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60 異界ノ民

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よろしくお願いします!

 はー。なんかすごいなー。


 空が赤紫色だ。渦を巻いてうねっている。まるで淡い色のワインが流れているみたいだ。


 おまけにあたりには甘ったるい匂いが充満している。どこかで嗅いだことのある匂いだが、頭がなんだかボーッとしてうまく思い出せない。

 頭がボーッとしてなくてもお前は思い出せないだろだって? おかしいな、元朝まで聞こえてきたかもしれない。


 見たことない地面の模様。黒曜石のようにツルツルして黒い。

 キラキラと光る鉱物が高いところに浮かんでいる。


 なんだこの場所。


 俺は、少し考えてみることにした。


 さっきまで俺、何してた?

 確か、ドラゴンと一緒にいた、なんか人相の悪いやつに絡まれて……それから?


 そうだ。思い出してきた。

 なんか、意気揚々と襲いかかってきたけど、普通にやっつけたんだよね。


 ドラゴンから離れてたから、やっぱり魔法は使えるままだった。

 結構男は消耗してたみたいで、はっきり言って簡単にのしてしまった。


 で、そのあとが思い出せない……。


 ……二択だ。


 これは夢、それか天国だ!


 夢だとすると、夢だって意識してる夢だからいわゆる明晰夢ってやつだ。


 確か、夢から覚める方法は、自分をつねること。


 えいやっ……うん?


 しかし目の前に広がる光景は変わらないままだ……。


 夢から醒めない……。ということは……夢じゃない。

 俺死んでる!?


「クワァアアアアアア!?」


 変な声があたりに響き渡る。


 言っておくが俺じゃない。

 じゃあ誰かって?


 音の方を見てみると、どうして今まで気がつかなかったのか。

 美しい天使なんかじゃあない。言い表しようのない不気味な生命体がたくさんいるじゃあないか。


 三つの黄緑色の瞳をした灰色の風船のような生物。

 頭の先に提灯のような光ぶら下がりをつけている。


 それらは俺がこの選抜で度々見かけた、不気味な幽霊のような生き物たちだった。


 俺が選抜の会場で見た時、それらは壁をすり抜けたり、人の周りを漂うだけで接触してくるようなことはなかった。

 それが今、明らかに俺を意識して奇声を上げたのだ。


 危機感。敵対行動。


 俺はすぐに臨戦体制をとる。手元にはちゃんと《(ステッキ)》がある。


 『身体起動』を発動し、一気に加速する。


 ……と思ったら、想定以上の加速に反応が遅れて謎の生き物の一体と正面衝突、熱い抱擁とチューをしてしまう。


「ぎゃあああ!!」「グワァアア!!」


 お互いに叫ぶ。

 何せファーストキスですからね。向こうもそうかもしれない。


 周りで俺の衝突を見ていた他の生命体たちは何やら戸惑いを浮かべている。


「ナゼ、異界ノ民が、ココニ?」

「イヤ コレは違う」

「ヨク 見ロ。コレは、メグミ ヲ モタラス モノ」


 異界ノ民? 恵み?

 なーに言ってんだあ?


「我々は、メグミ ヲ モタラス モノ に、大いナル、敬意ヲ抱く。良き関係ヲ築くコト、ヲ望む」

「恵みをもたらす者って俺のこと?」

「イカニモ」


 急にどうしたんだ?

 とりあえず、見た目によらず話が通じそうで良かったけど。


「友達になりたいってこと?」

「メグミ ヲ モタラス モノよ。すで、に、我々ハ、ソチラの世界のニンゲンに、協力シテイル」


 そちらの世界……?

 やっぱりここは異世界なのだろうか?


 異世界転生した俺が、さらにその異世界に来たってこと?

 天国じゃないなら良かったけど、どうして俺はこんなところにいるんだろう……?


「そちらの世界の人間?」

「我々はコチラの世界での、ニンゲン」「同じニンゲン」


 外見はだいぶ違うけど、彼らは人間なのか。

 宇宙人みたいなもんかな?


 確かに、異世界っていうと外見とか全然違う方が自然な感じはするよね。


「共生関係、持チツ持タレツ」

「我々が、ソチラの世界に、及ぼす、コトガできる、力は、ソレホド大きくナイ」


 そう。この異世界人(?)は俺がいる世界に姿を現していた。

 幽体のように実体はなくすり抜けていた。


 しかし、こっちの世界では俺と衝突して確かに触れられる。


「君たちは俺たちの世界と交信の手段を持っているということ?」

「魂を飛バシ、空間を彷徨うノミ」

「魂を飛ばす……」


 


「我々は異界ノ民の言葉でいう、【悪魔(ゾーヤル)】」


 【悪魔(ゾーヤル)】!?

 確か童話の生き物だけど、本当はドーマのいる情報組織が正体だって……。


 本当の【悪魔(ゾーヤル)】は、この不気味な異界人なの……?



 ワケワカメな状況。この不思議な体験。俺は好奇心に任せて色々と質問したくなる。

 何から聞いたらいいかと言葉を吟味していると、俺の体が薄れ始めた。


 どういうことだ? 俺、もしかしてこのまま元の世界に戻れるのか?

 でもちょっと待って! まだ話を聞きたいんだよ!!


 消えないで……持ってくれ俺の体!!!!


 熱い心の叫びとは無関係に、無情にも俺の体は消滅していった。



「 実ってクダサイ。メグミ ヲ モタラス モノよ 」



◆◆◆



 ふわふわとした感じのまま、俺の意識は見慣れた土と草の大地にいた。


 見慣れた風景ではあるけど、ここがどこかは正確にはわからない。


 さっきの世界はなんだったんだ?

 【悪魔(ゾーヤル)】? 異世界人?


 夢でも見ていたという方がしっくりくる。


 森の中ですっかりあたりは日が沈んで暗い。

 月明かりのおかげで足元は見えるけど、なんだか月も赤いから不気味な雰囲気だ。


 とにかく、今はエビィーたちと合流しないと。

 手がかりもないし、どうしよう……。


 仕方がないから、どこかで夜営するか。

 休憩できるような木の虚か洞窟か何かを探す。

 

 歩き出してみて、自分の体の異変に気がついた。


 ひどい揺れの乗り物に乗っていた時みたいにぐるぐるする……。

 なんなら吐いてしまいそうだ。


 酔ったぜ、酔っ払ったぜぇ……。


 足がおぼつかない。


「うげっ」


 剥き出しになった木の根に躓き、倒れる。

 まずい、立ち上がれない……力が体に入らない……。


 そして、なんというタイミングの悪さ……。


 気配がする。


 獣の息遣い。近くにいる。

 足音はゆっくりとこっちに近づいてくる。


 霞んだ視界。白い毛のゴリラが俺の姿を目にとらえて、近寄ってくる。

 凶悪な牙と獲物を狙う体勢。


 逃げることも戦うこともできない……。


 転生して、こっちの世界での人生……こんな呆気なくおしまいなの…………。

 そんなのってあんまりにも…………。


 

 ドゴッ!!


 大きな岩石の球が、ゴリラに当たる。


 念入りに、執拗に、二発三発四発と、岩石の球がゴリラに次々と突進していく。


 誰かが助けてくれたようだった。


 最後の力を振り絞って顔を上げた時、目の前に立っていた人物を認識し、俺は頭に大きな疑問符を浮かべることになった。




 __________どうしてここに……?




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