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25 魔法学園ものでははずせない「戦闘訓練」1

 魔法による戦闘訓練は学校の所有する岩石地帯で行われる。安全性に配慮するということで、先生たちが目が届くように、数ペア単位で模擬戦闘が実施され、残りのメンバーはそれを観戦しながらあれこれと野次を飛ばすようだった。


 俺の準備は完璧だった。結局父にアドバイスを受けた「魔法の出力」の問題は解消されていないが、そっちは一朝一夕でどうにかなるとは思っていない。問題ない、今できる範囲のことでいろいろと考えてきたんだから。背中に背負ったリュックの重さがそのまま俺のしてきた準備の重さだった。


 対戦相手が誰なのかは先生が張り出した浮遊式掲示板に書いてある。これも魔法器具の一つだ。学校の外で行う実習なので、持ち運べる掲示板で表示しているのだ。


 掲示板を見ながら、俺のペアは誰なんだろう、そう思っていると自分の名前を発見する前に背後から声が聞こえた。


「おい。今日はお前のそのふざけた顔面を苦痛で歪めさせてやるからよ。覚悟しとけよ」


 はい。このオラついた感じ、そしてちょっとクセのあるイントネーション。振り向かなくてもわかるね。俺の対戦相手はイキリヤンキーのグレイオス君ですね。

 背後には「へへへ」と悪そうな笑みを浮かべる子分二人。


「やあやあ。俺の相手は君か」

「山ではクソダサい「小石投げ魔法(笑)」で活躍した気になってたかもしんないけどよぉ。あんなの貧弱なザコ魔物にしか効かねえからな。俺様には効かねえ」

「あー……グレイオスは山越えの時みたいに魔法がハズレまくらないといいね」


 グレイオスの眉間にヌッと細かいシワができた。


「余裕こいてられんのも今のうちだぜ? ま、せいぜいくじ運の悪さを嘆いとくことだなぁ、ルナットォ。真っ当な一対一の勝負で、この俺様と戦う羽目になっちまったことをよ」


 確かに強力そうな炎魔法を扱うグレイオスは、根拠のある自信を持っているようだった。きっと、将来の夢が冒険者というくらいだから、不良といえども戦闘についての鍛錬は人知れず積んできたことだろう。


「お互い頑張ろうね」


 手を差し出すと、グレイオスは鼻で笑って俺の手を振り払った。物語に出てくる嫌なやつの定番だが、定番過ぎて嫌いになれない。


「なにニヤけてんだ。てめーは俺の『炎魔法』で八つ裂きになるんだよ」


 お付きの2人が「せいぜい残り少ない人生にお別れを言っておくんだな!」「怖けりゃ帰ってママのおっぱいでもすすっとくんだな!」と囃し立てる。


 ほんとテンプレートな3人組だなー。



 組み分けは全部で6回に分けられ、戦闘訓練が行われる。1人につき、訓練に参加するのは6回のうち1回だけ。学年の生徒を6つのグループに分けて訓練をさせるということだ。


 同学年の『炎』『水』『風』『雷』『土』のクラスが、合同で訓練を行うので、人数がそもそも多いのだ。


 そして、怪我をしやすい訓練なので学校側もかなり慎重なのだ。回復魔法を使える教員がいつでも怪我を治せるように待機している。


 俺とグレイオスの対戦は3番目のペアだった。


 自分の番が回ってくるまで、訓練の邪魔にならないよう、好きに歩き回って見たい生徒の模擬戦闘を観戦できるとのことだった。なので、俺は知り合いがいないかブラブラと歩き回っていた。


 開始の合図とともに、最初のペアの生徒達は詠唱を開始して魔法が飛び交う。


 ほほ〜〜雷魔法はあっちこっちに狙いが定まらなくて操作が難しそうだな。土魔法は地面を変形させて柱みたいのを相手に当てるのか。


 右に左にと眺めていたところ、一つのペアが目に留まった。


「お。あれはパン屋のパニシエと、ギザオじゃんー」


 知り合いVS知り合いの趣深いペアがあったので、行ってみることにした。まだ2人は魔法戦を開始せず、睨み合っていた。


 ギザオは雷属性、パニシエは……確か水属性だったっけ?


 これはパニシエがだいぶ不利なのじゃあないだろうか?

 確か歴史上でも、「雷魔法は水魔法打開のために作られた魔法」とか、昨日ギザオが得意げに教えてくれた気がする。


 考察をしていると、話しかけてくる人がいた。


「パニシエの応援?」


 ショートヘアに端麗な顔立ち。風船のように膨らむチューイングガム。ロズカ・スピルツだった。


「応援というか、ただの観戦だよ」


 パニシエとギザオ。どっちかに勝ってほしいというような意識はない。両者が怪我を負わず、俺が魔法戦を見て楽しめればそれで十分だ。


「本当は可愛いパニシエの応援しに来たんでしょ?」


 疑ってくるロズカ。


「かわ……? 別にパニシエ1人応援しにきたってわけじゃ」

「……」


 なんだ、なんだ? そんなに探るような視線で見てきても、何も出ないぞ。


「なんでさ。ギザオだって変なやつだけど友達だし、パニシエばっかり応援するのもねぇ。まあ、明らかに相性が有利そうなギザオが圧勝してしまうのは、なんというか絵面が悪いけどさ」

「ふーん。そっか」


 ロズカは納得したようだった。この少女は出会ったときから、割とずっと理解ができない。以前の俺と何か重要な話をしてたらしいけど……。


「アタシはパニシエの応援」

「仲良いの?」

「うん。昔からの友達」



 向こうではギザオが戦う前の口上を述べていた。


「先に言っておくよ。僕はね、自分より明らかに弱い相手を痛めつける趣味はないのさ。ムッソリーニ家の嫡男として、レディーに恥をかかせ、怪我をさせてしまうなんていうことは家名に傷をつける行為だと心得ている」


 得意げに語っているギザオ。くいっと斜めに傾けたアゴの角度が妙に腹立たしい。うーむ、やっぱりパニシエを応援しようかな……。


「そもそもの話だ。属性相性というものがあって、雷属性と水属性は相性が最悪だ。そう、もちろん相性が悪いというのは君にとってさ。そのうえ僕は成績優秀、頭脳明晰なあの、ギルドザッカスオーブ・ムッソリーニだよ。別に君が負けることは恥じゃない、けれど一瞬で終わってしまっては僕としても訓練にならないのだよ、だからハンデをつけようと思うのだけどそのハンデについて____

「先手必勝ぉ!! 「我が求めに応じて大いなる水の流れよ現れたまえ『ディア・アグラ・ストリムト』!!」


 パニシエが早口で唱え終わると、空中に魔法陣が現れ、そこから大量の水がギザオ目掛けて流れてくる。


「ちょっと待ちたまえ、まだ講釈のとちゅ……うぎゃあああ!!!!」


 ギザオは魔法を発動することもなく、流されていった……。パニシエの勝利で決着となった。


 そのままこっちにかけて来るパニシエ。


「ロズカーー! 私勝ったよ! 見ててくれた?」

「見てたよ。おめでとう」


 ふと俺の方に気がついてパニシエの表情がほころぶ。てっきりいつもの微妙な顔になると思ったのに、なんだか意外だ。というか、ほころぶどころかニヤついてません? ホントどしたの?


「あらあら、おジャマだったかっしっら〜〜」


 ロズカと俺をチラチラと見比べながら、オホホホホと片手を口にあてる。


「何が?」


 ロズカは不機嫌そうに友人を睨む。一体何がなんだか。不貞腐れた様子のロズカの肩に両手を乗っけて、ぴょんぴょんとはねるパニシエ。言っていた通り、仲良しなのだろう。

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