表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サテライトクラスタ  作者: 樫木佐帆
20/40

全てのエピローグとして(仮)

 桜が咲く春にはちょっと遠い冬。ゲーム専修学校の屋上で煙草を吸っている奥村がいる。奥村の目は空に向けている。そろそろ瀬戸幼一の命日が近いなとかつての親友を想い、煙草の煙を吸っては吐いた。学校だからなのか焼酎は持ち込んでいない。


「あー、いーけないんだ、いーけないんだ、ママに言ってやろ」


 と、可愛い声が屋上のドアから聞こえてくる。くすくすと軽く笑う女子生徒。名を瀬戸千衣と言う。この学校の建築図を作った親友である瀬戸幼一と、同じく親友の春原律子の子だった。奥村は瀬戸千衣に視線を向け、また空を見つめた。空は晴れている。


 瀬戸千衣は奥村に近づく。


「煙草、止められないんですか?」

「こればっかりはどうしてもね」


「私も吸ってみたいな」と軽口を叩く瀬戸千衣。


「苦い味しかしないよ。それと健康に悪いし未成年だ」

「私、体は大人なんですよ」


 何を言っても無駄のような気がして、奥村は会話を止め、また目を空に向けた。『ブラインダー』からは桜の映像が流れている。17歳か。俺も年を取ったものだと奥村はかつての親友を想った。


「子供だって作れるんです」


 奥村はその言葉に盛大にせき込んだ。煙草のせいかもしれないし、瀬戸千衣の冗談のせいかもしれなかった。


「で、何の用だい?」

「私、わかっちゃったんです。『サテライトクラスタ』の答えが。耳ちょっと貸してくれませんか?」

「小声で言う事なのかな」

「内緒話という口実で奥村さんの近くに寄れますから」


 奥村は軽く無視し瀬戸千衣から視線を逸らす。。


 瀬戸千衣は耳打ちで『サテライトクラスタ』という少女が少女を壊すゲームの解答を述べた。目を少し見開く奥村。


「…どうしてその答えに行き着いたんだい?」

「奥村さんが優しいから」

「質問に答えてないよ」

「奥村さんの優しさから逆算したんです」

「…なる、ほど、ね」

「で、答えの方はどうですか?」

「やってみればいいさ」

「私、ゲームのほうはあんまり得意ではなくて。でもそれでもできるとしたら、この答えかなって」

「ふーん」


また、くすくす、と笑う瀬戸千衣。奥村から短くなったタバコを奪い、そのまま口付ける。吸う訳ではなかった。


「間接キス、ですね」


 その言葉に奥村は衝撃を受け、よろめいた。


「大人をからかうもんじゃないよ」


 そう言うのが精いっぱいだった。瀬戸千衣は奥村のその様子を見て、にんまりと微笑む。


「私、奥村さんが好きだな」


 こんどこそ奥村はたじろいだ。逃げなければ。


「あ、仕事があるんだった。じゃあね」

「乙女の初めての告白から逃げるんですか?」

「君、初めての告白ではないだろう?」

「パパはノーカウントですよ。あ、ママの事、好きでしたね? それくらいわかりますよ」


 ああ、もう、何を言っても上手く返される。


「何が目的なんだ」

「こうやって他愛のない話をして萌え萌えする事ですかね。私、もう結婚できるんですよ? 子供は3人欲しいかな」

「何を言ってるんだ」

「勿論、奥村さんとの将来の話ですよ。あ、秀明さんって呼んでいいですか? キャッ」


 軽く頭を抱える奥村。瀬戸千衣の頬が軽く赤くなっている。


「まあ、キスはまた今度として、手、繋ぎませんか?」


 そう言って瀬戸千衣は半ば強引に奥村の手を繋ぐ。普通の繋ぎ方から何故なのかゆっくりと恋人繋ぎになった。瀬戸千衣が掛けている時代的にまだレトロフューチャーなARグラスには「死霊」カードの魔法である赤い糸。それは奥村と瀬戸千衣の小指を結んでいた。


「今日のためにこのプログラムを作ってきたんです。褒めてもいいですよ?」


 さすがあの二人の子である。変態だ。


「もうすぐ昼飯食べないと。では」

「それなら大丈夫です、作ってきましたから。愛情たっぷりのお手製弁当ですよ。愛妻弁当でもいいですよ。タコさんウィンナーと甘々な卵焼き好きですよね? お子様な味覚だなあ」


 ああ、もう逃げられない。どうしたらいいのか奥村は考え込む。





 ここから先の話は、まあ、野暮であろう。






 この話を一応のエピローグとする。




 注:物語はまだまだ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ