14 家族団欒(お父さんは仕事中)
そのあと、少年と談笑しているとそれほどしないうちに少年のお母さんが現れて、無事二人は家へと帰っていった。
俺も家に帰ろ。
住めば都……という言葉はこの場合間違っているかもしれないが、早くもこのログハウスを自分の家と認識し、違和感なくくつろげるようになってきた。
リビングでまったりしていると、母上が話しかけてきた。
「ルナット、ちゃんと学校通えたの? 大丈夫だった?」
前の世界でいうと中3か高1になる年齢の息子に対してする質問では……と思ったが、状況が状況だけに心配なのだろう。
「うん。なかなか面白かったよ」
「そう……。問題なかったならよかった……」
母は安堵のため息をもらす。やはり心配性だ。
今朝も心配して危うく学校までついてくる勢いだったのだ。
「何か思い出したこと、あった?」
「うーん。まぁぼちぼちかな……」
「少しは思い出したの? どんなこと?」
「まぁ色々と」
「具体的には?」
「色々だよ〜〜」
生返事をする俺と、あれこれ聞こうとする母。やっぱりこの感じ、母親だなぁーと感じた。
本当は俺は何も思い出していない。適当に返事をしていただけだった。また、心配しだして教会に行こうとか言い出しかねないし。
こういうときは俺の経験上、話題を変えるに限る。
「そういえば、俺って『土属性』なんだ」
「え……ああ、魔術選択は『土』にしてたわね」
「自分で選んだってこと?」
「そうよ。ルナットがお母さんたちのいうこと聞くわけないんだから」
なるほど、文理選択みたいな感じで決めてくのかな?
ふと見ると、妹ちゃんがリビングを通過するところだったので声をかけてみた。
「ミアちゃんは魔術選択なににしたの?」
ギョッとした顔でこっちを見る。そんな顔しなくても。以前の不良だった頃の兄よりもよっぽど警戒しているように見えた。ちょっとショック。
「な、なによ」
「ミアは8歳だから魔術選択はまだよ」
お母さんが補足した。
そうか、小学生はまだ文理選択ないもんね。きっとそれとおんなじだ。
「じゃあ、ミアちゃんはどの属性の魔術を選択するの?」
「…………『雷』よ」
『雷属性』といえば、例のガリ勉君が、結界魔術使いのロズカに対して「ヘェイ、子猫ちゃあん。僕と同じ『雷属性』に所属し、才能を伸ばしていこうではないか〜〜マイハニー♡」とか言って口説こうとして、フラれていたのを思い出した。いや、こんな言い方してたかは、あんまり自信ないけど……。
ミアがガリ勉君と同じように精神的にも物理的にもパンパンに頭でっかちになるのを想像して、いたたまれない気持ちになった。
「え〜〜なんで、『雷属性』なの?」
「……アンタ。よく知らないけど、今、すごく不快な想像してるでしょ……」
「いえいえ、そんなことは」
「『雷』は一番難しい属性なの。他の属性の勉強もしなくちゃいけないし、コントロールするのがとっても大変なの」
「そういえば、今日、『雷属性』のガリ勉君がいたんだけど、『土属性』の授業を受けにきてたよ。なんで?」
「はぁ? そりゃあ受けることもあるわよ。バッカじゃないの」と妹氏。お母さんが補足してくれる。優しいお母さんだ。
「他の属性の授業も自分の履修してる授業と時間が被らなければ、受けたりすることができるのよ」
そういえば前世の頃、大学生の姉が授業選択とかいって、受けない授業があるとか言ってたな。
ガリ勉君は『雷属性』の授業をサボってこっちに来ていたわけじゃなく、時間が空いていたからこっちに来ていたというわけだ。勉強熱心なことで。
「『雷属性』を使えるってなったら、それだけでエリートってことなの」
そう言いながら、得意げに人差し指とか立てちゃう8歳児。まだミアは選択予定というだけなのに、息巻いちゃって、かわいらしい。
ガリ勉君もやたら『雷属性』に誇りを持っているようだったが、そういうことか。
「じゃあさ、『土属性』を選択する人はどんな人なの?」
「一番普通で、じm……選ぶ人が多い属性よ」
今、地味って言いかけた……。
話を聞いていくと、各属性には選択者の考え方の偏りがあるようだ。
『土属性』……最も一般的で選択者が多い。様々な職業に役立つのでミアいわく、「お兄ちゃんみたいな将来のビジョンが決まっていないボンクラはとりあえずここを選んでおく」そうだ。
『炎属性』……『土属性』と同じくらい選択者が多い。職業選択の幅は『土属性』ほど多くないが、戦闘系の職業を選択する場合は、選ぶことが多い。攻撃的な性格の人間が多い。グレイオスとその不良仲間はこぞって『炎属性』だったのを思い出した。
『雷属性』……扱いが難しく、他の属性の技術をある程度習得して初めて使えるようになる。意識高い系が集まるそう。
『水属性』……宗教色が強い。祈りの時間とかあるそうだ。そういえば、パン屋の女の子が『水属性』の教室にいたけど信心深いのだろうか?
『風属性』……選択者が最も少ない、人気が少ない属性。というのも、詳しくはわからないが『炎属性』の子分のような扱いをされることがあるそうで。
あれこれと各属性の選択者の特徴を聞くのは面白かった。俺と話したがっていなかったミアも、知識をひけらかすのが好きなようで、意外とノリノリで説明してくれた。
この世界の常識を身につけていかないとという気持ちは俺にもあった。帰り道で『鑑定魔術』を使ってあちこち調べて少しづつ知識を増やしてはいた。けれど、やっぱり退屈で5分くらいで飽きてしまったし、こうして人から話を聞く方が手っ取り早い。活字は読みたくない!
せっかくなので、この機会に一個気になっていたことも聞いてみることにした。
「そうそう、今日授業中に失踪事件があったって隣の席の子が噂してたけど、ホント?」
言った瞬間、空気が固まる。
ミアも母もさっきまでと違って、急に口が重たくなったようだった。
触れちゃいけない話題だったかな?
「詳しくはお母さんたちもわからないわ。ドンソン商会所属の【魔戦競技】の選手の一人がいなくなってしまったってこと…………それから、事件があったのが、2、3日前ってことくらいしか……」
【マジナピック】って聞き覚えがあるが、一体なんなのだろう? いやそれよりも__
「2、3日前って……」
もしかして、いやもしかしなくても、俺が行方知れずになっていた期間だ。
「ねぇ、アンタ。事件と、関わってたりしないでしょうね……」
俺は「まさか〜〜」と否定しておいたけど、正直なところ、わからなかった。
ちょうど、俺がいなくなったタイミングで起こった事件。その前後で記憶がなくなり、何故か山奥に一人でいた。
「俺はその間、何をしていたのか」とても気になるところではある……。
「まっ。アンタはそんなの関係なく人様に散々迷惑をかけてきたんだから、そのうち【ゾーヤル】に食べられちゃうかもしれないけどね」
【ゾーヤル】とは聞きなれない単語が出てきた。それは何かとミアに聞き直すと、こちらを見下したような得意げな顔をして、人差し指を左右に揺らしながら言った。
「悪いことをしてると、何にもないところからヌッて現れて食べられちゃう悪魔よ、ア・ク・マ」
悪魔ねぇ。魔物がいる世界で悪魔がいるのは不自然ではないけどさ。この世界のことを大して知らないにもかかわらず、嘘くさいと思った。
迷信の類いだろうか? ナマハゲとかそういうやつ。前世のときから、俺はそういったものは信じないたちだった。だって人外のくせに、人の道徳規範に基づいて行動するというのは、不自然極まれりじゃない。
大方、どこの世界であっても思いつくことは変わらないのだ。子供のしつけのために、大人が「悪い子にしてるとナントカが出るぞ〜〜」と言っていい子になるように仕向けているのだ。
ミアちゃんはまだそういうの信じるお年頃なんだな、とほっこりした。




