童話:あまのじゃくの恋
あるところに一人の男の子がいました。その男の子はあまのじゃくで好きなものを嫌いと言う、あるいは誰かに嫌われる事を願う、ある種の癖のような性質のようなものを持っていました。好きは不安定、嫌いは安定。男の子はそうしないと心が落ち着かないのでした。いままでに嫌いと言ってきたものは本当は好きで、わざと嫌われた人には本当は嫌われたくないのです。
そんな男の子で、毎日がろくでもなくて寂しく荒んだ日々を過ごしていましたが、そんな時ひとつの出会いがありました。
それは女の子でしたが、なにやら様子がおかしいのです。喋るのが不器用で歩くのも不器用、もうなにからなにまで不器用な女の子なのでした。でも笑顔だけはまるで向日葵の花のような満面の笑顔を見せるのです。
男の子は直接その女の子と触れ合ったわけではありませんがその女の子の不器用な様子や笑顔を見て、ああ、と思いました。
男の子は恋に落ちたのです。
しかし男の子はあまのじゃくです。そう簡単に自分が恋に落ちたと認めたくありませんでした。でもそんな生きるのが不器用そうな女の子を見るたびに捻くれた心がほぐれていくのです。人と出会ってこんな気持ちになるのは初めてでした。
ある日の事、男の子はバスに乗りました。春の暖かい日です。そうしたら偶然にも女の子が乗車してきました。男の子と女の子には接点が無かったので男の子は女の子を見るだけです。
春のぽかぽか陽気の中、バスに揺られて男の子はこの時間が永遠に続けばいいのに、と思いました。




