放たれる魔法たち。
周りの見えなくなったグレイオスの魔法が観客たちにまで当たりそうになった。
「は、はなれろ!」「うわぁ!あつっ!」
どこを狙っているのやら。 "メイドの土産" は俺でなく野次馬に当たりそうになっている。
距離をとっていれば避けることは造作もない。
しかし、だ。このままではこちらから攻撃を当てることもできない。
確かこの戦闘訓練では、攻撃手段は格闘技によるものでも可とされていたはず。つまり魔法による有効な攻撃がない俺は、接近して直接打撃を入れるしかない。
問題はどうやって近づくかだ。近づくほど、着弾までの時間が短くなる。また、遠近法で近くのものが大きく見えるのと同様、単純にグレイオスにとって攻撃が当てやすくなる。この距離では当たる心配はないが、近づいたらリスクが高まる。近づくのは一瞬がいい。
「転移魔法」でもいいが、ここは少し工夫をしよう。
グレイオスの詠唱のスキをかいくぐって、近くにある大きめの岩石に『形状』→《対象物を変化》で、三角柱に形状を変化させる。
次に、『生地』→《面の貼り付け》で「引数」を【反発率】を200%、打撃耐性を上げられるだけ上げて、三角柱に変形した岩石の周囲に結界を貼る。
【反発率】とは、すなわち跳ね返りやすさである。これは例えばクッションの上に鉄球を落とすと全く跳ねないが、トランポリンに鉄球を落としたとき、鉄球は跳ね返る。これは落としたものの反発率の違いによる部分である。この数値を200%にしたことで何が起こるのかというと、簡単に言うと、硬い何かをぶつけた時に、ぶつかった時の2倍の力で弾き返すということなのである。
ビュン!
炎が飛んでくる。俺はすぐに自分への『移動』に切り替えて、避ける。
次の魔法に合わせて俺は飛び上がる。空中で見下ろすグレイオスは、魔法の乱発で相当疲れているようだった。
密かにセットした、三角柱の岩石の上まで行き、そして一旦『移動』の魔法を解除して体が落下。
スタートダッシュをする時に陸上部とかが使っている飛び出し台の代わりだ。三角柱の岩石はグレイオスに向けて飛び込むのに非常にいい角度になっている。
俺は反発率200%の発射台に落下のエネルギーで踏み込み、
『移動』→《ターゲット指定》で、対象を「グレイオス」に指定!
グレイオスへと一気に加速する。
誤算は、その加速が予想外に勢いが良かったことだった。本当はね、格好良く飛び蹴りか、パンチを決めるつもりだったの。こんなはずじゃなかったんだ。
しかし、ロケットのように直立状態で発射した俺の体は、そのまま体勢を変えることができず、「起立、気をつけ」の姿勢のままグレイオスの顔面につむじのところでクリティカルヒット!
グレイオスは俺の頭突きを顔面でモロに受けて鼻血を噴き出しながら吹っ飛んだ。
「あいててて……。頭痛ぁ」
体を起こして見てみると、そばには鼻血をドバドバと流し白眼を向いて倒れているグレイオス。
「……うわ……。グレイオス、大丈夫かー? おーい?」
いつの間にか大勢集まっていた観客達は騒然とした様子だった。
かわいそうに。プライドの高いグレイオスは意識が戻ったら「ブザマな格好を見られた」と言って憤慨するに違いない。いや、このことは頭を打って記憶から抜けるに違いない。俺だってこっちの世界での記憶がなくなったんだから、割と起こり得ることのはずだ。うん。




