全てのエピローグとして(仮)
桜が咲く春にはちょっと遠い冬。ゲーム専修学校の屋上で煙草を吸っている奥村がいる。奥村の目は空に向けている。そろそろ瀬戸幼一の命日が近いなとかつての親友を想い、煙草の煙を吸っては吐いた。学校だからなのか焼酎は持ち込んでいない。
「あー、いーけないんだ、いーけないんだ、ママに言ってやろ」
と、可愛い声が屋上のドアから聞こえてくる。くすくすと軽く笑う女子生徒。名を瀬戸千衣と言う。この学校の建築図を作った親友である瀬戸幼一と、同じく親友の春原律子の子だった。奥村は瀬戸千衣に視線を向け、また空を見つめた。空は晴れている。
瀬戸千衣は奥村に近づく。
「煙草、止められないんですか?」
「こればっかりはどうしてもね」
「私も吸ってみたいな」と軽口を叩く瀬戸千衣。
「苦い味しかしないよ。それと健康に悪いし未成年だ」
「私、体は大人なんですよ」
何を言っても無駄のような気がして、奥村は会話を止め、また目を空に向けた。『ブラインダー』からは桜の映像が流れている。17歳か。俺も年を取ったものだと奥村はかつての親友を想った。
「子供だって作れるんです」
奥村はその言葉に盛大にせき込んだ。煙草のせいかもしれないし、瀬戸千衣の冗談のせいかもしれなかった。
「で、何の用だい?」
「私、わかっちゃったんです。『サテライトクラスタ』の答えが。耳ちょっと貸してくれませんか?」
「小声で言う事なのかな」
「内緒話という口実で奥村さんの近くに寄れますから」
奥村は軽く無視し瀬戸千衣から視線を逸らす。。
瀬戸千衣は耳打ちで『サテライトクラスタ』という少女が少女を壊すゲームの解答を述べた。目を少し見開く奥村。
「…どうしてその答えに行き着いたんだい?」
「奥村さんが優しいから」
「質問に答えてないよ」
「奥村さんの優しさから逆算したんです」
「…なる、ほど、ね」
「で、答えの方はどうですか?」
「やってみればいいさ」
「私、ゲームのほうはあんまり得意ではなくて。でもそれでもできるとしたら、この答えかなって」
「ふーん」
また、くすくす、と笑う瀬戸千衣。奥村から短くなったタバコを奪い、そのまま口付ける。吸う訳ではなかった。
「間接キス、ですね」
その言葉に奥村は衝撃を受け、よろめいた。
「大人をからかうもんじゃないよ」
そう言うのが精いっぱいだった。瀬戸千衣は奥村のその様子を見て、にんまりと微笑む。
「私、奥村さんが好きだな」
こんどこそ奥村はたじろいだ。逃げなければ。
「あ、仕事があるんだった。じゃあね」
「乙女の初めての告白から逃げるんですか?」
「君、初めての告白ではないだろう?」
「パパはノーカウントですよ。あ、ママの事、好きでしたね? それくらいわかりますよ」
ああ、もう、何を言っても上手く返される。
「何が目的なんだ」
「こうやって他愛のない話をして萌え萌えする事ですかね。私、もう結婚できるんですよ? 子供は3人欲しいかな」
「何を言ってるんだ」
「勿論、奥村さんとの将来の話ですよ。あ、秀明さんって呼んでいいですか? キャッ」
軽く頭を抱える奥村。瀬戸千衣の頬が軽く赤くなっている。
「まあ、キスはまた今度として、手、繋ぎませんか?」
そう言って瀬戸千衣は半ば強引に奥村の手を繋ぐ。普通の繋ぎ方から何故なのかゆっくりと恋人繋ぎになった。瀬戸千衣が掛けている時代的にまだレトロフューチャーなARグラスには「死霊」カードの魔法である赤い糸。それは奥村と瀬戸千衣の小指を結んでいた。
「今日のためにこのプログラムを作ってきたんです。褒めてもいいですよ?」
さすがあの二人の子である。変態だ。
「もうすぐ昼飯食べないと。では」
「それなら大丈夫です、作ってきましたから。愛情たっぷりのお手製弁当ですよ。愛妻弁当でもいいですよ。タコさんウィンナーと甘々な卵焼き好きですよね? お子様な味覚だなあ」
ああ、もう逃げられない。どうしたらいいのか奥村は考え込む。
ここから先の話は、まあ、野暮であろう。
この話を一応のエピローグとする。
注:物語はまだまだ続く。




